有料老人ホームとは?種類ごとの特徴や費用、入居までの流れも解説
有料老人ホームには種類があり、施設ごとに特徴も様々です。老人ホームを選ぶにあたって、分からないことや不安に思われる方も多いかと思います。
入居者ご自身にあった施設を見つけるためには、まずは老人ホームについて詳しく理解することが大切です。
この記事では、有料老人ホームの種類ごとの特徴や費用相場、入居までのステップなどを解説します。
有料老人ホームとは
有料老人ホームとは、厚生労働省の定義によると、『老人を入居させ、以下の①〜④のサービスのうち、いずれかのサービス(複数も可)を提供している施設。
①食事の提供 ②介護(入浴・排泄・食事)の提供 ③洗濯・掃除等の家事の供与 ④健康管理』のことです。
出典:「有料老人ホームの概要」(厚生労働省)
有料老人ホームは、大きく3種類に分かれます。提供するサービスの範囲や対象が異なるので、費用を知る前にそれぞれの特徴を理解することが大切です。
介護付き有料老人ホーム
「介護付き有料老人ホーム」とは、主に要介護の方を対象とした民間運営の老人ホームのことです。食事や掃除などの身の回りのことから身体介護、レクリエーションまで、生活を幅広くサポートするサービスを提供しています。
都道府県から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、介護サービスの提供基準を満たしている場合のみ「介護付き有料老人ホーム」となります。
レクリエーションに力を入れ、設備の充実や接遇マナー、手厚い医療・介護体制などを提供し、施設によって独自の特色を持っている場合が多いです。施設数が多く、選択肢が豊富です。
住宅型有料老人ホーム
「住宅型有料老人ホーム」は、食事や洗濯などのサービスを提供する高齢者施設のことです。「介護付き有料老人ホームから介護サービスがなくなったもの」と考えると分かりやすいです。基本的に、介護付き有料老人ホームのように、スタッフが介護サービスを提供することはありません。
そのため、介護が必要になった場合は外部の介護事業所(居宅介護支援事業所)と契約をし、訪問介護による介護サービスを受けることとなります。
健康型有料老人ホーム
「健康型有料老人ホーム」とは、生活に関する基本的なことは自分でできるという高齢者に対し、食事や家事などをサポートする老人ホームのことです。
あくまでも「サポート」であり、身の回りのことは自立してできることが前提なので、要介護になった場合は退去となります。
民間の有料老人ホームと公的施設の違い
公的施設は、国や地方自治体などが運営する高齢者向け施設のことです。公的施設に該当する老人ホームには、以下の3種類があります。
特別養護老人ホーム
養護老人ホーム
軽費老人ホーム(ケアハウス)
公的施設は、民間企業が運営している有料老人ホームに比べて費用が安く、介護度が高い方や、所得が低い方を優先的に受け入れる傾向があります。
費用が安いというメリットはありますが、人気が高く入居待ちが長いというデメリットがあります。また、民間施設に比べるとイベントやレクリエーションの機会が少なく、施設の独自性から入居先を選ぶことが難しいです。
有料老人ホームと特別養護老人ホームの違い
有料老人ホームと特別養護老人ホームの大きな違いは、運営主体です。
有料老人ホームは民間企業が運営している一方、特別養護老人ホームは、自治体や社会福祉法人が運営する公的施設です。そのため、特別養護老人ホームの方が費用が安い傾向にあります。
また、入居対象にも違いがあります。有料老人ホームには多くの種類があり、介護を必要としない方から要介護5の方まで、幅広く入居できます。
一方、特別養護老人ホームに入居できるのは、原則65歳以上、要介護3以上の方のみです。
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の違い
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅は、施設の種別が異なります。
サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者を対象とした賃貸住宅です。高齢者が安全に暮らせるよう、バリアフリー構造になっているのが特徴です。
サービス付き高齢者向け住宅では、安否確認や生活相談サービスを提供しています。一方、有料老人ホームのような介護サービスや、生活支援サービスは提供しておらず、外部の事業所と契約してサービスを受ける必要があります。
有料老人ホームの入居にかかる費用とは?
