老人ホームの入居にはいくら必要?費用捻出方法を分かりやすく解説

老人ホームに入居する際は、決して安くはない費用がかかります。家計が急変して費用を支払えなくなってしまう可能性もゼロではありません。そのような場合に備えて、老人ホームの費用を捻出する方法について理解することが大切です。

今回は、老人ホームの入居にかかる費用相場や、費用が支払えなくなるケース、費用を捻出するための様々な方法について解説します。安心して老後を過ごすためにも、ぜひ今のうちから老後資金について理解を深めましょう。


#老人ホーム#費用#お金#制度
この記事の監修

すぎもと ゆりこ

杉本 悠里子

有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。

老人ホームの入居にかかる費用の内訳と費用相場

老人ホームの入居に必要な費用を理解するために、まずは費用の内訳や費用相場についてみていきましょう。

老人ホームをはじめとする介護施設に入居する際は、入居時費用と月額利用料がかかります。入居時費用とは、契約時にまとめて支払うもので、「入居一時金」(数年分の月額家賃の前払い額)、「敷金」などにあたります。月額利用料は、居住費や食費など、生活のために必要な費用を合算し、月々支払うものです。

介護施設によっては、月額利用料が高い代わりに入居時費用がかからないところや、想定入居期間分にかかる家賃の全額を、入居時費用として一括して前払いすることにより、月々の家賃負担が発生しないという全額前払い方式を採用しているところがあります。

入居時費用と月額利用料それぞれの費用相場は、以下のとおりです。

施設の種類

入居時費用

月額利用料

特別養護老人ホーム

0円

5〜15万円

養護老人ホーム

0円

0〜14万円

介護老人保健施設

0円

8〜14万円

介護医療院

0円

7〜14万円

軽費老人ホーム(ケアハウス)

数十万円〜数百万円

10〜30万円

介護付き有料老人ホーム

0〜数億円

15〜35万円

住宅型有料老人ホーム

0〜数億円

15〜35万円

健康型有料老人ホーム

0〜数百万円

10〜40万円

サービス付き高齢者向け住宅

0〜数十万円

10〜30万円

グループホーム

0〜数十万円

10〜20万円

シニア向け分譲マンション

数千万円〜数億円

10〜30万円

もちろん、施設の立地や提供サービスなどによって費用は大きく異なります。あくまでも費用の目安として理解しておきましょう。

参考:カナエル・ノート|一般社団法人全国シルバーライフ保証協会

老人ホームの費用が支払えなくなるケース

以下のようなケースでは、老人ホームの費用が支払えなくなってしまうことがあります。

  • 要介護度が上がり、介護サービスにかかる費用が増えた

  • 資金援助していたご家族の収入が減少した

  • 資産売却益や投資収入が予定どおり確保できない

介護サービスの中には、介護度が上がると基本料金が高額になり、利用者負担が増えるものがあります。たとえば、特別養護老人ホームなどの施設サービスやデイサービス、ショートステイの利用にかかる費用などです。利用者負担が増えれば、その分家計を圧迫するため、老人ホームの費用の支払いが難しくなってしまう可能性があります。

また、ご家族から資金援助を受けている場合、病気や怪我などが原因でご家族の収入が減少してしまうと、費用を負担できなくなってしまうことがあります。

さらに、土地やマンションといった保有資産の売却や投資による収入をもとに老人ホームの費用を支払おうとしていた場合、予定通りに資金を確保できなくなると、費用の支払いが難しくなってしまいます。

いつ、どのようなトラブルが起こるかわからないため、老人ホームの費用が支払えなくなった場合の対処法や費用捻出方法について理解しておくことが大切です。

老人ホーム入居中に費用を支払えなくなったらどうなる

老人ホーム入居中に費用が払えなくなってしまった場合でも、すぐに退去しなければならないわけではありません。ご本人が支払えない場合は、まずはご本人の身元引受人(配偶者や子どもなど)宛に費用が請求されます。

身元引受人も費用を支払えず、一定の猶予期間が過ぎてしまった場合、退去となります。

猶予期間は3〜6ヶ月間ほど設けられている場合が多いですが、施設によってはもっと期間が短いため、注意が必要です。契約書や重要事項説明書に記載されているため、入居前に必ずチェックしましょう。


老人ホームの費用を捻出する方法

老人ホームの費用を捻出するためには、以下の5つの選択肢があります。

  1. 工夫して老人ホームにかかる費用を安く抑える

  2. 費用を捻出できる制度を利用する

  3. 不動産を活用する

  4. そのほかの資産を活用する

  5. そのほかの制度を利用する(生活保護、世帯分離、融資制度)

工夫して老人ホームにかかる費用を安く抑える

まずは、老人ホームにかかる費用を安く抑えることを検討しましょう。以下のような方法が考えられます。

  • 地方の施設を選ぶ

  • 条件にこだわりすぎない

  • 相部屋タイプを選ぶ

老人ホームは、通常の賃貸と同様に、地価が高い首都圏の方が月額利用料が高くなる傾向にあります。なるべく費用を抑え、自然豊かな場所でゆったりと暮らしたい場合には、地方でにある施設への入居を検討してもよいかもしれません。

