地域包括ケアシステムとは?目的や構成要素・メリットや事例などを解説

地域包括ケアシステムは、地域が主体となって医療・介護サービスや生活支援などを行う仕組みです。厚生労働省が推進している重要な取り組みですが、未だに認知度が低いのが現状です。この記事では、地域包括ケアシステムについて、概要や構成要素、メリットや課題などを解説します。さらに、地域包括ケアシステムの取り組み事例についても紹介しています。高齢者だけでなく、ご家族にも関係する仕組みですので、ぜひご覧ください。


#介護保険施設#関連サービス#制度#豆知識
この記事の監修

すぎもと ゆりこ

杉本 悠里子

有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムは、厚生労働省が2025年を目処に構築を推進している、高齢者の充実した暮らしをサポートするためのシステムです。高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしく最期まで人生を送れるよう、地域が包括的に支援できる体制構築を目指します。

地域が主体となって、住まい・生活支援・医療・介護・介護予防に関する様々な支援・サービスを提供し、高齢者が生活するうえで抱えている課題・ニーズの解決を目指します。特に、今後認知症を患う方の増加が予想されることから、地域が一体となって認知症の高齢者とそのご家族を支える体制づくりが求められます。少子高齢化が深刻化する日本においては、地域包括ケアシステムの重要性が高まっています。

出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」


地域包括ケアシステムの歴史

全国の市区町村で構築が進んでいる地域包括ケアシステムですが、そのはじまりは1980年代にまで遡ります。広島県御調町(現在の尾道市)にあった公立総合病院「みつぎ総合病院」が、寝たきり高齢者ゼロを目指して取り組みを主導しました。医療と行政が連携して適切なサービスを提供することから、「地域包括ケアシステム」と呼ばれました。

その後、高齢者の生活を支えるためには医療・介護・福祉の連携に加えて住まいや生活支援・介護予防が必要であることが訴えられるようになります。そして2014年に施行された「医療介護総合確保推進法」において、地域包括ケアシステムの構築が全国的に推進されるようになりました。


地域包括ケアシステムを構築するプロセス

地域包括ケアシステムは2025年を見据えた仕組みです。そのため、各市町村は2025年に向けて、3年ごとに地域包括ケアシステムを構築することになっています。地域包括ケアシステムは、地域が主体となって高齢者の支援・サービスを行うものです。そのため、地域により様々な特徴がありますが、基本的には以下のようなプロセスで構築します。

  1. 地域の課題を把握し社会資源を発掘する

  2. 地域ケア会議で対応策を検討する

  3. 施策を決定・整備し、実行する

地域の課題を把握し社会資源を発掘する

地域包括ケアシステムを構築するためには、第一に地域で暮らす高齢者が抱える課題を調査する必要があります。ニーズを捉え、適切な解決策としてサービスを考えていきます。また、現行の支援サービスについて個別に分析し、改善点を洗い出します。さらに、サービスを提供するためには担い手となる社会資源を発掘し、地域や民間のボランティア団体、NPO法人・町内会などを把握することが重要となります。

地域ケア会議で対応策を検討する

課題や社会資源が明らかになったら、地域の関係者全体で地域ケア会議を行い、課題を解決するための対応策を検討します。地域ケア会議とは、地域ごとの小規模や市区町村レベルの規模で行われる会議のことです。市区町村の担当者だけでなく、町内会やボランティア団体の代表、介護サービス提供事業者や医療機関関係者、ケアマネジャーなど、様々な立場の関係者が参加し、地域包括ケアシステムを構築するために意見を出し合います。

地域の課題を洗い出す際は、小規模で地域ケア会議を行い、対応策を検討する際は市区町村レベルで地域ケア会議を行います。

施策を決定・整備し、実行する

地域ケア会議を通して解決するべき課題と適切な施策が決定したら、施策を整備し、介護保険事業計画に盛り込みます。このように、地域独自の課題やニーズに対応した地域包括ケアシステムが構築されます。

また、施策を実行するだけでなく、実行状況の検討や反省・改善を繰り返す必要があります。「日常生活圏域ニーズ調査」で意見を募ったり、個別事例について地域ケア会議で検討したりと、継続的に地域包括ケアシステムの見直しが行われます。

※日常生活圏域ニーズ調査とは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域を単位とし、地域の抱える課題を特定するものです。


地域包括ケアシステムを構成する5つの要素

地域包括ケアシステムは植木鉢で例えられることが多く、5つの要素が連携して成り立っています。地域包括ケアシステムを理解するためには、以下の5つの構成要素を理解することが大切です。

  • 住まい

  • 生活支援・福祉サービス

  • 医療

  • 介護

  • 介護予防

住まい

生活の基盤である住まいは、地域包括ケアシステムにおいて植木鉢自体に例えられます。自宅や高齢者向けの施設は、高齢者が最期まで過ごす場所であり、住まいがなければ生活は成り立ちません。地域包括ケアシステムでは、高齢者向けの住宅・施設の充実や、空き家の有効活用などを通してより良い住まいを提供するだけでなく、賃貸契約時の保証人の確保といった手続き業務も支援します。

