介護老人保健施設(老健)とは?施設の特徴・入居条件・入居期間・費用を解説

介護老人保健施設とは?

介護老人保健施設とは、要介護者が介護・看護・医療などのサービスを受けつつ、自宅で生活できるようにリハビリテーションを実施するための施設です。介護スタッフはもちろん、看護師や医師、理学療法士や作業療法士などさまざまな人員が配置されています。最大の目的は要介護者の自宅復帰を支援することであるため、長期入院から退院したものの、いきなり自宅で生活するのは難しいという高齢者が利用するケースが多いです。なお、介護の現場では「老健」という略称が使われることもあります。
介護老人保健施設の特徴
介護老人保健施設の特徴としては、次の3点が挙げられます。
● 在宅復帰を目的としており入所期間は短期となる
● 他の施設に比べ看護師の配置が多い
● 介護保険法により5つの区分に分けられている
それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
在宅復帰を目的としており入所期間は短期となる
老健の主な入居対象は、病状が落ち着いたもののすぐに自宅に戻ることが困難な方とされています。そのためリハビリテーションの終了後は自宅へ戻ることを前提としており、一般的な入居期間は3〜6か月程度と比較的短期です。特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなど終身利用を前提とした高齢者向け施設も多いですが、老健はあくまでも在宅復帰を目的としている点は覚えておきましょう。
他の施設に比べ看護師の配置が多い
多くの介護施設では、入居者3名に対して介護職員または看護職員を1人以上配置するよう定められています。そのうち看護職員については、入居者30名までは一人、入居者が30名を超える場合は50名ごとに一人と定められており、一つの施設にそれほど多くの看護師が在籍しているわけではありません。
しかし老健は医療・看護的なニーズが高いことから、介護職員7:看護職員2以上となるように定められています。そのため介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームなど他の施設に比べると、看護師の配置が多いことも老健ならではの特徴です。
介護保険法により5つの区分に分けられている
老健には5つの区分があり、費用も異なります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
| 基本サービス費 | 在宅復帰の加算 | リハビリの回数 |
超強化型 | 強化型と同じ | あり | 週3回以上 |
強化型 | 基本型より高い | なし | 週3回以上 |
加算型 | 基本型と同じ | あり | 週2回以上 |
基本型 | 基準値 | なし | 週2回以上 |
その他 | 基本型より低い | なし | 規定なし |
老健の区分を決めるために、以下の基準が設けられています。
● 老健の目的である在宅復帰が円滑に行われているか?
● 専門職の人員配置が基準以上か?
● 介護4又は5の方をどれぐらい受け入れているか?
など、10個の項目から評価し、自治体に届け出ることで決まります。
超強化型や強化型は、在宅復帰に力を入れているため、長期の利用は難しい場合が多いです。費用も基本型に比べて高いですが、在宅復帰を前提に考えている場合は利用を検討すると良いでしょう。
介護老人保健施設の入居条件

老健に入居できるのは、原則として65歳以上で要介護1以上と認定を受けている方のみとされています。ただし40歳から64歳の方であっても、特定疾病によって要介護認定を受けている場合には入居可能です。特定疾病とは公的介護保険において、病的加齢現象と関係があるとされている次の16疾病のことを指します。
- がん(末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
これらに起因して介護が必要な状態になった場合には、65歳に満たない方でも要介護認定を受けられるため、必要があれば老健への入居も認められるのです。また、他にも伝染病に罹患していないことや、医療機関での治療が必要な状態でないことなども入居条件とされています。
介護老人保健施設の費用
