利用権方式とは?賃貸借方式との違いやメリット・デメリットも解説

老人ホームの契約方式には、利用権方式・建物賃貸借方式・終身建物賃貸借方式の3つがあります。今回は、利用権方式について解説します。利用権方式の特徴やメリット、賃貸借方式との違いについても解説しているため、ぜひ参考にしてください。


#老人ホーム#施設入居#手続き関係#有料老人ホーム
この記事の監修

すぎもと ゆりこ

杉本 悠里子

有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。

利用権方式とは|老人ホームの契約方式の1つ

利用権方式とは、居住部分の利用料と、介護や生活支援といったサービスの利用料が一体となった契約方式のことです。入居者が亡くなった時点で契約が終了し、入居者は、それまでの間居住部分とサービスを利用する権利を持ちます。ご家族が利用権を相続することはできません。


利用権方式の特徴

利用権方式には以下の3つの特徴があります。

  • 多くの老人ホームで採用されている

  • 料金システムは、基本的には入居時費用と月額利用料がセット

  • 3つの支払い方式がある

ここでは、それぞれの特徴について詳しく解説します。


多くの老人ホームで採用されている

利用権方式は、法律で整備されている契約方式ではありません。また、居住費とサービス費をパッケージ化した契約方式のため、居住サービス以外にも生活支援や介護などのサービスを提供する有料老人ホームと相性が良いです。そのため、利用権方式は有料老人ホームのような高齢者向け施設で多く採用されています。


料金システムは、基本的には入居時費用と月額利用料がセット

利用権方式における料金システムは、基本的には入居時費用と月額利用料がセットになっています。入居時費用とは、契約時にまとめて支払うもので、「入居一時金」(数年分の月額家賃の前払い分)や「敷金」などが含まれます。施設によっては、入居時費用が不要な場合もあります。

月額利用料は、居住費や食費・介護サービス費などを合算し、毎月一定額を支払うものです。月額利用料には、以下のような費用が含まれます。

  • 介護サービス費・上乗せ介護費(介護サービスを提供する施設の場合)

  • 医療費

  • 居住費

  • 食費

  • 管理費

  • 日常生活費

  • 介護保険対象外のサービス費

入居時費用が不要な有料老人ホームの中には、その分月額利用料を高く設定している施設もあります。逆に、高額な入居時費用が必要な分、月額利用料がかからないところも存在します。

このように、基本的には入居時費用と月額利用料がセットになった料金システムであることが特徴です。


3つの支払い方式がある

利用権方式には、以下の3つの支払い方式があります。

  • 前払金プラン(全額前払い方式)

  • 前払金プラン(一部前払い方式)

  • 0円プラン(月額払い方式)

各方式では、想定入居期間にかかる月額家賃の前払い分である入居一時金の有無が異なります。利用方式によって、契約時にまとまった費用が必要か、月々の負担が大きくなるかが変わるため、状況や資金計画に適した支払い方式を選ぶことが大切です。

以下では、それぞれの支払い方式について解説します。


全額前払い方式

全額前払い方式は、想定入居期間分にかかる家賃の全額を、契約時に一括して前払いする方式です。

全額前払い方式のメリットは、入居後の金銭的負担を抑えられる点です。また、想定入居期間より長く生活した場合も、基本的には追加費用が発生することはありません。そのため、長く入居するほど支払い総額を抑えられるというメリットもあります。

一方、高額な初期負担がかかる点には注意が必要です。また、入居期間中に月額利用料が減額された場合も、差額は返還されないケースがほとんどです。


一部前払い方式

一部前払い方式は、入居一時金の一部の家賃を前払いし、残額を月額利用料として支払う形式です。

全額を前払いするわけではないため、全額前払い方式に比べると初期負担を抑えることができます。また、一定額を前払いしているため、月額払い方式に比べて月々の負担も抑えられるのが特徴です。


月額払い方式

月額払い方式は、入居一時金を支払わない代わりに、その分を月額利用料として毎月支払う方式です。

前払いが不要なため、初期負担が小さく入居時の金銭的ハードルが低いというメリットがあります。

しかし、全額前払い方式と一部前払い方式に比べて月額利用料が高くなるのが難点です。また、想定入居期間より長く入居する場合も、月額利用料を支払い続けなければならず、トータルで見ると支払総額が多くなる支払い方式と言えます。


