退院後の生活を選択!高齢者を支えるリハビリや在宅復帰のポイントを解説

「退院後の生活はどうなるのだろう?」「できないことが増えたらどうすればいい?」このような不安はありませんか?

高齢になると、突発的な疾病により急性期病院に入院することがあります。入院の原因となる疾病や低下した身体機能により、退院後の生活に不安を感じる方は多いです。

今回は、退院後に生活する場所の選択肢や、在宅に帰ってから利用できる介護サービスについて紹介します。特に低下した身体機能を回復するためのリハビリテーションを受けられる施設や、サービスについても解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

#老人ホーム#在宅介護#生活#リハビリ#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

急性期病院の入院から退院になるまでの期間

治療が終わればすぐに退院

急性期病院とは、急性疾患(心筋梗塞・脳梗塞など)や重篤な症状の患者に対して、高度で専門的な医療を提供し、24時間体制で治療する病院です。病状が安定するまでの約2週間から2ヶ月間、入院加療を行います。その後、医師が回復期や慢性期と判断した場合、入院患者のニーズや状態に合わせて退院するのが一般的です。退院先として、介護施設を利用する場合は、医療ソーシャルワーカー(医療相談員)に相談することで、利用できる施設を提案してくれます。

医療保険の制度上、急性期病院に入院し続けることは難しく、14日以上入院すると医療報酬が大きく下がるため、早期の退院が求められます。家族や入院患者にとっては、早期に退院を迫られることから、施設探しや在宅介護の準備ができなくて困るケースも珍しくありません。しかし、他の急性期患者を迅速に診るためにも、制度の理解は必要となります。

また、高齢者の場合、入院が長引くことで以下のようなリスクが考えられます。

  • 環境の変化に対応できず、ストレスによって「意識精神障害(せん妄)」や「認知機能の低下」が起こる

  • ベッド上にいることが多くなり、拘縮や筋力低下などによる「身体機能の低下」や「心肺機能の低下」が起こる

  • 内臓機能が低下することで、低栄養や食欲不振・便秘などによる「消化機能の低下」が起こる

入院期間が長くなることで、これらの精神疾患や認知症の発症リスクを高めることもあるため、治療後は早めに退院することが望ましいといえるでしょう。

【認知機能や精神症状】

高齢者の入院期間が長くなることで心配されるのは、認知症の悪化です。また、せん妄症状もよく起きる症状のひとつですが、原因を改善すれば問題ありません。せん妄とは、注意力や思考力が低下し、時間や場所がわからなくなる状態で、病気や混乱などによって、一時的に引き起こされる精神症状です。

認知症とせん妄では、発症の仕方に大きな違いがあります。認知症は、ゆっくり少しずつ進行することがほとんどですが、せん妄はある日、突然起こることが多い傾向です。また、認知症は一度発症すると、現代の医学では治すことはできません。

入院前にできていたことができなくなるため、身体機能的に回復したとしても、退院後の生活に不安が残ることもあるでしょう。

【ADLの低下】

ADLとは、日常生活を送るために必要な動作のことで、以下のようなものがあります。

  • 起居

  • 移動

  • 移乗

  • 食事

  • 更衣

  • 排泄

  • 入浴

  • 整容 など

高齢者の場合、入院生活が長くなればなるほど、この基本的な動作が低下していく傾向です。一度落ちた筋力や能力は、病院で毎日リハビリをしても元に戻すことは難しい場合もあります。

【QOLの低下】

クオリティ・オブ・ライフの略で「生活の質」「人生の質」などの意味を表します。入院生活は制限が多く、早く元の生活に戻りたいと感じる人が大半です。不意に入院してしまった場合、状況が受け入れられず不安になり、落ち着いて先のことを考えられないこともあるでしょう。

しかし、急性期病院での入院期間は限られているため、目標を決めてできるだけ早く、今後の生活を考えていくことがおすすめです。

例えば、以下のような目標を決めておくと良いでしょう。

  • 自宅に戻り、以前のように生活する

  • 家族に負担をかけずに生活する

  • 介護施設に入居する

これらの目標があるだけで、入院中でも活気やメリハリがつき、退院を早められる場合もあります。また、医師から退院の指示が出たときに、本人の意向に沿って相談することができるでしょう。

退院後はどこで生活する?

