認知症の種類について解説!4大認知症の違いとは
認知症には、アルツハイマー型認知症や血管性認知症など、様々な認知症の種類があります。数多くの認知症が見つかり、名前のついていない症状のものまであります。一般的には、認知症と一括りでまとめて考えている人もいますが、認知症のタイプによって現れる症状や対応方法も変わるので、認知症の種類やタイプは知っておくと良いでしょう。
今回は、認知症の種類について紹介しています。認知症の種類を理解して、正しい対応を行えば、認知症の症状を予防できるかもしれません。ぜひ参考にしてください。
とぐち まさき
渡口 将生
認知症の種類はいくつある?
認知症は数多くあり対応方法は様々
認知症の種類は、まだ明確になっていないものなどを含めると70〜80種類あると言われています。
その中でも、最も有名なものは「アルツハイマー型認知症」です。「認知症=アルツハイマー型認知症」と認識している人も多いくらい、認知症の代名詞になっているといえるでしょう。
しかし、認知症は他にも種類があり、認知症の種類によって、症状や治療方法が違い、介護するにあたって対応方法も異なります。
日本において、1番多く確認されているのはアルツハイマー型認知症です。次に血管性認知症があります。また、比較的後発で見つかった症状から「レビー小体型認知症」や「前頭側頭型認知症」があります。
介護保険が始まった頃はアルツハイマー型認知症と血管性認知症のふたつしか見つかっておらず、2大認知症として呼ばれていました。そのため、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症については、知らない人も多いかもしれません。
現在では、これら4つの認知症を「4大認知症」と呼んでいます。
そもそも認知症とは
認知症は病気ではない
認知症は、脳の萎縮や脳への障害、そのほかの病気が起因して起こる症状を指します。記憶力の低下・判断力の低下・時間や季節がわからないなど、日常生活において様々な支障が出てきます。
2004年に「認知症」と呼ばれるようになりました。それ以前は、痴呆(ちほう)や痴呆症と呼ばれることもありましたが、痴呆は「偏見がある」という解釈のもと「認知症」と変更となったのです。
認知症に変更となった当初は、「症」という漢字がついていることで、「病名になった」と勘違いして認識する人が増えました。しかし、正確には病名ではなく、認知症特有の症状を指す言葉とされています。
基本的に認知症は進行性のもので、治ることはありません。しかし、認知症の種類によっては治療が可能なものや、症状の緩和ができるものもあります。まずは、認知症と一括りにせず、どのタイプの認知症なのかを知ることが、非常に大切です。そのため、早めに検査や確認をしておくと良いでしょう。ただし、アルツハイマー型認知症と血管性認知症を合併している場合もあるので注意が必要です。
日本において認知症の割合は?
アルツハイマー型が大半を占める
65歳以上の認知症の割合は、4〜5人に1人といわれています。超高齢社会となった日本において、高齢者の数はさらに増加することが予測されており、2042年にはピークを迎えるといわれています。年齢を重ねるごとに認知症の発症リスクが高くなることや、現段階で根治治療が難しいことから、認知症の割合はさらに増加する可能性があるでしょう。
認知症の種類別割合としては、アルツハイマー型認知症が約60〜70%、血管性認知症が約20%、レビー小体型認知症は約4%、前頭側頭型認知症は約0.5%といわれています。
男女比で見ると、65歳以上の発症割合は女性が約64%、男性が約36%です。65歳未満では、女性が約48%、男性が約52%といわれています。男性と女性の割合が、年を重ねることで逆転するという特徴があります。
今後も増え続けるであろう、認知症に対して理解をし、認知症になっても安心して生活できるような社会創りが大きな課題となるでしょう。しかし、高齢者が増える一方、少子化の影響もあり、介護の担い手が足りなくなるという大きな課題も残っています。
認知症の基本的な症状
基本的には記憶障害や認知機能障害が起こる
