老人ホームの希望条件② 入居前に確認したい身体状況とは
老人ホームを選ぶ際に必ず確認すべきなのが、入居者ご本人の身体状況です。施設によって受け入れ体制が異なるため、身体状況に応じて適切な施設の条件や選び方が変わります。
しかし、一口に身体状況といっても、介護度や疾患・必要な医療行為など確認すべき点はさまざまです。この記事では、身体状況について確認すべき4つのポイントを詳しくご説明いたします。
入居前に身体状況を確認する必要がある理由
介護施設によって、対応できる疾患や医療措置は異なります。例えば、入居者が認知症を患っている場合は、認知症患者に対応した施設に入る必要があります。もし費用面や立地面で理想の施設が見つかったとしても、身体状況を理由に入居できないという可能性もあります。
そのため、老人ホーム選びの際は必ず身体状況を確認し、それに対応した施設を選ぶ必要があります。
身体状況について確認すべき4つのポイント
①介護度を確認する
身体状況について確認するうえで、まずは要介護認定を受けることが大切です。
要介護認定とは
要介護認定とは、介護や支援が必要な度合いを「自立」「要支援1〜2」「要介護1〜5」の8段階で数値化したものです。要支援・要介護認定をされると、介護保険制度が適用され、サービスの利用における自己負担額を支給限度額の1〜3割程度に抑えることができます。要介護レベルが高くなるほど、支給限度額も増える仕組みです。
「要支援1〜2」は、介護は必要ないが日常生活を送る上で何らかの支援を必要とする身体状況のことです。認定されると、生活支援サービスや介護予防サービスが受けられるようになります。「要介護1〜5」は、日常生活において介護を必要とする状態のことです。
介護施設の中には、要介護認定を受けている人を入居対象としているところもあります。
例えば、介護付き有料老人ホームは原則「要介護1以上」を入居条件としています。以下の表では、老人ホーム別に対象となる要支援・要介護度をまとめています。
介護サービスを提供する施設では、入居にかかる費用の一部は介護保険が適用されます。このように、施設を選ぶうえで、サービスにかかる自己負担額を抑えるためにも、入居前に要介護認定を受けることが大切です。
要介護認定の受け方
要介護認定を受けるためには、以下のような手順が必要です。
1.お住まいの市区町村か地域包括支援センターの窓口で申請
2.認定調査を受ける
3.結果の通知
認定調査では、訪問調査とかかりつけ医による主治医意見書作成が行われ、それらの結果をもとにコンピューターによる「一次判定」と、保険・医療・福祉の有識者による「二次判定」が行われます。申請から結果の通知までは、通常1ヶ月ほどかかります。市区町村によっては1〜2ヶ月かかる場合もあるので、余裕をもって申請しましょう。
まずは最寄りの市区町村か地域包括支援センターの窓口にお問い合わせください。
②生活に必要な介護・支援サービスを確認する
施設によって、入居者に提供するサービスはさまざまです。入居者の身体状況に応じて、生活を送るうえで必要な介護・支援サービスは異なります。そのため、入居前に必要なサービスを提供しているかどうかを確認することが大切です。
食事介助
一人では食事ができない人に対して、職員が食事を介助するサービスです。単に食事をサポートする摂食介助だけでなく、口腔や腸など食事に関係する機能の維持・向上や、柔らかさや細かさなどご本人が食べやすい形態に合わせた食事の提供を行います。食事前に顔や首の筋肉をほぐしたり鍛えたりすることで、食べ始めの誤嚥を防ぐ「嚥下体操」を行うところも多いです。
入浴介助
入浴介助は、自力で入浴することが難しい方のために介助を行うサービスです。入浴は、体を清潔に保つことはもちろん、リラックスを促したり体の痛みや緊張をほぐしたりする効果もあるため、入浴介助は重要なサービスになります。
入浴時は転倒や意識喪失のリスクがあるため、職員が見守りを行い、体の痛みがある方に対しては手すりやシャワーチェアなどの福祉用具を使ったりしてサポートします。
排泄介助
排泄介助は、トイレで自力で排泄ができない方のために介助を行うサービスです。トイレまでの歩行の補助や洋服の脱ぎ着のサポート、清拭などを行います。ご本人の自尊心やプライバシーを守ることを第一に、必要なサポートを必要なタイミングで行うきめ細やかさが重要になります。
体験入居で実際の介護・支援サービスを体験する
老人ホーム選びでは、単にサービスを提供しているかどうかだけでなく、サービスの質も重要になります。余裕のある人員配置で丁寧に対応しているか、などは、パンフレットやホームページの情報だけで判断するのは難しいです。
多くの老人ホームでは、見学だけでなく、実際にその施設での暮らしを短期間体験できる「体験入居」を実施しています。職員は穏やかな雰囲気か、マナー教育が行き届いているか、入居者の目線に立って介護・支援サービスを行っているかなど、実際にサービスを体験して確かめることが大切です。重要な判断材料になるため、施設に目星をつけたらぜひ体験入居を利用してみてください。
③受け入れ可能な疾患を確認する
入居者が持病を患っている場合や、それに伴い医療行為を必要とする場合、施設がそれに対応しているかどうかを確認する必要があります。事前にご本人の疾患と症状について問い合わせ、受け入れ可能かを確認しましょう。
認知症への対応可否を確認する
疾患の中でも特に確認すべきなのが、認知症への対応です。認知症を患っている場合は、大声やせん妄・徘徊といった記憶障害・行動障害につながるため、対応には専門の知識やスキルが必要になります。そのため、認知症への対応可否については特に確認が必要です。
④受け入れ可能な医療行為を確認する
