介護保険施設とは
「介護保険施設ってなに?」「介護保険施設のサービスって?」と疑問に感じていることはないでしょうか?最近、介護のサービスはすごく増えており、多岐にわたって展開されています。そのため、今回は介護施設について紹介します。最後まで読んでいただくことで、各施設の介護サービスや特徴などを理解できますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。
とぐち まさき
渡口 将生
介護保険施設とは
介護保険サービスを提供する施設の総称
介護保険施設とは、介護保険サービスを提供する施設を指します。
介護施設は大きく分けて2つの運営元があります。有料老人ホームなどを運営する「民間企業」と、国・公共団体・社会福祉法人・医療法人などが運営している「公的施設」です。介護保険施設は「公的施設」に該当します。
介護保険施設は、民間施設と比べると費用が安価な場合が多いのが特徴です。介護保険が適応されるので、介護サービス費は自己負担1〜3割で利用できます。また、食費や居住費なども所得に応じて、減免される制度があるので、低所得の方でも安心です。
たとえば、年収80万円以下の方の場合、月に5〜6万円で利用できる場合もあります。生活保護の方でも、入居対象になる施設が多いです。
介護保険施設の種類
介護保険サービスを提供する4つの施設がある
介護保険施設は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・介護療養型医療施設の4つの施設があります。
この中で、介護療養型医療施設は、2023年度末をもって廃止されることが決まっています。介護療養型医療施設の代わりとして、2018年4月から、介護医療院が創設されました。介護療養型医療施設は、介護医療院へ徐々に移行していくことになりました。
それぞれの施設の特徴について詳しくみていきましょう。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホームは特養(とくよう)と呼ばれ、高齢者施設の中でも人気が高く、入居待機者が多いといわれる施設です。長期利用が可能で、施設によっては「看取りケア」をおこなっている施設もあります。そのため「終(つい)の住処(すみか)」と呼ばれることもあります。
人気の高さから、入居申し込みしてもすぐに入居できず、入居待機者になることがほとんどです。また、入居待機者も多く、100人以上待っている施設もあります。特別養護老人ホームを検討する場合は、早めに申し込みするとよいでしょう。
最近では、民間企業が運営する「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」などが増えたことにより申込者は分散され、数年前に比べると待機者の人数は減少傾向にあります。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設とは老健(ろうけん)と呼ばれ、リハビリを目的とした施設です。たとえば、骨折して入院加療したあと「自宅に帰るには不安がある」「もう少しリハビリを継続したい」という理由で利用される方が多い傾向です。また、自宅におられる方でも、入居は可能です。
リハビリ病院とは違い、日中のリハビリ以外の時間帯は、他の入居者と一緒にレクリエーション活動や余暇活動をおこなって過ごします。外出や外泊ができるのも、リハビリ病院とは違う点です。
介護老人保健施設は、在宅復帰を目的にした施設のため、長期間の利用は想定していない場合が多いです。利用期間は3〜6ヶ月程度が多く、退去時に自宅や他の介護施設に転居する場合があります。
すべての施設ではなく、比較的長期間利用できる施設もあります。
介護医療院
介護医療院は、介護療養型医療施設に入居されている方の転居先として、2018年4月に創設されました。現在ではまだ数は少ないですが、徐々に移管される予定となっています。
介護医療院では、要介護状態の高齢者に対して、介護と医療の提供を目的としている施設です。大きく「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2つに分かれており、入居対象が異なります。Ⅰ型は主に、介護重篤な疾患がある方、Ⅱ型では、医療ケアが必要ではあるが、比較的状態が安定している方が対象です。
Ⅰ型は、重篤な疾患の方を中心に入居されているため、医療ケアや人員配置がⅡ型よりも手厚くなっています。その分、介護サービス費が高くなります。医療ケア体制が他の介護施設よりも整っているため、介護度の高い方が多いのが特徴です。
