老人ホームでの食事の献立・形態は?入居前に確認したいポイントを解説
老人ホームでの暮らしの中でも大きな楽しみとなるのが食事です。施設によって食事の内容やこだわりは異なり、食事は生活において重要な役割を果たすため、老人ホーム選びで重要なポイントとなります。この記事では、老人ホームで提供される食事メニューの例や形態、食事代など、入居前に確認しておきたいポイントを解説いたします。
目 次
老人ホーム選びで食事が重要な理由
老人ホーム選びにおいて、多くの方が重視するのは立地条件や設備です。しかし、実は食事も重要なポイントとなります。年齢や疾患により積極的な外出がしにくくなる高齢者にとって、食事は1日の大きな楽しみになります。そのため、食事は必要な栄養の摂取という観点だけでなく、精神的な豊かさという観点からも重要です。
美味しさだけでなく、見た目や食べやすさも食事の楽しみを左右します。さらに、咀嚼力(噛む力)や疾患など、体調に応じた形態の食事を提供してくれるかどうかも大切です。このように、生活の根幹をなす食事だからこそ、老人ホーム選びにおいては重視したいポイントです。
老人ホームにおける食事メニューの例
老人ホームで提供される食事メニューは、施設によって様々です。旬の食材を採り入れたり、豊富な選択肢から選ぶことができたりと、こだわりのあるメニューを提供しているところも多いです。ここでは、老人ホームにおける食事メニューの例をご紹介します。
通常時の献立
老人ホームでは、和食や洋食・中華など、バラエティー豊かなメニューが提供されます。食事は栄養士が管理しているため、栄養バランスに優れた食事を楽しむことができます。ここでは、通常時の献立例を朝・昼・夜ごとにご紹介します。
- . 朝食
例1ご飯・焼き魚・味噌汁・野菜炒め・漬物例2ロールパン・サラダ・スクランブルエッグ・フルーツヨーグルト - .昼食
例1ご飯・卵焼き・味噌汁・野菜炒め・フルーツ例2トマトスパゲッティ・サラダ・ヨーグルト例3焼きそば・しゅうまい・中華スープ・フルーツ - . 夕食
例1炊き込みご飯・焼き鮭・すまし汁・ほうれん草のおひたし・漬物例2ご飯・エビフライ・ポタージュスープ・サラダ例3ご飯・豚の角煮・中華スープ・野菜ナムル
老人ホームでのおやつ
老人ホームでは、朝・昼・夜の食事だけでなく、おやつの時間も用意されています。おやつとしては、バナナやりんごなどの果物、咀嚼しやすいプリンやゼリー、柔らかくて食べやすい蒸しパンやケーキ、馴染みのある和菓子などが提供されます。
おやつには、食事だけでは足りない栄養を補ったり、水分補給を促す効果もあります。また、甘いものを食べることでリラックスでき、他の入居者とのコミュニケーションを促進させることもできます。老人ホームでのおやつは、生活にメリハリを与え、大きな楽しみとなります。
イベント時の献立
老人ホームの中には、季節やイベントに合わせて「行事食」を提供しているところも多いです。行事食では、旬の食材を使ったり、イベントならではの食事を提供することで、季節感を味わいイベントへの楽しみを増幅させます。例えば、以下のような行事食が提供されます。
- 1月:お節料理や七草粥
- 2月:恵方巻き
- 8月:屋台料理
- 12月:クリスマスのケーキ
老人ホームで提供される食事の形態
老人ホームでは、入居者の体調や身体状況に応じて、大きく3つの形態の食事が提供されます。
- 普通食
- 介護食
- 治療食
普通食
普通食とは、一般に提供される定食やプレートなどの食事のことです。最近では、和食や洋食、中華などのバラエティ豊かなメニューの中から好きなものを選べる施設が増えています。季節の食材やメニューを取り入れたり、食器や盛り付けにこだわったりと、入居者が食事を楽しめるよう工夫されています。
介護食
介護食とは、入居者の咀嚼力(噛む力)や嚥下能力(飲み込む力)に合わせて食感や食べやすさを調整した食事のことです。以下、代表的な介護食の種類です。
- . ミキサー食:ミキサーですりつぶすことで、食べやすい液状にしたもの
- . きざみ食:ペースト状にすることで、あまり噛まなくても食べられるようにしたもの
- . とろみ食:片栗粉や葛粉などでとろみをつけ、飲み込みやすくしたもの
- . ソフト食:やわらかく調理することで、あまり噛まなくても食べやすいようにしたもの
- . ゼリー食:ペースト状にしたものにゼラチンや寒天などを加えてゼリー化することで、喉の通りを滑らかにし、なるべく美味しく食べられるよう工夫されたもの