生活支援・福祉サービス

生活支援・福祉サービスは、地域包括ケアシステムでは土を表します。生活支援は、高齢者の充実した暮らしのためになくてはならない要素です。買い物支援や安否確認、見守りといったサービスを、自治体や地域住民・ボランティア・NPO法人などが主体となって行います。また、生活に困窮している方には福祉サービスを提供します。地域全体で生活支援に取り組むことにより、高齢者が暮らしやすい安心・安全な地域作りにつながります。

住まいと生活支援・福祉サービスという土台を整備することで、その上に医療・介護・介護予防といった専門的サービスが成り立ちます。

医療

地域包括ケアシステムでは、日常的な医療を担当するかかりつけ医や地域の連携病院、緊急時の医療を担当する急性期病院や回復期のリハビリを担当する病院が相互に連携することで、スムーズで効果的な医療行為を実現します。

介護

地域包括ケアシステムでは、在宅介護サービスと施設介護サービスに分かれます。在宅介護サービスは、介護を必要とする方に対し、自宅を訪問して介護サービスを提供し、施設介護サービスとは、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームのように、高齢者向け施設で介護サービスを提供します。ご本人の希望する暮らし方に合わせて、適切な介護支援を行います。

介護予防

介護予防は、高齢者が自立した生活を送れるよう支援することです。家事や外出をサポートすることだけでなく、地域での交流や社会に参加する機会を提供することも介護予防となります。そのため、必要に応じて生活支援と一体となって提供されます。


地域包括ケアシステムにおける4つの助

地域包括ケアシステムは、以下の4つの「助」によって成立しています。

  • 自助

  • 互助

  • 共助

  • 公助

自助

自助は、自分自身で自らを助けることです。自ら健康管理を行ったり、介護予防に積極的に取り組むことなどを指します。また、地域包括ケアシステムにおいては、自費で介護保険外のサービスを活用することも含まれます。

互助

互助は、家族や知人など、高齢者の周囲の方々で互いに支え合うことです。家族・親戚とのつながりや地域住民との関わりなど、プライベートな助け合いを指します。互助は費用や人員配置などが定められた制度ではなく、あくまでも自主的に行うインフォーマルなものです。そのため、特に近隣住民とのつながりが強い傾向にある地方では、重要性が高いとされています。

共助

共助は、介護保険や医療保険のような社会保険制度・サービスのことです。人々の相互負担によって成り立つ、公的な制度です。

公助

公助は、行政が主導して行うサポートで、主に生活に困窮している方の支援を指します。高齢者の貧困や人権擁護といった問題は、自助や互助・共助だけでは対応しきれません。そのため、税金を活用し、生活保護や虐待対策といった支援を行います。

地域包括ケアシステムでは自助・互助が特に重要

少子高齢化に伴い財源確保が難しくなっている日本では、制度に頼らない自助や互助の重要性が高いと言えます。自ら健康管理や介護予防に取り組み、プライベートの助け合いを積極的に行うことは、様々な生活課題を解決するうえで大きな役割を果たすことが期待されます。


地域包括ケアシステムの柱|地域包括支援センターとは

地域包括支援センターとは地域が一体となって高齢者の暮らしを支援するために作られた施設のことです。介護保険法第115条の46第1項によると、「市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的とする施設。」とされています。

出典:厚生労働省「地域包括支援センター」

すべての市町村に設置されており、令和3年4月末で全国に5,351ヶ所存在します。地域包括支援センターは、高齢者の生活に関するあらゆる相談窓口として機能しています。地域包括支援センターには、保健師や社会福祉士、ケアマネージャーなどが在籍しており、介護や医療福祉に関する様々な悩み事を相談できます。また、介護保険の申請窓口としての機能も持っており、地域包括ケアシステムの柱として、高齢者の暮らしをサポートしてくれる存在です。


地域包括支援センターの支援内容

地域包括支援センターは、主に以下の5つの業務を担当します。

  • 総合相談支援業務

  • 介護予防ケアマネジメント

  • 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務

  • 権利擁護業務

  • そのほか多面的(制度横断的)支援の展開

総合相談支援業務

対象となる住民からのあらゆる相談を幅広く受け付けて、 制度横断的なサポートを行います。まさに、「高齢者の生活に関する総合相談窓口」です。高齢者からの相談に乗って必要なサービスを紹介するだけでなく、初めて介護を行うご家族の支援も担います。介護に対して不安や疑問を抱えている方に、在籍している専門家が親身に寄り添い、様々なアドバイスや制度の紹介などを行います。

介護予防ケアマネジメント

地域包括支援センターでは、介護予防ケアプランの作成も担当します。介護予防ケアプランとは、要支援1・2の高齢者を対象にした介護サービス計画書のことです。高齢者と相談しながら希望する生活や介護予防のための方法を考え、利用できるサービスの紹介を行います。また、希望者に対して介護予防教室も実施しています。