退院後の選択肢は多い

病院によっては、入院患者の退院先が自宅あるいはそれに準ずる施設に退院した割合(在宅復帰率)を重視している場合もあり、積極的に自宅退院を勧めるケースもあります。他にも介護施設の入所や他の病院への転院も選択肢として考えられます。

【在宅復帰】

一般的に、退院先として挙げられるのは自宅でしょう。退院後、入院前のように、自宅で生活することは理想的な形といえます。これまで通りの生活が困難な場合でも、家族の支援・介護サービス・地域のサポートなどを受け、生活することも可能です。

しかし、高齢者が2週間ほど入院すると、筋力の低下・身体機能の低下がみられ、転倒などのリスクは高まります。ソーシャルワーカーや看護師に、入院中の状態を確認しておくと、退院後の生活にスムーズに移行できます。

【介護施設の入所】

介護施設は、目的や条件に応じた様々な施設があります。介護施設の入所は、要介護認定を必要とする場合が多いため、認定がまだの方は、入院中に申請しておくと良いでしょう。すでに、要介護認定を受けている方でも、要介護度によって入所対象の施設が異なります。

施設に入所する場合、申し込みから入所するまでに、必要な資料を作成したり、面談や契約を受けたりと、2週間〜1ヶ月程度の時間を要するため注意が必要です。

【他の病院に転院】

希望や状態に合わせて、他の病院(病棟)に行く可能性もあります。転院先は以下の通りです。

病院(病棟)名

目的や特徴

療養型病院

慢性期の病状や長期的な介護が必要な方が、看護・介護・リハビリなどを受けられる病院。入院期間は病院によって異なり、3~6ヶ月が多い。退院後、自宅に戻る場合や他の施設を探す場合などがある。

地域包括ケア病棟

在宅復帰を目指すための病棟。急性期の治療を終えた方が自宅への復帰を目指して療養やリハビリを行う。また、在宅で医療や介護を受けている方が、短期間入院が必要な際にも利用可能。入院期間は最長で60日間。

回復期リハビリテーション病院

厚生労働省によって定められた特定の疾患と入院期間の基準に基づいて入院できる。例えば、脳血管疾患や頸髄損傷の患者は最大180日間、大腿骨や骨盤の骨折患者は最大90日間の入院が可能。入院には専門医の判断が必要で、急性期病院からの診療情報提供書が必要。急性期病院での治療は症状が安定するまで行われることが多いのに対し、回復期リハビリテーション病院では最大180日間の長期入院が可能。

ホスピス・緩和ケア病棟

がん治療が困難・治療を望まない方の苦痛を和らげるケアを提供する病棟。一時的な入院(レスパイトケア)を提供している場合もある。入院するためには病状の告知が条件となっている場合もあり、本人の体調が安定すれば退院も可能。

病状が安定していない・終末期の方・寝たきり状態の方などは、医療的ケアを受けながら過ごす病院への転院が可能です。病院の種類によって入院できる期間や目的が異なるため、注意が必要です。

退院後の生活について誰に相談する?

入院中に退院の相談するなら医療ソーシャルワーカー

病院で退院の相談をする時は、医療ソーシャルワーカー(MSW)にすると良いでしょう。医療ソーシャルワーカーは、退院後の生活に支障がないように、担当のケアマネジャーや介護施設などと連携を図る役割があります。退院後の生活で不安に感じる内容は、医療ソーシャルワーカーにすべて伝えておくことで、適切な助言をもらえるでしょう。

入院前に介護サービスを利用していたり、退院後に自宅に帰れなかったりする場合には、ケアマネジャーや施設の相談員とも話合いが必要になることもあります。その際は、医療ソーシャルワーカーが、退院前カンファレンスを開き、情報提供やサービスの調整を行います。

入院している間、担当ケアマネジャーは、担当から外れている状況(契約外)です。ケアマネジャーに相談が必要になる状況もありますが、業務範囲外で対応していることを理解しておきましょう。ケアマネジャーによっては、協力してもらえる場合もありますが、医療ソーシャルワーカー以外に相談が必要なときは、地域包括支援センターに相談すると良いでしょう。

退院後にリハビリを受けられる施設

退院後にリハビリがしたい方の選択肢

退院後、病院や介護施設でリハビリを受けたい場合は、リハビリを提供している病院や介護施設に移ります。しかし、利用するサービスによって利用できる保険や期間が異なるため、注意しましょう。


介護施設
回復期リハビリ病院
保険
介護保険
医療保険
要介護認定
必要
扶養
自己負担割あり
1~3割
3割(70歳以上2割または3割)
利用期間
3ヶ月以上
最長180日(3ヶ月)

