親の自宅を代わりに売却する2つの方法と税金・注意点を解説

親御さんが施設に入居し、自宅に住む人がいなくなる場合の方法として、自宅売却があります。しかし、親御さん自ら自宅の売却手続きを行うことが難しいこともあります。親御さん名義の自宅であっても、ご家族が代わりに売却することが可能です。

今回は、親御さん名義の自宅をご家族が代わりに売却する方法や、自宅売却にかかる税金・税負担を減らす特例や注意点などを解説します。

この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

親御さんが施設に入居するなら、自宅売却を検討する

自宅売却のタイミングをのがさない

親御さんが高齢者施設に入居することで実家に住む人がいない場合、自宅の売却を検討する方が多いです。空き家のままでは防犯上のリスクがあり、固定資産税もかかります。また、売却することで得たお金を、医療費や生活費に充てることもできます。

しかし、売却には時間と手間がかかります。そのため、健康面・体力面の問題から、ご本人が売却に賛成していても、売却手続きを行うことが難しいケースもあります。その場合は、ご家族が代わりに売却することも可能です。

ご家族が親御さん名義の自宅を売却する際は、「任意後見」を使用する方法と「法定後見」を使用する方法の2つがあります。

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委任状を使って売却する「任意後見」

ご本人に家を売却する意思が確認できる場合は、委任状を用意してご家族が代理人となり家を売却することができます。この場合の代理人を「任意代理人」と呼び、任意代理人はご本人が任命する必要があります。そのため、認知症などでご本人の意思能力が不十分と判断される場合は、たとえ委任状があっても手続きが無効になります。

委任状のフォーマットに決まりはないため、手書きあるいはパソコンで作成可能ですが、以下の必要事項を記載する必要があります。

  • 委任者と受任者の氏名・住所
  • 限定した委任事項
  • 委任した日付
  • 実印と印鑑証明の添付
委任者と受任者の氏名・住所

委任状において、ご本人は「委任者」、代理人は「受任者」と呼びます。委任者と受任者を特定するため、氏名と住所を記載する必要があります。

限定した委任事項

委任事項とは、委任者が受任者に依頼する内容のことです。対象となる物件や売買契約における条件、売買金額や引渡し時期などを細かく限定します。このとき「一切の件を委任する」と記載した場合、受任者の権限範囲が無限となり、トラブルを引き起こす可能性があります。そのため、委任事項については詳細に記載し、限定することが大切です。

委任した日付

委任した日付を記載することで、代理権が発生した日を特定し、契約の有効性を証明します。

実印と印鑑証明の添付

委任状には実印を用いるのが一般的です。実印を用いる際は、発行から3ヶ月以内の印鑑証明書を添付しましょう。なお、委任事項の修正に備えて捨印を押してはいけません。捨印とは、あらかじめ委任事項の訂正に備えて、委任状の余白部分に行う押印のことを指します。捨印を押すと、後で受任者が勝手に売買条件を変更できてしまうため、委任状が無効となります。

不動産会社や買主による確認

委任状提出後、委任者に売買の意思を確認します。不動産会社や買主などが本人と面談を行い、本人確認と売却の意思を確認した後、正しい委任状に基づく正当な取引であるかチェックします。

委任状以外に必要な書類

委任状や印鑑証明書以外に、以下のような書類が必要になります。

  • 委任者(親御さん)の本人確認書類
  • 委任者(親御さん)の住民票
  • 受任者(ご家族)の本人確認書類

住民票は、住民登録している市区町村の役所で、本人確認書類持参のうえ交付申請をすることで取得できます。また、マイナンバーカードや住民基本台帳カードがあると、コンビニでも取得することができます。

親御さんの代わりにご家族が代理人として申請・取得する場合、同じ世帯の方なら本人確認書類のみで取得できますが、別世帯であれば委任状が必要になります。

ご本人の意思能力が不十分な場合は「法定後見」

認知症を患っているなどご本人の意思能力が不十分であると判断される場合は、法定後見制度を利用する必要があります。

法定後見制度は、判断能力が低下した方を保護するために、家族が裁判所に申し立て、裁判所が後見人を任命する制度です。法定後見人には、ご家族が任命されるとは限りません。弁護士や司法書士などの第三者が任命される可能性もあります。任命された法定後見人は、必要に応じて不動産の売却や入院手続きなどを行うことができます。

法定後見制度における3種類の代理人

法定後見制度における代理人は、ご本人の状況に応じて以下の3種類に分類できます。不動産取引においては、役割によって代理人が行う支援が異なります。

  • 後見人
  • 補佐人
  • 補助人

後見人

後見人は、判断能力が全くない方を支援する役割を担います。不動産取引の際は、後見人が法定代理人として取引を行う必要があります。

補佐人

補佐人は、判断能力が著しく不十分な方を支援する役割を担います。不動産取引の際は、補佐人が同意する必要があります。

補助人

補助人は、判断能力が不十分な方を支援します。この場合、本人の法律行為は制限されていないため、不動産取引の際は、補助人の同意が必要と判断されている場合のみ同意が必要となります。また、補助人に特定の法律行為に関する代理権を与えると判断されていない限り、補助人本人の代わりに法律行為を行うことはできません。

法定後見を利用する際の注意点

法定後見人を利用する際の注意点は、第三者が後見人に任命された場合は報酬が発生することです。ご本人が亡くなるか意思能力が回復するまで、法定後見人としての役割を担い続けるため、報酬の支払いが必要です。

