養護老人ホームとは?入所条件や対象者、費用、特養との違いを紹介
養護老人ホームは生活に困窮した高齢者を養護するための施設です。希望したからといって必ずしも入居できるとは限りませんが、入居者の収入によっては非常に安価に利用できるため、とくに経済的に困っている場合には選択肢にすべきでしょう。
そこでこの記事では、養護老人ホームとはどのような施設なのかわかりやすく解説します。入所条件・対象者・費用、さらには特別養護老人ホーム(特養)との違いも紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

養護老人ホームとは

養護老人ホームとは、介護保険施設とは違い、在宅生活が困難な方が利用できる施設です。
しかし、特別養護老人ホームや介護老人保健施設のように、利用を希望しても簡単には入れません。
養護老人ホームに入居するためには、身体・精神・環境・経済など、様々な視点から在宅生活を続けることが困難な状況とみなされた方のみが入居できます。その中でも、経済面で困窮している方の受け入れ先として考えられています。養護老人ホームは、介護施設ではなく基本的に介護が必要ない方を受け入れる施設です。
収入や身寄りがない方、生活面で困窮している高齢者をサポートし、社会復帰を目的とした施設です。そのため、長期で利用することは目的ではなく、サポートが終了すると、他施設への転居も検討する必要があります。
養護老人ホームの目的
養護老人ホームの目的は前述したとおり、身体・精神・環境・経済などさまざまな理由から在宅生活を続けることが困難な状況とみなされた高齢者の暮らしや尊厳を守ることです。また、ただ高齢者を養護するだけではなく、いずれは社会復帰することも目的としています。
たとえば高齢になり自宅・敷地の管理が難しくなってしまったり、同居家族から暴力を受けてしまったり、自宅での暮らしに問題を抱える高齢者も珍しくはありません。しかし身体介護が必要な状態でなければ、たとえ自宅での暮らしに不安があっても公的介護施設へは入居できません。低所得者を対象とした軽費老人ホーム(ケアハウス)も存在しますが、毎月数万円程度の月額費用を支払わなければならず、本当に経済的に困窮している場合には利用が難しいでしょう。
一方で養護老人ホームなら、市区町村の措置によって無年金者なども入所できます。前年の収入によっては0円で利用することもでき、高齢者の暮らし・尊厳を守る最後のセーフティーネットであるともいえるでしょう。
特別養護老人ホームとの違い
高齢者向けの公的施設といえば、「特別養護老人ホーム」を思い浮かべる方もいるでしょう。養護老人ホームと特別養護老人ホームは名称が似ているため、同じような施設だと思うかもしれませんが、実は対象者・提供サービスはまったく異なります。
比較項目 | 養護老人ホーム | 特別養護老人ホーム |
目的 | 生活に困窮した高齢者の暮らし・尊厳を守ること 入居者の社会復帰を支援すること | 要介護度の高い方の生活を支援すること |
入居条件 | 65歳以上 環境・経済的に困窮している方 | 65歳以上 要介護3以上 |
提供サービス | 基本的な生活支援 経済面の相談 機能訓練 | 生活支援(食事など) 身体介護 一定の医療ケア |
月額費用 | 0円~14.0万円程度 (所得に応じて変動) | 4.9~15.0万円 (所得による負担軽減措置もある) |
養護老人ホームの入居条件
養護老人ホームの入居条件は、65歳以上の環境及び経済的に困窮しているかどうかで判断されます。
一般的な介護施設では、施設側で入居条件を確認し利用の可否を決めますが、養護老人ホームでは、市区町村が調査を行い判断します。誰でも入居できる訳ではないため、注意が必要です。
基本的には自立した生活が可能で介護の必要性がない方を対象としていますが、市区町村によって基準が異なります。入居を検討する場合は、市区町村の窓口に相談すると良いでしょう。
具体的な基準としては次の通りです。
● 身寄りがない
● 年金・収入がない
● 家がない(ホームレス)
● 虐待を受けている
● 他の施設に入居できない理由がある
● 犯罪を犯した方
● 立ち退きを迫られている
などとされます。
上記のような状態に加え、市区町村の許可を得られた場合に限り入居可能になります。
養護老人ホームの入所難易度と入所率
全国老人福祉施設協議会の調査によると、2023年度の養護老人ホームの平均入所率は86.3%となっており、年々減少傾向にあります。入所率に空きがあるため、希望すれば養護老人ホームに入居できると思うかもしれません。しかし現実としては、養護老人ホームへの入所難易度は非常に高いことが問題となっています。
そもそも養護老人ホームは、市区町村の「措置」によって入所できるかどうか決まる施設です。一方、同じく低所得の高齢者を対象とした軽費老人ホーム(ケアハウス)は、施設と入居者の「契約」によって入居が決まります。
このような仕組みを背景に、自治体は施設運営費を削減するため、たとえ高齢者が経済的に困窮していても養護老人ホームへ入居させないようにしています。いわゆる「措置控え」です。結果として施設は入所率が下がり、運営が立ち行かなくなるため、養護老人ホームの施設数そのものも減少しています。
しかし、養護老人ホームが経済的・環境的に困窮する高齢者のためのセーフティーネットであることも事実です。入居は簡単ではありませんが、もし本当に困窮している場合には、一度は自治体に相談するといいでしょう。
養護老人ホームのサービス内容

さて、養護老人ホームで受けられるサービスとしては次の2つが挙げられます。
