成年後見人とは?成年後見制度の種類・基礎知識を分かりやすく解説!

高齢になると判断能力が低下してしまうこともあります。そのような高齢者が、自分の心身の状態にあわせて介護契約を結ぶことは現実的ではありません。また、誰のサポートも受けられなかった場合、悪意のある人に騙されてしまう危険性もあります。そのような自分での判断・契約が難しい方を法律的にサポートするのが「成年後見制度」です。この記事では「成年後見制度」についてわかりやすく解説するので、判断能力の低下した高齢者を法律的に守りたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

成年後見人とは?成年後見制度の種類・基礎知識を分かりやすく解説!

成年後見人とは?


「成年後見制度」には「法定後見」と「任意後見」の2種類が存在し、法定後見はさらに「後見」「保佐」「補助」の3種類に分けられます。いずれも認知症・知的障害などにより判断能力(事理弁識能力)が低下した人を法律的に保護するための制度です。たとえば高齢になり、自分での金銭管理・契約などが難しくなった場合、その人の能力に応じていずれかの後見制度を活用することになります。

そして、これらの中でもっともサポートが手厚いのが「後見」です。そして後見制度に基づき、判断能力が不十分な人の代わりに法律行為を行う人を「成年後見人」といいます。とくに法定後見人には、本人の代わりに法律行為を行う「代理権」だけでなく、本人が結んでしまった契約を取り消せる「取消権」も与えられていることが特徴です。たとえば本人(高齢者)が騙されて高額な商品を購入する契約を結んでしまったとしても、後見人が後から取り消すことができます。このような権限により、高齢者の利益・財産・生活を守ることが成年後見人の役割です。(任意後見制度では取消権がないため注意してください)

成年後見制度の種類

成年後見制度にはいくつか種類があると紹介しました。それぞれ対象となる方や、与えられる権限などに違いがあるため、表で比較してみましょう。

比較項目
法定後見制度
任意後見制度
後見
保佐
補助
任意後見
対象となる方
通常の状態で判断能力が欠けている方
判断能力が著しく不十分な方
判断能力が不十分な方
判断能力が不十分になった方 (判断能力がある状態であらかじめ任意後見契約を結んでおく必要がある)
職務にあたる人
後見人
保佐人
補助人
任意後見人
申立できる人
本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など
本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者
成年後見人等の同意が必要な行為
契約等の法律行為
民法13条1項所定の行為 (借金、相続の承認・放棄など)
家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」
なし
取消しできる行為
日常生活に関する行為以外の行為
与えられる代理権の範囲
財産に関するすべての法律行為
申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」
任意後見契約で定められた事務 (財産管理・身上監護など)

参考|法務省:「法定後見制度について」「任意後見制度について」

それぞれの制度の違いについて、より詳細に解説します。

法定後見制度

法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。このうち、もっとも保護の程度が強いのが「後見」です。家庭裁判所が選任した後見人は、本人の代理として法律行為(契約)することはもちろん、本人がした不利益な法律行為を本人または成年後見人が後から取り消すことも認められています。(ただし「日常生活に関する行為」については自己決定を尊重する観点から認められません)
一方、後見の対象となるほどではないものの、判断能力が著しく不十分な方をサポートするのが「保佐」です。保佐の対象となると、法律で定められた一定の行為、たとえばお金を借りたり不動産を売買したりするなどの重大な行為をするためには、保佐人の同意が求められます。また、保佐人の同意なく実施した行為については、本人または保佐人が後から取り消すことも可能です。(ただし「日常生活に関する行為」については同意は不要で、取消の対象にもなりません)なお、家庭裁判所の審判によって、保佐人の同意権・取消権の範囲を広げたり、特定の法律行為の代理権を与えたりすることもできます。
3つ目の「補助」は、日常生活は自分で送れるものの、判断能力は不十分だという方を保護するための制度です。補助人には、家庭裁判所から必要と認められた行為にのみ同意権・取消権が与えられます。
なお、成年後見人等(後見人・保佐人・補助人)は、個別の事情に応じて家庭裁判所が選任することが特徴です。本人の親族以外に、法律・福祉の専門家などの第三者や、福祉関係の公益法人などが選ばれることもあります。(誰にサポートを受けるのか、自分では決められないともいえるでしょう)

