老人ホームの入居一時金とは?仕組みと目安の費用を紹介

老人ホームに入居する際には、一時金(前払金)が必要となります。この一時金は数百万円もの費用になるため、なぜ支払う必要があるのか疑問に感じている方もいるかもしれません。また、退去時に入居一時金が返還されると聞いたことがあるものの、返還条件がよくわからず困っている方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、老人ホームの入居一時金の必要性や、返還される仕組みについて解説します。高額な費用を納得して支払うためにも、ぜひ最後までご覧ください。

老人ホームの入居一時金とは?仕組みと目安の費用を紹介


老人ホームの入居一時金とは?


老人ホームの入居一時金とは入居時にかかる初期費用の一種で、前払い家賃としての性質を持ちます。数十年単位を想定した居住期間をもとに計算された家賃を支払うことになるため、数百万円もの高額な費用となることが特徴です。
そして家賃としての性質がある特性上、その老人ホームに住むほど、入居一時金は償却されていきます。もし退去時に償却されきれずに入居一時金が残っていれば、その残額が返還されることも知っておきましょう。(返還の仕組みについては、後ほど詳しく紹介します)

なお、入居一時金はあくまでも「家賃」としての性質を持つもので、家賃未払いなどに備えて預けることになる「敷金」とは異なる費用です。

すべての介護施設で必要な費用ではない

実は入居一時金は、すべての老人ホームで必要となるわけではありません。民間が運営する有料老人ホームであっても、入居一時金が0円の施設も存在します。通常は数百万円にもなる入居一時金が請求されないとなると、不思議と感じるかもしれません。
しかし、入居一時金はあくまでも「前払い家賃」としての性質が大きいため、老人ホームにとってただちに必要となる経費ではありません。(一時金の10〜30%程度は初期償却され、残額は5年〜15年かけて償却されるケースが多いです)

このため、初期償却を後払いにしても入居者を獲得したいと判断している老人ホームは、経営戦略の一つとして入居一時金を0円にしています。入居一時金が0円だからといって運営会社の経営が不安定になる可能性は低いため、安心してください。 

介護施設によって費用の幅が広い

さて、ここまで入居一時金は数百万円にもなると紹介してきましたが、実際には施設ごとに大きな差があります。数百万円の施設が多いですが、高級な設備を整えている施設などは数千〜数億円の入居一時金を設定していることもあるのです。反対に、入居者の初期費用を抑えるため、入居一時金を50万円以下にしている施設もあります。参考として、施設の種類ごとの入居一時金相場を見てみましょう。

介護付き有料老人ホーム

0~630万円

住宅型有料老人ホーム

0~46万円

健康型有料老人ホーム

0~1億円

これだけ幅があると、入居一時金は支払ったほうがいいのか、それとも低く抑えたほうがいいのか迷ってしまう方もいるかもしれません。基本的には、入居一時金を多く支払ったほうが、入居後の月々の支払い金額を抑えられます。一方、入居一時金を低く抑えると、月々の支払い金額が増えてしまう点は留意すべきでしょう。どちらもメリット・デメリットが存在するため、各個人の資産状況に応じて判断することをおすすめします。

 


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入居一時金が返還されるケース


記事冒頭で少し触れましたが、どのようなケースなら入居一時金が返還されるのか見ていきましょう。

早期に退去した場合

入居一時金は10〜30%程度が初期償却され、残額が5〜15年かけて償却されると紹介しました。もしこの償却期間中に早期退去した場合には、まだ償却していない費用が返還されることになります。ただし、償却期間や返還条件については、施設ごとにルールが異なるため注意してください。
介護が必要になったり亡くなったり、早期退去する可能性は誰にでもあります。万が一の場合に備えて、入居契約の前によく確認しておきましょう。

償却期間とは?

償却期間について、もう少し詳しく解説します。そもそも「償却」とは、使用期間に応じ分割して費用化していくことです。老人ホームの場合、高額な入居一時金を、想定入居期間に応じ分割して費用化していくことを指します。(なお、初期償却とは入居したタイミングで費用として計上することです)
この想定入居期間、つまり入居一時金を徐々に費用化していく期間が「償却期間」です。たとえば入居一時金が600万円、償却期間が5年だとしましょう。もし初期償却費用が100万円の場合、残りの500万円を5年かけて費用化していくことになります。
会計上、償却方法にもいくつか種類が存在しますが、老人ホームの償却は基本的に「均等償却(定額償却)」で計算されます。毎年同じ費用が均等に償却されるということです。つまり500万円を5年かけて費用化していく場合、1年間に100万円ずつ償却されていきます。
なお、この計算はあくまでも一例です。初期償却の額、償却期間、償却方法は施設によって異なるため、入居契約時に必ず確認しておきましょう。