一般的な有料老人ホームへ入居するためには初期費用が必要です。一方、介護老人保健施設では初期費用が設定されておらず、月額利用料のみを負担すれば入居できます。月額利用料とは居住費・介護サービス費・食費などの総称で、入居する居室タイプ・入居者の要介護度によって異なりますが、月額6.7〜16.2万円程度が相場です。
月額利用料のうち居住費とは、いわゆる家賃に相当する費用のことで、居室タイプごと次のように定められています。
居室タイプ | 概要 | 月額費用 |
ユニット型個室 | 10人程度のユニットごとに共用スペース(リビング)を設置 共用スペースを囲うように個室が設置されていることが特徴 | 60,180円 |
ユニット型準個室 (ユニット型個室的多床室) | ユニットを組んでいるものの、部屋同士が壁ではなくパーテーションで仕切られていることが特徴 | 50,040円 |
従来型個室 | 一般的な個室 | 50,040円 |
多床室 | 一般的な相部屋 | 11,310円 |
また、介護サービス費とは、その名のとおり介護を受けるための費用です。介護保険が適用されるため、基本的な自己負担割合は1割ですが、所得によっては2〜3割負担が求められます。介護度別の介護サービス費用の目安は次のとおりです。
| ユニット型個室 | ユニット型準個室 | 従来型個室 | 多床室 |
要介護1 | 25,230円 | 25,230円 | 22,680円 | 25,080円 |
要介護2 | 27,450円 | 27,450円 | 24,840円 | 27,330円 |
要介護3 | 29,340円 | 29,340円 | 26,700円 | 29,220円 |
要介護4 | 31,050円 | 31,050円 | 28,380円 | 30,900円 |
要介護5 | 32,700円 | 32,700円 | 30,090円 | 32,550円 |
老健への入居に必要な費用についてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。
介護老人保健施設で受けられるサービス

介護老人保健施設では次のようなサービスを受けられます。
● リハビリ
● 医療・看護
● 介護・生活支援サービス
● 栄養管理
それぞれのサービス内容について詳しく見ていきましょう。
リハビリ
老健には、リハビリテーション専門のスタッフを配置することが義務付けられています。これは他の高齢者向け施設にはない特徴です。具体的なリハビリテーション内容としては、ベッドから起き上がったり、ベッドから車椅子に移ったり、自力で歩いたりといった日常生活に沿った訓練が挙げられます。このような個人の状態に合わせたリハビリテーションサービスは、1週間に2回以上受けることが可能です。
医療・看護
老健には医師が一人以上常勤していることが特徴です。また、先述したとおり看護師も他施設より手厚く配置されているため、インスリン注射や喀痰吸引、経管栄養などの医療ケアも受けられます。医療的な観点から自宅での暮らしに不安を抱えている場合も、老健なら安心して生活できるでしょう。なお、投薬が必要な場合、施設から処方してもらうことも可能です。
介護・生活支援サービス
老健は公的な介護施設の一種であるため、特別養護老人ホーム(特養)や介護医療院と同じように介護・生活支援サービスも提供しています。食事・入浴・排泄など日常生活動作に不安がある場合には、病院から自宅に退院する前に老健を経由し、介護を受けながらリハビリテーションを受けるといいでしょう。
栄養管理
定員100人以上の老健には、栄養士の配置も義務付けられています。そのため持病はもちろん、嚥下能力も加味した食事を提供してもらえることが特徴です。
介護老人保健施設の使い方
記事前半では、病院から自宅へ直接退院することが難しい方が老健を利用するケースが多いと紹介しました。しかし老健は、次のような多岐にわたる場面・目的でも活用できます。
● ショートステイでの利用
● 入所しての利用
● 訪問リハビリテーションでの利用
● 通所リハビリテーションでの利用
それぞれの利用方法について、詳しく見ていきましょう。
ショートステイでの利用