認知症の症状には、共通して基本症状にあたる「中核症状」があります。主に「記憶障害」「認知機能障害」「見当識障害」などの症状があります。中核症状の現れ方は、人それぞれありますが、ほぼすべての認知症の方が起こしている、または起こる可能性のある症状です。
例えば、記憶障害は、記憶力の低下や過去の記憶が抜け落ちる症状があります。日常生活において支障が出やすく、認知症の代表的な症状のひとつです。また、見当識障害として、時間・季節・場所・人の顔が認識できないといった症状が現れます。
記憶がなくなるといった認識だけでは、そのほかの症状に対して理解ができず困惑してしまうかもしれません。そのため、そのほかの症状についても理解をしておく必要があるでしょう。
また、中核症状とは別に「行動心理症状(BPSD)」といった症状もあります。認知症で悩む方の多くは、中核症状ではなく、行動心理症状(BPSD)で現れる症状に頭を悩ませています。
主な行動心理症状は以下の通りです。
呼称 | 症状 |
不安・うつ症状 | 不安が強い・閉じこもる |
焦燥感(しょうそうかん) | 焦りの気持ちで落ち着かない |
暴言・暴力 | 怒りっぽく攻撃的 |
介護拒否 | 援助を拒否 |
異食 | 食べられないものを食べる |
睡眠障害 | 夜間に覚醒して日中に寝る(昼夜逆転) |
帰宅願望 | 「家に帰る」と訴え続ける |
物とられ妄想 | 物を盗られたと騒ぐ |
弄便(ろうべん) | 便を壁や布団につける |
徘徊 | 歩き回る |
幻視 | 実際にはないものが見える |
幻聴 | 実際にはない音や声が聞こえる |
これらの行動心理症状は、症状が現れる方と現れない方がいます。その差は、環境と心理が大きく関係しています。中核症状は共通して現れますが、環境によって行動心理症状につながるかどうかが決まるのです。この環境には、場所はもちろん、関わる人たちの影響が大きいと考えられます。
記憶障害が起こっている中、周りの人たちが理解を示さず、相手にしない・話を聞かない状況だったとすると、不安は余計に強くなり、混乱や焦燥感につながってしまいます。反対に、本人を理解し、不安な状態を緩和することで、行動心理症状を抑えることができます。
認知症の種類別に特徴を比較
4大認知症を比較
認知症でみられる特徴や症状を以下の表でまとめています。様々な症状により、日常生活に支障をきたす場合があるので、理解しておくと良いでしょう。
アルツハイマー型認知症 | 血管性認知症 | レビー小体型認知症 | 前頭側頭型認知症 | |
割合 | 約60% | 約20% | 約4% | 約0.5% |
主な症状 | 記憶障害 認知機能障害 | 記憶障害 障害部位によって異なる認知機能障害 | 記憶障害 認知機能障害 パーキンソン症状 | 記憶障害 自己中心的な行動 社会的に認められない行動 |
特徴 | 女性に多い | 男性に多い | 男性に多い傾向 | - |
初期症状 | もの忘れ | もの忘れ | 妄想・幻視 パーキンソン症状 | 同じ動作を繰り返す 無頓着 |
中核症状 | 記憶障害 見当識障害 失行・失認 理解力の低下 判断力の低下 言語機能の低下 | 記憶障害 見当識障害 失行・失認 理解力の低下 判断力の低下 | 記憶障害 見当識障害 理解力の低下 判断力の低下 パーキンソン症状 | 記憶障害 見当識障害 理解力の低下 判断力の低下 |
行動心理症状 | 徘徊 被害妄想 情緒不安定 不潔行為 異食 収集 介護拒否 昼夜逆転 | 情緒不安定 自発性の低下 | 幻覚 妄想 作話 興奮 自発性の低下 | 万引き 無関心 身勝手な行動 感情の鈍麻 |
人格の変化 | 元々おとなしい性格だった方が多弁になる | 怒りっぽくなる場合がある | 大きく変化がみられる人格の変化 元々おとなしい性格だった方が多弁になる 怒りっぽくなる場合がある | 初期より、社会的欠如がみられる場合もある |
病気の自覚 | 早期からあまりない | 自覚している傾向 | 早期からない | なし |
記憶力 | 徐々にまんべんなく低下する | 一部分のみ低下 | 進行によって著明に現れる場合がある | あまり変化が見られない場合もある |
身体に起こる症状 | - | 歩行障害 運動麻痺 転倒 | パーキンソニズム | - |