包括的・継続的ケアマネジメント支援業務

ケアマネジャーは、高齢者の安心安全な生活のために欠かせない存在です。地域包括支援センターでは、高齢者だけでなく、ケアマネジャーを支援する役割も担います。具体的には、

「地域ケア会議」等を通じた自立支援型ケアマネジメントのサポートや、ケアマネジャーへの個別指導・相談、さらに支援が難しい困難な事例に直面した際の指導・アドバイスなどを行います。

権利擁護業務

介護に関わる業務以外にも、高齢者の権利を保護する役割も担っています。判断能力が不十分とみなされた高齢者を守る成年後見制度の手続き支援や促進、さらに高齢者をターゲットにした詐欺・悪徳商法などへの対応や、高齢者虐待への対応・防止などを行います。

そのほか多面的(制度横断的)支援の展開

行政機関や保健所、医療機関、児童相談所などの外部機関と連携し、介護・医療サービスやヘルスサービス、成年後見制度といったあらゆる必要なサービスにつなぐ役割を果たします。


地域包括ケアシステムのメリット

地域包括ケアシステムを構築し、機能させることのメリットを3つ紹介します。

  • 高齢者が生活しやすい地域づくりにつながる

  • 在宅医療を促進できる

  • 高齢者の活躍の場が広がり、社会参加の機会が増える

高齢者が生活しやすい地域づくりにつながる

地域包括ケアシステムにより、高齢者の生活をサポートする様々なサービが検討されます。買い物支援や安否確認・見守りといった生活支援サービスや、介護予防を促進する取り組み、医療機関の連携など、高齢者が抱える課題やニーズに対応した地域独自の支援を提供できるようになり、高齢者が安心安全に暮らせる地域づくりにつながります。

在宅医療を促進できる

地域包括ケアシステムにより、医療機関と介護サービス提供事業者の密接な連携が可能になります。そのため、自宅でも医療・介護サービスをワンストップで受けられる在宅医療の促進が考えられます。もちろん、施設で生活することも安心安全な生活の実現につながりますが、最後まで自宅で過ごしたいと考える高齢者にとっては大きなメリットです。

高齢者の活躍の場が広がり、社会参加の機会が増える

地域包括ケアシステムでは、高齢者の社会参加を推進しています。ボランティアや老人クラブへの参加を通して、社会に参加する機会が増え、生きがいにつながったり介護予防になったりします。また、高齢者の活躍の場が増えることで、地域にとってもプラスになります。



地域包括ケアシステムの課題

地域包括ケアシステムは、以下のような課題を抱えています。

  • 認知度を高める必要がある

  • 地域ごとのサービス格差を是正する必要がある

認知度を高める必要がある

地域包括ケアシステムは、決して認知度が高いとは言えません。しかし、地域包括ケアシステムを機能させるためには、高齢者だけでなく、そのご家族や地域住民、関係する事業者などあらゆる関係者の理解が必要となりますそのため、地域全体で地域包括ケアシステムの認知度を高める活動を進めていかなければなりません。

地域ごとのサービス格差を是正する必要がある

地域包括ケアシステムは、地域が主体となって高齢者の暮らしを支援する仕組みです。しかし、財源や人材・関係機関といったサービスの担い手には地域ごとに差があります。充実したサービスを提供できるところとそうでないところで格差が生じ、不平等や人の流出が起こる可能性があります。そのため、地域ごとのサービス格差を是正する必要があります。


地域包括ケアシステムの事例

ここでは、地域包括ケアシステムの取り組み事例について、厚生労働省が発表している事例から抜粋して紹介します。

参考:厚生労働省「地域包括ケアシステムの構築に関する事例集」

北海道・当別町の事例

北海道当別町は、地域の大学生のボランティア活動を起点として、地域全体で高齢者の就労支援を行っている町です。「共生型コミュニティ農園 ぺこぺこのはたけ」を運営し、認知症を患っている方も含め、さまざまな高齢者や町民が働き交流する場を提供しています。年齢や障害の有無にかかわらず就労支援を行うことで、生活支援や介護予防・生きがいの創出につながっています。

千葉県・柏市の事例

千葉県柏市は、行政と医師会が主体となり、在宅医療や医療・介護の連携を推進している地域です。医療・看護・介護など、在宅医療サービス拡充のために必要な連携について、ルール作りや連携強化を積極的に行い、高齢者が自宅で安心して生活できる仕組みづくりを進めています。


まとめ

今回は、地域包括ケアシステムについて、概要と構成要素、メリットや課題などを解説しました。地域が主体となり、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を送れるよう支援を行う地域包括ケアシステムは、少子高齢化が進む現在の日本において非常に重要な仕組みです。地域包括ケアシステムが効果的に機能するためには、高齢者やご家族をはじめ、多くの方が地域包括ケアシステムについて知ることが大切です。この記事をきっかけに、お住まいの地域の取り組みについて調べてみてはいかがでしょうか。

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