ショートステイ(短期入所療養介護)とは、普段は居宅で生活している要介護者が、高齢者向け施設で短期間(最長30日間)のみ、介護・リハビリテーションなどを受けられる介護サービスです。老健もショートステイ先の一つであるため、とくにリハビリテーションを希望する場合に利用するといいでしょう。また、老健には看護師が多く配置されているため、医療ケアと介護サービスの両方を受けたい場合にもおすすめです。
入所しての利用
病院から自宅へ戻る前にリハビリテーションなどを目的に老健へ入所するだけではなく、認知症対策を目的とした集中的なリハビリテーションを受けるために老健に入所することも可能です。また、特養への入居待ちの間だけ入所したり、体調を崩しやすい冬期だけ入所するケースもあります。
なお、老健は基本的には短期での退所を想定していますが、もし回復の見込みがない状態、いわゆる終末期と診断された場合には「看取り」対応を取ってもらうことも可能です。この場合は特養や介護付き有料老人ホームなどと同じく、亡くなるまで老健で暮らせます。
訪問リハビリテーションでの利用
訪問リハビリテーションとは、リハビリの専門家である理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などが要介護者の居宅を訪問し、利用者の状態にあわせたリハビリテーションを提供する介護サービスです。訪問リハビリテーションの開設主体の3/4程度は病院・診療所などですが、残りの1/4は介護老人保健施設が提供しています。
必ずしも老健から理学療法士などが派遣されるわけではありませんが、一つの選択肢として覚えておきましょう。
通所リハビリテーションでの利用
通所リハビリテーション(デイケア)とは、居宅で過ごしている要介護者が、介護老人保健施設や病院・診療所などに通って機能訓練を受けるサービスです。訪問リハビリテーションと同じく、リハビリの専門家である理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などからサービスを受けられるため、一定の機能回復効果が期待できます。
居宅ではなく施設でリハビリテーションを受けたい場合は、通所型を選ぶといいでしょう。施設が利用者の自宅まで迎えに来てくれるため、車の運転ができない場合でも利用可能です。
介護老人保健施設の人員配置
ここまでも少し触れてきましたが、改めて介護老人保健施設の人員配置基準について紹介します。
職務 | 配置基準 | 主な役割・備考 |
医師 | 入所者100人に対して1人以上(常勤) | 入居者の健康管理 療養上の指導 (施設管理者を兼ねることもある) |
介護職員 | 入居者3名に対して、看護職員もしくは介護職員を1人以上 | 要介護者の身体介護 |
看護職員 | 看護・介護職員の総数の2/7程度 | 入所者の健康管理 医療ケア ターミナルケア |
理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 | 入所者100人以上の場合は1人以上 | リハビリテーション計画の作成 入居者へのリハビリテーション実行 |
生活相談員 | 一人以上 | 入居者や家族からの相談対応 退所に伴う相談対応 |
栄養士 | 一人以上 | 栄養バランスの取れたメニュー作成 入居者の栄養管理・食事量チェック |
施設管理者 | 一人 都道府県知事の承認を受けた医師が努める(承認を受ければ医師以外も可) | 施設全体の管理 |
その他職員 | 薬剤師(施設の実情に応じた数) 介護支援専門員(一人以上) など | 投薬管理 総合的な施設サービス計画の作成 |
介護老人保健施設の設備
介護老人保健施設には先述したとおり、次の4種類の居室タイプがあります。
● ユニット型個室
● ユニット型準個室(ユニット型個室的多床室)
● 従来型個室
● 多床室
複数人が共同で使用する多床室タイプが費用が安いため人気です。しかしプライバシーを確保したい場合は、ユニット型個室か従来型個室を選ぶといいでしょう。また、認知症の方は他人と同室で暮らすことが難しいため、やはり個室タイプがおすすめです。なお、さらに細かな基準も定められているため、詳しく見ていきましょう。
居室の基準
居室に関係する基準は次のように定められています。
居室面積 | 居室設備 |