有料老人ホームにかかる費用には、入居時費用と月額費用があります。
入居時費用とは契約時にまとめて支払うもので、「入居一時金」(数年分の月額家賃の前払い額)、「敷金」などにあたります。老人ホームによっては、月額費用が高い代わりに入居一時金がかからないところもあります。
月額費用
月額費用とは、居住費や食費などを合算して月々支払うものです。
月額費用は、有料老人ホームの種類によって異なりますが、介護サービス費と生活費の2種類に分かれます。納得して費用を支払うためには、内訳を理解することが大切です。
介護サービス費
介護サービス費は、介護付き有料老人ホームの場合に発生するものです。介護サービスに対して発生する基本料である「施設介護サービス費」と、サービス内容や人員配置に応じて追加で発生する「サービス加算」に分類され、どちらも介護保険が適用されます。
介護サービス費は要介護度に応じて変化する
介護サービス費は介護サービスに対して発生するため、要介護度によって金額が変わります。要介護度が大きくなればなるほど費用も大きくなります。基本的に自己負担額は1割ですが、所得に応じて2割、3割と変動します。
生活費
生活費には、以下のような費用が含まれます。
居住費
食費
管理費
日常生活費
上乗せ介護費
介護保険対象外のサービス費
それぞれの費用は施設によってさまざまですが、特に違いがあるのは居住費です。居住費は家賃のようなもので、居室のタイプや立地によって10万円〜50万円以上とかなり幅があります。
また、介護付き有料老人ホームの場合に理解しておきたいのが「上乗せ介護費」です。上乗せ介護費は、人員配置基準よりも多く看護・介護職員を配置している場合に徴収できる費用のことで、介護サービス費のサービス加算とは別になります。
有料老人ホームの費用相場
有料老人ホームにかかる費用相場は、以下の表の通りです。費用は、施設によってかなりの差があります。
特に、ラグジュアリーな設備や充実したサービスを提供する高級老人ホームの場合は、その分費用が高額になります。
有料老人ホーム | 入居時費用 | 月額費用 |
---|---|---|
介護付き有料老人ホーム | 0~630万円 | 15~35.1万円 |
住宅型有料老人ホーム | 0~46万円 | 13.4~31.5万円 |
健康型有料老人ホーム | 0~1億円 | 10~40万円 |
有料老人ホームの費用負担を軽減する制度
有料老人ホームの入居には、上記のように決して安くはない費用がかかります。しかし、一定の条件を満たすことにより、費用負担を軽減する制度を利用できます。
ここでは、有料老人ホームの費用負担を軽減する制度を2つ紹介します。
高額介護サービス費制度
高額医療・高額介護合算制度
制度の利用を検討している方は、市区町村の窓口に問い合わせてみてください。
高額介護サービス費制度
高額介護サービス費制度とは、介護保険の自己負担額が上限限度額を超えた場合に、超過分が「高額介護サービス費」として返還される制度のことです。上限限度額は、課税所得ごとに定められています。
区分 | 負担の上限額(月額) |
---|---|
課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 | 140,100円(世帯) |
課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満 | 93,000(世帯) |
市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満 | 44,400円(世帯) |
世帯の全員が市町村民税非課税 | 24,600円(世帯) |
世帯の全員が市町村民税非課税の世帯のうち、前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等 | 24,600円(世帯) 15,000円(個人) |
生活保護を受給している方等 | 15,000円(世帯) |
出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」
高額医療・高額介護合算制度