利用権方式とほかの契約方式の違い

老人ホームの契約方式には、以下の3つがあります。

  • 利用権方式

  • 建物賃貸借方式

  • 終身建物賃貸借方式

ここでは、利用権方式とほかの契約契約方式との違いについて解説します。


建物賃貸借方式との違い

建物賃貸借契約は、建物の居住部分のみに関する契約です。借地借家法が適用され、通常の賃貸住宅における契約方式と同一です。

利用権方式との違いは、大きく以下の2点です。

  • 居住以外のサービスには別途契約が必要である

  • 月額費用を支払うことによって居住権が継続する

建物賃貸借契約は、前述のとおり建物の居住部分に関する契約です。そのため介護や生活支援サービスといった、居住以外のサービスを利用する場合は、別途契約を結ぶ必要があります。

また、借地借家法が適用されるため、入居者が亡くなっても、ご家族が月額費用を支払うことで居住権が継続するという特徴があります。その際は、通常の賃貸契約と同様に、更新料や更新手続きが必要となる場合があります。


終身建物賃貸借方式との違い

終身建物賃貸借方式は、建物賃貸借方式のうち、入居者が亡くなった時点で原則契約が終了する契約方式です。そのため、相続権は発生しません。ただし、配偶者が1ヶ月以内に申し出て月額費用を支払うことにより、居住権は継続します。

終身利用が可能で、亡くなった後は原則契約が終了するため、相続権は発生しません。ただし、契約者ご本人が亡くなった場合でも、配偶者が1ヶ月以内に申し出ることで居住権が継続します。その際、更新料や更新手続きは不要です。

利用権方式との主な違いは以下のとおりです。

  • 居住以外のサービスには別途契約が必要である

  • 特定の施設のみに採用されている

  • 60歳以上が契約できる

ポイントは、特定の施設のみが採用できる契約方式という点です。終身建物賃貸借方式で契約できるのは、国土交通省による高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)の認可を受け、都道府県から許可を得た施設のみです。許認可を得るためには、以下のような要件を満たしている必要があります。

  • 終身建物賃貸借を実施している

  • 床面積の基準を満たしている

  • バリアフリー構造である

また、60歳以上でなければ契約できないのもポイントです。なお、夫婦で入居する場合は、どちらかが60歳以上であれば契約できます。


利用権方式のメリット

利用権方式のメリットは以下のとおりです。

  • 入居一時金を前払いすれば、その後の費用負担を抑えられる

  • 介護サービスや生活支援サービスを利用する場合、安く済むことが多い

入居一時金を一括で前払いする全額前払い方式を選択すると、月々の費用負担が軽減されます。また、入居一時金は想定入居期間をもとに算出されます。想定入居期間を超えて入居継続する場合も、その分の追加費用が請求されることはありません。

さらに、介護サービスや生活支援サービスなど、居住以外のサービスも契約に含まれます。別途契約する必要がなく、さまざまなサービスを利用する場合は、他の事業所と契約する場合に比べて、最終的に安く済むことが多いです。


利用権方式のデメリット

利用権方式のデメリットは以下のとおりです。

  • 入居時にまとまった費用が必要になる

  • 居住以外のサービスが不要な場合は、損になってしまう

利用権方式において入居一時金を前払いする場合、入居時にある程度の金額が必要になります。その分月額費用負担が減るというメリットもありますが、資金計画に余裕がない場合はデメリットにもなります。入居時にまとまった費用を用意するのが困難な場合は、入居一時金がかからないプランを選ぶか、建物賃貸借契約で入居できる施設を選ぶのがおすすめです。

また、居住以外のサービスが不要という場合は、サービス利用料もパッケージ化されている利用権方式では損になります。居住以外は必要に応じて最低限のサービスを利用したい、という方は、居住を主なサービスとしているサービス付き高齢者向け住宅や、シニア向け分譲マンションなどに入居するのがおすすめです。


利用権方式を採用しているケースが多い介護施設

利用権方式は、多くの老人ホームで採用されている契約方式です。

ここでは、利用権方式が特に多く採用されている老人ホームの種類について解説します。

  • 介護付き有料老人ホーム

  • 住宅型有料老人ホーム

  • 健康型有料老人ホーム

介護付き有料老人ホーム

介護付き有料老人ホームは、要介護の方を対象とした老人ホームです。

介護付き有料老人ホームとして運営するためには、都道府県から「特定施設入居者生活介護」の指定を受け、介護サービスの提供基準を満たす必要があります。

介護付き有料老人ホームでは、食事介助や入浴介助といった介護サービスや、身の回りをサポートする生活支援サービス、イベント・レクリエーションなど幅広いサービスが提供されます。介護サービスを提供することを前提としており、入居者は職員から24時間介護サービスを受けることができます。

