ホスピス入門|家族に適した療養先を見つけるために知っておくべきこと
「ホスピスはどんなサービスが受けられるの?」「自宅でも受けられるホスピスがあるってほんと?」ホスピスに対して、このような疑問はありませんか?
ホスピスとは、終末期にある患者に対して、身体的な苦痛だけでなく、心理的・社会的・精神的なサポートを提供する総合的なケアのことです。家族がそばで手を差し伸べるように、ホスピスケアは人生の最期を温かく見守り、患者が自宅や施設で快適に過ごせるよう、個別のニーズに合わせたケアの提供が特徴です。
本記事では、ホスピスの目的やケアの方法、在宅で受けるホスピスケアについて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
とぐち まさき
渡口 将生
ホスピスとは
終末期をサポートする総合的な支援
ホスピスとは、がんなどで終末期にある高齢者や患者が、残された人生をより良いものにするための支援を受けられる施設やサービスのことです。単に患者の療養だけではなく、患者と家族の心のケアも重要視されます。
痛みや不快な症状を和らげる緩和ケアとともに、心理的・社会的・精神的なサポートも提供されています。
ホスピスの主な目的は、以下の通りです。
目的 | 詳細 |
症状の緩和 | 病気による痛みや他の不快な症状を和らげる。 |
心理的支援 | 亡くなる方自身の不安や、家族の不安に対し、相談や支援を通して心理的な苦痛を軽減する。 |
社会的支援 | 亡くなったあとの、手続き関係、財産などの社会的な問題や不安の相談を受ける。 |
精神的支援 | 患者の希望に沿って、精神的な安らぎを提供するケアを行い人生の最期を迎える準備をする。 |
ホスピスの利用には、以下のような条件があります。
【ホスピスの対象者】
終末期のがん患者
末期の慢性疾患を持つ患者
一般的な治療では症状の緩和が難しい患者
目的が延命ではなく、生活の質の向上にある患者
ホスピスでは、医師・看護師・社会福祉士・心理カウンセラーなどの専門スタッフが、チームで提供する総合的な支援です。患者の尊敬を保ちながら自宅やホスピス施設で最期を迎えられるよう、一人ひとりの状態に合わせた個別プランに基づいて支援を提供します。
また、患者の快適性や家族のケアも大切な要素で、積極的なコミュニケーションを図り、共感を持った関わりを通じて、心の準備をサポートします。
緩和ケア・ターミナルケアとの違い
同様なケアを行うが対象者が異なる
終末期の患者に対するケア方法には、「緩和ケア」や「ターミナルケア」と呼ばれるケア方法があります。ホスピスで行われるケアとは異なる点があるため、それぞれの特徴を確認していきましょう。
【緩和ケア】
緩和ケアは、末期がんや重篤な慢性疾患を持つ患者に対し、症状の緩和と生活の質の向上を目指すケアです。末期疾患の患者だけでなく、治療中の患者も含まれます。
痛みや不快感の軽減を目的に行われ、心理的なサポート・社会的支援なども含まれ、ホスピスで行われるサービスと緩和ケアには、大きな違いはありません。
【ターミナルケア】
ターミナルケアは、亡くなる数週間前から数ヶ月にわたり、尊厳ある最期を迎えるために提供されるケア方法です。余命が限られ、積極的な治療の対象外となった方が対象になります。
ケアの内容には、痛みのコントロール・精神的なサポート・家族のケアなどが含まれます。
それぞれをまとめると以下の通りです。
ホスピスケア | 緩和ケア | ターミナルケア | |
目的 | 患者の身体的な苦痛の緩和だけでなく、心理的・社会的・精神的なサポートも重視する点で共通 | ||
対象者 | 治癒が望めない患者 | がんと診断された終末期の患者 | あらゆる病気で治療が望めない終末期の患者 |
3つのケアは、基本的な目的は同じですが、提供される時期や対象者に違いがあります。
ホスピスケアを受けられる場所
ホスピスケアはさまざまな場所で受けられる
ホスピスケアは、終末期の患者に特化したサービスで、提供される場所は多岐にわたります。最も一般的なのは、病院にあるホスピス病棟ですが、介護施設や患者の自宅でもホスピスケアを受けることが可能です。それぞれ、患者のニーズや状況に合わせて異なる種類のケアが提供されます。
どの場所を選んでも、患者の身体的・精神的・社会的なニーズに対応するために、各専門分野のスタッフが総合的にケアを提供します。患者と家族の希望や状況に合わせて、どこでホスピスケアを受けるかが重要です。
メリット | デメリット | |
病院・施設 |
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在宅 |
|
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【ホスピス病棟】