胃ろうや人工透析など、医療行為が必要な場合はそれに対応した施設を選ぶ必要があります。介護職員と看護師・医師では、扱える医療行為が異なるためです。例えば、体温や血圧の測定、カテーテルの準備などは介護職員が行えますが、インスリン注射やカテーテルの交換などは看護師が担当します。また、診察や処方箋の交付、人工透析などは医師が行える医療行為です。
特に、夜間にも医療行為が必要なら24時間看護師が常駐している施設を選ぶ必要があります。
受け入れ可能かを確認すべき医療体制の例は、以下のとおりです。
人工呼吸器
人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助することで呼吸を助ける器具です。止まると命に関わる重要な器具なので、医師や看護師の管理が大切です。また、人工呼吸器の使用に伴い痰の吸引や皮膚のケア、チューブの交換も必要になります。
人工呼吸器の中には、自宅で扱える在宅人工呼吸器(HMV)というものもありますが、こちらも同様に医師や看護師による適切な管理が推奨されています。
インスリン注射
インスリン注射は、糖尿病を患っている方にインスリンを投与し、血糖値を下げるために行うものです。注射や食事のタイミングは医師の指示に従う必要があり、血糖値を適切な水準に保つため、看護師の管理のもとで行う必要があります。
痰吸引
痰を吐き出せない方には、喉や器官に溜まった痰を定期的に機械で吸引する必要があります。吸引を怠ると肺炎や窒息につながってしまうため、医師や看護師・訓練を受けた職員による対応が必要です。
人工透析
人工透析とは、腎臓の機能が低下している方に対し、透析器を使って老廃物や余分な水分の除去を行うケアのことです。人工透析は、老人ホームではなく病院・クリニックで行います。そのため、老人ホーム周辺の、人工透析に対応した病院やクリニックに定期的に通う必要があります。施設によっては、透析病院と提携しており無料送迎を行っているところや、透析クリニックが併設しているところもあります。
中心静脈栄養(IVH)
中心静脈栄養とは、自分で食事ができず消化器の機能が低下している方に対して行う点滴のことです。心臓に近い静脈に、栄養や水分などを豊富に含んだ高カロリーの点滴を施すことで、栄養補給を行います。心臓に近い大きい静脈への点滴になるため、看護師のもとで行う必要があります。
医療ケアの充実を求めるなら「介護医療院」
介護医療院は、医師・看護師が常駐しており医療ケアが充実している施設です。医療機能と生活施設としての機能を併せ持っており、看取りやターミナルケアにも対応しているのが特徴です。重篤な疾患を抱えた方を対象としたI型と、比較的容態が安定している方を対象としたII型に分かれます。ご本人に持病があり、医療ケアが充実したところをお探しの方に適した介護施設です。
公的施設で介護サービスの充実を求めるなら「特別養護老人ホーム」
特別養護老人ホームは、自治体や社会福祉法人が運営する公的施設です。
介護サービスをメインに提供し、要介護度3以上の方が入居の対象になります。
公的施設なので入居にあたって入居一時金はかからず、月額費用も民間の有料老人ホームに比べると安いのが特徴です。費用が安い分、入居待ちの方も多く人気となっています。そのため、入居へのハードルが高いというデメリットがあります。
民間施設で介護サービスの充実を求めるなら「介護付き有料老人ホーム」
「介護付き有料老人ホーム」とは、要介護の方を対象とした民間運営の老人ホームのことです。食事や掃除などの身の回りのことから身体介護、レクリエーションまで、生活を幅広くサポートするサービスを提供しています。都道府県から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、介護サービスの提供基準を満たしている場合のみ「介護付き有料老人ホーム」となります。レクリエーションに力を入れ、設備の充実や接遇マナー、手厚い医療・介護体制などを提供するなど、施設によって独自の特色を持っている場合が多いです。施設数が多く、選択肢が豊富です。
疾患や症状などは施設に事前に相談することが大切
施設のホームページやパンフレットに「対応可能」と書いてある場合でも、事前に疾患や症状について相談することが大切です。例えば、軽度の認知症なら受け入れ可能でも重度の認知症だと対応できない、という場合もあります。また、相談することで、その施設が提供している詳細な医療・介護ケアについて知ることができます。
ご本人やご家族の安心のためにも、まずは施設に直接相談してみてください。
老人ホーム入居中に身体状況が変わったらどうするか
入居前に特に疾患がなくても、入居中に体調が変わったり介護が必要になったりするケースもあります。例えば、自立を入居の前提としている健康型有料老人ホーム入居中に介護が必要になった場合は、介護サービスを提供している施設に移る必要があります。
また、入居中に認知症や重度の疾患など、その施設では対応できない疾患を発症した場合は、状況によっては退去して別の施設に移る必要があります。退去条件については、入居時に必ず確認しておきましょう。
まとめ
今回は、老人ホーム入居前に確認したい身体状況についてご紹介しました。ご本人の身体状況に応じて、入居できる施設が変わることもあります。疾患や必要な医療行為・生活支援などは、事前に施設へ確認してください。また、入居前に要介護認定を受けることは、老人ホーム選びと費用面に関わるため重要です。
ご不明な点や心配な点は、ぜひ施設に問い合わせてみてください。この記事が、入居者ご本人とご家族双方にとって、安心安全な老人ホーム選びのお役に立てれば幸いです。
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。