老人ホームでの医療行為はどこまで可能?職種による対応範囲と施設選びのポイントも解説

「老人ホームでも医療は受けられる?」「どこの施設でも医療サービスは同じ?」こんな疑問はありませんか?

老人ホームは介護施設のため、医師や看護師などの医療職がいない施設もあります。そのため、医療ニーズがある人の中には、老人ホームに入れないと不安に思うこともあるでしょう。

今回は老人ホームで受けられる医療行為や医療的ケアについて紹介します。公的施設と民間施設の違いや介護職員でも行える医療摘ケアについても解説しているため、医療ニーズがあり施設選びに悩んでいる方は、参考にしてください。

#老人ホーム#選び方#看護師#医療行為#病気
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

医療行為・医療的ケアとは

医療行為と医療的ケアの違いを確認

医療行為とは、『医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為』とされています。つまり、医師(歯科医師等含む)が治療を目的に承認した方法で、本人の承諾を得て行える行為のことです。

しかし、近年では医学・医療機器の進歩や医療・介護サービスの在り方の変化などから、医師・看護師以外の者が高齢者・障がい者の介護現場において、医療行為に付随する行為を行うことが増えてきています。

介護施設の種類や職種(医師・看護師・介護職員など)によって行える医療行為の範囲は異なります。医療行為は以下のとおりです。

医師
看護師
介護職員

診察・往診

処方箋の発行


※右に挙げるすべての医療行為が実施可能

注射・点滴

人工透析

応急処置

インスリン注射

中心静脈栄養(IVH)

人工呼吸器(HMV)の管理

褥瘡処置

在宅酸素(HOT)

導尿

内服薬の仕訳

人工肛門・人工膀胱(ストマ)の交換

バルン留置カテーテルの交換


※右に挙げるすべての医療行為が実施可能

経管栄養(胃ろう)

喀痰吸引

人工肛門・人工膀胱(ストマ)の処理

バルンバック内の排尿の処理

血圧測定

体温測定

酸素飽和度(SPO2)測定

服薬介助

軽微な皮膚トラブルに対しての処置

軟膏塗布

湿布貼付

点眼

坐薬

爪切り

鼻粘膜への薬剤噴霧

施設によっては、医師や看護師が常駐している施設や訪問診療で対応している場合があります。そのため、入所前に医療行為を受けることができるのか、受けるためにはどうすれば良いのか確認しておくと良いでしょう。

軽微な切りきずの処置や服薬介助など、日常的に必要なサポートは医療的ケアと呼び、介護職員でも対応可能です。主な医療的ケアは以下のとおりです。

医療的ケア
詳細と条件

爪切り

糖尿病・白癬爪・巻き爪などの異常がある場合は対応できない。

耳掃除

耳垢塞栓の除去はできない。

薬の内服の介助

指示通りの回数・量を守る。一包化されたもので対応する。

湿布の貼り付け

基本的に医師から処方を受けたものを使用する。看護師・薬剤師の指導を受けて使用する。

点眼

医師の処方通りに使用する。

浣腸

挿入部の長さが5~6cm、グリセリン濃度50%、40g程度以下のものを使用。

ネブライザー治療

病状が安定している利用者に対してのみ実施可能。

ストマ

人工肛門の排出口から出た排便の処理は可能。パウチの取り換えは不可。

膀胱留置カテーテル

排尿の廃棄処理は可能。カテーテルの交換は不可。

経管栄養

喀痰吸引

特定の研修を受け都道府県に登録したもののみ実施可能。実施する事業所も登録が必要。

医療的ケアは、あくまでも医療行為にあたるため、医師の指示や定められた手順やルールを守り慎重に行う必要があります。

老人ホームで行える医療行為

老人ホームで対応できる医療行為は限られている

老人ホームで行われている医療行為を紹介していきます。職種ごとに違いがあるため、それぞれ確認していきましょう。

介護職員ができること

日常生活の中で利用者と接することが多い介護職員では以下の行為が可能です。

  • 体温測定(水銀体温計・電子体温計・耳式電子体温計)

  • 自動血圧測定器での血圧測定

  • 動脈血酸素飽和度を測定するため、パルスオキシメータを装着すること(新生児以外の者であって入院治療の必要がないものに対して)

  • 軽微な切り傷・擦り傷・やけど等専門的な判断や技術を必要としない処置(ガーゼの交換を含む。)

さらに、下記の条件を満たしていなければいけません。

  1. 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
  2. 副作用の危険性や投薬量の調整など、医師又は看護職員が継続的に容態の経過観察が必要がないこと
  3. 内服薬は誤嚥のリスク、坐薬では肛門からの出血の可能性がないこと
  4. 医薬品の使用方法について専門的な配慮が必要な場合ではないこと