高額医療・高額介護合算制度とは、1年間で支払った医療保険と介護保険の合計額が自己負担限度額を超えた場合に、超過分が返還される制度のことです。
70歳以上の場合、限度額は年額56万円が基本です。課税所得や年齢によって、限度額が以下のように定められています。
所得区分 | 課税所得 | 負担限度額(70歳以上) | 負担限度額(70歳未満) |
---|---|---|---|
現役並み所得者Ⅲ | 690万円以上 | 212万円 | |
現役並み所得者Ⅱ | 380万円以上 | 141万円 | |
現役並み所得者Ⅰ | 145万円以上 | 67万円 | |
一般 | 145万円未満 | 56万円 | 60万円 |
低所得Ⅱ | 市町村民税世帯非課税 | 31万円 | 34万円 |
低所得Ⅰ | 市町村民税世帯非課税 (所得が一定以下) | 19万円 |
有料老人ホームの設置基準
有料老人ホームには、老人福祉法によって、適切な施設運営のために設置基準が定められています。ここでは、人員基準・設備基準・運営基準それぞれについて解説します。
人員基準
有料老人ホームには、以下のような人員配置基準が定められています。
職種 | 介護付き有料老人ホーム | 住宅型有料老人ホーム | 健康型有料老人ホーム |
---|---|---|---|
管理者 | 1人(専従) | 1人 | 1人 |
生活相談員 | 1人以上 | 必要数 | 必要数 |
介護・看護職員 | 要介護者3人に対して1人以上 | - | - |
機能訓練指導員 | 1人以上 | - | - |
ケアマネジャー | 1人以上 | - | - |
介護付き有料老人ホームの場合は、介護保険法によって「要介護者:介護・看護職員が3:1以上」という、介護体制に関する人員基準が設けられています。こちらは最低限満たす必要があり、施設によっては、人員配置が手厚く、充実した介護サービスを受けられるところもあります。
設備基準
有料老人ホームでは、入居者が安全かつ快適に生活できるよう、設備基準も定められています。
設備基準の例は、以下のとおりです。
建築基準法や消防法による基準を満たしている
居室の床面積は1人あたり13㎡以上である
浴室や洗面所などは、居室に設置しない場合はすべての利用者が利用できる数を設ける
身体の不自由な者が使用するのに適した浴室を設ける
ほかにも、居室や共有設備などについて、細かく設備基準が設けられています。
運営基準
有料老人ホームの運営時に遵守すべき基準も定められています。有料老人ホームを設置できるのは、法人格を有する民間事業者や社会福祉法人、医療法人などです。
さらに、管理規定を設けることや、名簿の整備、医療機関との連携、必要な資金の調達、入居者に必要なサービスを提供することなど、適切な運営を実現するために必要な項目が、運営基準として定められています。
有料老人ホームで受けられるサービス
有料老人ホームで受けられるサービスには、以下のようなものがあります。
- 食事
- 生活支援サービス
- 健康管理サービス
- レクリエーション・イベント
- リハビリ
- 介護サービス(介護付き有料老人ホームの場合)
- 医療ケア・看護サービス
- 看取り
提供するサービスは施設によって異なります。最近では独自のサービスを提供することで、他と差別化を図っている施設もあります。
食事
有料老人ホームでは、朝・昼・夜に食事の時間が設けられており、和食や洋食・中華など、バラエティー豊かなメニューが提供されます。食事は栄養士が管理しているため、栄養バランスに優れた食事を楽しむことができます。
さらに、朝・昼・夜の食事だけでなく、おやつの時間も用意されています。おやつとしては、バナナやりんごなどの果物、咀嚼しやすいプリンやゼリー、柔らかくて食べやすい蒸しパンやケーキ、馴染みのある和菓子などが提供されます。
また、老人ホームでは、入居者の体調や身体状況に応じて大きく3つの形態の食事が提供されます。
普通食
介護食
治療食
普通食
普通食とは、一般に提供される定食やプレートなどの食事のことです。最近では、和食や洋食、中華などのバラエティ豊かなメニューの中から好きなものを選べる施設が増えています。季節の食材やメニューを取り入れたり、食器や盛り付けにこだわったりと、入居者が食事を楽しめるよう工夫されています。