個室タイプ:10.65㎡以上 多床室タイプ(定員2~4人):一人あたり8㎡以上 | ベッド タンス ナースコール エアコン |
複数人で生活する多床室タイプであっても、一人あたり8㎡(約4.3畳)以上の面積が確保されているため、それほど窮屈に感じることはありません。個室タイプは10.65㎡(約5.8畳)以上であるため、比較的広々とした空間で生活できます。
また、居室内にはベッドやタンスが備え付けられているため、大型家具を持参する必要はありません。また、万が一に備えてナースコールの設置が義務付けられていることも特徴です。もちろんエアコンも完備されており、最適な室温が維持されています。なお、トイレについては居室内にあることもあれば、居室の近くに共用として設けられていることもあるため、入居前にあらかじめ確認してみてください。
共有スペースの設置基準
老健では居室以外に、次のような共有スペースの設置も義務付けられています。
● 診察室
● 機能訓練室
● リビング
● 食堂
● 浴室
● レクリエーションルーム
● 洗面所
● トイレ
● サービス・ステーション
● 調理室
● 洗濯室・洗濯場
● 汚物処理室
これらの中でとくに入居者の生活に関わる設備について、詳しい基準も見ていきましょう。まず機能訓練室については、入居者等の定員一人あたり1㎡以上の面積を確保しなければなりません。談話室は入所者同士はもちろん、入所者と家族が談話を楽しめる広さを確保するよう定められていることが特徴です。
浴室については身体の不自由な方が入浴するのに適しているだけではなく、一般浴槽のほかに介助が必要な方が入浴できる「特別浴槽」の設置も義務付けられています。このようにさまざまな基準が設けられているため、身体が不自由な方であっても安心して生活できることが老健の特徴です。
参考:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準|厚生労働省
介護老人保健施設に入所するメリット
ここまで紹介してきた情報をふまえると、介護老人保健施設に入所するメリットとしては次の3点が挙げられます。
● 専門的なリハビリテーションを受けられる
● 医療ケアと生活支援が同時に受けられる
● 入所一時金が不要
これらのメリットに魅力を感じる方は、ぜひ老健への入居を検討してみてください。それぞれのメリットについて詳しく紹介します。
専門的なリハビリテーションを受けられる
老健には理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの有資格者が常駐しています。そのため他の高齢者向け施設と比べて専門的なリハビリテーションを受けやすく、これは大きなメリットといえるでしょう
なお、老健では身体的なリハビリテーションだけではなく、在宅で生活するために必要な福祉用具・住宅改修などのアドバイスをもらえることもポイントです。自宅での生活に復帰したい方は、老健を積極的に活用してみてください。
医療ケアと生活支援が同時に受けられる
老健はリハビリテーション体制だけではなく、医療体制・介護体制の双方が整っていることも特徴です。医療ケアと生活支援が同時に受けられるため、喀痰吸引やインスリン注射など医療行為が必要な要介護者も安心して生活できます。また、薬についても施設から直接処方してもらえるため、わざわざ通院する必要がありません。通院を負担に感じる方にとっては、これもメリットだといえるでしょう。
入所一時金が不要
介護施設への入居時は数十万円〜数百万円にもなる一時金が必要なことも多いですが、老健は入所一時金が0円とされています。さらに月額費用についても、所得が少ない場合には一部減免してもらうことが可能です。民間の介護付き有料老人ホームなどと比べると経済的負担が少なく、まとまった資金がない方でも入居しやすい点も老健のメリットといえるでしょう。
介護老人保健施設に入所するデメリット
老健に入所するメリットは多岐にわたりますが、少なからずデメリットが存在することも事実です。入所してから後悔しないよう、とくに次の3つのデメリットは把握しておきましょう。
● プライバシーの確保が難しい場合がある
● レクリエーションやイベントが少ない
● かかりつけ医の診察を受けることができない
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
