介護の指標となるADLについて解説|低下する要因と予防するためのポイント

「ADLってよく聞くけどどういう意味?」「ADLを下げない方法はあるの?」このような悩みはありませんか?

ADLは、日常生活動作と呼ばれ、介護を必要とする人の自立度を判断する指標です。生活の質を高めるためには、ADLを理解し、適切な支援が必要になります。そのため、家族の介護を行う人や介護の現場において、ADLの理解は欠かせません。加齢や障がいによってADLは徐々に低下しますが、可能な限り自立した生活を支援することは介護の大きな目標のひとつです。

本記事では、基本的なADLと手段的ADLの違いや評価方法、低下による日常生活への影響、予防するポイントについて詳しく解説します。介護が必要になった際の対応や、生活の質(QOL)の見直しの重要性についても触れていますので、ぜひ参考にしてみてください。

#生活#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

ADL(日常生活動作)とは?

ADLは身体機能を把握するための指標

ADLとは、日常生活を送る上で必要な基本的動作や活動のことです。高齢者や障がい者の運動機能や生活動作の指標として使用されます。

加齢により徐々に低下することが多いですが、ADLが下がらないように予防・ケアすることは、介護をするうえで大きな目標のひとつです。

IADL(手段的日常生活動作)との違い

基本的日常生活動作と手段的日常生活動作

ADLは大きく2つに分かれており、基本的日常生活動作(BADL)と、複雑な機能を要する動作(IADL)に分類されています。

BADL

移動・移乗・起居動作・食事・排泄・入浴・更衣・整容

IADL

料理・洗濯・掃除・買物などの家事、交通機関の利用・電話などのコミュニケーション

スケジュール管理・服薬管理・金銭管理・趣味活動

【BADL(基本的日常生活動作)】

BADLは、食事・入浴・排泄など、自立した生活を過ごすために必要な基本的な動作で、介護を必要とする人の自立度を判断する際の基準になります。歩くことや立つことなどの基本動作のほか、食事や排泄の動作も含みます。食事介助が必要な高齢者や、排泄時にサポートが必要な方への適切な介護を行うためにも、ADLの各項目を理解し、適切なケアを心掛けることが大切です。

【IADL(手段的日常生活動作)】

IADLは、BADLよりも高度で複雑な認知能力と身体機能を要する活動です。例えば、料理・掃除・買い物・薬の管理・外出時の交通手段の利用・金銭管理・電話の使用などがあります。

介護が必要な方の場合、BADLの支援が優先して考えられることも多いですが、日常生活にはIADLのサポートも重要です。IADLの能力が低下すると、日常生活における自立度だけでなく、生活の質も下がる可能性があります。例えば、買い物や料理ができない場合、栄養バランスのとれた食事が困難になります。

介護者は、BADLとIADLの違いを理解し、それぞれのニーズに合わせて支援することが重要です。BADLは、個人の基本的な身体的ニーズに焦点を当てているのに対し、IADLはより社会的で複雑な能力を評価します。

ADLの評価方法

ADLの評価には複数の評価方法がある

ADLの評価には複数の方法があり、それぞれ特徴が異なります。主な評価方法は以下の通りです。

【Barthel Index(バーセルインデックス)】

Barthel Index(バーセルインデックス)は、日常生活動作の10項目について評価するシステムです。バーゼルインデックスでは、以下の項目で評価します。

食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替え、排便管理、排尿管理

各項目の評価は、「自立」「部分的に介助が必要」「完全な介助が必要」の3つに区分されます。それぞれの項目で点数が割り当てられており、合計得点は100点満点です。各項目の合計点によって、自立度が測定され、合計点が85点以上は「自立」、60点以上で「部分自立」、40点以上は「大部分自立」、40点未満は「完全な介助が必要」と評価します。

【Katz Index(カッツインデックス)】

Katz Index(カッツインデックス)は、以下6つの基本的なADLに焦点を当てて評価します。

入浴、着衣、トイレ使用、移動、排泄コントロール、食事

それぞれの項目において、「自立」または「介助」のどちらかで評価し、全体的な自立度を判定します。高齢者の自立度や介護の必要度を測定する際に用いられます。

【FIM(機能的自立度評価法)】

FIM(機能的自立度評価法)は、1983年に開発されたADLを評価する手法です。この評価法の特徴は、介助の必要性に焦点を当て、介護の負担度を判断できる点にあります。また、現在の動作や認知機能のみを基に評価を行うため、医学的な専門知識がなくても実施できる点が利点です。

FIMは、実際に行われている動作(運動項目)13項目と認知機能(認知項目)5項目の計18項目を、それぞれ1~7点のスケールで評価するシステムです。各項目を7段階で評価するため、細かな状態の変化を正確に把握でき、総合的なADLの状況を18~126点の範囲で判断します。