病院では、怪我や病気によって失った身体機能の回復を目的にしていますが、介護施設では、自立した日常生活を目標とすることが多いです。それぞれの保険を利用した主な施設を見ていきましょう。

【介護老人保健施設(老健)】

介護老人保健施設は、介護保険を利用して入所できる公的な介護施設です。要介護1〜5の方を対象にリハビリを行い、在宅復帰を目指します。病院から自宅に戻ることが不安で、継続したリハビリを希望する方が中間施設として利用するケースが多いです。入所期間としては、3〜6か月程度が多く、長期利用を目的としていません。

施設によって異なりますが、基本的に理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)が在籍し、それぞれの入所者に必要なリハビリ計画を立て、週2回以上20分程度で行います。入所後3ヶ月間は短期集中リハビリテーションを受けられ、週3日〜毎日(施設によって異なる)リハビリを実施します。自己負担割合1割の方であれば、1回約240円で利用可能です。

介護施設では、リハビリ専門職のリハビリテーションだけではなく、日常生活の中で必要な動作をできる限り自分で行う、「生活リハビリ」という考え方があります。それぞれのリハビリを行い、在宅復帰に必要な日常生活動作の獲得を目指します。

また、介護老人保健施設では、自宅などから通いながらリハビリを受ける「通所リハビリ(デイケア)」を提供している事業所が多いです。通所リハビリは、自宅から事業所に通い、リハビリテーションを受けられます。最近では、機械を使用したパワーリハビリを提供している事業所も増えています。

参照:厚生労働省「介護老人保健施設」

【回復期リハビリテーション病院】

回復期リハビリテーション病院では、一人ひとりの状態に合ったリハビリを、各専門職がチームとなって提供します。1日3時間程度のリハビリや集団体操・レクリエーションなどをおこないます。介護老人保健施設と比べると、毎日3時間ほどのリハビリがあるため、ハードな面もありますが、身体機能の回復が見込まれる人には必要な時間です。

ただし、回復期リハビリテーション病院は、医師が必要と判断しなければ入院できません。また、厚生労働省は、疾患や状態によってリハビリ病棟に入院できる期間を定めています。

厚生労働省が定める回復期リハビリテーション病棟入院基準

病状

標準算定日数

脳血管疾患・脊椎損傷・頭部外傷など

150日

高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害・重度の頚髄損傷及び頭部外傷を含む多部位外傷の場合

180日

大腿骨・骨盤・脊椎・股関節もしくは膝関節の骨折、または2肢以上の多発骨折の発症後、または術後の状態

90日

外科手術または肺炎などの治療時の安静により廃用症候群を有しており、術後また発症後の状態

90日

大腿骨・骨盤・脊椎・股関節または膝関節の神経、筋または靱帯損傷後の状態

60日

股関節または膝関節の置換術後の状態

90日

急性心筋梗塞、狭心症発作その他急性発症した心大血管疾患または手術後の状態

90日

参照:回復期リハビリテーションnet「180日を上限に入院可能な回復期リハビリ病棟」

リハビリ病院では、最長180日(3ヶ月)入院可能です。リハビリ病院の後に、もう少しリハビリをしたい・一人の生活は不安な人などは介護老人保険施設を利用する方もいます。

退院後にリハビリを必要とする理由

入院の原因や入院中に失った機能の回復

入院の理由となる疾病や怪我、または入院中に低下した身体機能の回復のため、退院後のリハビリは重要です。リハビリをしない場合、活動量が減ったり、身体機能や体力が低下したりすることが、気力の低下に繋がります。。気力が低下することで、さらに身体機能が低下したり、転倒などの事故のリスクが上がることもあるでしょう。退院後のリハビリは、回復期に行うことが特に重要です。

回復期とは、急性期治療を受け、病状が安定しはじめた1〜2ヶ月後の状態を指します。そのため、急性期病院から退院する時期が回復期に該当します。

リハビリの時間や回数を考慮すると、回復期リハビリテーション病院が最適と考える方も多いでしょう。しかし、リハビリ時間の長さや回数が身体的・精神的な負担になる方もいるため、生活リハビリを主体とした、介護老人保険施設を選択する方もいます。

在宅復帰した時に利用できるサービス

在宅で利用できる介護サービスは多数

住み慣れた環境と自分のペースで生活できる自宅は、精神的に安定し穏やかに過ごせます。その反面、今までは一人で行えていたことに時間がかかり、生活が不自由になることもあります。そのような状況が発生した場合は、ケアマネジャーに相談し、介護保険の多様なサービスを利用すると良いでしょう。

