良い老人ホームの見分け方とは?施設の種類やポイントを徹底解説
高齢者の安心安全な生活のためには、良い老人ホーム選びが重要なポイントです。しかし、はじめての老人ホーム選びですので分からないことや不安なことが多いかと思います。一口に老人ホームと言ってもたくさんの種類や施設があります。この記事では、良い老人ホームを選ぶステップや見分け方のポイントを解説します。ぜひ失敗しない老人ホーム選びの参考にしてください。

良い老人ホームを選ぶ5つのステップ
老人ホーム選びは、慎重に行う必要があります。以下のステップで選ぶのがおすすめです。
希望条件の整理
候補の選定
見学
体験入居
申し込み・契約
STEP1 希望条件の整理
まずは入居者ご本人とご家族で話し合い、希望条件を複数洗い出しましょう。しかし、希望を全て叶えてくれる施設を見つけるのは難しいです。そのため、希望条件を出し終わったら、条件に優先順位をつけていくことが大切です。ご家族で話し合う時は、いろいろな条件が出てくると思いますが、特に重要な論点は「立地条件」「資金計画」「サービス内容」の3つです。
立地条件
立地は、ご家族の面会のしやすさや入居者ご本人が外出を楽しめるかを左右する重要なポイントです。ご家族にとって面会が負担にならないよう、都道府県だけでなく、車で行きやすいか、交通機関を使って行くことはできるかなど、アクセスに関して条件を整理することも大切です。
また、趣味や息抜きになるスポットが施設の近くにあるかなど、ご本人の希望にあわせて周辺環境についても条件を整理しましょう。
資金計画
入居前には、費用が問題なく払えるか審査があるところがあります。ご自身の貯金や収入(年金など)に見合わない高額な施設を選んでしまうと、あとで行き詰まってしまいます。無理なく費用を支払い、住み続けるためにも資金計画を立て、適切な施設を選ぶことが大切です。
サービス内容
生活するうえで最低限のサービスが担保されていることは前提ですが、食事の内容や雰囲気、どのようなレクリエーションが用意されているか、などプラスアルファの部分も重要になります。イベントを通じて趣味を継続できるか、食事を楽しめるかなど、入居者ご自身の趣味嗜好にあわせて、サービス内容についても条件を整理しましょう。
STEP2 候補の選定
希望条件に優先順位をつけたら、優先順位の高いものから順にパソコンやスマートフォンなどで検索していきます。
検索するうえではポータルサイトを利用すると便利です。気になる施設については、ホームページをチェックしたりパンフレットを取り寄せると多くの情報を得ることができます。
また、候補は3ヵ所ほどに絞ると比較検討がしやすく、見学の負担も少ないのでおすすめです。
STEP3 見学
候補を3ヵ所ほどに絞ったら、事前に施設に確認し、見学に行くと良いでしょう。施設に行って、実際に設備や雰囲気などを確認することで、ホームページやパンフレットだけではわからない情報を得ることができます。また、不明点をスタッフに質問することもできます。見学時は、事前に予約をして施設に迷惑をかけないようにするのがマナーです。
また、見学は入居予定者ご本人とご家族一緒に行くことがおすすめです。2〜3人で見学すると、1人では気づかない点がわかったり、1人は写真撮影・他の人はメモのように役割分担できたりするので、見学の時間を有効活用できます。
見学後は、入居者ご本人とご家族で見学時のメモや写真などを見返し、比較検討を行いましょう。
STEP4 体験入居
入居したい施設が見つかったら、体験入居を申し込みましょう。体験入居では、契約の前にお試しで短期間入居することができ、実際の老人ホームでの生活を体験できます。体験入居では、以下のように他の入居者と同じサービスを受けることができます。
食事
入浴
生活支援
入浴・排泄介助などの介護サービス
リハビリ
レクリエーション
サービスや食事、雰囲気などを体験し、合う・合わないを判断します。ご家族が中心となって施設選びを行う場合でも、入居者本人の感想を聞いて意思を尊重することが大切です。
体験入居は、見学のように複数施設に申し込むより、入居を希望する施設の最終判断として利用しましょう。体験入居には滞在日数分の利用料がかかり、さらに慣れない環境で一定期間過ごすことになるため、金銭的負担やご本人への負担がかかるからです。
STEP5 申し込み・契約
体験入居を経て本格的に入居したい施設が決まったら、申し込みと必要書類の提出を行います。入居審査の後は、契約・入居になります。ここまでのステップをしっかり行うことで、入居者ご本人・ご家族双方が納得する老人ホームに入居することができます。
良い老人ホーム選びの10のポイント
良い老人ホームの見分け方について、押さえておきたい10のポイントを説明いたします。
入居者に合った老人ホームの種類
立地条件
施設長をはじめとしたスタッフの雰囲気・対応
入居者の雰囲気
食事
介護
医療体制
リハビリ体制
レクリエーション
運営会社
入居者に合った老人ホームの種類
老人ホームをはじめとする高齢者向け介護施設には、さまざまな種類があります。上の表は、高齢者向け介護施設の種類一覧表です。表のように、介護施設は公的施設と民間施設の大きく2つに分かれ、その中でも公的施設は5種類、民間施設は6種類に分かれます。施設によって、提供するサービスや費用相場が変わります。
