老人ホーム入居までの流れ 体験入居で確認したいポイントとは
老人ホーム入居までに行った方が良いこととして、老人ホームの見学に並んで挙げられるのが「体験入居」です。老人ホーム選びの最終判断材料となる重要な体験入居ですが、確認すべきポイントや注意点など、わからないことは多いと思います。
そこでこの記事では、体験入居で受けられるサービスや費用・期間、入居までのステップなど確認すべきポイントを詳しく説明しています。ぜひ参考にしてみてください。
体験入居とは
老人ホームの中には、入居契約の前にお試しで短期間入居することができる「体験入居」を実施しているところが多くあります。初期費用なしで実際の老人ホームでの生活を体験できるので、重要な判断材料になります。
体験入居で受けられるサービス
体験入居では、以下のように他の入居者と同じサービスを受けることができます。
食事
入浴
生活支援
入浴・排泄介助などの介護サービス
リハビリ
レクリエーション
体験入居の期間と費用
体験入居できる期間は施設によって異なります。1泊から1週間程度入居できる場合が多く、中には最長1ヶ月と長く利用できるところもあります。
施設で1週間程生活すると、受けられるサービスやスタッフ・他の入居者の雰囲気を感じ、そこでの暮らしをイメージすることができます。
費用については施設によって変わりますが、1泊5,000円〜15,000円ほどかかることが多く、日数に応じて支払います。入居者の介護度に応じて金額が変わるところもあります。また、体験入居中にかかる介護サービス費用は介護保険適用外なので、全額自己負担となるため注意が必要です。
老人ホーム選びにおいて体験入居が必要な理由
老人ホーム選びにおいて、体験入居は施設選びの重要な判断材料となるため、非常に大切な役割を果たします。
体験入居では、他の入居者と同じようにサービスを受けることができ、実際に一定期間施設で過ごすことができます。スタッフや他の入居者の雰囲気を知ることができたり、介護・生活支援サービスを体験できたりするため、その施設での暮らしをイメージすることが可能です。体験入居をすることで、納得して施設を選ぶことができます。
また、体験入居を通じて老人ホームでの1日を知ることもできるので、老人ホームでの生活を把握できるいい機会となります。
体験入居から契約までの流れ
老人ホームの体験入居から契約までは、基本的には以下のようなステップで進みます。
見学で比較検討をする
体験入居を申し込む
申し込み・必要書類の提出
面談・入居審査
契約
各ステップについて、以下で詳しく説明いたします。
見学で比較検討する
パンフレットやホームページで見学に行きたい施設を絞ったら、最低でも2〜3ヵ所は見学しましょう。見学で施設・設備の実態や、スタッフや他の入居者の雰囲気を確認し、不明点を質問します。見学後は、入居者ご本人とご家族で見学時のメモや写真などを見返し、比較検討を行いましょう。
体験入居を申し込む
入居したい施設が見つかったら、体験入居を申し込みましょう。サービスや食事、雰囲気などを体験し、合う・合わないを判断します。ご家族が中心となって施設選びを行う場合でも、入居者本人の感想を聞いて意思を尊重することが大切です。
体験入居は、見学のように複数施設に申し込むより、入居を希望する施設の最終判断として利用しましょう。体験入居には滞在日数分の利用料がかかり、さらに慣れない環境で一定期間過ごすことになるため、金銭的負担やご本人への負担がかかるからです。
体験入居時の持ち物
体験入居に必要な持ち物は施設によって変わりますが、以下のようなものを用意しましょう。事前に施設に問い合わせ、必要なものを確認してみてください。
衣類:普段着、パジャマ、下着など
靴:室内履き、外履き
洗面用具・口腔ケア用品:歯ブラシ、コップ、洗顔料、タオル、入れ歯ケースなど
消耗品:おむつ、ティッシュペーパーなど
入浴用品:石鹸、シャンプー、リンス、タオルなど
薬・医療器具・介護用具(必要に応じて)
健康保険証
介護保険被保険者証、介護保険負担割合証
介護・看護サマリー(必要な介護や病歴・治療の情報などをまとめた書類)
体験入居で老人ホームでの1日を知る