介護食
介護食とは、入居者の咀嚼力(噛む力)や嚥下能力(飲み込む力)に合わせて食感や食べやすさを調整した食事のことです。以下、代表的な介護食の種類です。
ミキサー食:ミキサーですりつぶすことで、食べやすい液状にしたもの
きざみ食:ペースト状にすることで、あまり噛まなくても食べられるようにしたもの
とろみ食:片栗粉や葛粉などでとろみをつけ、飲み込みやすくしたもの
ソフト食:やわらかく調理することで、あまり噛まなくても食べやすいようにしたもの
ゼリー食:ペースト状にしたものにゼラチンや寒天などを加えてゼリー化することで、喉の通りを滑らかにし、なるべく美味しく食べられるよう工夫されたもの
治療食
治療食とは、持病や体調に合わせて工夫された食事のことです。塩分を控えめにした「減塩食」、食物繊維を豊富に含み脂質を減らした「糖尿病食」、アレルギーに対応した「アレルギー食」などが該当します。治療食でも他の入居者と同じように食事を楽しめるよう、使用する食材や味付けを工夫している施設が多いです。
生活支援サービス
生活支援サービスは、充実した日常生活を送ることができるよう、サポートするためのサービスです。
たとえば、以下のようなサービスが該当します。
洗濯や掃除などの家事サポート
買い物代行
手続き代行
郵便や宅配の対応
来客の取り次ぎ
レクリエーション・イベント
生活相談
見守り
緊急時の対応
有料老人ホームの中には、月額費用の中に生活支援サービス費用が含まれている施設や、オプションでサービスを追加できる施設もあります。
健康管理サービス
健康管理サービスとは、介護職員や看護職員が、入居者の健康状態を日々管理するサービスです。近隣の病院やクリニックとも連携しているため、訪問診療や訪問マッサージなどにも対応しています。
万が一体調が悪化した際は、提携医療機関の医師の指示を仰ぎながら、早期に適切な対応をしてくれるため安心です。
レクリエーション・イベント
有料老人ホームの中には、レクリエーションやイベントに力を入れている施設も多いです。
レクリエーションには、クイズや言葉遊びなど脳を使うものや、料理や工作など手先を動かすもの、軽く体を動かすゲームなど様々な種類があります。また、お花見やクリスマスなど、季節に合わせてイベントを楽しむ施設も多いです。
レクリエーションやイベントは、単調になりがちな老人ホームでの生活にアクセントを加え、生活を楽しくする工夫と言えます。
リハビリ
有料老人ホームで受けられるリハビリには、専門家が行うリハビリと生活リハビリの、大きく2種類があります。
専門家が行うリハビリ
老人ホームの中には、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)を常駐させ、リハビリ体制を強化しているところも多いです。
・理学療法士(PT)によるリハビリ
理学療法士(PT)によるリハビリは、運動機能の回復を目的に行われます。歩行訓練や筋力トレーニングといった運動療法と、マッサージや温熱治療で痛みを和らげる物理療法があります。運動機能を回復させることで、日常動作が自分でできるよう導きます。
・作業療法士(OT)によるリハビリ
作業療法士(OT)によるリハビリは、日常動作を自分で行えるようにしたり、今の運動機能でできることを広げたりするために行われます。日常動作を通じた訓練や、レクリエーションなどを通じて心理面・身体面をケアします。
・言語聴覚士(ST)によるリハビリ
言語聴覚士(ST)によるリハビリは、言語機能や嚥下機能など、口唇や舌に関わる機能の回復を目的に行われます。具体的には、コミュニケーション訓練や嚥下反射を促す「アイスマッサージ」などの嚥下訓練を行います。
生活リハビリ
食事や入浴、トイレなどの日常生活が自立して行えるよう訓練することで、寝たきりの予防や生活能力の維持を図るのが生活リハビリです。生活リハビリでは、スタッフが介助をしすぎず、ある程度入居者にやってもらうことで自立を促します。
介護サービス(介護付き有料老人ホームの場合)
介護付き有料老人ホームでは、介護サービスを受けることができます。介護付き有料老人ホームには、介護保険法で「3人の入居者に対し1人の介護、看護スタッフ」という最低人員基準が設けられています。