また、立地や居室の広さ、共用施設の充実度合いなどの条件にこだわると、その分費用が高くなります。あれもこれもと希望条件を設定して探すのではなく、最低限必要な条件と、あったら嬉しい条件を分けて考え、施設選びの選択肢を広げることがポイントです。

ほかの入居者と同じ部屋で生活することが苦ではない場合は、個室ではなく相部屋にするのも1つの選択肢です。しかし、ほかの入居者の存在が生活音がストレスになってしまう可能性もあるため、ご本人の希望を尊重しましょう。

費用を捻出できる制度を利用する

老人ホームの費用負担を軽減できる制度の活用も効果的です。以下のような制度を利用することにより、費用負担が軽減されます。

  • 特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)

  • 高額介護サービス費制度

  • 医療費控除

特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)

特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)とは、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院といった介護保険施設に入所している方や、ショートステイを利用している方のうち、所得が低く一定の要件を満たした方を対象に、費用負担を軽減する制度です。

所得水準によって利用者負担段階が計5段階が定められており、居住費と食費それぞれに自己負担上限額が設けられています。自己負担上限額を超えた分が、介護保険から支給される仕組みです。

1日あたりの負担限度額は、以下のとおりです。

利用者負担段階
居住費
食費


従来型個室

多床室​
ユニット型個室
ユニット型準個室


第1段階

490円

0円

820円

490円

300円

第2段階

490円

370円

820円

490円

390円

第3段階①

1,310円

370円

1,310円

1,310円

650円

第3段階②

1,310円

370円

1,310円

1,310円

1,360円

第4段階

限度額なし(対象外)

出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料(介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所療養介護の場合)」

各利用者負担段階に該当する対象者は以下のとおりです。

利用者負担段階

対象者

第1段階

生活保護受給者の方・老齢福祉年金受給者で世帯全員が住民税非課税の方で、かつ本人の預貯金等が1,000万円以下

(配偶者がいる場合は夫婦あわせて2,000万円以下)の方

第2段階

世帯員全員及び配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が80万円以下の方で、かつ本人の預貯金等が650万円以下(配偶者がいる場合は夫婦あわせて1,650万円以下)の方

第3段階①

世帯員全員及び配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が80万円超120万円以下の方で、かつ本人の預貯金等が550万円以下

(配偶者がいる場合は夫婦あわせて1,550万円以下)の方

第3段階②

世帯員全員及び配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が120万円を超える方で、かつ本人の預貯金等が500万円以下(配偶者がいる場合は夫婦あわせて1,500万円以下)の方

第4段階(対象外)

本人が住民税課税となっている方

または配偶者が住民税課税となっている方

または本人が属する世帯の中に住民税課税者がいる方

または本人の預貯金等が一定額を超える方

出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料(介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所療養介護の場合)」

高額介護サービス費制度

高額介護サービス費制度とは、介護保険の自己負担額が負担上限額を超えた場合、超過分が「高額介護サービス費」として返還される制度のことです。課税所得ごとに区分が設けられており、それぞれに1ヶ月あたりの負担上限額が定められています。

区分

負担の上限額(月額)

課税所得690万円(年収約1,160万円)以上

140,100円(世帯)

課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満

93,000(世帯)

市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満

44,400円(世帯)

世帯の全員が市町村民税非課税

24,600円(世帯)

世帯の全員が市町村民税非課税の世帯のうち、前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等

24,600円(世帯)

15,000円(個人)

生活保護を受給している方等

15,000円(世帯)

出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

医療費控除

医療費控除とは、自分あるいは家族の病気・怪我などのために、1月1日〜12月31日の1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、所得税の減額や還付を受けられる制度のことです。

医療費控除の対象となる施設は、以下のとおりです。

<全額>

  • 介護老人保健施設

  • 介護医療院

<費用の1/2>

  • 特別養護老人ホーム

  • 地域密着型特別養護老人ホーム

医療費が10万円(合計所得が200万円未満の方は合計所得の5%)を超えた場合、確定申告で手続きをすることにより、一部が減額・還付されます。

なお、有料老人ホームにかかる費用は、基本的には医療費控除の対象外である点に注意が必要です。しかし、医療機関の診療代や診療のための交通費・薬代、特定の条件を満たす場合は介護サービス費の一部が、医療費控除の対象となります。

不動産を活用する

不動産を保有している場合、売却して老人ホーム用の資金に充てる、という方法もあります。特に、老人ホームへの入居に伴いご自宅が空き家となる場合、ご自宅を売却して費用を捻出するというケースも多く見られます。