経過 | 記憶障害がおこり徐々に進行していく。急激に進行する場合もある。 | 病気や脳の状態によって引き起こされるが、治療を行なうことで緩和される場合もある。 | 状態が良いときと悪いときがある。日内でも変動が起こる。 | 進行は比較的ゆっくり進む。 |
年齢や男女別でも発症の特徴があります。また、人格の変化や発症後の進行にもそれぞれの特徴がみられます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、最も認知度の高い認知症です。ゆっくり進行していくため、初期症状では単なる物忘れ程度にしか認識できず、発見が遅くなる傾向にあります。対応によっては、穏やかに過ごされる方も多くおられます。対応方法としては、見当識障害や認知機能低下による日常生活の支障をサポートしていく体制が大切です。
血管性認知症
脳血管性障害から発症する認知症で、他の病気を起因として起こる認知症です。もの忘れや理解力の低下などの症状から、日常生活に支障が生まれます。急激な進行もあるので注意が必要です。男性に多い傾向で、人により怒りっぽくなります。原因となる病気を治療すると症状の改善が期待できる認知症です。
レビー小体型認知症
見えないものが見えたり、聞こえたりする幻視や幻聴が症状としてあります。そのため、周囲の人に理解されにくく、関係性を悪化させてしまう可能性があります。手足の震え・歩き出しの一歩目が出ない・小刻み歩行などのパーキンソン症状が特徴です。
前頭側頭型認知症
スムーズに言葉が出てこない、言い間違い、感情が抑えられないなどの症状が現れます。社会的逸脱した行動が特徴で、万引きや子どもに手をあげるなどの行動がみられる場合もあるので注意が必要です。元々の人間性から大きく変化がみられ、人が変わったように感じる場合もあります。
「認知症」とだけ診断を受けている人も多いので、種類などもハッキリと理解しておくように注意しましょう。若くても発症してしまう若年性認知症もあるので、若い世代でも上記のような症状を感じた場合は、専門の医療機関に相談してください。
若年性認知症とは
若くして発症する認知症
40~64歳に発症する初老期認知症と、18~39歳に発症する若年期認知症を総称して「若年性認知症」と呼びます。発症要因には様々なものがあります。基本的な症状は、前述してきたような老年期(65歳以上)認知症と大きく変わりません。
しかし、老年期認知症に比べ、仕事への支障や家族への負担も大きくなります。本人のストレスも大きく、精神疾患を併発させてしまう可能性もあります。また、家族や周囲のショックも大きいでしょう。仕事ができない・介護が必要となると、経済的な負担を感じる方も少なくありません。
さらに、認知機能が低下しても、身体的な機能を高く維持しているため、はがゆく感じる場面や、介助する側にもやりにくさを感じるケースもあります。
まだ専門の受け入れ先も少なく、サポート体制が整っていないという現実もあるので、さらに不安に感じるでしょう。現在、日本には約4万人の若年性認知症の方がいると報告されています。
予防や治療が可能な認知症
病気が原因で発症する認知症は治療・改善可能な場合がある
様々な症状が原因で起こる認知症に関しては、原因の疾患を治療していくと症状の予防や進行を止めることが可能です。
治療可能な認知症には「脳腫瘍」「硬膜下血腫」「水頭症」などの脳の病気が原因で発症する認知症があります。また、アルコール依存で起こるアルコール性認知症、甲状腺機能低下症が原因で起こる認知症があります。これらの認知症は、治療していくことで、症状を安定させる効果が期待できるでしょう。
例えば、正常圧水頭症や頭部打撲などで起こる脳出血は、脳外科手術が可能です。治療を行なうことで、認知症状が改善される場合もあります。他にも甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンを補充、ビタミン欠乏症はビタミンの補充をすることで、認知症の改善が期待できます。
しかし、治療が必要なものは、早期発見が大切です。異変を感じたら、できるだけ早く専門医に受診するようにしましょう。
認知症が進行するとどうなる?