老人ホームの中には、最低基準よりもスタッフ人員を増やすことで、手厚い介護サービスを提供しているところもあります。
医療ケア・看護サービス
有料老人ホームでは、医療ケアや看護サービスも受けられます。
対応している医療ケアの種類は施設によって異なるため、入居者ご本人が持病を抱えていたり、必要な医療行為がある場合は、事前に受け入れ可能か相談しましょう。
医療ケアは医療行為とみなされるため、基本的に介護職員では行えません。そのため、夜間に医療ケアが必要な場合は、夜間も看護職員が常駐している施設を選ぶ必要があります。
以下では、看護職員が行える医療ケアと、例外的に介護職員が行える医療ケアを紹介します。
看護職員が行える医療ケア
看護師の資格を持った看護職員が行える医療ケアの例は、以下のとおりです。
点滴
内服薬の仕分け
カテーテルを用いた導尿
摘便
インスリン注射
ストーマ(人工肛門)交換
褥瘡(床ずれ)処置
人工呼吸器の管理
在宅酸素療法
中心静脈栄養(IVH)
看護師が24時間常駐している施設であれば、これらの医療ケアを夜間も受けることができます。
介護職員が行える医療ケア
介護職員は、基本的には医療行為を行えません。しかし、以下のような医療ケアについては、例外的に介護職員も行うことができると認められています。
体温測定
血圧測定(水銀血圧計を使った血圧測定は不可)
パルスオキシメーターの装置
絆創膏を貼る程度の軽度なケガの処置
医薬品使用の介助(軟膏の塗布、湿布の貼り付け、点眼薬の投与など)
爪切り
耳掃除
口腔ケア
カテーテルの準備と、カテーテル挿入時の体位保持
また、医療的ケアの研修を受けた介護職員については、以下の医療ケアも行うことができます。
喀痰(かくたん)吸引:痰や唾液を、器具を使って排出すること
経管栄養:胃ろうや腸ろうなど、チューブを使って栄養剤を投与すること
看取り
看取りとは、入居者ご本人が自分らしい最期を迎えられるよう、亡くなる過程を自然に見守ることです。延命治療は行わず、身体的・精神的な苦痛を緩和するケアを行います。
看取りに対応している有料老人ホームであれば、終の棲家として入居できます。
有料老人ホームでの1日の暮らし
多くの有料老人ホームでは、入居者に共通のタイムスケジュールがあります。食事やレクリエーション、自由時間などが設定されており、基本はそのスケジュールに沿って生活を送ります。
スケジュールが決まっている施設では、7時前後を起床時刻、20時前後を就寝時刻と定めているところが多いです。1日3回の食事の他に、リハビリテーションやレクリエーション・自由時間などが設定されています。
有料老人ホーム入居までのステップ
有料老人ホーム選びから入居までは、基本的に以下のステップで進めます。施設選びや必要書類の準備など、時間がかかるものもあるので、余裕を持って進めることが大切です。
希望条件を整理する
施設を検索する
見学で比較検討をする
体験入居を申し込む
申し込み・必要書類の提出
面談・入居審査
契約・入居
1.希望条件を整理する
まずは入居者ご自身とご家族で話し合い、希望条件を複数洗い出しましょう。しかし、希望を全て叶えてくれる施設を見つけるのは難しいです。希望条件を出し終わったら、「これは譲れない」「これはあれば嬉しい」など、優先順位をつけていきましょう。
希望条件の中でも、特に重要な論点は以下の3つです。
立地条件
ご家族が訪問するうえで、立地は重要です。都道府県だけでなく、車で行きやすいか、交通機関を使って行くことはできるかなど、アクセスの部分で検討することも大切です。
資金計画
前述の通り、入居前には審査があるところも多いです。収入や預貯金に見合わない高額な施設を選んでしまうと、あとで行き詰まってしまいます。無理なく費用を支払い、住み続けられる場所を選ぶ必要があります。
サービス内容
設備や介護など、生活するうえで最低限のサービスが担保されていることが前提です。さらにQOLの高い生活を送るためには、食事の内容や雰囲気、どのようなレクリエーションが用意されているか、などプラスアルファの部分も重要になります。
イベントを通じて趣味を継続できる、食事を楽しめるなど、入居者ご自身の趣味嗜好に合ったサービスが提供されるかどうかが重要になります。
2.施設を検索する
