老人ホームの医療費控除と費用負担を軽減する制度について解説

老人ホームをはじめとする介護施設を利用する際は、入居費や生活費などの費用がかかります。これらの費用は医療費控除の対象となるのか、負担を軽減できる制度はないかなど、費用負担を少しでも抑えるための方法について知りたいという方は多いと思います。

この記事では、介護施設の利用にかかる費用は医療費控除の対象となるのか、医療費控除の対象となる施設や申請方法、さらに費用負担を軽減できる制度や利用要件などを詳しく解説します。介護施設の利用を検討している方は、ぜひご覧ください。


#老人ホーム#費用#お金#制度
この記事の監修

すぎもと ゆりこ

杉本 悠里子

有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。

医療費控除とは

医療費控除とは、1月1日〜12月31日の1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、所得税の減額・還付を受けられる制度のことです。自分あるいは家族の病気・怪我などのために支払った医療費が10万円(合計所得が200万円未満の方は合計所得の5%)を超えた場合、確定申告で手続きを行うことによって、一部が減額・還付されます。

医療費控除では、同居している配偶者や親族にかかった医療費も対象となるのがポイントです。なお、「1年間で支払った医療費」とは、1年間で実際に支払った金額のことを指します。そのため、医療費を給付金からまかなった場合は、対象とはなりません。さらに、確定申告を行わないと、減税・還付の対象とはならない点に注意が必要です。

介護施設の入居において医療費控除の対象となる費用

介護施設の入居にかかる費用のすべてが、医療費控除の対象となるわけではありません。医療費控除の対象となるのは、居住費・介護費・食費の自己負担額分です。日用品にかかる日常生活費や、理美容代のような特別なサービス費は対象となりません。

ただし、6ヶ月以上寝たきりで医師の治療を受けている場合、おむつ代が医療費控除の対象となることがあります。

医療費控除の対象となる介護施設

医療費控除の対象となる介護施設には、全額が控除の対象となる施設と、費用の1/2が対象となる施設があります。

全額が医療費控除の対象となる介護施設

以下の施設は、全額が医療費控除の対象となります。

  • 介護老人保健施設

  • 介護医療院

介護老人保健施設

介護老人保健施設は、病院を退院した後すぐに在宅で生活できない方を対象に、リハビリや介護・医療ケアなどのサービスを提供する施設です。3〜6ヶ月ほど滞在してリハビリや介護などの必要なサービスを受け、在宅復帰を目指します。

介護医療院

介護医療院は、医療機能と生活施設としての機能を併せ持った施設です。医師・看護師が常駐しており、医療ケアが充実しているのが特徴です。看取りやターミナルケアにも対応しています。介護医療院には、重篤な疾患を抱えた方を対象としたI型と、比較的容態が安定している方を対象としたII型があります。

1/2が医療費控除の対象となる介護施設

以下の施設は、費用の1/2が医療費控除の対象となります。

  • 特別養護老人ホーム

  • 地域密着型特別養護老人ホーム

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホームは、自治体や社会福祉法人が運営する公的施設です。要介護度3以上の方が入居の対象となり、介護サービスを提供します。定員は30名以上で、居住地域に関係なく入居できます。

地域密着型特別養護老人ホーム

地域密着型特別養護老人ホームは、特別養護老人ホームと同じように介護サービスを提供する公的施設です。特別養護老人ホームと違い、定員が29名以下で小規模である点が特徴です。また、施設と同じ市区町村に住民票を置いている方のみが入居できます。

有料老人ホームの費用は医療費控除の対象になるか

有料老人ホームにかかる費用は、基本的には医療費控除の対象にはなりません。ただし、医療機関の診療代や診療のための交通費・薬代は対象です。さらに、特定の条件を満たす場合は、介護サービス費の一部が医療費控除の対象となります。

医療費控除の申請方法

サラリーマンやパートのように、会社から給与を受け取っている給与所得者の場合、医療費控除を受けるためには確定申告を行う必要があります。医療費控除の申請方法は以下のとおりです。

