高齢者の死生観とは?「その人らしい」を実現する終末期の介護方法を紹介

「死生観ってなに?」「その人らしい最期を迎えるために必要なことが知りたい」このような疑問はありませんか?

すべての人に平等に訪れる『死』ですが、その向き合い方や考え方は人それぞれです。しかし、考える機会もなく流れに任せるだけでは、後悔の残る最期を迎えることになるかもしれません。

今回は、死生観について考えていきます。また、満足度の高い終活を行う方法も紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。

#生活#医療行為#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

死生観とは 

生と死の考え方は人それぞれ

死生観とは、生と死に対する個々の認識や見解、人生における判断や決定、それに対する行動をどのようにとるかを感じることです。すべての人間に共通する体験である「死」についての考えは、人によって大きく異なり、夫婦や子どもによっても違います。人が死について真剣に考え始める瞬間も人それぞれで、人生経験や生活環境、関わる人や宗教も大きく影響します。

海外では、宗教が人々の死生観に大きな影響を与えることがあり、キリスト教や仏教など、多くの宗教は死やその後の人生についての教えが多いです。一方、宗教の自由が認められている日本では、「無宗教」の人が多く、死生観は必ずしも宗教によって形成されるわけではありません。

以前の日本社会では、死についての話題はある程度タブーとされていました。しかし、現代では、「終活」を始める人が増えており、自分自身の死に向き合い準備することが、前向きな行動として注目されています。

死生観に向き合うメリット

死生観に向き合うことで余生が変わる

死生観に向き合うことは容易ではありません。しかし、早期から向き合い、準備することで様々なメリットが生まれます。

【人生を振り返る】

死生観に向き合うことで、自分の人生を振り返ることができます。過去の出来事・達成した目標・取り組んだこと・得られた経験などを思い出し考えることができます。これは自分を理解する機会のため、自分自身の達成や成功、学びの瞬間を評価し再確認できるでしょう。

人生を振り返ることは、自分が何を大切にし、どのような時間を過ごしてきたか、そしてこれから自分が何を求めているのかを再確認できます。

【悔いのあることを考える】

死生観に向き合うと、後悔ややり残したこと、自分の人生の中でまだ解決されていない問題について考える機会が得られます。これらの問題を認識することで、自分が何に取り組むべきか、何を改善するべきかはっきりします。

【余生の過ごし方を考える】

死生観に向き合うと、自分の残りの人生をどのように過ごしたいかを真剣に考えるきっかけになります。自分の価値観・目標・夢に基づいて、人生の残りの時間を最大限に活用する方法を考えることができます。

また、これまでの人生を通じて得た経験や学びを活かし、自分自身の価値を追求できるでしょう。余生の過ごし方を考えることで、自分の人生をより充実したものにするための行動や計画が立てられます。

死の目前にできること

死を受け入れながらできることから始める

死を目前に感じた時、人はなにができるでしょうか?ここでは、自身が死を迎えていくにあたり、必要な手続きや決定しておくべき内容を確認していきます。

【身元引受人の選定】

身元引受人の選定は、人生の終末期において重要なポイントになります。もし意識がなくなり、自分自身で物事の判断が難しくなった時、医療や介護の意思決定を行うのが身元引受人です。そのため、身元引受人は信頼をおける人で、価値観や信念を共感・尊重できる人が望ましいでしょう。選定は直属の親族だけでなく、親しい友人や第三者も候補になります。また、医療上の意思決定だけでなく、遺産や財産の管理についても身元引受人が担う場合があります。

【最期を迎える場所の選定】

自分がどこで最期を迎えたいか、最も快適で安心できる場所はどこか、考えておきましょう。自宅で過ごす人もいれば、専門的な医療ケアを受けられる病院やホスピスを選ぶ人もいます。ある人にとっては、家族が近くにいることが重要である一方で、別の人にとっては専門的な医療スタッフがいる環境が良いかもしれません。これらの選択は個々の健康状態、必要なケアのレベル、家族との関係、そして財政状況など、様々な要素によって左右されます。

【後悔しない方法】

人生の終わりが近づくと、過去の選択や行動を振り返り、後悔や心残りを感じる人も少なくありません。そのような時は、自分自身や他人に対して許しを求めることが重要です。過去の過ちを認め、そこから学び、成長する機会と捉えることもできます。最後の時間を有意義に過ごすためには、後悔を最小限にするために、自分の選択や行動を反省し、自分自身を許すことが不可欠です。

【延命治療の選択】

延命治療とは、人の生命を延長することを目的とした医療行為を指し、心肺蘇生法(CPR)、人工呼吸器の使用・輸液や栄養剤の投与・透析などが含まれます。延命治療は末期がんや心臓病・脳卒中など、重篤な病気の方に対して行われます。