また、居住用の不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。居住用不動産は、ご本人にとって重要な財産であるとみなされるため、裁判所の許可なく結んだ売買契約は無効となります。

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自宅を売却する際にかかる税金

自宅を売却することで収益を得ることができますが、一方で税金もかかります。自宅を売却する際に生じる税金は以下の通りです。

  • 譲渡所得税:不動産を売って得た利益(譲渡所得)にかかる税金。また、譲渡所得によって税率が変化する住民税の総称。
  • 印紙税:売買契約書に貼る印紙にかかる税金。
  • 登録免許税:不動産登記で、名義変更手続きをする際にかかる税金。

ここでは、税額が最も大きい譲渡所得税について解説します。

譲渡所得税の算出方法

譲渡所得税は、「譲渡所得額×税率」で計算できます。

譲渡所得額は、譲渡価額(売却額)から取得費(不動産を取得した費用から減価償却費を引いたもの)と譲渡費用(仲介手数料や印紙税など、売却にあたってかかった費用)を引くことで求められます。

また、税額は不動産の所有年数によって変わります。

所有期間
税率
5年超え(長期譲渡所得)
15%(復興特別所得税を含めると15.315%)
5年以下(短期譲渡所得)
30%(復興特別所得税を含めると30.63%)

このように、不動産を5年より長い期間所有しているか否かで、税率が大きく変わります。

譲渡所得税の算出シミュレーション

具体例を用いて、譲渡所得税の算出をシミュレーションしてみましょう。

譲渡価額:   3,000万円

所得費用:   300万円

譲渡費用:   100万円

所有期間:   6年

この場合、譲渡所得額は以下のように計算できます。

3,000万円(譲渡価額)-300万円(取得費)-100万円(譲渡費用)=2,600万円(譲渡所得額)

所有期間は6年なので、税率は15%となります。そのため、譲渡所得税は以下のように計算できます。

2,600万円×15%=390万円

このように、譲渡所得税は390万円と計算できました。

ちなみに、所有期間が5年以下の場合、譲渡所得額は780万円となります。

つまり、所有期間が5年弱の場合に物件の売却を検討している方は、5年を超えてから売却した方が税負担を押さえられるということが分かります。

取得費が不明な場合はどうするか

親御さん名義の自宅を売却する際、購入時の価格がわからず取得費を計算できない場合があります。購入時の価格は売買契約書や領収書などに記載されていますが、不明な場合、取得費を売却価額の5%とみなして計算できる「5%ルール」が適用されます。

ただし、5%ルールを適用すると、多くの場合取得費が安くなり、譲渡所得税が大きくなってしまう点に注意が必要です。

売却にかかる税金は誰が払うか

課税対象となるのは物件の所有者、つまり名義人です。そのため、親御さん名義の自宅を代わりに売却しても、税金を支払う義務は親御さんに生じます。

譲渡所得税に関する優遇制度

譲渡所得税には、特例として税負担が軽くなる優遇制度があります。ここでは2つの特例をご紹介します。

3,000万円特別控除の特例

この特例では、居住用財産を売却した際の譲渡所得が3,000万円までの場合、要件を満たすことで、譲渡所得税が非課税となります。

特例を受けるためには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 以前に住んでいた家屋や敷地の場合、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売った年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと
  • 売り手と買い手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと

出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

例えば、5年前に両親が施設に入居し、自宅を空けている場合は、この特例は適用されません。

軽減税率の特例

この特例では、居住用財産を売却した際の課税譲渡所得が6,000万円以下の部分について、要件を満たすことで、所得税率が10%に軽減されます。課税譲渡所得とは、譲渡所得から特別控除分を引いたものです。

例えば、課税譲渡所得が6,000万円の場合は、特例を受けることで税額は600万円となります。

課税譲渡所得が7,000万円の場合は、6,000万円以下の部分に軽減税率が適用されるため、6,000万円×10%+1,000万円×15%=750万円

と計算できます。

特例を受けるためには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 以前に住んでいた家屋や敷地の場合、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
  • 売った年の1月1日において、売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること。
  • 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと。 出典:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例

また、3,000万円控除の特例と軽減税率の特例は併用することができます。

親御さんの自宅を売却する際の注意点

親御さん名義の自宅を売却する際、トラブルを防ぐために2点注意が必要です。

契約不適合責任

自宅を売却する際、売り手は「契約不適合責任」を負います。売買契約の際に、買い手に説明していなかった不具合が見つかった場合、売り手がその責任を負います。契約解除や損害賠償請求につながる可能性もあります。不具合の例としては、「雨漏り」「土壌汚染」「事故や事件があった事実」「シロアリ被害」などが挙げられます。親御さん名義の自宅を売却する際は、不具合について説明漏れがないよう、注意が必要です。

親戚とのトラブル

親御さん名義の自宅を売却する際、事前に親戚に報告・相談せずに売却することで、トラブルになる可能性があります。売却には金銭が関わるため、事前に親族の同意を得るようにしましょう。事前の報告・相談に加え、売買に関する書類を保管しておくことが大切です。

まとめ

この記事では、親御さん名義の自宅を売却する方法と売却にかかる税金、税負担を減らす特例と注意点について解説しました。親御さんの自宅をご家族が売却する際は、準備や手続きが必要になります。計画的に取り組みましょう。また、契約が無効になったり、トラブルが起きたりするリスクを軽減するためにも、売却時の注意点を正しく理解することが大切です。この記事が、親御さんとご家族のお話し合いのきっかけになれば幸いです。

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