希望条件に優先順位をつけたら、優先順位の高いもの順に検索をかけていきます。
検索をする際は、ポータルサイトの利用がおすすめです。
3.見学で比較検討する
パンフレットやホームページで見学に行きたい施設を絞ったら、最低でも2〜3ヵ所は見学しましょう。老人ホーム見学の際は、事前に予約をすることが大切です。予約をしないと、他の見学者と重なったり担当者が不在だったりする可能性もあり、せっかく見学に訪れても十分に時間をとって対応してもらえない場合もあります。見学者・施設双方にとって納得のいく見学になるよう、必ず予約をしましょう。
また、見学は入居予定者ご本人とご家族一緒に訪れるのがおすすめです。2〜3人で訪れると、1人では気づかない点がわかったり、1人は写真撮影・1人はメモのように役割分担できたりするので、見学の時間を有効活用できます。
見学では、施設・設備の実態や、スタッフや他の入居者の雰囲気を確認し、不明点を質問します。見学後は、入居者ご本人とご家族で見学時のメモや写真などを見返し、比較検討を行いましょう。
4.体験入居を申し込む
入居したい施設が見つかったら、体験入居を申し込みましょう。体験入居で実際に老人ホームでの生活やスケジュールを体験することで、契約前に施設での暮らしをイメージできるようになります。
サービスや食事、雰囲気などを体験し、合う・合わないを判断します。ご家族が中心となって施設選びを行う場合でも、入居者本人の感想を聞いて意思を尊重することが大切です。
体験入居は、見学のように複数施設に申し込むより、入居を希望する施設の最終判断として利用しましょう。体験入居には滞在日数分の利用料がかかり、さらに慣れない環境で一定期間過ごすことになるため、金銭的負担やご本人への負担がかかるためです。
5.申し込み・必要書類の提出
体験入居を経て本格的に入居したい施設が決まったら、申し込みと必要書類の提出を行います。申し込みから入居までは、1ヶ月ほどかかることが多いです。
施設によって必要な書類は変わります。以下は必要書類の例です。
利用申込書
戸籍謄本
住民票
印鑑、印鑑証明
所得証明書
健康診断書
介護保険被保険者証
診療情報提供書
書類の中には、すぐに入手できないものもあります。特に、診療情報提供書・健康診断書は医療機関に作成を依頼するため、取得までに2週間以上かかることもあります。余裕を持って準備するようにしましょう。
6.面談・入居審査
面談では、施設の担当者と入居者ご本人・ご家族が面会し、希望条件や身体状況などを確認します。
入居審査では、面談の内容と健康診断書や所得証明書などに基づき、入居予定者の健康状態や要介護度、経済状況などが検討されます。特に、経済状況については継続した利用料の支払いがポイントとなり、身元保証人の有無が重視されます。
身元保証人は、費用が払えなくなった際の保証や退去手続きの対応、緊急時の連絡先などの役割を担います。何らかの事情で身元保証人を立てられないという場合は、身元保証人不要の施設を選んだり、保証会社の利用を検討したりする必要があります。
7.契約・入居
審査に通ったら、いよいよ契約です。有料老人ホームの契約方式には、以下の3つがあります。
利用権方式
利用権方式とは、居室や共用スペースなどの居住部分を利用するための料金と、サービスを利用するための料金が一体となった契約形態のことで、入居者が亡くなるまで居住部分とサービスを利用できる権利を保持できる契約方式です。入居者が亡くなった時点で契約が終了します。有料老人ホームで多く採用されている契約方式です。
建物賃貸借方式・終身建物賃貸借方式
建物賃貸借方式は、借地借家法という法律で整備されており、居住部分とサービスが別々になった契約形態のことです。月額費用を払うことで、入居者が亡くなっても居住権が継続します。終身建物賃貸借方式は、建物賃貸借方式のうち入居者が亡くなった時点で契約が終了する契約方式のことです。
建物賃貸借方式や終身建物賃貸借方式は、月額費用を払うことで居住権が継続するため、想定入居期間に基づく、入居一時金の前払いが不要という特徴があります。
重要事項説明も要確認
契約時は、入居契約書や重要事項説明書に基づいて、契約や施設について説明を受けます。特に重要なことは、重要事項説明です。重要事項説明とは、契約にあたって大切な事項を消費者(ここでは入居対象者のことをいいます)に説明することです。