介護医療院は、看取りケアをおこなうことが可能です。しかし、基本的には心身の向上を目指した医療ケアやリハビリをおこなって改善すれば、退去となる可能性があります。
介護療養型医療施設
介護療養型医療施設では、継続した医療ケアが必要な方を対象に、介護サービスをおこないます。介護施設に比べて、医療体制が整っているのが特徴で、看護師の配置が多く、経管栄養・喀痰吸引・インスリン注射などの介護職では対応の難しい医療ケアが受けられるので、必要な方には安心できる施設です。
2012年以降の新設が廃止されており、2023年度末でサービスが終了する予定となっています。現在は新規の入居者を受付けておらず、移行期間中です。そのため、今回の記事での紹介は省略します。
介護保険施設で提供されるサービスについて
施設によって目的の異なる様々なサービスが受けられる
介護保険施設では、介護保険制度を使って安価に介護サービスが受けられるのが特徴です。各施設のサービスについて、ひとつずつみていきましょう。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、食事・入浴・排泄の3大介護はもちろん、掃除や洗濯などの生活支援サービスが受けられます。
また、機能訓練指導員による機能訓練を受けられる施設もあるので、必要な場合は確認しておくとよいでしょう。
日中は、レクリエーション・アクティビティ・クラブなどの活動がおこなわれるので、メリハリのある生活が送れます。
施設によっては、看取りケアをおこなう施設もあるので、終身までの利用を考えている場合は看取りケアの有無を確認しておくとよいでしょう。
介護老人保健施設
介護老人保健施設のメインサービスは、リハビリです。リハビリはPT(理学療法士)・OT(作業療法士)・ST(言語聴覚士)の資格をもったリハビリスタッフによって、個別にリハビリが受けられます。しかし、ST(言語聴覚士)は他のPTやOTに比べ数が少なく、介護老人保健施設に在籍している割合は少ない傾向です。
他のサービスとしては、特別養護老人ホームと同じように、日常生活における介護サービスが受けられます。生活支援も受けられますが、洗濯は基本的に洗濯代が別途必要な場合が多いです。
介護医療院
介護医療院では、医療的サービスと、介護サービスが受けられます。他の介護施設でも、医療的サービスは受けられる場合がありますが、介護医療院では、さらに多くの医療的サービスの提供が可能です。
たとえば、以下のような医療サービスが提供されています。
喀痰(かくたん)吸引
経管栄養(胃ろう、経鼻経管栄養、腸ろう)
点滴
在宅酸素
褥瘡のケア
注射など薬の処方
看取りやターミナルケア
介護医療院は、介護療養型医療施設とは違い、生活の場所として考えられている施設です。
介護療養型医療施設は、医療と介護の線引きができなかったため、棲み分けを検討し介護医療院が誕生しました。そのため、介護療養型医療院では、レクリエーションなどのアクティビティはおこなわれなかったですが、介護医療院では他の介護施設と同様にアクティビティがおこなわれます。
介護サービスは、他の介護施設と同様にサービス提供されていますので「介護+医療」のサービスと考えるとわかりやすいです。
介護保険施設の特徴と入居条件
基本的に入居条件は同じ
介護保険施設の入居条件は「65歳以上で要介護度1〜5の認定を受けている」ことです。特別養護老人ホームに関しては、基本的に要介護3以上の認定を受けている必要があります。特別養護老人ホームの場合、市区町村特例で認められた場合に限り、要介護1〜2の方でも入居可能です。
要介護1・2の特例的な入所が認められる要件
- 認知症のため、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通が困難な状態。
- 知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状・行動などが頻繁に見られる状態。
- 深刻な虐待が疑われる等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態。
- 単身世帯、あるいは同居家族による支援が期待できず、地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分な状態。
出典:厚生労働省「介護老人保健施設(特別養護老人ホーム)」
40歳以上の第2号被保険者の方は、16種類の特定疾病があれば、要介護認定を受けることができ、施設入居が可能になります。
【16種類の特定疾病】
末期のがん(医師が回復の見込みがないと判断した場合のみ)
関節リウマチ
ALS(筋萎縮性側索硬化症)
後縦靱帯骨化症