プライバシーの確保が難しい場合がある
もっとも月額費用の安い多床室を利用する場合、4人程度が同じ部屋で生活するため、プライバシーの確保が難しい場合もあります。なるべくプライバシーも重視したい方にとっては、大きなデメリットだといえるでしょう。ただし従来型個室やユニット型個室に入居する場合には、一定のプライバシーを確保できます。
レクリエーションやイベントが少ない
老健はあくまでもリハビリテーションに注力する施設であるため、レクリエーションやイベントも機能訓練の一環として開催されます。そのため民間の有料老人ホームと比べると、入居者の楽しさを重視したレクリエーション・イベントが少ないことも事実です。娯楽性を重視する場合は、老健ではなく民間施設へ入居したほうがいいでしょう。
かかりつけ医の診察を受けることができない
老健に入所すると、原則としてこれまでのかかりつけ医の診察を受けられなくなります。老健には先述したとおり医師が常勤しており、入居者の診察は老健の医師が担当するためです。施設医の判断により、外部の専門医を受診するケースはあるものの、退所するまでかかりつけ医には受診できないことは覚えておきましょう。
介護老人保健施設と他の介護施設の違い
さて、介護老人保健施設と他の介護施設のどちらに入所すべきか迷っている方もいるのではないでしょうか。ここからは老健と同時に検討されやすい「特養(特別養護老人ホーム)」と「有料老人ホーム」との違いについて解説します。
特養(特別養護老人ホーム)との違い
特養(特別養護老人ホーム)は、主に要介護3以上の方が入所する施設です。終身まで利用可能な場合が多く、「終の棲家」と呼ばれています。老健との違いについて表にまとめました。
| 特養 | 老健 |
費用目安(月額) | 100,000~200,000円 | 100,000~200,000円 |
居室 | ユニット型個室が多い | 従来型多床室が多い |
利用期間 | 長期~終身 | 3~6ヶ月程度 |
リハビリテーション | 機能訓練指導員が対応 | リハビリ職員で対応 |
看護師の配置 | 夜間不在の場合が多い | 24時間勤務している場合が多い |
医療行為の実施 | 夜間はできない場合がある | 対応可能な場合が多い |
薬代 | 個人が医療保険で負担 | 施設負担 |
近年、特養はユニット型個室の施設が増え、全居室が個室対応で、10人程度のユニットケアを実施しています。ユニットケアは、少人数のユニットを作ることで、個々に寄り添ったケアを提供できるとして考えられたケア方法です。
老健と違いリハビリがなく、リハビリ職員の代わりに、機能訓練指導員が配置されています。機能訓練指導員は、身体機能の向上や機能訓練を行う職種ですが、医師の指示のもと行うリハビリテーションとは内容が異なります。機能訓練指導員の配置は、老健のリハビリ職員に比べて少なく、機能訓練の頻度も少ない傾向です。
また、看護師は日中のみ勤務している場合が多いため、医療行為が必要な方は受け入れが難しいといった特徴もあります。
有料老人ホームとの違い
有料老人ホームは老健とは違い、民間の企業が運営しています。有料老人ホームには、「介護付き」「住宅型」「健康型」と3つのタイプがあり、それぞれ異なる仕組みやサービスが提供されています。有料老人ホームと老健の違いについて表にまとめました。
| 有料老人ホーム | 老健 |
入居時費用 | 0~数億円 | なし |
費用目安(月額) | 200,000円前後 | 100,000~200,000円 |
居室 | 個室または夫婦部屋 | 従来型多床室が多い |
利用期間 | 長期~終身 | 3~6ヶ月程度 |
リハビリテーション | 機能訓練指導員や訪問リハビリを利用できる場合がある | 基本サービス |
看護師の配置 | 施設による | 24時間勤務している場合が多い |
医療行為の実施 | 施設による | 対応可能な場合が多い |
オムツやパット代 | 個人負担 | 施設負担 |
大きな違いは、入居時費用がかかるかどうかです。老健や特養のような介護福祉施設では入居時費用が不要ですが、有料老人ホームでは、施設により高額な費用が必要になります。