重要事項説明書には、契約の中でも特に重要なポイントが書かれています。入居後にトラブルにならないよう、しっかり確認しましょう。重要事項説明では、特に以下の3つのポイントを確認する必要があります。
①入居一時金の償却期間と初期償却
老人ホームの中には、契約時に初期費用として入居一時金を支払う必要がある施設があります。入居一時金は、「想定入居期間分の家賃の前払い」という位置付けの費用のことです。指定の居住期間より前に退去した場合、残りの入居期間分の金額が返還されるという仕組みになっています。この想定入居期間は施設によって異なるので、契約時に確認しましょう。
また、入居一時金の償却でもう1つ重要なのが「初期償却」です。初期償却とは、入居一時金から引かれる一定額のことで、退去時に返還されません。初期償却は施設によって異なります。入居金の10〜30%と定めているところが多いですが、契約時に必ず確認しましょう。
②上乗せ介護費の有無
上乗せ介護費とは、基準よりも多く看護・介護職員を配置している場合に徴収できる費用のことです。上乗せ介護費の有無は施設によって異なるので、契約時に確認しましょう。
③クーリングオフ(短期解約特例)に関する記載
入居一時金の支払いにはクーリングオフ(短期解約特例)が適用されるため、90日以内に解約した場合、施設には一時金の返還義務があります。法律で義務付けられているとはいえ、クーリングオフについてきちんと契約書に書かれているかを確認しましょう。
有料老人ホームの5つの入居条件
多くの老人ホームでは、入居する上で以下の5つの条件をクリアする必要があります。
要支援・要介護度
老人ホームの種類によって、入居できる要支援・要介護の基準が異なります。
有料老人ホームの種類 | 入居対象となる要支援・要介護度 |
---|---|
介護付き有料老人ホーム | 要介護(原則) |
住宅型有料老人ホーム | 自立〜要介護 |
健康型有料老人ホーム | 自立 |
年齢
介護サービスを受けることが前提の施設の場合、介護保険法に従い「65歳以上」が入居の対象となります。介護を前提としない住宅型有料老人ホームや健康型有料老人ホームでは、「60歳もしくは65歳以上」と定めていることが多いです。
しかし、40歳以上65歳未満で特定の疾病により介護が必要であると認定された場合、入居できるケースもあります。
必要な医療行為
疾病などにより医療行為や医療的ケアが必要である場合、それが施設で行えるかどうかが論点になります。看護師でなければ行えないもの、研修を受けた介護福祉士なら実施できるもの、介護福祉士全員が行えるものなど、ケアに応じて実施できる職種が異なります。
胃ろうやカテーテル、痰の吸引など、何らかの医療行為や医療的ケアが必要である場合は、施設で実施できることが入居の条件になります。
収入
必要な費用の支払い能力があるかを確かめるため、入居前に収入の確認が行われます。資産や年金額といった収入・預貯金額の審査が行われることも多いです。
ちなみに、生活保護を受けているから必ず入居できない、ということはありません。公的施設の場合は支援制度もあるので、事前に確認しましょう。
身元保証人
多くの老人ホームが、契約時に身元保証人を必要としています。身元保証人は、費用が払えなくなった際の保証や退去手続きの対応、緊急時の連絡先などの役割を担います。
有料老人ホームに入居するメリット・デメリット
介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホームには、それぞれメリット・デメリットがあります。
自分に合った老人ホームを選ぶためには、まずは施設の種類ごとのポイントを理解しましょう。
介護付き有料老人ホームのメリット・デメリット
介護付き有料老人ホームのメリット・デメリットは以下のとおりです。
<メリット>
介護サービスや医療体制が充実している
施設の数が多く、豊富な選択肢の中からニーズに合う施設を選ぶことができる
看取りに対応している施設が多い
<デメリット>
費用が比較的高額である
外部の介護サービスを利用できない