詳細な評価過程から、ADL評価法の中でも特に信頼性が高いとされており、現状を正確に捉えることができます。また、繰り返し行うことで小さな変化も評価に反映されるため、リハビリテーションの成果を的確に把握できます。

ADLが低下する原因

ADL低下を防ぐことが大切

ADL低下は、身体的・認知的・心理的などの影響によって起こります。これらの原因を理解し、ADL低下の予防対策をする、自立した日常生活を維持するために必要不可欠です。

【身体機能の低下】

加齢によって筋力が弱まることで、活動量が減る傾向にあります。そのため、立ち上がる・歩く・物を持つなど、日常的な動作が困難になります。徐々に低下する機能の予防は、介護にとって重要な要素のひとつです。

【生活習慣病の影響】

不健康な食生活・喫煙・過度の飲酒・ストレスなどが原因で、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が生じる場合があります。生活習慣病になると、ベッドで寝ている時間が増えることから、筋力のさらなる低下に繋がるため、早急な対処が求められます。

【認知機能の低下】

認知症などの認知機能障害は、歩行や記憶の問題を引き起こし、日常生活に支障をきたす可能性があります。例えば、日常生活の流れを思い出せなくなるなど、今までしていた習慣もできなくなる場合があるでしょう。普段の習慣を行わなくなると、機能の低下が進み、ADLの低下につながります。

【精神的な不安定性】

精神的な落ち込みは、外出や人との交流を避ける傾向にあり、身体機能や認知能力の低下につながる可能性があります。特に高齢になると、精神的な不安が大きくなり、落ち込む方も少なくありません。この状態は、日常生活に大きな影響があり、ADLの低下をさらに進行させることがあります。

ADLが低下することで日常生活に与える影響

ADLの低下は健康状態を阻害する

ADLは身体的な機能面ばかりが注目されがちですが、健康状態に支障をきたすこともあります。ADLの低下によって想定される状況を、順番に見ていきましょう。

【自立性の低下】

ADLが低下すると、食事・入浴・排泄などの基本的な生活動作を自分で行うことが困難になります。自分で出来ることが減ると、自信がなくなったり、生活の質を大きく低下させる可能性もあります。

【依存度の増加】

自分でできないことが増えると、他者への依存度が高まります。場合によっては、できることも他者に頼むことがあり、家族や介護者の負担が増します。依存度の増加は、個人の自由度と選択の幅を狭め、プライバシーや自立性の喪失を引き起こすため、注意が必要です。

【社会的孤立】

外出が困難になると、社会的なつながりや活動への参加が減少します。そのため、社会的に孤立し、孤独感が増大するケースも少なくありません。社会的な交流の減少は、精神面に影響を及ぼし、うつ症状や不安の増大を引き起こす可能性もあります。

【健康状態の悪化】

ADLの低下は、身体的な健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。活動量の減少は、筋力の低下や、循環器系の問題、慢性疾患のリスク増加につながります。このような健康状態の悪化は、医療的ケアの必要性を高めることになり、自信や自己肯定感を低下させる可能性があるため、注意が必要です。

【経済的影響】

ADLが低下し、様々なサポートが必要になると、個人や家族に経済的な負担が増加します。介護サービスの他にも、医療費・介護用品の購入などが必要となり、家族の生活水準や将来計画にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。

ADL低下を予防するポイント

リハビリテーション環境を整備してADLの低下を防ぐ

ADLの低下を予防するためには、いくつかのポイントがあります。予防には、利用者の意向や自立性を尊重したサポートが必要不可欠です。

【リハビリテーション】

リハビリテーションは、身体機能の低下を防ぎ、既存の能力を最大限に活用することが大切です。筋力トレーニング・バランス訓練・歩行訓練など、PT(理学療法士)の分野で、身体機能を強化し、日常生活で必要な動作をサポートすると、ADLの低下を予防できます。他にも、OT(作業療法士)の分野で認知症へのアプローチや、日常生活に必要なIADLのリハビリなども効果的です。

【健康状態の維持】

老化・脳血管障害・糖尿病などの生活習慣病やパーキンソン病のような神経系の障がいはADLを低下させる可能性があります。また、加齢によって起こる、筋力や記憶力の低下などの症状から、廃用症候群や認知症などの状態に進行する場合もあります。

さらに、入院すると数日で、ADLが下がることも珍しくありません。そのため、ADLの低下を防ぐためには健康状態を維持して、異変があれば早期に適切な対策やケアを行うことが大切です。