利用できる期間は、老健に比べると長く、終身まで利用できる施設が増えています。しかし、介護度が重くなったり医療行為が増えた場合、対応できないこともあるため注意が必要です。
また、有料老人ホームでは機能訓練指導員が機能訓練を行う場合と、訪問リハビリを利用する場合があります。「介護付き」の場合は機能訓練指導員が行い、「住宅型」では訪問リハビリを利用するため、どのタイプの施設かを確認しておくと良いでしょう。
看護師の配置は施設の特色に合わせて様々あるため、医療行為があれば、対応してもらえるか確認が必要です。
介護老人保健施設に入所するまでの流れ

介護老人保健施設に入所するまでの流れは次のとおりです。
- 介護認定を受ける
- 入居申し込みをする
- 面談を行う
- 書類提出する
- 入居判定を行う
- 契約を行い入居する
それぞれのステップごと、どのような手続きが必要なのか見ていきましょう。
ステップ1:介護認定を受ける
老健に入居するためには、要介護1以上と認定される必要があります。たとえば自立した状態で入院したものの、入院中に介護が必要な状態になってしまった場合には、退院前に要介護認定を申請しなければなりません。
要介護認定は被保険者(介護が必要になった方)が居住している市区町村の役所へ申請するため、「介護保険課」「高齢者支援課」などの窓口に相談してみてください。近くの地域包括支援センターに相談すれば、認定までサポートしてもらうことも可能です。申請後は役所の担当者による審査が実施され、申請者の状態にあわせた介護区分が通知されます。
ステップ2:入居申し込みをする
「認定結果通知書」「認定結果が記載された被保険者証」が届いたら、入居を希望する老健へ申し込みます。入院中の場合、医療ソーシャルワーカーに相談すればサポートしてもらえます。在宅介護を受けている状態から老健へ入居する場合は、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しましょう。
ステップ3:面談を行う
申し込み後、施設側の担当者と本人・家族が面談し、入居希望者の心身の状態・生活状況・医療ケアの必要性などが確認されます。繰り返しとなりますが、老健はリハビリテーションや医療ケアにフォーカスした高齢者向け施設です。そのため介護のみを希望する場合は、特養や介護付き有料老人ホームなどへの入居を勧められるかもしれません。
ステップ4:書類提出する
面談とあわせて、申し込みに必要な書類を提出します。主な提出書類は次のとおりです。
● 利用申込書
● 意向確認書(今後の生活について)
● 診療情報提供書(3か月以内などの条件があるケースが多い)
● ADL表(日常生活の様子)
● 介護保険被保険者証一式のコピー
このうち利用申込書と意向確認書は、家族または本人が記入します。(現実的には家族が記入するケースが多いでしょう)診療情報提供書はいわゆる「紹介状」のことで、かかりつけ医(入院中の主治医)に記載してもらわなければなりません。ADL表については、入院中の場合は病院職員に、在宅介護中の場合はケアマネジャーに記入してもらいます。
ステップ5:入居判定を行う
書類提出後、老健で入居判定会議が開催されます。会議で考慮されるポイントとしては、次のような例が挙げられます。
● 介護の必要性(要介護度)
● 医療ケアの必要性
● 在宅復帰の可能性(リハビリテーションの必要性)
● 家族の状況
● 居住地と施設の距離
結果は1週間程度で通知されるケースが多いです。
ステップ6:契約を行い入居する
判定の結果、入居が許可されたら契約を締結します。なお、待機者が少ない場合は1〜2か月程度で入居できますが、待機者が多い場合は入居までに半年以上かかる可能性もあるため、スケジュールには余裕を持って申し込むようにしましょう。(老健は在宅復帰が前提のため、特養などと比べればスムーズに入所できます)
介護老人保健施設を選ぶときのポイント
老健も施設ごとに特徴があるため、選ぶのが困難な場合があります。老健を選ぶときにポイントとなるのは以下の点です。
希望するリハビリが受けられるか
老健を利用する一番の目的は、リハビリという方がほとんどでしょう。しかし、在籍するリハビリ職種やリハビリ環境により、希望する内容が行えないこともあります。