  1. 医療費控除の対象になるかを確認する

  2. 控除額・還付金を算出する

  3. 確定申告書と医療費控除の明細書を作成する

  4. 税務署に提出する

  5. 還付金を受け取る

医療費控除の対象になるかを確認する

医療費の通知や領収書等を参考に、1月1日〜12月31日の1年間に支払った医療費が10万円(合計所得が200万円未満の方は合計所得の5%)を超えているかを確認しましょう。

控除額・還付額を算出する

控除額と還付額は、以下のように計算できます。

<医療費控除>

医療費控除額(最高200万円)=(1年間に支払った医療費の総額 -給付金などでまかなった金額)- 10万円(合計所得が200万円未満の方は合計所得の5%)

<還付金>

還付金 =医療費控除額10万円(合計所得が200万円未満の方は合計所得の5%)× 所得税率

確定申告書と医療費控除の明細書を作成する

確定申告書と医療費控除の明細書を作成します。国税庁のホームページや税務署の窓口などで手に入れられます。

医療費控除の申請を行うためには、以下の書類が必要です。

  • 確定申告書Aもしくは確定申告書B

  • 医療費控除の明細書

  • 医療通知書

  • 本人確認書類

なお、平成29年分の確定申告から、領収書の提出は不要になりました。その代わりに、領収書を5年間保存することと、医療費控除の明細書の添付が必要になったため注意が必要です。

税務署に提出する

確定申告書と医療費控除の明細書、そのほか必要な書類を税務署に提出します。

還付金を受け取る

申告内容に問題がなければ、確定申告から約1ヶ月後に、還付金を受け取ることができます。受け取り方法には、銀行口座への振込、あるいは最寄りのゆうちょ銀行・郵便局での受け取りがあります。

前述のとおり、医療費控除の申告に使用した領収書については、5年間の保存が義務付けられています。確定申告が終わったからといって処分せず、保管しましょう。

老人ホームの費用負担を軽減する制度

老人ホームや介護施設の費用負担を抑える制度には、以下のようなものがあります。

  • 特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)

  • 高額介護サービス費

  • 高額医療・高額介護合算療養費制度

  • 利用者負担軽減制度

なお、多くの制度で利用要件となっている住民税の課税状況については、毎年6月頃に届く介護保険料決定通知書で確認できます。

特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)

特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)とは、介護保険施設に入所している方やショートステイを利用している方のうち、所得が低く一定の要件を満たした方を対象に、費用負担を軽減する制度です。

所得水準によって利用者負担段階が1〜4まで計5段階が定められており、居住費と食費それぞれに自己負担上限額が設けられています。上限額を超えた分は、介護保険から支給されます。

負担限度額(1日につき)は、以下のとおりです。

利用者負担段階
居住費
食費

従来型個室

多床室

ユニット型個室

ユニット型準個室


第1段階

490円

0円

820円

490円

300円

第2段階

490円

370円

820円

490円

390円

第3段階①

1,310円

370円

1,310円

1,310円

650円

第3段階②

1,310円

370円

1,310円

1,310円

1,360円

第4段階

限度額なし(対象外)

出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料(介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所療養介護の場合)」

また、各利用者負担段階に該当する対象者は以下のとおりです。

利用者負担段階

対象者

第1段階

生活保護受給者の方・老齢福祉年金受給者で世帯全員が住民税非課税の方で、かつ本人の預貯金等が1,000万円以下

(配偶者がいる場合は夫婦あわせて2,000万円以下)の方

第2段階

世帯員全員及び配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が80万円以下の方で、かつ本人の預貯金等が650万円以下(配偶者がいる場合は夫婦あわせて1,650万円以下)の方

第3段階①

世帯員全員及び配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が80万円超120万円以下の方で、かつ本人の預貯金等が550万円以下

(配偶者がいる場合は夫婦あわせて1,550万円以下)の方

第3段階②

世帯員全員及び配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が120万円を超える方で、かつ本人の預貯金等が500万円以下(配偶者がいる場合は夫婦あわせて1,500万円以下)の方

第4段階(対象外)

本人が住民税課税となっている方

または配偶者が住民税課税となっている方

または本人が属する世帯の中に住民税課税者がいる方

または本人の預貯金等が一定額を超える方

出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料(介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所療養介護の場合)」