しかし、長く住んだご自宅を売却したくない、という方もいらっしゃるでしょう、その場合、以下のような方法が有効です。

  • リバースモゲージ

  • リースバック

  • マイホーム借り上げ制度

ここでは、それぞれの制度について解説します。

リバースモーゲージ

リバースモーゲージとは、高齢者が自宅を担保として金融機関から生活資金を借り入れ、ご本人が亡くなった際に担保となっていた不動産を売却し、借入金の返済に充てるという制度です。リバースは逆、モーゲージは抵当・抵当権という意味であり、ご本人が存命なうちは利息分のみを毎月返済し、借入残高を最後にまとめて返済することから、この名がつけられました。

不動産を利用して資金を捻出したいが、自宅の売却には抵抗がある、という方に適しています。

リースバック

リースバックとは、自宅を売却した後に賃貸借契約を結び、借りる側として引き続き自宅に住み続けられる仕組みです。一度自宅を売却するため所有権は失いますが、現金化でき、その後も家賃を支払い続ければ自宅に住み続けられます。

老人ホームの費用を捻出しながら、愛着のある自宅に住み続けられる方法です。また、所有権を手放すため、固定資産税もかかりません。

参考:任意売却の無料相談は最短2日で解決する全日本任意売却支援協会へ。

マイホーム借り上げ制度

マイホーム借り上げ制度は、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)が運営する事業で、JTIに空き家を貸し出し、JTIが転貸することにより、家賃収入を得られるというものです。国内に居住する50歳以上の方が利用できます。

空室が発生しても家賃が保証されるため、安定的な家賃収入が見込める点や、入居者とのトラブルもJTIが対応してくれるため、安心して利用しやすい点がメリットです。

参考:不動産情報サイト/イエカレ | 土地活用や不動産管理などお役立ち情報満載!

そのほかの資産を活用する

不動産以外の資産を活用し、老後資金を増やすという方法もあります。具体的には、以下のような資産運用方法が挙げられます。

  • 個人型確定拠出年金(iDeCo)

  • つみたてNISA(積立NISA)

ここでは、それぞれの制度について解説します。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、任意で加入できる私的年金制度の1つで、運営管理機関が提示する様々な商品の中から、自由に選んで積み立てられる制度です。公的年金に加えて私的年金が給付されるため、老後資金を増やすことができます。2022年5月から、65歳まで積み立て可能になりました。

年金受給額が増えるほか、掛金が全額所得控除の対象となる点や、運用益が非課税になる点など、税制上のメリットも大きいのが特徴です。

つみたてNISA(積立NISA)

つみたてNISAは、iDeCoと同様に資金を積み立てられる制度です。運用商品は投資信託に限定されていますが、投資初心者の方にも運用しやすく、加入や口座維持にかかる手数料も不要です。積み立ての年齢上限はなく、最大20年間投資できます。

そのほかの制度を利用する

ほかにも、老人ホーム費用の捻出に役立つ以下のような制度が存在します。利用できるものは、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

  • 世帯分離

  • 生活福祉資金貸付制度

  • 生活保護

ここでは、それぞれの制度について解説します。

世帯分離

世帯分離とは、同居していながらも、家族間の世帯を分けることです。世帯分離を行うことにより、所得が少ない親御さんの住民税を軽減するのが本来の目的ですが、介護費用負担の軽減にも役立ちます。

介護保険の自己負担割合は、世帯所得に基づいて設定されます。国や自治体が運営する軽減制度も、世帯所得が多い場合は制度の対象外となるケースが多いです。

世帯分離で親御さんが単独世帯となることにより、親御さんの所得のみが様々な制度の算定根拠となるため、介護費用にかかる様々な負担を軽減できます。

生活福祉資金貸付制度

生活福祉資金貸付制度とは、所得が低い方や高齢者などの生活を支えるための融資制度です。必要な資金を金融機関から借り入れるのが難しい方や、65歳以上の高齢者世帯などを対象としています。

原則として連帯保証人を立てる必要がありますが、連帯保証人を立てなくても申し込めるのが特徴です。連帯保証人を立てる場合は無利子、立てない場合は利子が年1.5%となります。

生活保護

生活に困窮してしまった場合は、生活保護の利用も検討しましょう。健康で文化的な最低限度の生活を営むうえで必要な、各種費用に対して扶助が支給されます。

生活保護を受給していても、老人ホームに入居することができます。ただし、入居費用が住宅扶助や生活扶助でまかなえる範囲内である必要があり、受け入れ可否は施設によって異なります。生活保護を受給する場合は、生活保護受給者を受け入れている施設から選びましょう。

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まとめ

今回は、老人ホームの入居にかかる費用を捻出する方法についてご紹介しました。家計の急変やそのほかのトラブルにより、突然費用を支払えなくなってしまう可能性は十分にあります。万が一のリスクに備えて、費用の捻出方法について理解することが大切です。

また、老後に備えて早いうちから資金計画を立てることも重要です。この記事をきっかけに、老後を見据えた貯蓄や老後資金を増やす取り組みについて検討していただければ幸いです。

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