体位交換のコツと重要性を解説!体の使い方や福祉用具で負担を減らす方法

「体位交換がしんどくてつらい」「楽にできるコツが知りたい」このように考えていませんか?

介護の現場で必要なケアのひとつが、褥瘡の予防です。褥瘡は、同じ姿勢を続けることで発生しやすく、ベッドや車椅子で長時間過ごす人に多く見られます。褥瘡には痛みが伴ったり、感染症にかかりやすくなったりと、生活の質を著しく低下させてしまうため、予防や対策が重要です。

本記事では、褥瘡予防や対策のひとつである体位交換の重要性や正しい知識、褥瘡予防に役立つ福祉用具の活用、間違った体位交換の考え方について解説します。介護者が知っておくべきボディメカニクスの原則や、体位交換以外の褥瘡予防についても解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

#生活#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

体位交換とは?

身体の負担を軽減するために体位を変えること

体位交換は、長時間同じ姿勢をとることによる身体への負担を軽減するケア方法です。体位交換を行うことで、身体にかかる圧を分散させる効果が期待でき、特定部位の血流を促進します。特に、病気や加齢により、ベッドや車椅子で長時間過ごすことが多い利用者にとって、重要なケアです。

【体位交換の目的】

体位交換の主な目的は、褥瘡(じょくそう)の予防と治療です。褥瘡は、体の一部が長時間圧迫されることで、皮膚やその下の組織が損傷する状態を指し、特にベッドに長時間寝たきりの人に多く見られます。また、体位交換は、呼吸機能の改善・筋肉の拘縮予防・血液の循環促進・心身の快適性向上にも役立ちます。

【褥瘡好発部位】

褥瘡は、体重がかかりやすい部位(好発部位)に発生しやすいため、注意が必要です。褥瘡の好発部位には、姿勢別に以下の点が挙げられます。

体位

好発部位

仰向けの場合

後頭部・肩甲骨・尾骨・仙骨・かかと など

横向きの場合

耳・肩・肘・腸骨突起・大転子・膝・くるぶし など

座っている場合

尾骨・坐骨・太ももの後部 など

褥瘡は、姿勢によって好発部位は変わります。基本的には、体重がかかりやすい部位に発生するため、定期的な体位交換が必要となります。定期的な体位交換は、好発部位の圧迫を和らげるため、褥瘡の予防が期待できます。

体位の種類

体位の種類と後発部位を理解する

利用者のADLによって褥瘡のリスクは大きく変動するため、それぞれの体位について、理解を深めておくと良いでしょう。体位は、主に以下の3つに分かれます。

【立位(りつい)】

立位は、人が立っている状態を指します。立位では、体重が足底、特にかかとにかかります。立位がとれる方は、褥瘡ができにくいと考えられていますが、可能性はゼロではありません。足先は、心臓から遠く、血流が届きにくい傾向があるため、足の状態観察が必要です。

立位ができる方は、比較的ADLが高く、ケアが不要なケースも多いため、状態の変化を見落としやすい傾向にありますが、かかとに褥瘡が発生した場合、立位が困難になることが考えられます。

立位が困難になると、移動に車いすが必要となり、徐々に下肢の筋力低下が起こります。また、場合により寝たきりになる方もいるため、ADLが高い方も注意が必要です。

【座位(ざい)】

座位は、椅子に座るなど、体の大部分が座面に支えられている状態です。座位では、主に仙骨や坐骨に体重がかかります。

適切な座位は、脊椎への圧迫を減らし、呼吸や消化機能を助ける効果があるため、食事の際には座位が推奨されます。

寝たきりの方に比べて、褥瘡の発生リスクは少ないと考えられますが、長時間の座位は仙骨に圧がかかるため、注意が必要です。

【臥位(がい)】

臥位は、安静が必要な場合や睡眠時にとる姿勢です。同じ姿勢が長時間続くことが多いため、後頭部や肩、肩甲骨、腰部、仙骨部、かかとなどが圧迫されやすくなります。また、自身で寝返りができない場合は褥そうのリスクを高めることから、予防のために定期的な体位交換が必要です。

臥位は複数の種類に分かれ、それぞれ身体に異なる影響を与えます。介護や医療の現場では、それぞれの体位を適切に理解して、体位交換することで、高齢者の快適性と健康維持を図ります。