任意後見制度

任意後見制度とは、「誰にサポートしてもらうのか」「どのようなサポートを受けるのか」を、判断能力が低下する前に自分で決める制度のことです。そもそも法定後見制度を活用する場合、自分ではなく家庭裁判所が成年後見人等を選びます。第三者が選ばれることも珍しくなく、家族にとってベストな人選がなされるとも限りません。そこで活用できるのが「任意後見制度」です。
委任する事務内容・任意後見人については、あらかじめ公正証書による契約で定めておきます。そして本人の判断能力が不十分になったタイミングで、家庭裁判所が任意後見監督人(任意後見人が契約に沿って適切に財産管理などを実施しているか監督する人)を選任すると、任意後見契約が効力を生じることが特徴です。なお、自分で自由に契約内容を決められることはメリットですが、任意後見人には同意権・取消権がないことは覚えておきましょう。

 

成年後見人の仕事内容


ここまで後見制度の種類について紹介してきましたが、その中で用いられるケースが多いのは「法定後見」です。成年後見人の仕事内容としては、次の3つが挙げられます。

●     本人の財産管理

●     本人の身上監護

●     職務内容の家庭裁判所への報告

それぞれの仕事内容について、詳しく見ていきましょう。

1.本人の財産管理

成年後見人に求められる役割としてまず挙げられるのが「本人の財産管理」です。判断能力が低下すると、著しく不利な契約を結ばされる危険もあります。本人(被後見人)をそのような不利益から法律的に守ることは、後見人にしかできない仕事だといえるでしょう。
また、判断能力のない方は、遺産分割協議への参加や相続放棄などもできません。所得税・相続税の確定申告が必要になったとしても、自分で申告作業をすることはもちろん、税理士を手配することも難しいでしょう。このような各種手続きを成年後見人が代行することも、本人の財産を守っているといえます。

2.本人の身上監護

成年後見人に求められる役割としては、「本人の身上監護」も挙げられます。これは生活・療養看護に関する事務のことで、たとえば本人の自宅へ定期訪問して様子を見たり、適切な医療・介護サービスを手配して契約したり、高齢者向け施設への入居手続きをしたりすることが代表例です。
成年後見制度と聞くと「財産管理」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それはあくまでも適切に「身上監護」するための手段であるともいえます。お金を管理するだけではなく、被後見人が適切に生活を送れるようにすることが、成年後見人の役割なのです。

3.職務内容の家庭裁判所への報告

「財産管理」「身上監護」が成年後見人に求められる仕事ですが、これらの業務を適切に実施しているかどうか、家庭裁判所へ報告しなければなりません。一般的に1年に1回、定められた時期に後見事務の状況を報告するように求められています。

成年後見人ができないこと

成年後見人には非常に多くの権限がありますが、あらゆる行為が認められているわけではありません。先述した「日常生活に関する行為の取り消し」を含め、成年後見人ができないこと(権限のないこと)としては次のような例が挙げられます。

●     日常生活に関する行為の同意・取り消し

●     成年後見人と被後見人の利益相反行為

●     事実行為

●     身分行為

●     一部の医療行為の同意

第一に、「日常生活に関する行為」については、成年後見人に同意権・取消権はありません。日用品の金額はそれほど高額でなく、被後見人の財産に大きな影響を及ぼすものではないため、本人の自己決定権を尊重しているのです。(なお、何が「日用品」に該当するかは、被後見人の状況によって総合的に判断されます)
また、日用品の買物・家事・介護・通院のための送迎など、被後見人の生活を直接支援する「事実行為」も、成年後見人の権限の対象外です。成年後見人に求められるのは法律行為の代理であるため、事実行為そのものを代理する必要はありません。たとえば介護が必要な場合は、成年後見人が直接的に介護するのではなく、介護サービスの契約を成年後見人が代理することになります。


さらに、成年後見人と被後見人の利益が相反する行為も認められません。たとえば被後見人が所有している不動産を成年後見人が購入したり、成年後見人の借金のために被後見人が所有する土地を担保にしたりすることは、たとえそれが法律行為だとしても認められないのです。成年後見人と被後見人が同時に相続人になってしまった場合も利益が相反してしまうため、成年後見監督人もしくは特別代理人に協力してもらう必要があります。他にも、婚姻届や離婚届の提出などの「身分行為」や、延命治療の拒否・中止など一部の医療行為についての同意も、成年後見人に権限はありません。