進行しても大きく変化なく過ごされる方もいる
認知症は進行性のもので、徐々に記憶力の低下・判断力・見当識障害→記憶力・判断力の低下、見当識障害などがすすみ、日常生活への支障も増えてくるでしょう。認知症の進行スピードは、認知症のタイプや環境などにより大きく変わります。しかし、環境によっては、急激に進行していくこともあるので注意が必要です。
また、認知症の特徴には、環境に適応しにくいという特徴があります。引っ越しやパートナーの死別などで大きく環境が変わると対応できず、混乱してしまう傾向にあります。できる限り、住み慣れて顔なじみがいる環境で過ごせるような配慮が必要です。
認知症が進行していても、落ち着ける環境があれば、穏やかに生活されている方もいます。まずは早期発見に努め、発症後は安心できる環境を作っていくことが大切です。
認知症の中で最も多いとされるアルツハイマー型認知症は、時間をかけてゆっくりと進行するタイプです。症状は8〜10年くらいをかけて徐々に悪化していきます。初期症状としてもの忘れが見られ、人や物の名前を思い出せないなどの症状が、目立つようになるでしょう。症状が進行すると、ひどいもの忘れや理解力の低下、さらには行動心理症状などが現れて介護なしでは日常生活を送ることが難しくなります。
認知症の対応方法とコツ
基本的な対応は一緒
認知症の対応はどの症状でも基本的には一緒と考えられます。理由としては、認知症の基本症状である中核症状には、記憶障害や判断力の低下があるからです。
まずは、これらの症状に対して柔軟に対処していくことが大切です。認知症を支援する側は不安や戸惑いがあり、スムーズに対応できない場合もあります。認知症である本人が一番不安や戸惑い、混乱しているのです。相手の立場に立って考え、できる限り不安や戸惑いを取り除ける環境を目指すと良いでしょう。
種類によっては、なかなか理解しにくい症状が現れることもあります。一人で抱え込まず、ほかの家族・友人・専門職の力を借りて、自身の精神的負担の軽減にも気をつけておきましょう。介護疲れによって心身に支障が出る方も少なくありません。
「~するべき」という固定概念をなくすことで、大きな効果が期待できるかもしれません。「~するべき」という考え方は柔軟な発想や気持ちの余裕をなくしてしまいます。広い心で受け入れる精神状態を保ち、認知症状に対して穏やかに対応していくことで、認知症の方も「安心」と感じ、認知症状も落ち着く場合があります。
まとめ
認知症は、様々な症状があり、現れる症状にも違いがあります。ひとつずつ対応するのは難しいかもしれませんが、中核症状を理解して対応することが大切です。
認知症の中には、治療可能なものや対応ひとつで、症状が軽減するものもあるため、必要な知識は、本記事を通して確認しておくと良いでしょう。
認知症になると「すべてのことを忘れる」「どうせわからない」からと適当にあしらう方もおられますが、嫌な気持ち・感情は残ります。嫌な気持ちが頭に残ると、行動心理症状や対応困難な状態になってしまう場合があるので注意しましょう。
認知症により不安を感じている本人に、安心してもらうためにも、関わる人達が精神的な余裕を持ち接していくことが大切です。ぜひ今回の記事が認知症理解のお役に立たれば幸いです。
介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。