しかし、延命治療は必ずしも本人にとって良いことばかりではありません。例えば、延命治療を行うことで身体的・精神的に苦痛を感じる可能性があるでしょう。また、延命治療は家族にも大きな負担をかけることがあります。

これらの理由から、本人や家族は、医療チームと一緒に延命治療について十分に話し合っておくことが重要です。延命に対する考え方、希望、価値観・信念・希望・恐れ・治療の目標。生活の質に対する考え方は個人によって様々です。そのため、話し合いは意識がはっきりしており、自分の意志を伝えられる段階で行うことが望ましいでしょう。

終末期の過ごし方・過ごす場所の統計 

自宅で最期を迎えたいと考えている人が多い

人生には必ず終わりが訪れます。その終末期をどのように過ごすか、そしてどこで過ごすかは個々人の深い考えや願いに関わる大切な問題です。ここではその関連統計と、なぜ自宅で過ごすことを望む人が多いのかについて解説します。

【最期の時を望む場所】


自宅

医療施設

介護施設

子どもの家

その他

67~71歳

58.0%

34.2%

3.6%

-

4.2%

72~76歳

56.7%

63.1%

4.4%

0.3%

2.5%

77~81歳

62.6%

30.9%

4.3%

0.1%

2.2%

統計によると、半数以上の方が自宅を望んでいます。理由としては、慣れ親しんだ自分の家で過ごすことによる心地よさや安心感、家族や親しい友人との親密な時間を過ごせることが挙げられます。

一方で、実際に自宅で終末期を過ごすことができる人は一部です。その理由は様々で、介護や医療の専門知識を必要とするケース、家族の生活スタイルや働き方、家の環境や設備などが関係しています。

高齢者の数は増加が予想されているため、より多くの人が自宅で最期を迎えられるよう、緩和ケアや訪問看護、地域包括ケアシステムの拡充など、社会環境を整備することが求められます。

次のデータは、死期が迫っているとわかったときに、人生の最期として避けたい場所についての調査です。

【人生の最期として避けたい場所】


子どもの家

介護施設

医療施設

自宅

その他

67~71歳

42.6%

28.8%

13.4%

9.9%

14.4%

72~76歳

41.3%

36.1%

10.2%

9.0%

12.6%

77~81歳

42.4%

40.4%

6.7%

7.3%

13.9%

自宅で最期を望む中、子どもの家では最期を迎えたくないと考えている人が多いことがわかります。また、年を重ねるごとに介護施設で最期を迎えたくないと考える人が増えています。

最期の場所について、個々の希望を尊重し実現するための具体的な計画を立て、必要なサポート体制の構築が大切です。自宅での最期が困難な場合でも、可能な限りその人らしさを尊重した環境を整え、安心して過ごせる場所を検討しましょう。

終末期の過ごし方・過ごす場所について考えることは、死生観を見つめ直すことにつながり、より豊かな人生を生きるためのヒントになります。

参照:日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査」

緩和ケアについて理解しよう

緩和ケアで穏やかに最期の時を過ごす

緩和ケアは、病気の治療が困難となり、治癒を目指すのではなく生活の質を向上させることを目指した医療や介護のかたちです。

緩和ケアは、痛みや吐き気などの身体的な症状だけでなく、心理的・社会的・精神的な問題も含めてケアを行います。具体的には、痛みの管理・病状に関する情報の提供・心理的サポート・生活の質の改善・家族のケアなどがあります。

【緩和ケアチームとは】

緩和ケアチームは、医師・看護師・介護職・薬剤師・心理カウンセラー・ソーシャルワーカー・栄養士など、様々な専門職から成る多職種のチームです。各専門家が連携し、対象者の身体的な症状・心理的な状態・社会的な問題・精神的なニーズを全面的にケアすることを目指します。それぞれの専門家が持つ知識と技術を活用し、対象者や家族が直面する困難に対して最適なケアを提供します。

【緩和ケアとターミナルケアの違い】

緩和ケアとターミナルケアは、両者ともに生活の質の改善を目指すケアの形態です。混同されることもありますが、その焦点とタイミングには重要な違いがあります。緩和ケアは、診断されてから最期までの期間を通して提供されるものです。病状が進行していく中で、対象者や家族が直面する様々な問題に対応することを目指します。

一方、ターミナルケアは、命の最終段階において提供されます。この期間は一般的に数週間から数ヶ月とされ、治療の焦点は身体的な苦痛の緩和と、対象者の尊厳を守り平穏な状態で最期を迎えられる環境を提供することです。