また、後見契約は本人の死亡によって終了します。そのため後見人は「後見終了の登記」などを実施する一方、葬儀の手配・相続財産の処理などの業務にあたることはありません。(別途「死後事務委任契約」を結んでいる場合、後見人に死後手続きを任せることも可能です。)

成年後見人になれる人


成年後見人になるために、特別な資格は必要ありません。ただし現実的には、次のような方が指定されるケースが多いです。

●     家族・親戚

●     市民後見人(専門的な研修を受けた地域の人)

●     専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士など)

●     福祉関係の法人(NPO法人・社会福祉法人など)

法定後見の場合は、サポートを受ける方の状況を鑑みて、家庭裁判所が適切な方を選定します。任意後見の場合は、上記の例以外に、信頼できる知人などを指定しておくことも可能です。

成年後見人になれない人

成年後見人になるために特別な資格は必要ありませんが、民法847条で「後見人の欠格事由」が定められています。もし次の事由に一つでも該当する場合、その方は成年後見人になれません。

●     未成年者

●     家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人(過去に成年後見人等に選任されていたものの、何らかの事情で家庭裁判所から解任された経験がある方)

●     破産者

●     被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

●     行方の知れない者

成年後見人は財産管理・身上監護をする必要があるため、上記のような制限を定めているのです。(反対に考えると、上記の欠格事由に該当しなければ、誰でも成年後見人となりえます)

成年後見人の選任は誰がする?

ここまで何度か触れていますが、法定後見の場合、成年後見人等は家庭裁判所が選任します。候補者の推薦をすることは可能ですが、必ずしも希望が通るとは限りません。実際のところ、財産管理が複雑になりそうな場合や、親族間で対立がある場合には、家族以外の方が選任される可能性が高いです。もし親族を後見人としたい場合には、あらかじめ任意後見契約を結んでおいたほうがいいでしょう。

成年後見人には専門家が就任するケースも多い

任意後見契約を活用している方は少ないため、実際には専門家が成年後見人に就任するケースが多いです。第三者の弁護士などが成年後見人となる場合、家庭裁判所への報告なども一任でき、使い込みなどのリスクも抑えられるため、その点はメリットといえるでしょう。もし懇意にしている専門家がいる場合には、その専門家と任意後見契約を結ぶのもおすすめです。

成年後見制度のメリット

ここまで紹介してきたポイントをふまえると、成年後見制度のメリットとしては次の3点が挙げられます。

●     本人に代わり財産の適正な管理を任せられる

●     悪徳商法や犯罪被害から守ってもらえる

●     本人の代わりに契約締結や不当な契約の取消ができる

それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

本人に代わり財産の適正な管理を任せられる

本人に代わって財産を適正に管理してもらえることは、成年後見制度を活用する大きなメリットといえるでしょう。生活に関わる費用(水道光熱費など)の支払い管理や、不動産の維持などを後見人に任せることができれば、たとえ判断能力が低下したとしても安心して生活できます。

悪徳商法や犯罪被害から守ってもらえる

判断能力が低下すると、詐欺や悪徳商法のターゲットとされやすくなることは否めません。しかし後見契約を結んでいる場合、大きな金額を動かすためには後見人に連絡する必要があります。そのため被害を未然に防ぐ効果が期待できるのです。

本人の代わりに契約締結や不当な契約の取消ができる

本人の代わりに契約を締結できることも、後見契約の利点です。高齢者施設・介護施設との入居契約や、医療サービスの利用契約などの締結も任せられるため、判断能力だけではなく身体能力が落ちた場合の生活も守ってもらえるでしょう。また、法定後見なら不当な契約の取消も可能です。(任意後見では取消権が認められないため、十分に注意してください。)

成年後見制度のデメリット

成年後見制度には多くのメリットがありますが、少なからずデメリットがあることも知っておきましょう。代表的なデメリットは次の2点です。

●     成年後見人への報酬が発生する

●     手続きに時間や手間がかかる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

成年後見人への報酬が発生する

親族以外が成年後見人となる場合、少なからず報酬を支払う必要があります。身内と任意後見を結ぶ場合、後見人への報酬は0円でもいいかもしれません。しかし第三者の専門家に任意後見監督人に就任してもらわなければならないため、やはり費用は発生します。いずれの場合も毎月数万円の費用がかかることは知っておきましょう。(成年後見制度にかかる具体的な費用については、後ほど詳しく紹介します)