ベッド上の主な体位

寝る姿勢にもさまざまな体位があり、目的が異なる

体位交換は長時間同じ姿勢でいることを予防するためのケアです。夜間帯は特に活動量も減り、睡眠している方が多いため、褥瘡発生のリスクを高めます。

そのため、体位交換が必要となりますが、適切な体位や注意点を理解しておかなくてはなりません。

【仰臥位(ぎょうがい)】

仰臥位は、背中がベッドに接触し、顔が天井を向いている(仰向け)状態です。仰臥位では、体重が後頭部・背中・腰部・かかとに分散されます。仰臥位は、呼吸などの心肺機能に負担が少ないため、多くの方にとって安心できる姿勢です。

【側臥位(そくがい)・横臥位(おうがい)】

側臥位・横臥位は、身体を横向きにした姿勢です。左右どちらを向いているかで、「右側臥位」「左側臥位」と呼び分けます。胃の構造から、右側臥位は食後や吐き気のあるときに有効な姿勢とされています。

側臥位は、下になった耳や肩、腰、膝、くるぶしなどに圧が集中するため、定期的に体位を変えることが褥瘡予防に欠かせません。

【ファウラー位(ファーラ―位)・セミファウラー位】

ファウラー位は、仰臥位から上半身を45度に傾斜させた姿勢を指します。仙骨部やかかとに体重がかかりやすいため、長時間この姿勢でいると褥瘡のリスクを高めます。さらに、上半身の体重で、足側に姿勢がズレ、摩擦が生じる可能性も高いため、注意が必要です。

ファウラー位は半座位とも呼ばれ、内臓が肺に及ぼす圧迫を減らすため、呼吸が楽になる効果が期待できます。

一方、上半身を15度から30度傾けた状態を、セミファウラー位と呼びます。ファウラー位よりも、体重が分散されるため、褥瘡のリスクは低くなります。仰臥位では呼吸が困難になる場合や、誤嚥のリスクが高い方にとる体位です。

【半側臥位(はんそくがい)】

半側臥位は、完全な側臥位と仰臥位の中間に位置する体位です。この姿勢は、身体がやや斜めになり、背中と側面の一部がベッドに接触します。半側臥位は、仰臥位での圧迫を軽減し、側臥位ほどの圧迫を避けるバランスの良い姿勢です。背中や腰への圧迫が緩和されるため、長時間ベッド上にいても負担は少なくなります。

しかし、身体とベッドの間に空間が多くあると、バランスがとりづらく不安定になるため、クッションなどですき間を埋めると安定しやすくなります。

【伏臥位・腹臥位(ふくがい)】

伏臥位・腹臥位は、お腹を下にして顔が下向き、または横向きになる(うつ伏せ)姿勢です。この体位では、圧が胸部や腹部に移行し、背中や仙骨への圧迫が軽減されます。

伏臥位は、特に背中や仙骨部などに問題がある場合や、褥瘡予防のために有効ですが、呼吸が苦しくなりやすいため注意が必要です。また、首や顔の圧迫を防ぐ必要があります。

介護の現場では、ほとんど使用しない体位ですが、自立度の高い方が習慣として伏臥位で寝ることもあるため、呼吸ができるように、口や鼻の位置には空間を確保しておくと良いでしょう。

体位変換の方法

褥瘡予防に必要なケアの手法

体位変換は、褥瘡の予防や治療、血流促進、快適性の確保に必要なケアです。ここからは、体位交換の手法について見ていきましょう。

【頻度】

一般的に、体位変換は2〜4時間ごとの実施が推奨されています。ただし、個々の健康状態や皮膚の状況に応じて、間隔を調整することが大切です。例えば、皮膚が薄く弱い高齢者の場合は、より頻繁に体位変換する必要があります。また、一晩中同じ体位で過ごすことは避け、夜間も定期的に体位変換を行います。

【方法】

体位変換する際は、対象者に不快感や痛みを与えないよう、慎重に行います。まず、体位変換する前に、対象者に対して体位を変えることを説明し、協力を求めましょう。体位変換時には、身体の圧が分散するように枕やクッションを使用すると効果的です。