上記を満たしていることを医師などが確認し、医療職以外の者が介助を行えることを本人・家族に伝え了承があった場合に限り対応可能です。

一定の研修を受けた介護職員ができること

認定特定行為業務従業者として、喀痰吸引研修を修了し都道府県知事より認定書の交付を受けたものは次の医療的ケアの対応が可能になります。

  • 喀痰吸引:口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部に限り実施可能

  • 経管栄養:胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養

実施にあたり、医師の指示書や手順書の作成、医療職との連携・情報共有を行い、計画書や報告書の作成が必要です。

介護職員が研修や都道府県の登録を行っていても、実施する事業所が登録事業者(登録喀痰吸引等事業者・登録特定行為事業者)を行っていない場合は対応できません。

看護師ができること

医療職のため、介護職員ではできない医療行為のほとんどが対応可能です。老人ホームでは主に、以下の医療行為を行います。

  • インスリン注射:糖尿病の方に不足したインスリンを注射し補います。

  • 中心静脈栄養(IVH):経口摂取ができない方に対して、心臓に近い静脈に高カロリー輸液を注入します。

  • 経管栄養(胃ろう):経口摂取できない方に対し、胃に直接穴をあけPEGを取り付け、栄養剤を注入または滴下を行います。

  • 喀痰吸引:吸引器を使用して喀痰を排出します。

  • 褥瘡処置:患部に対して処方されている軟膏の塗布・患部の洗浄・保護を行います。

  • 在宅酸素(HOT):酸素供給機を使用し酸素を吸入すること。体調管理やボンベ管理を行います。

  • 人工肛門・人工膀胱(ストマ):便や尿を排泄させるために造設した排泄口のパウチの交換や周辺の皮膚トラブルの処置や管理を行います。

  • 導尿:排尿障害の方に対して、尿道口にカテーテルを挿入し排尿の手助けを行います。

  • 人工呼吸器(HMV)の管理:呼吸不全の方に対して管理を行い生命の維持を補助します。

  • 応急処置:救命のために行う行為(心臓マッサージなど)ができます。

看護師は医療行為が行える職種です。しかし、医師の指示を受けて行うことが基本となるため、独断で実施できないものもあります。

医師ができること

すべての医療行為の実施が可能で、各職種に対して指示を送ることができます。老人ホームで行える医療行為は以下のとおりです。

  • 診察:症状に対しての診断や疾患に対して継続的な経過観察を行います。

  • 注射・点滴:症状や疾患に対して必要な薬剤や注射方法を指示・実施します。

  • 人工透析(設備のある施設に限る):慢性腎臓病の患者に対して、体内に蓄積されている余分な塩分・水分などを取り除き血液を浄化する治療法を行います。

  • 処方箋の発行や管理:症状や疾患に対して必要な薬剤の処方を行います。

老人ホームの中では、一部の施設にしか医師の配置がありません。そのため、往診サービスの利用などで、利用者の健康管理を行っている場合がほとんどです。緊急時(特に夜間帯)などの対応方法を確認しておくと良いでしょう。

施設の種類からみた医療行為

施設によって医療職員の配置や対応できる内容が異なる

老人ホームには様々な種類の施設があり、それぞれ職員の配置や対応できる内容が異なります。介護保険施設の職員配置から確認していきましょう。


介護老人保健施設(老健)
特別養護老人ホーム(特養)
介護医療院

医師

常駐(24時間ではない)

非常勤(必要時対応)

常駐(24時間対応可能な状況)

看護師

常駐

常駐(24時間ではない場合が多い)

常駐

介護職員

常駐

常駐

常駐

介護老人保健施設

介護を必要とする高齢者の自立を支援し、在宅生活の復帰を目指すためにリハビリを行う施設です。医師による医学管理のもと、日々の体調管理・リハビリテーション・栄養管理・日常生活の支援などを提供します。医療職が常に常駐しているため医療ニーズの高い方でも利用可能な施設です。経管栄養・喀痰吸引・酸素療法・褥瘡などの管理が継続的にでき、急変時に看護師による対応が即座に行うことができます。

特別養護老人ホーム

在宅生活が困難となった要介護3以上の高齢者が、終身にわたって日常生活を過ごすための施設です。医師は非常勤でも問題はなく、看護師の24時間配置義務がないため、24時間の医療ケアを必要とする方は利用が困難な場合もあります。施設によっては24時間の看護師配置や看取りケアの実施など、手厚い対応ができる場合もあるため、対応できる医療行為について確認しておくと良いでしょう。

介護医療院

要介護者で長期にわたり療養が必要である人が、療養上の管理・医学的管理のもと、リハビリテーション・必要な医療や看護・日常生活を過ごすための介護を提供する施設です。医療職が常駐しているため、経管栄養・喀痰吸引など日常生活を過ごすために必要な医療的ケアや看取りケアにも対応しています。