手続きに時間や手間がかかる

成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所への申立てが必要です。審理には数週間〜数か月かかることもあり、すぐに後見制度を利用できるわけではありません。また、後見人が就任した後は定期報告が必要なため、少なからず手間がかかることも考慮しておくべきでしょう。

  

成年後見制度の注意点

判断能力の低下した高齢者を守ってくれる成年後見制度ですが、利用に際して注意すべきポイントも存在します。

●     相続税対策が行えないなど財産運用しづらくなる

●     財産を親族の思うように使えない場合がある

●     基本的に本人が亡くなるまでやめられない

それぞれの注意点について、詳しく見ていきましょう。

相続税対策が行えないなど財産運用しづらくなる

財産が多い場合、相続税対策のために不動産を購入したいといったこともあるでしょう。しかし、成年後見制度における後見人の役割は「本人の財産を守ること」です。そのため基本的に、リスクのある投資や節税目的の資産運用などは行えません。

財産を親族の思うように使えない場合がある

後見制度の目的は「本人の利益を守ること」であるため、財産を親族の思うように使えないことも珍しくありません。たとえば自宅をバリアフリーにリフォームしたいとしても、後見人がその支出を認めない可能性もあります。親族の生活費や教育費を被後見人の財産から拠出することも認められないケースが多いです。そのため親族としては、融通が利かないと感じるかもしれません。

基本的に本人が亡くなるまでやめられない

成年後見制度の利用を開始すると、原則として本人が亡くなるまで継続することになります。後見人を変更することは可能ですが、制度の利用を途中で止めることはできません。そのため制度の利用を開始するかどうかは、長期的な視点で適切に判断する必要があります。

成年後見人を選ぶ際の流れ

それでは成年後見人を選ぶ際の流れについて、「法定後見制度」「任意後見制度」それぞれのケースごとに見ていきましょう。

法定後見制度の場合

法定後見制度を活用する流れは次のとおりです。

●     申立準備

●     家庭裁判所への申立

●     審理・審判

●     後見の登記

ステップごとのポイントを紹介します。

1.申立準備

まずは家庭裁判所への申し立てに向け、必要な書類などを準備します。主な必要書類は次のとおりです。

●     医師の診断書(どの程度のサポートが必要なのか判断するため)

●     申立書一式

●     財産・収支・健康状態をまとめた資料

●     戸籍謄本・住民票

●     後見登記されていないことの証明書

親族だけでの準備が難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することも可能です。

2.家庭裁判所への申立

必要書類を準備したら、本人の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。申し立ては持参・郵送のどちらでも可能です。申し立て後、家庭裁判所の調査官が本人・家族・関係者などと面談し、その情報をもとに審理・審判が実施されます。面談は原則として家庭裁判所で実施されますが、もし介護レベルが高く外出が難しい場合には、調査官が出張してくれることもあるため安心してください。なお、状況によっては、調査官だけではなく医師が精神状態を鑑定することもあります。

3.審理・審判

申請書類・面談での情報をもとに、後見制度の対象となりうるか審理・審判が行われます。申立時に後見人の候補者を伝えても、希望が通るとは限らないことは留意しておきましょう。審理の期間は1〜3か月程度です。なお、法定後見を利用する場合は後見・保佐・補助のいずれか一つの類型で申し立てますが、家庭裁判所が手配した医師の鑑定結果によっては、申請と異なる類型の後見制度が認定される可能性もゼロではありません。

4.後見の登記

後見人の審判を出した後、裁判所は法務局に「後見登記」を依頼します。後見登記は裁判所の依頼から2週間程度で完了し、後見人へ「登記番号」が通知されることがポイントです。この登記番号は、後見人として各種手続きを行う際に求められる「登記事項証明書」の取得に必要なため、しっかり記録しておきましょう。
なお、後見の登記そのものは家庭裁判所からの情報に基づき自動的に行われますが、成年被後見人・成年後見人・成年後見監督人の住所や本籍などに変更があった場合や、成年後見人・成年後見監督人が死亡・破産した場合には、自ら登記手続きしなければなりません。また、成年被後見人が死亡したときは、成年後見の「終了の登記」も必要です。変更・終了ともに、登記窓口は最寄りの法務局ではなく「東京法務局」であることも覚えておきましょう。東京法務局へ直接手続きに行けない場合は、郵送やオンラインでも登記できます。