要介護の方が入居する場合は、24時間体制で手厚い介護サービスを受けられる、介護付き有料老人ホームを選ぶのがおすすめです。
施設に勤める職員が介護サービスを提供するため、外部の介護サービスを利用する場合は全額自己負担となります。
住宅型有料老人ホームのメリット・デメリット
住宅型有料老人ホームのメリット・デメリットは以下のとおりです。
<メリット>
介護付き有料老人ホームよりも費用が安い傾向にある
入居者同士の交流が活発な場合が多い
生活の自由度が比較的高い
<デメリット>
要介護度が重くなった場合、入居し続けられないリスクがある
介護が必要な場合は、外部の介護サービスを利用する必要がある
住宅型有料老人ホームでは、基本的には介護サービスを受けられません。介護が必要な場合は、外部のサービスを利用することになります。
しかし、夜間の介護には対応していないケースが多いため、注意が必要です。また、多くの介護サービスと契約した結果、費用が高額になるリスクがあります。
健康型有料老人ホームのメリット・デメリット
健康型有料老人ホームのメリット・デメリットは以下のとおりです。
<メリット>
生活の自由度が高い
安否確認や生活相談など、安心して生活できる環境が整っている
イベントやレクリエーションが充実している
<デメリット>
介護が必要になった場合は、退去が必要である
施設数が少ないため、選択肢が限られる
健康型有料老人ホームは、自立している方を対象としています。自由度の高い生活を送ることができる一方、介護が必要になった場合、退去しなければならないリスクがあります。
自分に合った有料老人ホームを選ぶポイント
自分に合った有料老人ホームを選ぶためには、以下のようなポイントをチェックしましょう。
有料老人ホームの受け入れ対象か
入居条件・退去条件に問題はないか
費用は予算の範囲内か
介護・生活支援サービスは充実しているか
必要な医療ケアに対応しているか
レクリエーションやイベント、リハビリ体制が充実しているか
食事はご本人の口に合っているか
施設全体の雰囲気が明るいか
ほかの入居者が楽しそうに生活しているか
職員は丁寧かつ適切に対応してくれるか
運営法人の経営状況に問題はないか
中には、見学や体験入居で実際に施設を訪れなければ判断できないポイントもあります。ホームページやパンフレットの情報だけでなく、実際に施設を見学して吟味することが大切です。
有料老人ホームについてよくある質問
ここでは、有料老人ホームについてよくある質問とその回答を4つ紹介します。
Q.生活保護を受給していても入れる有料老人ホームはある?
Q.有料老人ホームに入居していて退去を求められるケースはある?
Q.有料老人ホームの入居にかかる費用に消費税はかかる?
Q.ショートステイで有料老人ホームを利用できる?
Q.生活保護を受給していても入れる有料老人ホームはある?
生活保護を受給しているのですが、有料老人ホームには入居できるのでしょうか?
Q.有料老人ホームに入居していて退去を求められるケースはある?
有料老人ホームに入居している途中で、退去しなければならないケースはあるのでしょうか?
Q.有料老人ホームの入居にかかる費用に消費税はかかる?
有料老人ホームの入居にかかる費用に、消費税はかかりますか?
Q.ショートステイで有料老人ホームを利用できる?
有料老人ホームを、ショートステイで利用することはできますか?
まとめ
有料老人ホームについて理解しておきたいポイントは以下のとおりです。
有料老人ホームには、介護付き・住宅型・健康型の3つがある
介護付き有料老人ホームでは、介護サービスを受けられる
住宅型有料老人ホームでは、生活支援サービスを受けられる
健康型有料老人ホームは、自立している方を対象としている
施設ごとに受けられるサービスは異なる
自分に合った有料老人ホームを選ぶことが大切
入居者ご本人・ご家族双方が納得して施設を選ぶためには、有料老人ホームについて理解し、早めに老人ホーム選びをスタートさせることが大切です。この記事が、有料老人ホームについて知る「はじめの1歩」となれば幸いです。また、理想に合った施設を選ぶためには、経験豊富なコンシェルジュに相談することもおすすめです。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。