● 基本的な生活支援
● 経済面での相談や機能訓練
それぞれのサービス内容について詳しく見ていきましょう。
基本的な生活支援
養護老人ホームは基本的な生活支援として、毎日の食事提供や健康チェックなどを提供しています。また、定期的にレクリエーションも催されるため、入居者同士でコミュニケーションを取りやすく、孤独感を抱くことも少ないでしょう。ただし自立した生活に戻りやすいよう、掃除・洗濯・入浴など基本的なことは入居者自身で行うケースが多いです。
経済面での相談や機能訓練
養護老人ホームは入居者の社会復帰も目的としているため、経済面での相談や機能訓練も提供しています。金銭管理についてや、家族との関係についても相談できることは、他の高齢者向け施設にはない特徴といえるでしょう。
介護サービスは原則含まれない
養護老人ホームは介護施設ではないため、原則として介護サービスは提供していません。ただし、介護が必要な場合、外部の居宅サービス事業者から支援を受けることは可能です。養護老人ホームに入居後に要介護度が高くなった場合は、他の介護施設への住み替えをすすめられる可能性がある点は覚えておきましょう。
なお、「特定施設⼊居者⽣活介護」の指定を受けている養護老人ホームは、施設として介護サービスを提供しています。指定を受けている施設割合は約4割です。
養護老人ホームの利用費用
養護老人ホームは経済的に困窮した高齢者のためのセーフティーネットであるため、入居一時金はかからず、月額費用も収入によって適切な額が定められています。
入居一時金 | 月額費用 |
0円 | 収入により異なる |
費用形態について、さらに詳しく見ていきましょう。
入居一時金(初期費用)
民間の高齢者向け施設に入居する場合、入居一時金(初期費用)として数十万円〜数百万円を請求されることも珍しくありません。一方、養護老人ホームに入居する際の初期費用は0円で、敷金や保証金、入居手数料なども不要です。
月額費用
養護老人ホームの月額費用は、前年度の個人の収入(公的年金など)から、必要経費(医療費・社会保険料など)を差し引いた金額(対象収入)によって決まります。階層表は次のとおりです。
階層 | 前年度の対象収入 | 費用徴収基準月額 |
1 | 0~270,000円 | 0円 |
2 | 270,001円~280,000円 | 1,000円 |
3 | 280,001円~300,000円 | 1,800円 |
4 | 300,001円~320,000円 | 3,400円 |
5 | 320,001円~340,000円 | 4,700円 |
6 | 340,001円~360,000円 | 5,800円 |
7 | 360,001円~380,000円 | 7,500円 |
8 | 380,001円~400,000円 | 9,100円 |
9 | 400,001円~420,000円 | 10,800円 |
10 | 420,001円~440,000円 | 12,500円 |
11 | 440,001円~460,000円 | 14,100円 |
12 | 460,001円~480,000円 | 15,800円 |
13 | 480,001円~500,000円 | 17,500円 |
14 | 500,001円~520,000円 | 19,100円 |
15 | 520,001円~540,000円 | 20,800円 |
16 | 540,001円~560,000円 | 22,500円 |
17 | 560,001円~580,000円 | 24,100円 |
18 | 580,001円~600,000円 | 25,800円 |
19 | 600,001円~640,000円 | 27,500円 |
20 | 640,001円~680,000円 | 30,800円 |
21 | 680,001円~720,000円 | 34,100円 |
22 | 720,001円~760,000円 | 37,500円 |
23 | 760,001円~800,000円 | 39,800円 |
24 | 800,001円~840,000円 | 41,800円 |
25 | 840,001円~880,000円 | 43,800円 |
26 | 880,001円~920,000円 | 45,800円 |
27 | 920,001円~960,000円 | 47,800円 |
28 | 960,001円~1,000,000円 | 49,800円 |
29 | 1,000,001円~1,040,000円 | 51,800円 |
30 | 1,040,001円~1,080,000円 | 54,400円 |
31 | 1,080,001円~1,120,000円 | 57,100円 |
32 | 1,120,001円~1,160,000円 | 59,800円 |
33 | 1,160,001円~1,200,000円 | 62,400円 |
34 | 1,200,001円~1,260,000円 | 65,100円 |
35 | 1,260,001~1,320,000 | 69,100円 |
36 | 1,320,001円~1,380,000円 | 73,100円 |
37 | 1,380,001円~1,440,000円 | 77,100円 |
38 | 1,440,001円~1,500,000円 | 81,100円 |
39 | 1,500,001円以上 | (150万円超過額×0.9÷12月)+81,100円 (100円未満切捨て) |
養護老人ホームに介護保険は適用される?