住宅型有料老人ホーム

住宅型有料老人ホームは、自立状態の方から要支援・要介護の方まで、幅広い方を対象とした老人ホームです。

住宅型有料老人ホームでは、生活支援サービスやレクリエーションなどが提供されます。

介護サービスは原則提供されません。介護が必要な場合は、外部の介護事業所(居宅介護支援事業所)と契約し、訪問介護や通所介護などを受ける必要があります。

健康型有料老人ホーム

健康型有料老人ホームは、自立している方を対象とした老人ホームです。

食事や家事などの生活支援サービスが提供されます。生活をサポートしてくれるため、一人暮らしに不安がある方や、家事を任せて充実した生活を送りたい方などにおすすめの施設です。

身のまわりのことは基本的に自分でできることを前提としているため、要介護になった場合は退去となります。


老人ホームの利用権方式に関するよくある質問

最後に、老人ホームの利用権方式に関するよくある質問と回答を紹介します。

  • Q.利用権方式で契約した場合、施設を途中で退去させられることはある?

  • Q.前払金を支払った後に退去した場合、前払金は返金される?

  • Q.利用権方式で契約した場合、施設に入居する権利は相続できる?

  • Q.入居金の償却期間満了後、追加で費用の支払いは必要?

Q.前払金を支払った後に退去した場合、前払金は返金される?

前払金を支払った後に退去した場合、前払金は返金されますか?

前払金を支払った後、償却期間が満了する前に退去した場合は、前払金のうち未償却分が返還されます。前払金は、想定入居期間をもとに設定された償却期間で毎年償却されます。途中で退去する場合は、それまでに償却された金額の合計額を差し引いた残りが返金される、という仕組みです。ただし、90日以内に解約した場合は、クーリングオフ制度により全額が返金されます。


Q.利用権方式で契約した場合、施設を途中で退去させられることはある?

利用権方式で契約した場合、施設を途中で退去させられることはありますか?

利用権方式は終身契約であるため、途中で退去させられることは原則ありません。しかし、ほかの入居者に危害を与えてしまったり、施設では対応が難しい身体状況になったりした場合は、退去を求められる可能性があります。退去要件については、契約書の「事業者からの契約解除」という条項に記載されています。事前に確認しておきましょう。


Q.利用権方式で契約した場合、施設に入居する権利は相続できる?

利用権方式で契約した場合、施設に入居する権利を家族に相続できますか?

利用権方式で契約した場合、施設に入居する権利は相続できません。利用権方式で取得できるのは、所有権ではなく利用権です。所有権は所有物を自由に使用・処分・売買などができる権利である一方、利用権はあくまでも施設やサービスを利用できる権利です。そのため、利用権方式で契約した場合、施設に入居する権利を相続したり、部屋を譲渡・転貸したりすることはできません。

Q.入居金の償却期間満了後、追加で費用の支払いは必要?

入居金の償却期間を超えて入居する場合、追加で費用を支払う必要はありますか?

全額前払い方式で入居金を前払いし、償却期間満了後も施設で暮らし続ける場合、基本的には追加費用の支払いは不要です。償却期間は、想定入居期間をもとに設定されます。想定入居期間を超えて入居する場合も、追加で月額利用料を支払う必要はありません。そのため、長く生活すればするほど、お得に施設サービスを受けられると言えます。ただし、介護度が上がって専用の居室に移る場合などは、追加費用が必要になる可能性があります。


まとめ

利用権方式について理解しておきたいポイントは以下のとおりです。

  • 利用権方式は、居住部分の利用料と介護サービスや生活支援サービスなどの利用料が一体となった契約方式のこと

  • 利用権方式は、多くの老人ホームで採用されている

  • 利用権方式では、終身にわたって居住部分とサービスを利用する権利を得る

  • 入居者が亡くなった時点で契約が終了し、利用権を相続することはできない

  • 利用権方式の支払い方式としては、全額前払い方式・一部前払い方式・月額払い方式の3つがある

  • 介護サービスや生活支援サービスを利用したい場合は、利用権方式の方が安く済むことが多い


利用権方式は多くの老人ホームで採用されている契約形態であるため、ポイントを押さえましょう。また、施設によって支払い方式が異なり、それによって初期の費用負担や月々にかかる費用が変わってきます。契約方式は、契約書や重要事項説明書などで確認できます。この記事を参考に、契約方式について理解を深めていただけると幸いです。

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