任意後見制度の場合

つづいて任意後見制度を利用するときの流れを見ていきましょう。

●     任意後見人の決定

●     契約内容の決定

●     公正証書で契約を結ぶ

●     任意後見監督人の選任の申立

それぞれのステップごとに、詳しく解説します。

1.任意後見人の決定

まずは本人の判断能力がしっかりしている状態で、誰を任意後見人とするか決めます。先述した欠格事由に該当しない人なら誰でも指定できますが、現実的には信頼できる家族(子・孫)や専門家に依頼することが多いでしょう。
なお、任意後見はあくまでも「契約」であるため、委任する側・される側の双方の同意が必要です。また、配偶者や兄弟を任意後見人とすると、委任された方も加齢に伴って判断能力が低下してしまう可能性もあるため、歳の離れた若い方を指定したほうが安心でしょう。加えて、任意後見契約を結ぶことを親族に黙っていると、後々トラブルになる可能性もあります。誰を任意後見人とするかは自由であるものの、あらかじめ親族間で情報共有しておきましょう。

2.契約内容の決定

法定後見と異なり、任意後見ではどのような事項を任せるのか自分で決めなければなりません。生活・介護・療養について希望すること、財産の管理方法で希望すること、報酬・経費の取り扱い方法、任意後見に与える代理権の範囲などを洗い出し、それを実現できる契約文書を作成しましょう。
なお、任意後見契約書の文面は自分で作成することも可能ですが、基本的には行政書士などの専門家へ依頼したほうが安心です。任意後見人に任せた事項を伝えれば、希望に即した形で原案を作成してくれます。

3.公正証書で契約を結ぶ

任意後見契約は公正証書で結ばなければならないと法律で定められています。公正証書とは公証人が作成する公文書のことで、法律行為・私権に関する事実を証明するものです。そのため契約書の原案を作成したら、最寄りの公証役場に任意後見契約を結びたい旨を伝えてください。(行政書士などに依頼している場合、公証役場への予約まで対応してもらえるケースが多いです)


公証人の面前で、本人と任意後見受任者が契約内容を確認し、署名押印をしたら、任意後見契約の準備は完了です。後日、公証人が法務局へ任意後見登記の申請をします。これは任意後見契約そのもの効力に影響するものではなく、あくまでも契約の存在を第三者へ証明するためのものです。

4.任意後見監督人の選任の申立

任意後見契約は、本人に判断能力がある状態で締結されます。そのため公証役場での手続き後、直ちに後見契約の効力が発動するわけではありません。そのため、もし本人に認知症などの症状が見られ判断能力が不十分になったと考えられる場合、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てます。


申し立て後、家庭裁判所が調査・鑑定などを実施し、後見の必要性があると判断されると任意後見監督人が選ばれ、このときから任意後見契約の効力が生じるのです。なお、任意後見監督人の選任を申し立てられるのは、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のいずれかとされています。もし本人以外が申し立てる場合、本人の同意が必要なことも覚えておきましょう。

成年後見制度にかかる費用


それでは、成年後見制度を活用する場合、どのくらいの費用がかかるのか具体的に見ていきましょう。

法定後見制度にかかる費用

法定後見制度を利用するためにかかる費用としては、次のような例が挙げられます。

申立手数料

600円

後見登記手数料

2,600円

郵便代

3,000円~

(手続きする家庭裁判所による)

戸籍謄本・住民票

数百円

(取得方法による)

医師の診断書

数千円

(依頼先による)

登記されていないことの証明書

300円

その他、もし鑑定が必要になる場合には5〜10万円程度、申し立て手続きを専門家に依頼する場合には10〜20万円程度の費用が必要です。また、成年後見が開始された後は、後見人に報酬を支払う必要があります。被後見人の所有する財産(管理財産)水準ごとの月額報酬相場は次のとおりです。

~1,000万円

2万円程度

1,000万~5,000万円

3~4万円程度

5,000万円~

5~6万円程度

なお、被後見人が多数の収益物件を保有していたり、親族間のトラブルがあったり、特別な事情がある場合には、相場より高額な報酬を請求されることもあります。ただし親族が法定後見人となる場合は、事情に関わらず無報酬であるケースも多いです。(特別な手続きに対応するときに実費を支給することもあります)