また、老人ホームによって対象とする入居者の要支援・要介護度が異なります。上の表は、6種類の老人ホーム別要支援・要介護度の一覧です。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、自治体や社会福祉法人が運営する公的施設です。介護サービスをメインに提供し、要介護度3以上の方が入居の対象になります。公的施設なので入居にあたって入居一時金はかからず、月額費用も民間の有料老人ホームに比べると安いのが特徴です。
養護老人ホーム
養護老人ホームは、特別養護老人ホームと同じく公的施設です。自宅で生活することが難しい高齢者の生活・自立支援をメインに行っており、介護を主たる目的としていない点が特徴です。そのため、自立した生活を送れる高齢者が入居対象となります。
軽費老人ホーム(ケアハウス)
軽費老人ホームは、地方公共団体や社会福祉法人が運営し、名前の通り他の施設に比べて安く利用することができる老人ホームのことです。軽費老人ホームにはA型、B型、C型があり、C型はケアハウスと呼ばれます。自立しているが自宅での生活に不安を感じる高齢者を対象としていますが、ケアハウスの中にも介護サービスを受けられる介護型が存在します。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームとは、原則として要介護の方を対象とした民間運営の老人ホームのことです。食事や掃除などの身の回りのことから身体介護、レクリエーションまで、生活を幅広くサポートするサービスを提供しています。都道府県から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、介護サービスの提供基準を満たしている場合のみ「介護付き有料老人ホーム」となります。
住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、食事や洗濯などのサービスを提供する高齢者施設のことです。自立から要介護の方まで幅広い方を対象としていますが、介護付き有料老人ホームのようにスタッフが介護サービスを提供することはありません。そのため、介護が必要になった場合は外部の介護事業所(居宅介護支援事業所)と契約し、訪問介護による介護サービスを受けることとなります。
健康型有料老人ホーム
「健康型有料老人ホーム」とは、生活に関する基本的なことは自分でできるという高齢者に対し、食事や家事などをサポートする老人ホームのことです。あくまでも「サポート」であり、身の回りのことは自立してできることが前提なので、要介護になった場合は退去となります。
立地条件
立地条件は、希望条件の整理の際に重要となるポイントです。立地については、見学に訪れる際に併せて確認してみましょう。
入居者ご本人の自宅から近いか
入居者ご自身の自宅に近いところであれば、環境変化によるストレスが少なくすみます。ご近所の友人にも会いやすいため、これまで通りの友人関係を維持することができる点も安心です。
また、信頼しているかかりつけの病院や通い慣れた美容院などの施設がある場合、変わらずに通うことができることは大きなメリットです。
ご家族の交通の便が良く、面会に行きやすいか
ご家族の面会のしやすさは、入居者とご家族の安心のためにも大切なポイントです。定期的に面会に行くためには、電車1本で行けたり、車で比較的簡単に行けるなど、負担にならないアクセスの施設を選ぶことも重要です。
最近では、新型コロナウイルス感染防止のため、オンライン面会に対応している施設も増えています。しかし、緊急時のことも考えると、直接会いに行きやすい立地であることは依然重要なポイントです。
今まで住んでいたところに似ているか
街並みや自然環境などが今まで住んでいたところに似ていると、環境変化への戸惑いやストレスを軽減できます。元々都会に住んでいた方がいきなり田舎に住むと、交通の便や周辺施設の充実度に差を感じてストレスになってしまうことも多いです。逆に、地方で暮らしていた方がいきなり都会に住むと、喧騒や物価の高さなどが住みにくさの原因になります。
近くに息抜きになるスポットがあるか
施設の近くに息抜きになるスポットがあると、気分転換ができ、精神の安定につながります。散歩に出かけ、四季の変化を感じることもできます。
また、映画館や美術館・美容院など、周辺施設の充実度合いも重要です。趣味や息抜きになるスポットが近くにあれば、気軽にお出かけしてリフレッシュすることができます。外出が楽しみになるようなスポットが近くにあることは、身体機能の維持・向上や精神衛生上非常に重要です。
施設長をはじめとしたスタッフの雰囲気・対応
施設の雰囲気を左右するのが、スタッフの人柄や対応です。穏やかな雰囲気か、マナー教育が行き届いているか、入居者の目線に立っているか、食事や入浴などの際に適切な支援を提供しているかなどは、施設で快適な生活を送るためには重要なポイントです。スタッフの雰囲気や対応は、見学や体験入居で確認しましょう。
また、スタッフの雰囲気に大きく影響を与えるのが施設長です。見学や体験入居の際に施設長と接する機会がある場合は、施設長の人柄や、質問などに真摯に対応してくれるかどうかを確かめることが大切です。
入居者の雰囲気
他の入居者の様子も重要なポイントです。入居者の表情やスタッフとのコミュニケーションの様子に注目することで、老人ホームでの暮らしが充実しているかを感じ取ることができます。このポイントは特にパンフレットやホームページでは分からない部分なので、見学や体験入居の際に確かめてください。