【環境整理】

生活環境の改善は、ADL低下の予防において非常に効果的です。家具のレイアウトや滑り止めマットの使用、手すりの設置、照明の改善など、安全で使いやすい環境を準備しましょう。生活が安定し不安が軽減すると、利用者も自信が持て、さらなるADL向上が期待できます。

介護が必要になったときの対応

個人を尊重し適切な介護計画を立てるためにも専門家に相談

介護が必要になった場合、まずは状況把握を行います。健康状態・ADL・認知機能のレベルなどを総合的に判断し、ニーズに合った介護計画を立てます。ここで重要なのは、ケア方法やサービスだけに捉われず、可能な限り本人の自立を支援し、尊厳を保つことです。

例えば、ある高齢者が転倒・骨折し、その後の治療や回復期間において、一時的な介護が必要になったケースを考えます。

この高齢者は、以前は完全に自立して生活していましたが、骨折後は日常生活の一部の動作で支援が必要になりました。このような状況では、回復をサポートするために、物理療法や職業療法を取り入れることが一般的です。また、自宅での生活を続けるために必要な環境調整も行います。手すりの設置や家具の配置変更などを行い、日常生活の安全性と利便性を向上させることを目指します。

この際、安全に配慮したサポートに重点をおきがちですが、『今まで自分でやってきた』という自負があることを忘れてはいけません。本人の同意なく、様々なサポートをすると自尊心を傷つけ、意欲の低下やADLの低下につながる可能性があります。本人の意向ばかりでも、適切なサービスが立てられない可能性もあるため、十分に話し合い、ケアマネジャーなどの専門家に相談することが大切です。

また、介護が必要になると、家族の生活にも大きな変化が生じます。仕事を調整する必要が出てくることもあるでしょう。このような場合は、地域にある介護支援センターや専門の介護サービスを利用し、介護保険サービスをはじめ、介護負担を軽減する支援がないか相談するよいでしょう。

介護が必要になった際の対応は、個々の状況に応じた柔軟なサポートが求められます。介護を受ける人とその家族、提供する側がより良い関係を築くためにも、専門家を頼りながら、個人の自立と尊厳を尊重する介護計画の作成・適切なリハビリテーションの実施・家族のサポート・地域や専門サービスを活用しましょう。

QOLの見直しも重要

生活の質が向上すると双方にとってプラスの効果が期待できる

QOL(Quality of Life・生活の質)の見直しは、介護が必要になった際に重要なポイントです。QOLの向上は、介護を受ける人の幸福感や満足度に影響し、結果として介護する人の負担も軽減されることがあります。QOLの向上を目指す際に重要なのは、介護を受ける人の好みや興味、価値観を理解して尊重する姿勢です。

例えば、音楽が好きな利用者の場合、日常的に音楽を楽しむ時間を設けることが、その人のQOLを高めるひとつの方法になります。また、趣味や以前の職業に関連する活動を取り入れることで、日々の充実感や達成感につながることもあります。

介護施設での実例を見てみると、施設内の様々なレクリエーション活動や余暇活動が、QOLの向上に役立っています。園芸活動や工作、季節行事、記念日のイベントなど、日々の楽しみを提供しています。また、家族との交流を促進するためのイベントや、外出支援サービスも、社会的つながりを保ち、生活の質を高める上で重要です。

さらに、QOLの向上には、身体的な健康や快適な生活環境の維持も欠かせません。適切な栄養管理・十分な休息・安全で清潔な生活空間は、基本的な生活環境ですが、大切な要素です。これらが適切に提供されることで、身体的および精神的な健康が保たれ、全体的なQOLが向上します。

QOLの見直しは、介護を受ける人にとって、単に日々の生活を送る以上の意味を持ちます。介護者は、QOLを理解し、介護計画に取り入れることで、より良いケアを提供できるようになるでしょう。

まとめ

まとめ

ADLは、高齢者や障がい者のケアにおいて非常に重要な要素です。加齢や障がいによって徐々に低下するものですが、ADLの低下は本人だけでなく家族の日常生活にも大きな影響を与えます。そのため、適切な運動やリハビリを通して、能力や機能を維持することが大切です。

ADLは、適切な評価方法を用いることで、個々のニーズに合わせたサービスを検討できます。日常生活の質を高めるための介護技術や心構えを身につけることで、介護者はより充実したサポートを提供できるでしょう。本人にとっても、早期に適切なサポートを受けることがADL低下を緩やかにし、自立した生活を長く続けることに役立ちます。日頃から、バランスの良い食事や適度な運動、ストレス管理、認知機能の維持など、生活の中で意識しておくとよいでしょう。

この記事内容が、ADLの知識や低下予防の助けになれば幸いです。

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