骨折を伴う骨粗しょう症
初老期における認知症
進行性核上性麻痺、パーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)、大脳皮質基底核変性症
脊髄小脳変性症
脊柱管狭窄症
早老症
多系統萎縮症
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症
脳血管疾患
閉塞性動脈硬化症
慢性閉塞性肺疾患
両側の膝関節、股関節に大きな変形をともなう変形性関節症
要介護認定を受けた後は、施設入居も視野に入れ検討してみてもよいでしょう。
介護保険施設の設備について
施設ごとに居室タイプが違い選択肢が豊富な場合もある
1部屋あたりの人数 | プライバシー | 費用負担 | 人間関係のつくりやすさ | 特徴 | |
---|---|---|---|---|---|
従来型個室 | 1名 | 〇 | △ | × | プライバシーの確保は可能だが、エレベーターや職員のステーションから遠い居室の場合、 |
従来型多床室 | 2~4名 | × | 〇 | △ | |
ユニット型個室 | 1名 | 〇 | × | 〇 | リビング(共有スペース)を囲うように居室が配置されている |
各施設のタイプによって、設備は様々な違いがあります。ひとつずつみていきましょう。
特別養護老人ホーム
2001年に厚生労働省から「入居者の尊厳を重視したケア」を目的に「ユニットケアの導入・全室個室へ整備をしていく」と発表されました。発表以降、新設された特別養護老人ホームは、ユニット型個室が主流です。従来型・ユニット型共に、個室の最低面積は10.65㎡=約7畳以上と定められています。
ユニット型は、10名程の入居者をひとつのユニットとして、個別にケアをおこないます。入居者や職員が、顔なじみの関係で安心できる環境を提供できるのが特徴です。
また、個室のため、プライベート空間が保たれています。個室は利用料が高くなりますが、自分の空間が保てるので、好きな家具や思い出のものを自由に配置できるといったメリットもあります。
従来型多床室の場合、最大2〜4人の多床室です。カーテンや家具で間仕切られた居室で、同室者との存在を感じることができるので、一人では寂しいと感じる方には、安心できる環境といえるでしょう。
また、多床室は個室に比べると、費用を大きく抑えることができます。さらに、元々従来型多床室だった居室を、間仕切って個室にした、ユニット型個室的多床室というタイプもあります。その他に、ブザーなどの呼び出しボタンの設置や、トイレ・浴室・手すり・医務室などの設置基準がさだめられており、基本的な設備は整っているので安心です。
費用や、入居者の好みに合わせて選択するとよいでしょう。
介護老人保健施設
特別養護老人ホーム同様に、従来型多床室やユニット型個室といったタイプがあります。特養に比べると、ユニット型個室の介護老人保健施設は少ない状況です。
介護老人保健施設では、特養のように「ユニット型個室」をとくに推奨はされていないため、現在でも、従来型の施設が珍しくありません。
介護老人保健施設の最低床面積は、従来型個室の場合8㎡=約5畳以上、ユニット型個室の場合10.65㎡=約7畳以上と定められています。
設備基準には、特養と同等の設備に加えて機能訓練室の設置が必須です。
介護医療院
介護医療院では、プライバシーに配慮した生活空間を目指しており、1人あたり床面積8.0㎡以上の療養室(個室)と定められています。
介護医療院には、設備基準があり、診察に適した診察室・40㎡以上の機能訓練室・談話室・食堂・浴室・レクリエーションルームなどが必ず設置されています。
介護保険施設にかかる入居時の費用について
入居時費用は不要の介護施設
介護保険施設は、利用料金の安さが特徴の施設です。入居一時金や保証金がなく、月々の費用も、他の介護施設に比べると安価な場合が多い傾向です。介護保険適応のサービスが受けられ、介護サービス費は収入に応じて、1割〜3割で利用できます。
収入に合わせて、利用料金を抑えられる制度があるので、収入が少ない場合でも安心して利用できます。制度を利用する際は、役所で申請が必要です。
介護保険施設では、オムツ代(リハビリパンツ・尿取りパット・オムツ)はサービス費に含まれているため、別途請求されることはありません。介護度が高くなると、オムツ代も毎月高額になる場合もあります。また、施設に持っていく負担がないのもメリットです。
入居までの流れ
待機期間が長いこともある
介護保険施設は費用が安いので、人気が高く申し込みが多い傾向にあります。入居までの流れは基本的には変わらないですが、入居のしやすさは各施設で異なります。