多くの老人ホームでは、入居者に共通のタイムスケジュールがあります。食事やレクリエーション、自由時間などが設定されており、基本はそのスケジュールに沿って生活を送ります。なお、サービス付き高齢者向け住宅のように入居対象を自立や要支援としている施設では、スケジュールは用意されておらず、1日を自由に過ごせる場合もあります。
スケジュールが決まっている施設では、7時前後を起床時刻、20時前後を就寝時刻と定めているところが多いです。1日3回の食事の他に、リハビリテーションやレクリエーション・自由時間などが設定されています。
体験入居で実際にスケジュールを体験することで、契約前に施設での暮らしをイメージできるようになります。
申し込み・必要書類の提出
体験入居を経て本格的に入居したい施設が決まったら、申し込みと必要書類の提出を行います。申し込みから入居までは、1ヶ月ほどかかることが多いです。
施設によって必要な書類は変わります。以下は必要書類の例です。
利用申込書
戸籍謄本
住民票
印鑑、印鑑証明
所得証明書
健康診断書
介護保険被保険者証
診療情報提供書
書類の中には、すぐに入手できないものもあります。特に、診療情報提供書・健康診断書は医療機関に作成を依頼するため、取得までに2週間以上かかることもあります。余裕を持って準備するようにしましょう。
面談・入居審査
面談では、施設の担当者と入居者ご本人・ご家族が面会し、希望条件や身体状況などを確認します。
入居審査では、面談の内容と健康診断書や所得証明書などに基づき、入居予定者の健康状態や要介護度、経済状況などが検討されます。特に、経済状況については継続した利用料の支払いがポイントとなり、身元保証人の有無が重視されます。身元保証人は、費用が払えなくなった際の保証や退去手続きの対応、緊急時の連絡先などの役割を担います。何らかの事情で身元保証人を立てられないという場合は、身元保証人不要の施設を選んだり、保証会社の利用を検討する必要があります。
契約
審査に通ったら、いよいよ契約です。契約時は、入居契約書や重要事項説明書に基づいて、契約や施設について説明を受けます。特に重要なことは、重要事項説明です。重要事項説明とは、契約にあたって大切な事項を消費者(ここでは入居対象者のことをいいます)に説明することです。重要事項説明書には、契約の中でも特に重要なポイントが書かれています。入居後にトラブルにならないよう、しっかり確認しましょう。重要事項説明では、特に以下の3つのポイントを確認する必要があります。
入居一時金の償却期間と初期償却
老人ホームの中には、契約時に初期費用として入居一時金を支払う必要がある施設があります。入居一時金は、「想定入居期間分の家賃の前払い」という位置付けの費用のことです。指定の居住期間より前に退去した場合、残りの入居期間分の金額が返還されるという仕組みになっています。この想定入居期間は施設によって異なるので、契約時に確認しましょう。
また、入居一時金の償却でもう1つ重要なのが「初期償却」です。初期償却とは、入居一時金から引かれる一定額のことで、退去時に返還されません。初期償却は施設によって異なります。入居金の10〜30%と定めているところが多いですが、契約時に必ず確認しましょう。
上乗せ介護費の有無
上乗せ介護費とは、基準よりも多く看護・介護職員を配置している場合に徴収できる費用のことです。上乗せ介護費の有無は施設によって異なるので、契約時に確認しましょう。
クーリングオフ(短期解約特例)に関する記載
入居一時金の支払いにはクーリングオフ(短期解約特例)が適用されるため、90日以内に解約した場合、施設には一時金の返還義務があります。法律で義務付けられているとはいえ、クーリングオフについてきちんと契約書に書かれているかを確認しましょう。
体験入居時に確認すべき5つのポイント
ここでは、老人ホーム体験入居時に特に確認するべき5つのポイントについて説明いたします。ぜひ参考にしてみてください。
入居者やスタッフの様子
他の入居者の様子やスタッフの雰囲気、対応などは非常に重要です。特に、体験入居中に他の入居者とコミュニケーションをすることで、その老人ホームに関する実際の声を聞くことができます。また、スタッフの雰囲気や対応は、老人ホームでの生活の快適さを大きく左右するポイントです。こちらも併せて確認しましょう。
設備の様子や使い勝手