要介護認定を受けていれば、介護保険を利用して下記のようなサービスを利用できます。

サービスの種類

利用できるサービス

訪問型サービス

訪問介護(夜間対応型含む)

訪問看護

訪問入浴

訪問リハビリ

定期巡回・随時対応型訪問介護看護

居宅療養管理指導

通所型サービス

通所介護(デイサービス)

通所リハビリ(デイケア)

地域密着型通所介護(デイサービス)

認知症対応型通所介護(認知症デイ)

療養通所介護

短期入所型サービス

短期入所生活介護(ショートステイ)

短期入所療養介護(療養型ショートステイ)

複合型サービス

小規模多機能型居宅介護

看護小規模多機能型居宅介護

その他

福祉用具貸与

特定福祉用具販売

住宅改修

介護保険を利用する場合は、担当のケアマネジャーに介護サービスの利用を希望しましょう。ケアマネジャーは、サービス利用の必要性やスケジュールを考慮して、ケアプランを作成します。その後、ケアプランに基づいて事業所との契約を行います。

重要な点は、介護サービスを希望しても、すぐに利用開始できるわけではないということです。例えば、退院時期が決まった場合、速やかにケアマネジャーに連絡し、相談しておくことで、スムーズに介護サービスを利用できます。

退院後に利用できる介護施設の特徴

在宅に退院できない場合の選択肢も多数

在宅復帰ができない場合は、介護施設に入所する選択肢もあります。利用できる介護施設は以下の通りです。

施設名

目的や特徴

介護老人保健施設(老健)

要介護1から利用可能。リハビリをしながら在宅復帰を目指す施設。在宅に帰る前のクッションのような役割がある。

特別養護老人ホーム(特養)

要介護3から利用可能。長期的に利用できる施設のため、自宅に帰ることが困難な場合の選択肢のひとつ。すぐに入れない場合が多い。

介護医療院

医療と介護の両方が必要な方が利用する介護施設。他の介護施設では対応が困難な医療的ケアが必要な場合でも利用可能。全国的に施設数が少ない。

有料老人ホーム


在宅扱いになる民間の介護施設。入居条件は、自立から要介護の方まで幅広いため確認が必要。運営会社によりサービスに特色があり、利用料は比較的高額な施設が多い。

サービス付き高齢者向け住宅

(サ高住)

高齢者専用の住宅。介護認定がなくても60歳以上で利用可能。介護サービスはついておらず、外部の介護事業所と契約が必要。

認知症対応型共同生活介護

(グループホーム)

認知症の診断かつ要支援2以上で利用できる少人数制の介護施設。事業所と同じ地域に住所がある人しか利用できない地域密着型のサービス。比較的長期的な利用も可能。

小規模多機能型居宅介護

在宅からの通いサービスを中心に、泊まりや訪問のサービスも柔軟に利用できる。費用が月額制のため、サービスの回数は問われない。事業所によっては泊まりのサービスを長期的に利用できる場合がある。

介護老人保険施設以外では、リハビリ専門職の配置がありません。しかし、特別養護老人ホームや一部の施設では「機能訓練指導員」が配置されています。

【機能訓練指導員】

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・一定の実務経験を有するはり師及び鍼灸師の資格を有する者が、日常生活機能の維持向上を目的とし機能訓練を行います。医師の指示のもと実施するリハビリテーションとは異なりますが、日常の機能訓練を実施し、身体機能の低下を予防します。

まとめ

まとめ

通常、2週間程度の入院後に、医師が回復期や慢性期と判断した時点で退院することになります。退院後の選択肢としては、在宅復帰・介護施設への入所・他の病院への転院などがあり、医療ソーシャルワーカーと相談していくと良いでしょう。

退院後は、状態に応じたリハビリテーションが重要です。介護施設や回復期リハビリテーション病院で受けられ、それぞれ保険の種類や利用期間が異なります。

在宅復帰時には、訪問型・通所型・短期入所型・複合型など、様々な介護サービスが利用できます。また、自宅復帰が困難な場合には、介護老人保健施設などの入所も選択肢のひとつです。

急性期病院の場合、入院から退院までの期間が短いため、退院後の生活について早めに検討しておくことが非常に重要になります。今回の記事が、退院後の生活の不安解消に繋がれば幸いです。

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