返還金の計算方法

償却の仕組みが分かったところで、返還金の計算方法について解説します。返還金の計算式は次のとおりです。

入居一時金×(1ー初期償却率)÷償却期間 ×(償却期間ー入居期間)=返還金

式にすると複雑に感じるかもしれませんが、順番に見ていけば難しいことはありません。まず「入居一時金×(1ー初期償却率)」によって、初期償却後の残額を求めます。たとえば入居一時金が1,000万円・初期償却率が20%の場合、「1,000万円×(1ー20%)=800万円」が初期償却後の残額です。これを数年間にわたって償却していくことになります。
次に「初期償却後の残額」を「償却期間」で割ることで、1年あたりの償却額を求めましょう。もし償却期間が10年間の場合、「800万円 ÷償却期間10年=1年あたりの償却費用80万円」と計算できます。最後に、償却期間から入居期間を差し引き、償却しきれずに残っている入居一時金を求めれば、それが返還金です。入居期間が4年間の場合、「償却期間10年ー 入居期間4年=6年」分の金額が残っています。つまり「1年あたりの償却費用80万円×6年=480万円」が返還金ということです。

 

 

入居後すぐに退去する場合はクーリングオフの対象となる

償却期間中に退去する場合は、償却しきれていない残金が返還されます。しかし、もし事情により入居後すぐに退去することになった場合には、クーリングオフ制度が適用されることも知っておきましょう。
クーリングオフとは消費者を保護するための制度で、たとえ契約を結んだとしても、一定の期間内・条件を満たせば、違約金を支払わずに契約を撤回・解除できる制度です。有料老人ホームの場合は「短期特例解約」という制度が整備されており、契約から90日(3か月)以内なら、無条件で契約を解除できます。

「短期特例解約」の対象となる場合、初期費用から日割り賃料・食事代・水道光熱費・管理費を差し引いた額が返還されることが特徴です。初期償却などは適用されないため、入居一時金の大部分が返還されます。入居後にすぐ退去の必要性が生じてしまった場合には、「短期特例解約」を適用したい旨を施設側に伝えてみてください。

入居一時金の償却に関するチェックポイント


繰り返しとなりますが、償却期間や初期償却率は施設によって異なり、それによって返還金の額も異なります。ここまで紹介した要素をふまえ、あらためて入居一時金の償却に関するチェックポイントを見ていきましょう。

償却期間の設定

平均的な償却期間は5〜10年程度ですが、施設の種別によって異なることも知っておきましょう。要介護の方が入居する「介護付有料老人ホーム」の場合、想定される入居年数もそれほど長くないことから、償却期間は短めに設定されています。一方、「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」は自立した方の入居が前提であり、長期にわたって住み続けることが予想されるため、償却期間を10年以上に設定している施設も少なくありません。

償却される金額

入居一時金は前払い家賃としての性質を持つものの、その一部は「入居に伴う手数料」としての性質も持ちます。これが初期償却として費用化される部分です。初期償却率は10〜30%程度の施設が多いですが、0%の施設もゼロではありません。初期償却率は返還金を大きく左右する要素であるため、あらかじめ確認しておきましょう。

償却方法の種類

償却方法には「定額償却(均等償却)」と「定率償却」の2種類が存在します。「定額償却」は償却期間で入居一時金を均等に割り、毎年同じ金額を償却する方法です。償却する金額が500万円、償却期間が5年なら、毎年100万円ずつ償却されます。
「定率償却」は毎年の償却金額を、未償却残高に一定の償却率をかけて求める方法です。たとえば1年目の未償却残高が500万円、償却率が20%なら、償却金額は100万円です。そして2年目の償却金額は未償却残高400万円に20%をかけた80万円、3年目は未償却残高320万円に20%をかけた64万円と、段々1年あたりの償却金額が減っていきます。どちらの償却方法が採用されているかによって、返還金の計算が異なることには注意してください。

入居一時金の支払いパターン

入居一時金の支払いパターンには以下の3種類があり、それぞれメリット・デメリットが異なります。

比較対象

メリット

デメリット

全額前払い

入居後にかかる月額費用を減らせる

(入居後の老後予算を見通しやすい)