居室の広さや設備、共用設備などは、実際に使ってみることで使い勝手が分かります。老人ホームにかかる費用の中でも多くを占めるのが設備にかかる費用です。納得して費用を払うためにも、設備の使い勝手はしっかり確認しましょう。
特に居室の確認は大切です。居室で過ごす時間は想像以上に長いので、老人ホーム生活においては重要な役割を果たします。日当たりは良いか、トイレやシャワー・洗面台などの設備が使いやすいかなどを確認しましょう。
音や臭い、清掃状況などの生活環境
一定期間施設で過ごすことで、掃除が行き届いているか、共有スペースや隣の居室からの生活音が耳障りでないか、嫌な臭いがしないかなど、生活環境も確認できます。生活環境が悪いと、その後の生活における大きなストレス要因になってしまいます。特に、清掃状況は施設が提供するサービスの質を反映します。清潔な環境で快適に過ごせるよう、清掃が行き届いているかどうかは重点的に確認しましょう。
食事が口に合うか
食事は生活において重要な役割を果たします。そのため、施設の食事が口に合うかどうかは大切なポイントです。老人ホームでは栄養士が食事の内容を管理していますが、栄養バランスだけでなく味や見た目も重要です。冷めた料理を提供していないか、食器・盛り付けなどが工夫されているか、食事に関する説明は十分かなどを確認することが大切です。
また、老人ホームではご本人の体調に合わせて、普通食だけでなく介護食や治療食も提供されます。これらの食事も普通食同様に美味しく食べやすいかどうかは、調理者の技量に左右されます。特にきざみ食やとろみ食などの介護食の場合は、食べやすさを重視しましょう。
周辺環境
アクセスは見学時に確かめることができますが、施設周辺の雰囲気や買い物・散歩に便利な場所などは一定期間過ごしてみないと分かりません。静かで治安は良いか、散歩を楽しめるコースはあるか、趣味を楽しめる施設はあるかなど、体験入居で周辺環境についても確認しましょう。
体験入居時の心得・注意点
老人ホームの体験入居は、共同生活に参加するということです。施設や他の入居者の迷惑とならないよう、そして施設での生活に早く慣れるためにも、以下の心得・注意点を理解したうえで体験入居することをおすすめします。
施設のルールやスケジュールで生活する
体験入居であっても、施設のルールやスケジュールにあわせて生活しましょう。食事の時間帯や自由時間、入浴時間などが決められている場合、今までの生活とのギャップに戸惑う方も多いです。しかし、他の方と生活を送る施設は共同生活の場でもあります。ルールやスケジュールを守ることは、他の入居者が気持ちよく過ごせるためにはもちろん、契約・入居後の生活に早く慣れてご本人のストレスを軽減するためにも重要になります。
ご家族の訪問は指定の時間内で、他の入居者に配慮する
ご家族の訪問については、訪問可能な時間帯が決まっていることもあります。訪問する場合は、体験入居であっても施設が指定する時間を守りましょう。
訪問時は、大声で話したり他の入居者の居室を勝手に覗くなど、迷惑をかけないようにしましょう。特に相部屋の場合は、居室ではなくラウンジのような共用スペースを利用するのがマナーです。
毎日の訪問は控える
体験入居中は、どんな様子か知りたいと考えるご家族もいらっしゃいます。しかし、訪問回数や時間に制限を設けている施設もあります。ご家族に毎日会えるわけではないという状況をご本人に理解していただくためにも、体験入居中は毎日訪問するのではなく、入居後と同じ頻度・時間帯で訪問するようにしましょう。
不明な点は体験入居中に確認する
体験入居は施設選びの最終判断材料となります。期間中に少しでも不明な点や不安な点があったら、必ず施設に相談してください。施設側も、入居者ご本人とご家族双方が納得したうえで選ぶことを望んでいます。些細なことでも気になることは質問し、不安のない状態で契約に進みましょう。
体験入居後はご本人からしっかり感想を聞く
ご家族が中心になって施設選びをする場合でも、入居者ご本人から体験入居の感想を聞き、意思を尊重することが大切です。ご本人が嫌だと感じる場合、施設での生活は大きな負担となり「こんなはずではなかった」と後悔することになってしまいます。ご本人・ご家族が納得したうえで契約に進みましょう。
まとめ
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。