養護老人ホームは高齢者向けの施設であるため、介護保険が適用されるのではないかと思う方もいるでしょう。しかし前述したとおり、原則として養護老人ホームは介護サービスを提供しないため、介護保険も適用されません。
ただし、特定施設入居者生活介護の指定を受けている養護老人ホームから介護サービスを受ける場合、そのサービス費用は介護保険の対象です。また、養護老人ホームに暮らしながら外部の居宅サービス事業者から介護を受ける場合も、そのサービス利用料については給付対象とされます。
養護老人ホームの人員体制
養護老人ホームの人員体制は、次のように定められています。
施設長 | 1人 |
医師 | 入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数 |
生活相談員 | 入所者の数が30名(またはその端数を増すごと)に1人以上 入所者の数が100名(またはその端数を増すごと)に、1人以上を主任生活相談員とする |
支援員 | 一般入所者の数が15名(またはその端数を増すごと)に1人以上 1人以上を主任支援員とする |
看護職員 | 入所者の数が100名(またはその端数を増すごと)に1人以上 |
栄養士 管理栄養士 | 1人以上 |
調理員 事務員 その他の職員 | 養護老人ホームの実情に応じた適当数 |
生活相談員・支援員の配置数が多く、なおかつ医師・看護職員の配置基準も定められているため、安心して生活できることが特徴です。
養護老人ホームのメリット
ここからは養護老人ホームのメリットを確認していきましょう。
経済的負担が少ない
大きなメリットのひとつは経済的負担が少ないことです。介護保険施設の特別養護老人ホームや介護老人保健施設も比較的安価な費用で利用できますが、養護老人ホームはそれ以上に少ない利用料金で入居できます。前年度の収入によっては月額0円での利用も可能です。
夜間も職員が常駐
養護老人ホームでは、緊急時に備え夜間帯の職員配置が定められています。民間の施設であるサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームでは、夜間帯に職員不在の施設もあるため、夜中に職員がいるということは安心感につながるでしょう。
養護老人ホームのデメリット
次に養護老人ホームのデメリットを確認していきましょう。
退居が必要なケースがある
生活困窮者を養護する施設のため、サポートが必要ないと判断された場合は退居する必要があります。
また、介護サービスの提供を目的としていないことから、介助の必要性が高くなった方は退居を促されることもあるでしょう。養護老人ホームの介護サービスについては、あくまでも一時的なサービスと考えておくと良いでしょう。
施設数が少ない
養護老人ホームは、入居を希望しても、全国的に施設数が少ないことが現状です。調査によると、2005年の66,837床、2019年では62,912床とほぼ横倍の病床数となっており、高齢化が進む中でも、受け入れできる人数が増えていない状況です。
理由としては社会保障のひっ迫があり、今後も病床数が増えることは考えにくいと言えるでしょう。
養護老人ホームに入所する流れ
養護老人ホームに入居を検討するときの流れを見ていきましょう。市区町村の審査があることが、一般的な介護施設とは異なる点です。
1.相談
養護老人ホームの入居には、「65歳以上の介護を必要としない自立した方で、生活が困窮していること」という入居条件を満たしている必要があります。「生活の困窮」についての判断基準は地域によって異なるため、市区町村窓口・地域包括視線センター・居宅介護事業所・民生委員・養護老人ホームに相談して判断を仰ぐと良いでしょう。
2.入居申し込み
入居相談で入居の基準を満たしていたら、希望の養護老人ホームに申し込みをします。申し込みは、指定の申し込み用紙と必要な添付書類を市区町村の窓口に提出します。
3.市区町村の審査
入所要件が揃い申し込みが受理されると、市区町村の担当者による実態調査が行われます。実態調査は、市区町村の担当者が自宅を訪問して行う訪問型の調査で、日時は事前に調整可能です。
実態調査では、入居対象者の身体・精神状態や環境・経済面など、様々な視点で評価し、養護の必要があるか判断します。虚偽の報告はトラブルになる可能性があるため、困りごとを正直に話しましょう。
4.入所可否の判定