治療食
治療食とは、持病や体調に合わせて工夫された食事のことです。塩分を控えめにした「減塩食」、食物繊維を豊富に含み脂質を減らした「糖尿病食」、アレルギーに対応した「アレルギー食」などが該当します。治療食でも他の入居者と同じように食事を楽しめるよう、使用する食材や味付けを工夫している施設が多いです。
老人ホーム独自の食事のこだわりも要チェック
食事は生活の質を左右する重要なポイントです。そのため、施設によって独自のこだわりを持って食事を提供しているところもあります。充実した食生活を実現するために、ぜひ施設独自のこだわりにも注目してみてください。
食べたいものを自由に選択できるセレクト食
老人ホームでは、栄養士の管理のもと栄養バランスに優れた食事をとることができます。しかし、メニューが決められている場合は、 入居者が食べたいものを自由に食べることが難しい、という難点があります。
そのため、老人ホームの中には豊富なメニューの中から自由に選択できる「セレクト食」を採り入れているところがあります。例えば、「和食・洋食・中華」「魚・肉」「米・パン」のように、入居者がその時食べたいものを自由に選択できます。
作り手が見える工夫
老人ホームの中には、栄養士や調理師を紹介するパンフレットを配布したり、 生産者の顔が見えるポスターを掲示したりと、作り手が見える工夫を行っているところもあります。また、イベント時に調理師が目の前で調理し、 できたてを提供するライブ形式を行う施設や、栄養士や調理師と入居者が直接接する機会を設けている施設もあります。
そのため、老人ホームの中には豊富なメニューの中から自由に選択できる「セレクト食」を採り入れているところがあります。例えば、「和食・洋食・中華」「魚・肉」「米・パン」のように、入居者がその時食べたいものを自由に選択できます。
このように作り手が見える工夫をしている施設なら、安心して食事を楽しむことができます。
老人ホームにおける食事介助・リハビリ
食事介助とは、自力で食事をするのが困難な方に対して、職員が食事を介助するサービスです。単に食べる介助だけではなく、口腔や腸など食事に関係する機能の維持・向上や、柔らかさや細かさなどご本人が食べやすい形態に合わせた食事を提供することも、広い意味で食事介助に含まれます。食事前に顔や首の筋肉をほぐしたり鍛えたりすることで、食べ始めの誤嚥を防ぐ「嚥下体操」を行うところも多いです。
また、使いやすい食器や椅子などを活用して、自ら食事ができるようサポートする「生活リハビリ」が行われているところもあります。生活リハビリは、日常生活における動作そのものをリハビリと考え、自力で行えるようサポートすることです。
このように、老人ホームでは入居者が食事を楽しめるよう工夫したり、自力で食事ができるようサポートしたりすることで、入居者の日常生活を支えています。
老人ホームにおける食事代
食事代は、基本的には月額費用の一部として請求されます。食費には、食材にかかる費用や厨房の維持管理費が含まれます。食事を外部機関に委託している場合は、その費用も含まれます。
介護保険施設における食事代
介護保険の対象となる介護保険施設における食費は、1日3食分がかかります。そのため、例えば外泊で夕食を欠食した場合でも、3食分が請求されます。ただし、入院や長期の外泊などで数日間施設を離れる場合は、食事をストップさせれば請求されないことがほとんどです。
介護保険施設では、所得や資産などに応じて以下のように自己負担額の限度が決められています。
| 対象 | 日額 |
---|---|---|
第1段階 | 老齢福祉年金受給または生活保護受給者 | 300円 |
第2段階 | 年金収入等80万円以下 | 390円 |
第3段階① | 年金収入等80万円超120万円以下 | 650円 |
第3段階② | 年金収入等120万円超 | 1,360円 |
※出典:厚生労働省「 介護保険施設における食費・居住費」
また、介護保険施設にかかる費用の一部は、医療費控除の対象となります。食費も控除の対象となり、医療費として申告できるためぜひチェックしてください。
施設名 | 医療費控除の対象 | 対象外 |
---|---|---|
介護老人福祉施設 | 施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額の2分の1に相当する金額 | 日常生活費 特別なサービス費 |
特別養護老人ホーム | ||
指定地域密着型介護老人福祉施設 | ||