【入居までの流れ】
問い合わせ・見学・相談する
申し込み書を提出する
健康診断書や診療情報提供書を提出する(※特別養護老人ホームの場合は、待機期間によって提出のタイミングが変わります)
面談
体験利用(ショートステイ)(※施設によっては必須の場合もあります)
判定会議
契約
入居
申し込みから介護施設に入居するまで、約1ヶ月〜2ヶ月ほどかかる場合が多いです。施設とのミスマッチを防ぐため、できる限り見学をおこなって、施設の中の様子を確認してみましょう。
さらに、ショートステイが利用できる場合は、より施設の様子や職員の関わり方などがわかるので、利用してみるとよいでしょう。
介護老人保健施設は、入退去を繰り返す施設のため、比較的早く入居できる可能性があります。しかし、介護老人保健施設は長期的な利用はできないため、次の施設や自宅への復帰を考えておくとよいでしょう。
介護医療院は、施設数が少ないため、そもそも施設が見つからないという場合もあります。また、数が少ないので申し込みが集まりやすく、入居まで時間がかかる傾向です。
面談時のポイント
家族の接し方も面談時のポイント
施設からの面談が行なわれるときは、入居対象者の状態確認がメインでおこなわれます。入居対象者の「できること」「できないこと」の確認や、医療的ケアが必要かどうかを聞き取りし、判定会議の判断材料とします。
しかし、面談時はご家族の介護施設に対しての理解や、入居対象者との関わり方も見られているということを知っておきましょう。入居後に、まったく施設に来られないご家族も珍しくありません。そのような場合、施設の負担はとても大きくなってしまいます。
また、できる限りクレームや風評被害にあいたくないと考える施設も多く、ご家族の理解や反応などで入居の可否が決まる場合もあるので、注意しておくとよいでしょう。
介護保険施設の選び方
ポイントは利用目的に合わせる
介護保健施設は、4つの施設があり、現在入居を検討できるのは介護療養型医療施設を除いた3つの施設です。それぞれサービスが異なり、運営目的が違うので、入居する方やご家族の利用目的に合わせて施設を選ぶとよいでしょう。
特別養護老人ホーム
要介護3以上の認定がないと申し込みができない(特例を除く)施設です。利用を検討するときは、終身までの利用を前提に申し込まれる方が多い傾向です。特別養護老人ホーム数カ所に申し込みをして、介護老人保健施設やその他の介護施設で順番を待つ方もおられます。
「自宅に帰る予定がない」「自宅がない」「介護する人がいない」という状況の方にあった施設と言えます。
介護老人保健施設
リハビリを目的とした施設なので、リハビリを希望する方は検討するとよいでしょう。介護老人保健施設に入居しながら、特別養護老人ホームを待つ人も多いですが、リハビリをすることで健康になり、介護認定が低くなってしまう場合もあります。
元気になることはよいのですが「特別養護老人ホームの入居対象者から外れてしまった」という方もおられます。
退居後に、自宅や有料老人ホームにいかないといけない場合もあるので、理解しておくとよいでしょう。
介護医療院
介護施設では受けられなかった医療的ケアが受けられます。経管栄養・胃ろう・インスリン・点滴といったサ―ビスは、看護師の配置が少ない介護施設では対応が難しいため、介護医療院を選択するとよいでしょう。
まとめ
介護保険施設は、4つの介護施設の総称で、サービスや目的がそれぞれ違います。現在、介護療養型医療施設は、新規の入居者を受けつけていないため、選択する施設は「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「介護医療院」の3つです。
特別養護老人ホームと介護医療院は、それぞれ理由は異なりますが、入居するまでに待機期間が発生するでしょう。早く入居するには、入退去が多い介護老人保健施設の方が、入居できる可能性が高いです。しかし、他の施設と比べ退居期間がある場合が多いので注意しましょう。
介護保険施設は、制約が多く、自由が効かないといったデメリットがあります。干渉されずに、自分のリズムで過ごしたいと考えるなら、介護保健施設ではなく、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅といった施設を検討するのもひとつです。
今回は、介護保健施設のそれぞれの施設について紹介しました。今回の内容が施設選びの参考になれば幸いです。
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介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。