病院内に設置されたホスピス病棟では、ホスピスケアに特化した環境とサポートが整っています。ホスピス病棟では、緩和ケアに加えて、必要に応じた医療サービスも受けられます。
【介護施設】
介護施設におけるホスピスケアは、主に特別養護老人ホームや有料老人ホームなどで提供されます。家庭的な環境で生活しながら、状況に応じて各専門職が必要な緩和ケアを提供します。施設の実情に合わせて行われるため、すべての介護施設で実施できる訳ではありません。
【在宅】
在宅ホスピスでは、患者が自宅で家族と共に過ごしながら、必要なケアを受けることができます。訪問看護師や医師、ソーシャルワーカーなどの専門職が定期的に訪問し、患者と家族に対してサポートを行います。在宅でのホスピスケアは、患者にとって馴染みのある環境で受けられるため、精神的な安定を期待できるでしょう。
病院や介護施設との違い
治療を行わず尊厳を重視したケアを提供
ホスピスは、一般的な病院や介護施設で提供されるケアとは大きく異なる点があります。病院では、治療を目的に入院生活を送り、治癒に向けたケアが提供されます。また、介護施設では、長期的な介護と生活支援に重点を置いたサービスが特徴です。
一方ホスピスでは、終末期にある患者の快適性と尊厳を重視したケアが提供されています。具体的には以下の通りです。
【治療は行わない】
ホスピスでは、病院の一般病棟のような積極的な病気治療は行われません。あくまでも患者の快適さと尊厳を保つことが大きな目的のため、抗がん剤の使用や手術などを行わない点に注意が必要です。
【余暇活動がある】
治療しない代わりに、イベントやレクリエーションなどの活動を行う事業所が多い傾向です。施設や事業所によって頻度や内容は異なりますが、終末期においても患者が安心できたり、楽しみを感じたりできる工夫が施されています。
【多職種が連携してサポート】
ホスピスでは、看護師や介護職員に加え、カウンセラー・ボランティアなどがチームとして患者をサポートします。各分野の専門職だけではなく、地域包括支援センターや地域住民なども含まれる場合があります。
【家族もケアに参加】
家族もケアに参加できるように、家族の宿泊設備を備える施設もあります。ただし、新型コロナウイルスの影響で一時的に使用を制限している場合があるため、利用を検討する方は施設に確認しましょう。
【個別ケアを重視】
ホスピスは患者が穏やかに過ごすことを目的としているため、より個別ケアを重要視します。季節のイベントやレクリエーションを行うこともありますが、参加は強制ではなく、本人の意向を尊重します。また、本人が判断できない場合は、家族や関わる専門職が状況に応じてどのように過ごすのが良いか検討します。
ホスピスで行うケア
「三段階除痛ラダー」から「鎮痛薬使用の4原則」に
ホスピスでは、日常的なケアや余暇活動のアプローチなどを行いますが、痛みに対しては投薬による緩和を図ります。投薬に関して、WHOからガイドラインが発表されており、2018年からは「鎮痛薬使用の4原則」として知られています。
【鎮痛薬使用の4原則】
WHOがん疼痛治療ガイドラインでは、がん疼痛マネジメントとして「鎮痛薬使用の4原則」が定められています。ホスピスにおいて重要な考え方になるため、確認していきましょう。
・経口投与を優先する
麻薬性鎮痛薬は、注射や点滴など様々な投与方法がありますが、最も手軽で広く対応可能な経口投与が推奨されています。例えば、消化管閉塞などで経口投与が不可能な場合、経皮投与や持続注射など、他の対応方法を検討します。
・時間を定めて投与
麻薬性鎮痛薬は、時間を定めて投与することが推奨されています。これまでは、痛みが発生した後に鎮痛薬を用いることが一般的でしたが、投薬時間を定めることで、痛みの予防と効果的な管理が可能になることが分かりました。
・患者個別の対応
がんの状態によって、痛みの感じ方は患者ごとに異なります。そのため、麻薬性鎮痛薬の量や種類は患者一人ひとりの状況に応じて調整する必要があります。また、副作用も個別に変わってくるため、注意が必要です。
・細やかな配慮
麻薬性鎮痛薬の副作用や特定の症状に合わせて、他の薬剤を調整することが求められています。便秘や嘔気があれば、症状を軽減できる薬を併用し、骨転移による激しい痛みがある場合は、非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)の使用が効果的です。ステロイドも症状緩和に役立つことがあるため、状態に合わせて検討していくと良いでしょう。
【三段階除痛ラダー】
2018年までは、「三段階除痛ラダー」という考え方が上記の4原則に加えられており、5原則として普及していました。