また、スムーズに体位を変えるために、ベッドの高さ調整や滑りやすいシーツを使用すると、楽に体位交換を行えるでしょう。体位変換時には、対象者に無理な力がかからないように注意し、必要に応じて複数人で協力して行います。適切な頻度と正確な手技で行うことで、利用者が快適に過ごすことができます。

体位交換は腰痛を引き起こしやすい

腰の負担を意識して無理のない身体の使い方が大切

体位交換は重要なケアのひとつですが、実施頻度が多く、正しいやり方をしないと介助者の腰に負担がかかります。腰痛のリスクを軽減するためにも、以下の点に注意しましょう。

【協力動作を依頼する】

体位変換時には、利用者自身の力を使うことが重要です。具体的には、体位変換する際に声を掛け、利用者のできる範囲で動作の協力を促します。

協力してもらうことで、介助者の負担が軽減されるだけでなく、利用者も「自分にはまだできることがある」という肯定感を持つことが期待できます。

【動作時の設置面積を少なくする】

臥位時には、利用者の身体と寝具(ベッドなど)の接触面積が広くなります。接地面積が大きい状態で身体を動かすと、摩擦により体位変換が困難になります。そのため、体位変換前には接地面積をできるだけ小さくする工夫が重要です。

仰臥位の場合、利用者の膝を曲げる・両腕を胸の前で組み肩を浮かすことで、移動がしやすくなります。また、一旦側臥位に体位交換するのもひとつの方法です。

【ボディメカニクスを理解する】

介助者はボディメカニクスの原則を用いて、効率的で安全な介助を行いましょう。ボディメカニクスとは、身体を動かす際に筋肉や関節に無理な負担をかけない動作のことを指します。

介助者は、足を肩幅より広く開き、膝を曲げて重心を低く保ちます。身体の重心を下げることで腰の負担を軽減でき、体感も安定します。また、できるだけ利用者に近づいて介助することが大切です。身体をひねる動作は避け、できるだけ持ち上げないように介助すると効果的です。

また、介助の際は「押す」よりも「引く」技術を使います。例えば、利用者を横向きにする場合は、肩を押して背を向けさせるのではなく、横向きになる方向側に移動し、膝と肩を優しく引いてポジションを変更します。この時、腕の力に頼らず、介助者自身の身体を後ろに移動する・膝を曲げる・腰を落とすなどの方法で、利用者の身体を引くと楽に力が入るので試してみてください。

【福祉用具を活用する】

介助者の負担を軽減したり、利用者の姿勢保持のために、福祉用具の利用も活用しましょう。福祉用具は、体重が重い利用者でも楽に介助できるようサポートしてくれます。要介護状態に応じて、レンタルも可能なため、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しましょう。

体位交換の時に便利な福祉用具

福祉用具を活用して介助者の負担を軽減することが大切

体位交換時には、介助者の負担を軽減する様々な福祉用具があります。それぞれの用途と特徴を知ることで選択肢が広がり、介助者と利用者双方にとって、身体の負担軽減が期待できるでしょう。以下は体位交換の特に役立つ福祉用具の例です。

【クッション】

クッションは、体位交換時に圧がかかりやすい部位の保護や姿勢の保持に役立ちます。特に、仙骨部やかかと、肘などの骨が突出している部分には、圧を分散させるためにクッションを配置すると褥瘡のリスクを軽減できます。低反発やゲルタイプのクッションは、体圧を均一に分散させ、褥瘡の予防に効果的です。身体の状態に合わせて、クッションの形状や素材を選びましょう。

【スライディングシート】

スライディングシートは、ベッドと利用者の身体の間に敷くことで、体位変換や移動をスムーズにする福祉用具です。スライディングシートの使用は、介助者の腰への負担を減らすだけでなく、利用者の皮膚への摩擦や圧迫を減少させ、褥瘡のリスクを軽減します。

スライディングシートがない場合は、大きめのナイロン製ゴミ袋でも代用可能です。ただし、敷きっぱなしにすると通気性が悪くなり、褥瘡を誘発する場合があるため、体位交換時のみ利用すると良いでしょう。

【ベッド・マットレス】

介護用ベッド(特殊寝台)には様々な機能を備えたものがあり、体位交換において重要な役割を果たします。多くの場合、高さ調節機能や傾斜機能(ギャッジアップ)があり、介助者のケアがしやすい高さに調整すると身体の負担を軽減できます。また、エアマットレスやウォーターベッドなどの特殊なベッドマットは、部分的にかかる圧を分散する機能があります。