例えば、希望が多い「嚥下訓練」や「発声訓練」は、言語聴覚士が行いますが、リハビリ職の中でも言語聴覚士の割合は少なく、老健に配属されていない場合もあります。言語聴覚士が行うリハビリを希望、または必要な場合は、配属されている施設を探す必要があります。
在宅復帰率はどのくらいか
老健は在宅復帰を目的に運営していますが、すべての施設が在宅復帰に重きを置いているわけではありません。各施設の地域性や特色により、長期利用を可能としている施設もあります。
短期間でリハビリをして在宅復帰を目指すのであれば「超強化型」や「強化型」の施設。長期利用をしたい場合は「基本型」や「その他」のように、老健の区分を確認し、目的に合わせて、施設を選ぶと良いでしょう。
ご本人の希望に合うか
老健を利用する利用者とご家族の間で、希望内容が食い違うことは良くあります。例えば「しっかりリハビリして、元のように歩けるようになってほしい」とご家族が思っていても、利用者は「リハビリはしんどい。できるだけ寝ていたい」と考えていることがあります。
その場合、リハビリの回数が多い施設を選んでも、リハビリの効果が出にくく、利用者が老健での生活を負担に感じ生活の意欲も低下する恐れがあるため注意が必要です。
介護老人保健施設退所後の選択肢は?
老健は、リハビリを行い在宅復帰を目的とした施設のため終の棲家になりにくく、退所後の選択肢が必要となります。退所後の選択肢として考えられるものは以下の通りです。
在宅生活
在宅は、一番に目標とする場所です。元々住んでいた家の場合は特に思い入れもあり、多くの方が「帰りたい」と考える場所といえるでしょう。しかし、在宅は段差や階段があったり、居室が狭かったりと身体状況と環境が合っていない場合もあります。
また、片付けられていない・車いすで移動できない・介護度が低く介護サービスを利用するにも限度があるなど、検討内容は多いです。自宅にかえってどのように過ごすか、在宅の担当ケアマネジャーと相談しておくと良いでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅へ入居
サービス付き高齢者向け住宅は、賃貸マンションと同様の扱いのため、在宅復帰として考えることができます。介護・看護サービスは外部の事業所と契約するため、介護保険の自己負担額内で希望のリハビリを受けられるか確認するとよいでしょう。
グループホームへ入居
認知症の診断があり、住民票と同じ市区町村の事業所であれば、選択肢に入ります。しかし、施設数が少なく、定員が最大18名(一部27名の場合もある)と少ないため、入居までに時間がかかる場合もあります。
有料老人ホーム
一般的に、老健と比べて費用が高いですが、リハビリ職種を配置していたり、リハビリ機器を導入している施設も多いため、退所先として候補に上がりやすいです。施設数が多く、特色も大きく異なるため、希望に合う施設を見つけるためには余裕をもって探すことがおすすめです。
特養への入居待ちをする
特養は終身で利用する場合が多く、利用料も安価なため入居待ちをする方が多いことから、空き部屋が出にくくなっています。そのため、特養に申し込みをして、空きが出るまで老健で待機しておくことも一つの選択肢となります。
これらの特徴を理解して、どのように老健で過ごすかは、できるだけ入所前から考えておくと良いでしょう。
まとめ
介護老人保健施設はリハビリテーションを受けつつ、介護・医療の双方を受けられる施設であるため、在宅復帰を目指す高齢者に最適な施設だといえます。ただし病院から自宅へ戻る前のリハビリテーション目的だけでなく、特養への入居待ちの間だけ入所したり、ショートステイ先や通所リハビリテーション先として利用することも可能です。ただ介護を受けるだけではなく、心身の機能訓練を受けたい場合には、ぜひ老健の利用を検討してみてください。
なお、老健で看取り対応をすることも増えていますが、基本的には在宅復帰・他施設への転居を前提とした施設であるため、退所後の選択肢を考えておく必要もあります。転居先となるサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームを探すときは、ぜひ高齢者向け施設を効率的に検索できるスマートシニアを活用してみてください。
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。