まとまった資金が必要

一部前払い

入居一時金0円と比べると、月額費用を抑えられる

全額前払いと比べると、総額が高い

月払い

(入居一時金0円)

まとまった資金が必要ない

長期的な支払い総額がもっとも高い

それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。

全額前払い

入居一時金として家賃全額を前払いすれば、入居後の家賃負担はありません。月額費用は管理費・食費などのみとなり、入居後の老後予算を見通しやすくなります。ただし数百万円ものまとまった資金が必要になることは、デメリットといえるかもしれません。入居一時金は退職金でまとめて支払い、月額費用は年金で賄っていくなど、計画的な資金計画を立ててみてください。

一部前払い

想定居住期間の合計家賃の一部を入居一時金として支払い、残りは月額費用として支払う方法もあります。全額前払いと比べると支払総額が高くなることはデメリットですが、入居一時金0円と比べると支払総額・月額費用ともに抑えられることはメリットといえるでしょう。

月払い(入居一時金0円)

家賃の前払いをせず、家賃相当額はすべて月額費用として支払っていくのが月払い方式、いわゆる入居一時金0円の方式です。まとまった資金を用意する必要がなく、手持ちの現金が少なくても老人ホームへ入居できることは大きなメリットといえるでしょう。
ただし家賃込みの月額費用を支払うことになるため、毎月の負担が増えることがデメリットです。また長期的に見ると、月払い方式のほうが全額前払い方式と比べて支払総額が高くなりやすいことも知っておきましょう。実は前払い方式の場合、たとえ想定居住年数より長く住み続けたとしても、追加の家賃が発生しない施設が多いです。しかし月払い方式で入居した場合は、施設に住み続ける限り家賃を支払わなければなりません。長期の入居を検討している場合は、月払い方式を選ぶべきか要検討です。

 


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入居一時金が必要な施設と0円の施設、どちらがお得?

ここまで紹介したポイントをふまえ、入居一時金が必要な施設と、入居一時金が0円の施設ではどちらがお得なのか考えてみましょう。結論としては、有料老人ホームに暮らす期間によって、お得になる方式は異なります。
単純に有料老人ホームへ支払う費用だけを比べると、全額前払い方式がもっとも総額を抑えられる方法です。ただし、全額前払い方式がお得になるのは、その施設に長期間入居し続けるケースに限ります。

たとえば数年以内に別の介護施設(特別養護老人ホームなど)への転居を考えている場合は、入居一時金を支払わず、手元に資金を残しておいたほうがいいでしょう。手元に資金を残しておけば、定期預金・債権などで運用することも可能です。
入居一時金が必要な施設と0円の施設のどちらがお得なのかについては、その入居者の置かれた状況によって異なります。将来設計の一環として、一度シミュレーションしてみてもいいでしょう。

 


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入居一時金に関するトラブル事例


入居一時金に関するトラブル事例としては、次のような例が挙げられます。

●     入居一時金を支払ったのに短期での退去を迫られる

●     退去に伴う返還金が思ったより少ない

●     返還金が支払われない

高齢になると、転倒など些細なきっかけで介護度が高くなってしまうこともあります。そして住宅型有料老人ホーム・健康型有料老人ホームは、基本的に自立した方を対象とした施設であるため、介護度が高くなると退去しなければなりません。高額な入居一時金を支払ったにも関わらず、介護の必要性が生じて短期での退去を迫られた場合、納得がいかない方もいるでしょう。
また、退去に伴う返還金が思ったより少なかったり、そもそも返還金が支払われなかったりした場合も、トラブルに発展してしまう可能性があります。不要なトラブルを防ぐためにも、契約時に渡される重要事項説明書をよく読み、入居一時金に伴う条件を漏れなく把握しておきましょう。

法改正により、入居一時金の保全措置が義務付けられている

かつては有料老人ホームの経営状況が悪化したり倒産したりした場合、償却期間内の退去にも関わらず返還金が支払われないというトラブルが発生していました。このようなトラブルを防ぐための法改正が施行され、2021年4月以降は原則として、入居一時金を設定しているすべての有料老人ホームで「保全措置」を講じることとなっています。

この法改正により、今では有料老人ホームが「全国有料老人ホーム協会」や「金融機関」などと保証契約を結んでいるため、たとえ施設が倒産してしまったとしても保証限度額までの返還金は支払ってもらえることがポイントです。(なお、保証限度額は500万円までとされています)
すべての有料老人ホームが保全措置を講じているはずですが、契約書・重要事項説明書にその旨が記載されているかどうか、必ず確認しておきましょう。

 

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入居者が亡くなった場合、返還金は誰が受け取る?