任意後見制度にかかる費用

つづいて任意後見制度にかかる費用を見ていきましょう。まず必要となるのが、公証役場で任意後見契約を締結するときにかかる費用です。

公正証書の作成手数料

1.1万円

任意後見契約の登記嘱託手数料

1,400円

法務局への印紙代

2,600円

正本・謄本の作成手数料

250円/枚

印鑑証明書などの取得費用

数百円

(取得方法による)

行政書士などの専門家に依頼して契約書を作成する場合は、10〜15万円程度の報酬が別途発生します。また、任意後見契約を開始する場合、先述したとおり「任意後見監督人」の選任を申し立てなければなりません。このときかかる費用は次のとおりです。

申立手数料

800円

後見登記手数料

1,400円

戸籍謄本・住民票

数百円

(取得方法による)

医師の診断書

数千円

(依頼先による)

郵便代

3,000円~

もし任意後見の開始にあたり、家庭裁判所が本人の精神鑑定が必要と判断した場合は、鑑定費用が別途5〜10万円程度かかります。また、成年後見監督人への報酬は月額1〜3万円程度が相場です。なお、親族や知人などと任意後見契約を締結する場合、後見人への報酬は0円とするケースも少なくありません。

成年後見人の利用を検討した方がいいケースとは?

成年後見人の利用を検討した方がいいケースとは、どのような状態なのでしょうか。代表的な例としては、次のような場合が挙げられます。

●     財産の使い込みなど本人の財産管理が心配な場合

●     認知症や病気などで判断能力が十分でない場合

それぞれ成年後見制度を活用すべき理由を見ていきましょう。

ケース1:財産の使い込みなど本人の財産管理が心配な場合

たとえば高齢の親族の通帳から不自然な出金が続いていたり、不審なものを定期的に買ったりしている場合、第三者による財産の使い込みや詐欺にあっている可能性が考えられます。このような場合は成年後見制度を利用して、適切に財産を守る必要があるでしょう。後見が始まれば通帳は後見人が管理でき、不当な契約を後から取り消すことも可能です。ただし任意後見契約を利用する場合は、取消権が認められないため注意してください。

ケース2:認知症や病気などで判断能力が十分でない場合

認知症や病気などで判断能力が十分でなくなってしまった場合も、成年後見制度を活用すべきです。このような状態となると、介護保険や介護施設を利用する必要があります。しかし判断能力が低下していると、役所での介護保険の申請も難しく、介護施設・介護サービス事業者との契約も締結できません。
とくに介護施設を利用する場合、法定後見制度が役立つことも少なくありません。たとえば、もし本人に判断能力がないとしても、親族名義で有料老人ホームと「第三者のためにする契約」を締結することも可能です。これは親族と有料老人ホームが契約当事者となり、本人が第三者としてサービスを受ける形態であるため、たとえ本人に判断能力がなくても入居できる点はメリットといえます。


しかし、「第三者のためにする契約」では、あくまでも本人は契約当事者ではないため、有料老人ホームの利用料は家族が支払わなければなりません。本人の判断能力がない以上は、家族が負担した費用を本人が精算することはできないのです。これでは家族に多大な負担がかかってしまうでしょう。しかし法定後見制度を利用していれば、成年後見人が本人の代わりに有料老人ホームとの契約を進められるため、本人の財産から有料老人ホーム費用を支払うことも可能です。

成年後見人は老人ホームの入居前に利用するのもおすすめ

先述したとおり、認知能力が低下すると老人ホームの入居契約を本人が行うことができません。家族が代わりに施設と契約するとなると、その家族に金銭的負担が大きくのしかかることになります。そのような負担を避けるためにも、老人ホームの入居前に成年後見人を選定しておくことが重要なのです。
なお、ここまで紹介してきたとおり、成年後見人を選定するためには少なくとも1か月以上かかります。そのため、判断能力が低下した方の入居を検討している場合には、施設選びとあわせて成年後見人の手続きも同時に進めておきましょう。

 

認知能力があるうちに老人ホームを選んでおくのも重要

成年後見人の選任手続きも、老人ホーム選びも、どちらも相応の手間がかかります。同時に進めるとなると多大な負担がかかるため、可能なら認知能力があるうちに老人ホームを選んでおくことが重要です。なお、一口に「老人ホーム」といってもいくつか種類があり、入居者の心身の状態によって適した施設は異なります。いくつか代表例を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