介護老人保健施設 | 施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額 | |
指定介護療養型医療施設 【療養型病床群等】 | ||
介護医療院 |
※出典:国税庁「 No.1125 医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」
民間施設における食事代
民間施設の場合は、事業所ごとに材料費や厨房維持管理費などを勘案して食費を設定します。定額で請求する施設や、日ごとに食費を算出して請求する施設など様々です。また、欠食した際は、多くの場合その分を差し引いた額が請求されます。
老人ホーム選びにおける食事のチェックポイント
前述の通り、老人ホーム選びにおいて食事は重要なポイントです。食事については、見学や体験入居時に確かめることができます。ここでは、食事について確認しておきたい5つのポイントをご紹介します。
- 食事の味・食べやすさ
- 食事の種類
- 献立の説明
- 食堂の環境・雰囲気
食事の味・食べやすさ
食事は生活において重要な役割を果たします。そのため、施設の食事が入居者ご本人の口に合うかどうかは大切なポイントです。味だけでなく、食器や盛り付けが工夫されているかどうかも確認するのがおすすめです。 また、介護食や治療食が普通食同様に美味しく食べやすいかどうかは、調理者の技量に左右されます。特にきざみ食やとろみ食などの介護食の場合は、食べやすさを重視しましょう。
食事の提供温度
提供温度が適切であるかどうかも大切です。作り置きで冷めた料理を提供するところより、出来立てをスピーディーに提供する施設の方が、食事サービスの質が高いと判断できます。
食事の種類
洋食・和食・中華やイベントに合わせた行事食など、食事のバリエーションが豊富であるかどうかも確認しましょう。豊富なメニューから選べる施設なら、毎日の食事がマンネリ化せず、生活の楽しみになります。 また、疾患や身体機能に応じた適切な食事を提供してくれるか、急に体調が悪くなった際に食事内容を調整してくれるかなども確認しましょう。
献立の説明
献立が丁寧に分かりやすく説明されているかも重要なポイントです。料理名の後に食材や調理方法などが書いてあれば、馴染みのない料理でも味のイメージがわき、安心して食べることができます。 見学時に月間の献立表をもらい、献立の種類だけでなく、入居者のことを考えた親切な記載がしているかも確認しましょう。
食堂の環境・雰囲気
食事自体だけでなく、食事を楽しむ食堂の環境や雰囲気も重要です。照明は明るく清掃が行き届いているか、他の入居者が楽しく食事をとっているか、スタッフと入居者が十分なコミュニケーションを取りながら食事を楽しんでいるか、など、食堂の様子も確認しましょう。
味の好みや苦手なものは事前に伝える
味付けは濃いめが好き、生のトマトは苦手など、味の好みや苦手な食材は入居者によって様々です。入居前に味の嗜好を施設に伝え、理解してもらうことが大切です。 特に、アレルギーのある食材については命に関わるため、診断書や血液検査表と一緒に申告しましょう。また、歯の状態や咀嚼・嚥下能力についても相談することで、ご本人にあった食事を提供してもらうことができます。
飲食物の持ち込みに関して
食べ物や飲み物の持ち込みは制限されていることが多い
老人ホームで提供される食事以外に、好きな食べ物や飲み物を施設に持ち込んで食べたいと考える方も多いです。持ち込みの可否は施設によって異なりますが、食中毒の発症を防ぐため持ち込みを制限している施設が多いです。 飲食物を持ち込む際は、他の入居者に配慮し、賞味期限を管理する必要があります。また、ご家族が面会時に飲食物を持ち込む際は、食べ残したものはご家族が持って帰るのが一般的です。 食材が傷みやすい季節は持ち込みを禁止にしていたり、一切の持ち込みを禁止しているところなど、ルールは施設によって様々です。入居前に必ず確認しましょう。
まとめ
今回は、老人ホーム入居前に確認したい食事についてご説明しました。老人ホームでは、栄養バランスや味、種類など、入居者のことを考えた美味しい食事が作られています。施設での生活に楽しみをもたらす食事だからこそ、こだわって提供している施設を選ぶことが大切です。ぜひこの記事を参考に、食事の内容や献立について、入居前に確認してみてください。
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。