続いて民間施設を比較して見ていきましょう。


有料老人ホーム
特定施設
サービス付き高齢者向け住宅
グループホーム

医師

なし

なし

なし

なし

看護師

施設によって異なる

常駐(24時間ではない)

必須ではない

なし(任意)

介護職員
常駐
常駐
常駐(24時間ではない)
常駐

民間施設では、医師の配置義務がありません。

有料老人ホーム

食事(提供や介護)・入浴・排泄・家事(掃除や洗濯など)健康管理を提供している施設です。訪問診療や協力医療機関への受診を行い、医療の対応をしています。看護師は24時間対応していない場合が多く、健康・服薬管理、医療機関への連絡などの対応は介護職で行っていることがほとんどです。

特定施設

厚生労働省の定める基準を満たした、24時間手厚い介護サービスを提供する施設です。民間の施設ですが、看護師の配置が義務付けられています。医療ニーズが高くなると対応できない場合もあるため、施設で対応できるケアの内容を確認しておくと良いでしょう。

サービス付き高齢者向け住宅

60歳以上の高齢者が過ごす賃貸住宅です。医師・看護師・介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員などの有資格者のいずれかの者が日中常駐しており、状況の把握や入所者に対して生活相談を行っています。緊急時には通報システムにより対応できる環境があります。日常的な医療ニーズがある方は、往診や訪問看護などの外部サービスの利用が必要です。

グループホーム

認知症の高齢者を対象に介護職員のサポートを受けながら家事を分担し共同生活を行う施設です。5〜9名の入居者ごとにサポートするユニットケアを行っています。医師や看護師などの医療職の常駐を定めていないため、訪問看護と連携することで医療体制を整えている施設がほとんどです。

老人ホームの種類によっては医療職が不在なことがあるため、医療行為や医療的ケアが対応できない場合もあります。利用する人の状態や医療ニーズに合わせて検討すると良いでしょう。

医療行為・医療的ケアが充実した施設の特徴

医療職が常駐しているかを確認する

老人ホームには、医師が24時間常駐している施設はほとんどありません。看護師は、24時間体制で常勤していたり日中だけ勤務していたりと、施設によって異なります。医療職の配置義務がある施設でも、医療行為や医療的ケアを受け入れていない施設もあるため確認が必要です。

公的な介護施設の中では、介護老人保健施設で医療職が24時間で対応し医師が常駐しているという点では安心ですが、基本的に『在宅復帰のための施設』という位置づけのため、一定期間で退所(自宅へ帰る・他の施設を探す)する必要があります。

民間施設の有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅では、医師が不在なため提携している協力医療機関・併設医療機関での受診や訪問診療(往診)を受けることが前提です。また、訪問看護で日常の体調管理などの医療的ケアを受けることもできます。民間施設で受診をする際のデメリットとしては、利用した分の費用がかかる・介護タクシーの手配や金銭的な負担などがあります。

希望する医療的ケアが受けられるかどうか・勤務体制を確認し、不在な場合、協力医療機関が治療以外に入院できるのか、どこまでの治療ができるのかなどを確認しておくと、日々の不安を軽減できるでしょう。

24時間看護師常駐の施設を探す

施設選びのポイント

確認事項を押さえて必要なケアを提供している施設を探そう

医療行為や医療的ケアができる施設を選ぶポイントは、以下のとおりです。

確認内容
詳細
サービスの内容
提供されている医療サービスの内容を確認。受診時の付き添いの有無。
医療職の人員配置
医療職の勤務時間帯や人数など。
提携の医療機関
(併設医療機関の有無)
どこまでの治療・入院ができるのか。医療機関の場所(近くにあればそれだけ迅速な対応が期待できる)。
負担費用
医療費にかかる見込みなのか。
入居を継続できる条件
医療ニーズが高くなると退去する必要があるか。対応できる医療行為の内容。
看取りケアの実施
看取りケアを行っているか。

施設の受け入れ事例を確認すると、入居後の具体的な対応方法を知ることができるでしょう。入居を継続できなくなった時のことや、次の入居先なども確認しておくと、いざというときに悩まずに対応できます。

まとめ

医療行為は原則、医療職が対応するものです。しかし、多様なニーズが増えた現在では、介護職員が行う医療的ケアも増えてきました。介護職でも行える医療的ケアの中には、要件が定められているものもあるため、すべての職員や施設で実施できる訳ではありません。

また、施設ごとに医療職員の配置人数や勤務時間帯、対応できる医療行為の内容が異なるため、事前に確認しておくと良いでしょう。老人ホームでも医療行為は可能ですが、病院ではないため、検査や対応できるケアは限られます。

必要な医療行為や医療的ケアに合わせて施設を検討しましょう。今回の記事で、老人ホームにおける医療行為・医療的ケアの理解につながれば幸いです。

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