未償却の入居一時金がある状態で入居者が亡くなった場合、相続人が返還金を受け取れます。ただし返還金も相続財産として扱われ、相続税の課税対象額に参入する必要があるため注意してください。(返還金はそのままの評価額で資産計上します)
なお、返還金を受け取ったからといって、必ずしも相続税が発生するとは限りません。原則としては、返還金を加えた相続財産(課税価格の合計額)が、相続税の基礎控除額(3,000万円+ 600万円 × 法定相続人の数)を超えた場合に相続税申告が必要となります。具体的な手続きについては、税理士に相談するようにしてください。

贈与税がかかるケースもある

入居者と入居一時金負担者が異なる場合、贈与税が課税されるケースもあるため注意しなければなりません。たとえば妻の入居一時金を、夫が負担するケースなどです。その入居一時金が「扶養義務者相互間の生活費の贈与」に該当すれば、贈与税は非課税です。しかし通常の生活費を超える程度、たとえば高級な老人ホームに入るための費用であると判断されると、贈与税の課税対象となります。実際の裁判例を見ると、入居一時金が約900万円のケースでは贈与税が非課税とされたのに対し、入居一時金が1億円以上のケースでは贈与税の課税対象とされた例が存在します。

また、もし入居一時金が贈与の対象であり、妻が老人ホームに入居後に夫が亡くなった場合、入居一時金そのものが夫の相続財産となることにも注意しなければなりません。贈与されてから3年以内に贈与者が亡くなった場合、贈与された財産が相続財産に加算されるためです。(令和6年以降の贈与財産は、期間が順次7年まで延長されます)
このように、入居一時金があまりにも高額だと、税金の計算が非常に複雑になることは覚えておきましょう。課税対象となるかどうかについては、税理士に相談してみてください。

入居一時金に関するよくある質問

それでは最後に、入居一時金に関するよくある質問について解説します。

●     入居一時金を償却したら追加支払いは必要?

●     入居一時金償却中に退去したら入居一時金は返還される?

これらの疑問を抱いている方は、ぜひ参考にしてみてください。

入居一時金を償却したら追加支払いは必要?

入居一時金が家賃の前払いである以上、もし償却期間が終了したら、そこから先は家賃を支払わなければならないと思っている方もいるのではないでしょうか。しかし全額前払い方式で入居一時金を支払っている場合、たとえ償却期間を超えて施設に暮らし続けたとしても、家賃の追加支払いは不要です。
そのため、償却期間よりも長期にわたって暮らし続ける可能性が高い場合、全額前払い方式で契約したほうがお得といえるかもしれません。ただし、全額前払い方式で契約したとしても、介護・入院のため退去する可能性もゼロではないでしょう。そのため判断が難しいですが、いずれにしても、入居一時金を償却したからといって追加の家賃が請求されることはないため安心してください。

入居一時金償却中に退去したら入居一時金は返還される?

入居一時金償却中に退去したら、先述した下記の式で求められる額が返還されます。

入居一時金×(1ー初期償却率)÷償却期間 ×(償却期間ー入居期間)=返還金

繰り返しとなりますが、初期償却率と償却期間に明確な決まりはありません。初期償却率は10%〜30%程度、償却期間は5年〜10年程度が一般的ですが、この範囲から外れる施設もあるため、契約前に必ず確認してください。

まとめ

老人ホームに入居する際に発生する一時金(前払金)は、その大部分が前払い家賃としての性質を持ちますが、一部は入居に伴う費用として初期償却されます。初期償却されなかった部分についてはあらかじめ定められた期間に応じて徐々に償却されていき、もし全額前払い方式で入居一時金を支払っている場合には、たとえ償却期間を過ぎても追加の家賃を支払う必要はありません。
そのため、長期にわたる入居を予定している場合には、入居一時金を支払ったほうが支払総額を低く抑えられるでしょう。もし介護・入院などに伴い、予定より早く退去する場合には、未償却残高が返還されるため安心してください。
ただし、数百万円ものまとまった資金を用意することが難しい方もいるでしょう。入居一時金が0円、もしくは50万円以下の低額に設定されている施設もあるため、ぜひスマートシニアで希望に合う有料老人ホームを探してみてください。スマートシニアではエリアごとに、入居一時金の上限額を決めて施設を検索することも可能です。

 


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