特定入所者介護サービス費制度を利用する時は、お住まいの市区町村に必要な書類を提出し、申請しましょう。本人または代理人が申請してください。

高額介護サービス費制度

高額介護サービス費制度とは、介護保険の自己負担額が上限限度額を超えた場合、超過分が「高額介護サービス費」として返還される制度のことです。所得ごとに自己負担上限額が設けられています。対象区分と上限限度額は以下のとおりです。

区分

負担の上限額(月額)

課税所得690万円(年収約1,160万円)以上

140,100円(世帯)

課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満

93,000(世帯)

市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満

44,400円(世帯)

世帯の全員が市町村民税非課税

24,600円(世帯)

世帯の全員が市町村民税非課税の世帯のうち、前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等

24,600円(世帯)

15,000円(個人)

生活保護を受給している方等

15,000円(世帯)

出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

高額介護サービス費を利用する際は、お住まいの市区町村から申請書が送られる場合と、自ら窓口へ申請する必要がある場合があります。詳しくは、お住まいの市区町村にお問い合わせください。

高額医療・高額介護合算療養費制度

高額医療・高額介護合算療養費制度とは、1年間で支払った医療保険と介護保険の合計額が自己負担限度額を超えた場合、超過分が払い戻される制度のことです。限度額は年額56万円が基本であり、課税所得や年齢などに応じて以下のように定められています。

所得区分

課税所得

負担限度額

(70歳以上)

負担限度額

(70歳未満)

現役並み所得者Ⅲ

690万円以上

212万円

現役並み所得者Ⅱ

380万円以上

141万円

現役並み所得者Ⅰ

145万円以上

67万円

一般

145万円未満

56万円

60万円

低所得Ⅱ

市町村民税世帯非課税

31万円

34万円

低所得Ⅰ

市町村民税世帯非課税

(所得が一定以下)

19万円

出典:厚生労働省 高額介護介護合算療養費

高額医療・高額介護合算療養費制度を利用するためには、まずは介護保険者である市区町村に申請が必要です。申請が受理されると、介護自己負担額証明書が交付されます。医療保険者に、介護自己負担額証明書と申請書を提出することによって、超過分の払い戻しを受けられます。

社会福祉法人などの利用者負担軽減制度

社会福祉法人などの利用者負担軽減制度とは、一定の収入要件を満たした方に対し、社会福祉法人などが利用者負担を軽減する制度です。特別養護老人ホームの施設サービスや訪問介護・通所介護が対象となります。

収入要件は以下のとおりです。利用するためには、全ての要件を満たし、かつ市区町村に認められる必要があります。

  • 住民税が非課税であること

  • 年間収入が150万円以下であること(単身世帯の場合。世帯員が1人増えるごとに50万円を加算)

  • 預貯金の額が350万円以下であること(単身世帯の場合。世帯員が1人増えるごとに100万円を加算)

  • 日常生活に供する資産以外に活用できる資産がないこと

  • 負担能力のある親族等から扶養・援助を受けていないこと

  • 介護保険料を滞納していないこと

出典:東京都「生計困難者等に対する負担軽減事業

介護サービスの自己負担額や食費・居住費などの費用のうち、1/4(老齢福祉年金受給者は1/2)が軽減されます。

利用者負担軽減制度を利用する場合は、市区町村に申請を行いましょう。要件を満たしていれば、市区町村から確認証が交付され、それを社会福祉法人等に提示することによって、負担額の軽減を受けられます。

まとめ

今回は、介護施設のにかかる費用の医療費控除について、対象となる施設や費用、申請方法について解説しました。さらに、介護施設の費用負担を軽減するための4つの制度についても詳しく紹介しました。

一部の介護施設では、居住費・介護費・食費などが医療費控除の対象となります。さらに、所得が低い方も安心して施設を利用できるよう、負担軽減制度も用意されています。無理なく費用を支払い続けるために、医療費控除や負担軽減制度について理解し、利用できるものはないか検討してみてはいかがでしょうか。この記事が、介護施設の利用を考えている方のお役に立てれば幸いです。

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