●     身体状況に適したサービスを受けたい場合は「住宅型有料老人ホーム」

●     介護サービスを24時間体制で受けたい場合は「介護付き有料老人ホーム」

●     生活に不自由はないが安心感を求める場合は「サービス付き高齢者向け住宅」

それぞれの施設の特徴について詳しく見ていきましょう。

 

身体状況に適したサービスを受けたい場合は「住宅型有料老人ホーム」

自立状態〜支援・介護が必要な高齢者まで幅広く受け入れているのが「住宅型有料老人ホーム」です。バリアフリーが徹底された施設であるため、身体機能が低下した高齢者でも安心して暮らせます。また、施設数が多く、豊富な選択肢の中から自分にあった施設を選べることが特徴です。

なお、住宅型有料老人ホームは施設として食事・洗濯などの生活支援サービスは提供していますが、介護サービスは提供していません。支援・介護が必要な高齢者も入居できますが、その場合は外部の在宅介護サービス事業者と入居者が個別に契約し、居宅サービスを受ける必要があります。もし在宅時に介護サービスを利用していた場合、住宅型有料老人ホームに入居してからも同じ事業者を継続して利用可能です。(介護サービス利用料が施設利用料と別途かかる点には注意してください)

このように、入居者が自分の身体状況に適した外部サービスを自由に選択できることが住宅型有料老人ホームならではのメリットといえるでしょう。認知症だからといって必ずしも入居を断られることもなく、ある程度の共同生活が可能なら受け入れてもらえるケースが多いです。そのため判断能力が低下しているものの、身体機能の衰えは少ない場合には、住宅型有料老人ホームを選択肢に入れてみてください。

 


介護サービスを24時間体制で受けたい場合は「介護付き有料老人ホーム」

行政から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けている老人ホームは、「介護付き有料老人ホーム」に分類されます。その名のとおり、介護スタッフが24時間体制で常駐しており、生活支援サービスだけでなく排泄・入浴・食事といった身体介護も受けられることが特徴です。

先述した住宅型有料老人ホームと異なり、介護付き有料老人ホームの月額費用には介護サービス費が含まれています。そして介護サービス費は、入居者の介護度別に定額であることが特徴です。介護保険の支給上限内でサービスを受けられるため、たとえ24時間体制で介護サービスを受けたとしても、自己負担額が一定範囲に収まることも介護付き有料老人ホームならではのメリットといえるでしょう。

また、長期的な介護を前提としており、施設によっては看取りケア(終末期介護)にも対応しています。そのため認知症で判断能力も低下し、なおかつ身体機能も衰え介護の必要性が高い場合には、介護付き有料老人ホームを選択肢にしてみてください。


生活に不自由はないが安心感を求める場合は「サービス付き高齢者向け住宅」

現状で生活に不自由はないものの、自宅での生活に不安を感じている場合には「サービス付き高齢者向け住宅(通称:サ高住)」がおすすめです。サ高住は有料老人ホームではなく、あくまでも高齢者向けのサービスが付帯した賃貸住宅であり、見守りサービスや生活相談サービスが提供されています。
部外者が施設内に立ち入ることもないため、悪徳業者につけ込まれる心配もないでしょう。暮らしにまつわるサービスはサ高住から受け、法的な支援は後見人に任せれば、たとえ判断能力が低下していても安心して暮らせることがポイントです。
なお、サ高住は自立した高齢者の入居を前提としているため、身体機能が衰え介護の必要性が高まると、退去を求められる可能性もあります。また、認知症患者の受け入れに対応していないサ高住も少なくありません。長期にわたって同じ施設で暮らし続けたい場合は、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた介護型のサ高住を探すといいでしょう。(指定を受けていないにも関わらず介護型を謳っている施設もあるため注意してください)

 

まとめ

加齢や認知症に伴い、判断能力が低下してしまうこともありますが、成年後見制度を活用すれば法的にサポートを受けることも可能です。成年後見制度には「(法定)後見」「保佐」「補助」「任意後見」の4種類が存在し、それぞれ受けられるサポート範囲が異なるため、どの制度を利用すべきか考えるところからはじめてみてください。
すでに判断能力の低下が進んでいて事理弁識能力を欠いている場合には「法定後見」、現状では事理弁識能力があるものの将来に備えたい場合には「任意後見」の準備を進めるといいでしょう。認知能力が低下すると老人ホームの入居契約を本人が締結できないため、可能なら入居前に選定するようにしてみてください。

 


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