さらに高性能になると、自動体交マットレス(ベッドマットの圧を自動変更することで、体位交換することなく圧がかかる部位を調整)や車椅子とベッドが一体型になっており、臥位の状態から電動で座位になり、そのまま車いすとして移動するものもあります。

間違った体位交換の考え方

知識不足は安楽な姿勢を阻害し、褥瘡を悪化させる

体位交換は利用者の快適性と健康を保つために重要ですが、間違った方法や考え方で行われていることがあります。褥そうの悪化や健康状態を阻害するリスクがあるため、注意が必要です。

以下は、誤った体位交換の考え方の例です。

【身体が横に向けば良いと思っている】

体位交換の際、単に利用者を横に向けるだけでは不十分です。横向きの姿勢は一時的な圧迫の軽減はできますが、特定の部位に圧が集中し、新たな問題を引き起こす可能性があります。個別に適正な体位を選択し、安楽なポジショニングを検討しましょう。

【回数を増やせば良いと思っている】

体位交換の頻度を増やすことが、必ずしも適切なケアではありません。頻回に体位交換すると、利用者に過度なストレスを与えたり、必要な休息を妨げたりする場合があります。体位交換の頻度は、利用者の状態や皮膚状況に合わせて慎重に検討すると良いでしょう。

【クッションを挟めば良いと思っている】

クッションの使用は、身体にかかる圧を軽減する効果的な方法のひとつですが、それだけで褥瘡予防が十分というわけではありません。クッションは特定の部位の圧力を和らげますが、体位交換する過程の一部として考える必要があります。

クッションの硬さや形状、通気性などから適切な商品を選ぶとともに、適切な設置が重要です。また、クッションを当てすぎると、ベッド上が窮屈になり、利用者の自由がなくなることも理解しておくと良いでしょう。

褥瘡予防は体位交換だけではない 

体位交換以外にも褥瘡を予防する要素

褥瘡予防は多面的なアプローチが必要で、体位交換だけでは不十分です。他にも低栄養・湿潤(しつじゅん)・摩擦といった要素も、褥瘡の発生に大きく影響します。それぞれの要素を理解し、適切なケアを行うことが、褥瘡予防には欠かせません。

【低栄養】

栄養状態の悪化は、皮膚の健康を損ない、褥瘡のリスクを高めます。特に、タンパク質・ビタミン・ミネラルが不足すると、皮膚の修復能力が低下し、褥瘡が発生しやすくなります。利用者には栄養バランスの取れた食事を提供し、必要に応じて栄養補助食品を活用することが大切です。

【湿潤】

肌が長時間にわたり湿潤状態にあると、皮膚のバリア機能が低下し、褥瘡が生じやすくなります。例えば、排泄や発汗が原因である場合、適切なスキンケアと定期的な排泄介助を行い、皮膚をきれいに保つことが効果的です。また、通気性の良い素材を使用することも、湿潤状態の軽減に役立ちます。

【摩擦】

利用者を動かす際の摩擦は、皮膚を傷つけることもあり、褥瘡の原因になります。特に、利用者をベッド上で引きずるような動作は避け、スライディングシートなどを使用して摩擦を最小限に抑えることが大切です。皮膚への圧迫だけでなく、摩擦にも注意を払うことが、褥瘡予防には重要なポイントになります。

まとめ

まとめ

体位交換は、褥瘡の予防にとって重要なケアのひとつです。定期的な体位変更は、皮膚への圧を和らげ、血流を促進し、利用者の快適性と健康維持に繋がります。

しかし、体位交換は介護者にとって腰痛のリスクを伴うため、適切なボディメカニクスの実践や福祉用具の活用が重要なポイントです。また、低栄養・湿潤・摩擦といった褥瘡のリスク要因に対する理解と適切な対策も、必要になります。

介護現場での褥瘡予防は、体位交換に留まらず、利用者一人ひとりのニーズに合わせた個別のアプローチが必要です。これらの知識を活かし、介護者は利用者の快適さと健康の維持に努めることが大切なため、ぜひ参考にしてみてください。

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