食事
食事は生活の楽しみの1つです。老人ホームでは栄養士が食事の内容を管理していますが、栄養バランスだけでなく味や見た目も重要です。冷めた料理を提供していないか、食器・盛り付けなどが工夫されているか、食事に関する説明は十分かなど、食事の内容が充実していることは、良い老人ホーム選びのポイントになります。
また、老人ホームではご本人の体調に合わせて、普通食だけでなく介護食や治療食も提供されます。これらの食事も普通食同様に美味しく食べやすいかは、調理者の技量に左右されます。特にきざみ食やとろみ食などの介護食の場合は、食べやすさを重視しましょう。
さらに、食事の内容だけでなく、食事を味わう食堂の環境も重要になります。清掃が行き届いているか、他の入居者が楽しそうに食事をしているか、などもポイントです。
介護体制
介護サービスを提供する老人ホームを選ぶ際は、人員体制の手厚さがポイントになります。
介護付き有料老人ホームには、介護保険法で「3人の入居者に対し1人の介護職員または看護職員を配置する」という最低基準が設けられています。老人ホームの中には、最低基準よりもスタッフ人員を増やすことで、手厚い介護サービスを提供しているところもあります。その分上乗せ介護費がかかり月額費用が高くなる場合もありますが、充実した介護サービスを受けたい場合は、人員体制に余裕がある施設を選びましょう。
医療機関との連携
老人ホームは、医療機関と連携をとることで訪問診療や緊急時の対応に備えられるようにしています。どのような医療機関と連携しているか、見学時に確認しておきましょう。
疾患や必要な医療行為への対応
入居者ご本人が持病を患っている場合や、それに伴い医療行為を必要とする場合、施設がそれに対応していることは重要なポイントです。胃ろうや人工透析など、医療行為が必要な場合は、それに対応した医療体制を整えている施設を選ぶ必要があります。
介護職員と看護師・医師では、扱える医療行為が異なります。そのため、ご本人の疾患や必要な医療行為にあわせて、適切な人員体制であることを確認しましょう。例えば、体温や血圧の測定、カテーテルの準備などは介護職員が行えますが、インスリン注射やカテーテルの交換などは看護師が担当します。また、診察や処方箋の交付、人工透析などは医師が行える医療行為です。特に、夜間にも医療行為が必要なら24時間看護師が常駐している施設を選ぶ必要があります。
疾患・医療行為への対応については、施設に問い合わせることで確認することができます。
リハビリ体制
老人ホームの中には、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などがリハビリを行ってくれるところもあります。また、食事や入浴、トイレなどの日常生活が自立して行えるよう訓練することで、寝たきりの予防や生活能力の維持を図るところもあります。リハビリ体制が整った施設を選べば、健康で豊かな生活を送ることができます。
レクリエーション
老人ホームの中には、レクリエーションに力を入れているところもあります。レクリエーションが豊富な施設なら、趣味を見つけたり他の入居者と活発にコミュニケーションを取ったりしやすいため、ご本人の生活に良い刺激を与えることができます。レクリエーションの充実度合いは、認知症予防の面でも大事にしたいポイントです。
運営会社
民間運営の老人ホームの場合は、運営会社の経営状況が良好で、介護事業での実績が十分であるかを確認することも大切です。最近では介護事業のニーズが急速に拡大しており、新規参入する企業が増えています。安心安全な施設を選ぶためには、信頼がおける運営会社であることも大切です。
これらの情報は、インターネットで調べることもできますし、重要事項説明書にも掲載されています。重要事項説明書とは、契約にあたって大切な事項を消費者(ここでは入居対象者のこと)に説明する「重要事項説明」の際に用いられる書類のことです。老人ホームの重要事項説明書には、施設の運営会社の情報や設備・提供サービス・人員体制・料金体系など、その施設に関するあらゆる情報が記載されています。
重要事項説明書は、施設や自治体のホームページに掲載されていることが多いです。ホームページに掲載されていない場合は、施設に問い合わせをすることで郵送・メール送付などの対応をしてくれます。いつでも入手することができるので、ぜひ確認してみてください。
重要事項説明書の中でも、「事業主体の概要」「入居希望者への事前の情報開示」「別添資料」の3点を読むことで運営会社についての情報を知ることができます。
事業主体の概要
その施設を運営する事業者について、事業者名や所在地、電話番号やホームページなどの基本情報や、その施設が他にどのような事業を運営しているのか、などが掲載されています。
入居希望者への事前の情報開示
契約書や施設の管理規定、財務諸表など、施設に関する情報を事前に入居希望者へ開示するか否かや、開示方法などが記されています。特に、財務状況が開示されることを確認しましょう。
別添資料
その施設を運営する事業主体が、同じ都道府県で運営している他の介護サービス事業を記した一覧表が含まれています。
有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。