実態調査後は、サービス調整会議及び入所判定委員会で入所の可否を判定します。ここでは、入所申し込み書や実態調査の結果をもとに話し合いを行いますが、市区町村により判断基準が異なるため、明確な基準は提示されていません。
また、入所判定委員会の開催日程に関しても市区町村によって異なるため、早く結果が知りたい場合は、市区町村窓口に問い合わせると良いでしょう。
5.結果報告
入所判定委員会を終えた後は、市区町村へ話し合いの結果が報告されます。市区町村は報告をもとに入居の可否を決定します。入居可能=措置に決定した場合、養護老人ホームの入居ができる状態です。
措置の決定は、市区町村から養護老人ホームへ報告されます。
6.入居
市区町村から措置の結果報告を受けた養護老人ホームは、申込者に対して連絡をとり、入居日時の調整を行います。ここからは、市区町村ではなく申込者と養護老人ホームでのやりとりとなります。
養護老人ホームに入居をするためには、上記の流れで進める必要がありますが例外もあります。例えば、虐待や命の危険性が高い場合などは入所判定を省くこともあるため、緊急と感じる場合は相談時に伝えておくと良いでしょう。
養護老人ホームの入所を希望している人におすすめの施設
養護老人ホームは困窮した高齢者のためのセーフティーネットであり、市町村の措置がなければ入居できません。最近は市町村が措置控えをする傾向もあり、養護老人ホームへの入所希望が通らない可能性もあります。もし養護老人ホームへの入所を希望しているにも関わらず、市町村に認めてもらえない場合には、次の施設も候補にしてみてください。
● サービス付き高齢者向け住宅
● ケアハウス
● 介護付き有料老人ホーム
それぞれの施設の特徴について詳しく紹介します。
サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅とは、民間企業が運営する高齢者向けの賃貸住宅のことです。施設として安否確認・生活相談サービスを提供しているため、自宅での暮らしに不安のある高齢者でも安心して生活できるでしょう。また、あくまでも賃貸住宅であるため、入居してからも自由な生活を送れる点がメリットです。
ただし民間企業が運営する施設であるため、所得に応じた減免措置などは受けられません。食費・居住費などを含めた月額費用も11.3~23.9万円程度かかるため、養護老人ホームのように安価に利用することはできませんが、一刻も早く高齢者向け施設へ入居したい場合には選択肢にしてみてください。
ケアハウス
ケアハウスの正式名称は「軽費老人ホームC型」といい、家庭での生活が困難な高齢者向けの公的施設のことです。養護老人ホームと同じく、ケアハウスも⾼齢者に安価な生活場所を提供することを目的としています。ただし養護老人ホームは入居に「市町村の措置」が必要なのに対し、ケアハウスは入居者本人と施設が「契約」すれば入居できることが特徴です。
市町村や地域包括支援センターなどに相談してから入居することも可能ですが、施設に直接入居相談することもできるため、養護老人ホームへ入居できなかった場合には一度問い合わせてみてください。なお、一般型のケアハウスは自立した高齢者を対象としていますが、介護型のケアハウスなら要介護度が高い方でも受け入れてもらえます。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、民間企業が運営する介護施設です。基本的には要介護度の高い方を受け入れていますが、自立・要支援・要介護の方まで幅広く受け入れている施設もあります。ただし介護付き有料老人ホームも民間企業が運営しているため、所得に応じた減免措置などはありません。食費・居住費・介護サービス費などを含めた月額費用が15.0~35.1万円程度かかることも知っておきましょう。
まとめ
養護老人ホームは困窮した高齢者のためのセーフティーネットであるため、収入によっては無料・低価格で利用できることが特徴です。ただし入居するためには市町村の「措置」が必要であるため、希望したからといって入居できるとは限りません。もし養護老人ホームへの入居が難しい場合は、ケアハウスなど他の施設も候補にするといいでしょう。
スマートシニアではエリアや費用などの条件を絞って高齢者向け施設を検索できます。入居先を効率的に探したい方は、ぜひ活用してみてください。
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介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。