三段階除痛ラダーとは、痛みの程度に応じて、異なる強さの鎮痛薬を段階的に使用する対処法です。具体的には、軽度の痛みには麻薬性鎮痛剤を含まない鎮痛薬を、軽度から中等度の痛みには弱い麻薬性鎮痛剤を使用し、中等度から高度の痛みには強い麻薬性鎮痛剤を加えます。このように、痛みの強さに応じて適切な薬を使用する原則に基づいて実施されます。
副作用が伴う強い麻薬性鎮痛剤は、最終手段と考えられがちです。しかし緩和ケアでは、痛みが強い場合に麻薬性鎮痛剤も強い物を使用することが認められています。弱い薬で痛みがコントロールできない場合は、患者の生活の質(QOL)を損なうことになります。NSAIDs(非ステロイド性鎮痛薬)や鎮痛補助薬の併用も一般的な対処方法です。
三段階除痛ラダーのアプローチは、弱い薬からの使用を推奨しているように見えることから、2018年に改訂された「WHOがん疼痛治療ガイドライン」では、原則から外されました。しかし、がんの疼痛緩和においては、依然として重要な考え方で、「強い痛みには強い麻薬性鎮痛剤を使用する」という基本原則は変わっていません。
ホスピスで必要な費用
事業所によって医療保険外の請求がかかる場合がある
ホスピスで必要な費用は、施設によって異なりますが、一般的には治療費・宿泊費・食費などが含まれます。保険適用の範囲内であれば、医療保険区分に合わせた一部の負担で済みますが、それ以外の費用は自己負担となります。また、ホスピスによっては、追加のサービスや特別なケアに対して別途料金が発生する場合もあるため、具体的な費用や支払い方法については、利用を検討しているホスピスに直接確認すると良いでしょう。
一般的な費用の目安は以下の通りです。
令和4年度の診療報酬基準に基づき計算すると、入院30日以内の医療費は、1日あたり5,107点(51,070円)、または4,870点(48,700円)と定められており、この費用には医療保険が適用されます。ただし、病院によっては加算や医療保険外の費用が請求される場合があります。
令和6年1月時点の具体的な入院費用は、以下の通りです。
医療費×入院日数×医療保険の自己負担率(1割負担の場合は約5,000円/日、3割負担の場合は約15,000円/日)
食事療養費(1食460円×1日3食×入院日数)
室料(部屋のタイプによって異なる)
消耗品(おむつや尿取りパットなど)
個室など特別な病室を利用した場合、病院によって設定される保険外の費用が発生する場合があります。
在宅で受けるホスピスケア
病院や施設と違い選択肢の幅が広い
ホスピスケアは在宅でも利用可能です。在宅では、がんの積極的な治療(抗がん剤治療やホルモン治療)を続けながら、同時に痛みや苦痛の緩和を図ることができます。慣れ親しんだ自宅で療養できると、生活の質の向上が期待できます。
がん治療と並行して身体的な苦痛がある場合は、在宅でのホスピスケアを開始し、必要に応じて、入院ホスピスの利用を見越した病院を予約しておくことも重要です。
選択肢を増やしておくことで、急な体調変化があった場合も、ケアマネジャーや往診スタッフの協力を依頼しやすくなります。通院先の主治医や、その他の医療機関とも連携を図り、適切な医療機関に繋いでもらえるでしょう。患者本人も、安心して療養できます。
ホスピスケアを受けたい場合
医師や医療を提供する事業所などと十分に相談する
ホスピスケアを受けたい場合、まずはかかりつけの医師に相談します。医師は、ホスピスケアが適切かどうかを判断し、必要に応じてホスピス施設やサービスを紹介します。患者や家族の希望も重要なため、入居やサービス利用の手続きを進めるまでには意向を明確にしておくとよいでしょう。
また、在宅ホスピスケアを希望する場合は、訪問看護ステーションや地域包括支援センターなどに相談し、必要なサービスを調整します。保険適用や自己負担に関する情報も、事前に確認しておくとよいでしょう。患者と家族が共に納得できるケアを受けるためには、様々な選択肢を検討しておくことが大切です。
まとめ
まとめ
ホスピスケアは終末期の患者に対して、身体的・心理的・社会的・精神的な総合的支援を提供するサービスです。緩和ケアやターミナルケアと同様に、患者の苦痛を緩和し、尊厳ある生活をサポートします。
ホスピスケアは、治療を目的とせず、病院や介護施設、自宅など多様な場所で受けられ、患者の快適性と尊厳を重視したケアが提供されます。痛みのコントロールは、WHOの「鎮痛薬使用の4原則」に基づいて行われます。利用にあたっては、費用やサービスの詳細について事前に情報収集し、患者と家族のニーズに最適なサービスを選択しましょう。
今回の記事内容が、ホスピスケアの理解に繋がれば幸いです。
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介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。