死生観に関するの用語

死生観を考えるうえで関連する用語を理解しておこう

死生観を考えていくと、様々な用語が出てきます。一部ではありますが、知っておくことで考えるきっかけとなったり、理解がより深まります。

尊厳死

尊厳死は、生命の終末期において、対象者が人間としての尊厳を保った状態で生命を終えることを意味します。具体的には、痛みや苦痛を最小限に抑え、可能な限り自己決定を尊重し、その人らしい最期を迎えられる環境を整えることです。

単に生命を終える過程をコントロールするだけでなく、人間としての価値や尊厳を守りながら生命を終えることを目指します。そのため、本人の意志や価値観を尊重し、痛みや不快感の緩和・精神的なケア・そして家族や友人との良好な関係を維持するなど、全体的なケアが必要です。

これは緩和ケアの一環でもあり、本人の身体的な症状の管理だけでなく、心理的・社会的・精神的な面もケアすることで、自分らしい生活を送り、尊厳を持って生命を終えることができる環境を整える役割があります。

また、尊厳死は「死をどのように迎えるか」という点で本人の意志が非常に重要です。生命の終末期についての話し合いを早期に行っておくことで、本人の意向を明確にできます。この過程はアドバンス・ケア・プランニング(ACP)とも呼ばれ、生命の終末期における医療やケアについて、本人が自身の価値観や目標に基づいて事前に考え、関わるすべての人々と共有することを指します。

安楽死

安楽死とは、通常、重篤な疾患や傷害により苦痛を伴う末期病態の人が、その苦痛を避けるため、または自身の尊厳を守るために、自身の死を望み、医療者や家族がその意思を尊重し、その生命を終わらせる行為を指します。

安楽死には大きく分けて2つのタイプがあります。一つは「能動的安楽死」で、これは医療者が積極的に薬物などを使用して対象者の命を終わらせる行為です。もう一つは「受動的安楽死」で、これは医療者が延命治療を開始しないことで対象者の命を自然に終わらせる行為を指します。

しかし、安楽死はその倫理的な問題から、すべての国で受け入れられているわけではありません。法律により認められている国もありますが、大多数の国では禁止または規制されています。

日本の場合、能動的安楽死は殺人罪に問われるため、認められていません。そのため、受動的安楽死のみの選択肢となります。しかし、受動的安楽死の考え方も人それぞれのため、本人の考えや意向、宗教観などを意思表示できる間に話し合っておくと良いでしょう。

満足度の高い終活

終活に取り組み残る家族に気持ちを残していこう

終活は、生と死についての自身の観念を整理し、人生の最終章に備える行為です。これはある意味で自己啓発とも言えるかもしれません。終活を通じて、自分の価値観を再確認したり、生きる目的を見つめなおすことができます。その結果、自分らしい人生を歩むための新たな視点を得ることができるかもしれません。

【できることからやっていく】

終活は大きなテーマであり、考えがまとまらず途方に暮れることもあるでしょう。しかし、すべてを一度に行う必要はありません。まずは自分にとって最も重要な事柄から手をつけてみると良いでしょう。例えば、自分の遺志を家族に伝えるために遺言書の作成・遺品整理を始めるなど、自分ができる範囲から始めてみましょう。

参考:遺品整理・生前整理業者のキズナリライフ

【ノートなどに希望を書き出す】

終活において、自分の意志を明確に伝えるためには、具体的な形で表現することが有効です。手紙やノートに自分の想いや希望を書き出し整理することで、家族や親しい人々にも自分の意志を伝えやすくなります。これにより、自分が望む人生の最期を迎えやすくなるでしょう。

参考:格安の葬儀なら【心に残る家族葬】

【100%希望通りにならないことを知る】

人生は何が起こるか分からないため、計画通りに行くとは限りません。だからといって何も考えないのではなく、分からないながらも自分らしくいられるように、心の準備と具体的な終活の準備を進めることが大切です。家族や周りの支援者は、本人の希望を可能な限りサポートすると同時に、柔軟な対応が求められます。

まとめ 

まとめ

今回は死生観について解説しました。人がどのように生き、どのような最期を迎えるか考えることは、人生において重要な意味を持ちます。

死生観と向き合うことで、新たな発見や具体的な行動を考えるきっかけになるでしょう。また、終活を通じて、自身の価値観を見つめ直し、自分らしい人生の最期を迎えるための具体的な計画を立てることは、後悔のない人生を送るための重要なステップとなります。そのため、早い段階から終活に取り組み、自分の意思や希望を具体的にして周囲の人の理解を得ておくことが大切です。人生の最期を自分らしく終えるために、まずは死生観について考え、終活を開始しましょう。

今回の記事が、死生観の理解に繋がれば幸いです。

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