介護予防・日常生活支援総合事業とは?そのメリットと取り組み内容を解説
「介護予防・日常生活支援総合事業とは何?」「どんなサービスがある?」このような悩みはありませんか?
介護予防・日常生活支援総合事業とは、要介護状態になる前の高齢者が、自宅で自立した生活を継続するために必要なサポートを提供する制度です。しかし、具体的なサービス内容やメリットについては、十分に理解されていない方も多いでしょう。
今回は、介護予防・日常生活支援総合事業でどのようなサービスが提供されるのか、また高齢者の生活にどのようなメリットをもたらすのかについて、わかりやすく解説します。これから介護予防・日常生活支援総合事業の利用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
とぐち まさき
渡口 将生
介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)とは
要支援者などの比較的健康な方でも利用できるサービス
介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)は、2015年の介護保険改正により設立された制度で、高齢者が要介護状態にならないように総合的に支援することを目指しています。
対象者は、主に要支援の方や65歳以上の高齢者で、地域にある多様な事業所やNPO法人、民間企業、ボランティアなどがサービスを提供します。
介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)導入の背景
高齢化が進む日本において必要になったサービス
高齢化社会は、介護ニーズの増大という大きな課題を引き起こしています。特に日本では、人口に対して急速な高齢化が進んでおり、高齢者の健康維持や生活支援、そして介護負担の軽減が社会全体の課題となっています。このような背景から、介護予防・日常生活支援総合事業が導入されました。
介護予防・日常生活支援総合事業は、介護保険を利用せず、要支援の介護予防サービスの一部(訪問介護や通所介護)に、市区町村で行われていた介護予防サービスが融合して、生まれた制度です。
これまでの介護予防サービスとは異なり、要介護認定を受けていなくても利用できます。また、介護予防・日常生活支援総合事業は、介護保険制度では補えなかったサービスを利用できます。これまでの介護保険サービスでは、支援が足りず、生活が困難な方でも自立した暮らしをできることが、介護予防・日常生活支援総合事業の特徴です。
このサービスは、全国で基準が定められた介護保険サービスとは異なり、各市区町村が主体となって行っています。そのため、運営基準や利用料などはサービスを提供する事業所や市区町村ごとに異なるため注意が必要です。また、「介護予防・生活支援サービス事業」を提供する介護サービス事業者の指定においても、従来は都道府県が担っていましたが、段階的に市区町村に移行しています。このように、介護予防・日常生活支援総合事業は市区町村に裁量権があり、独自のルールが設けられている場合もあります。
介護予防・日常生活支援総合事業の対象者
要介護認定を受けていない方でも利用できるサービス
介護予防・日常生活支援総合事業の対象者は、65歳以上の高齢者を中心に以下の2つのグループに分けられます。
要支援者
日常生活を続けられますが、一部の支援が必要な高齢者を指します。
基本チェックリスト該当者
これは、高齢者が自身の生活機能について低下があるかどうかをチェックする質問リストに基づいて判断されます。このリストは25項目の質問で構成され、日常生活の様子、身体機能の状態、栄養状態、外出頻度などを確認します。
このように、総合事業は、要支援者だけでなく、チェックリストによって一定の支援が必要と認識された高齢者も対象です。介護予防・日常生活支援総合事業では、高齢者ができる限り介護を必要としない生活を続けられることを目指しているため、幅広い方を対象にサービス提供が行われています。
参照:厚生労働省「基本チェックリスト」
介護予防・日常生活支援総合事業により期待できる介護予防の効果
要介護状態の予防と軽減とQOLの向上
日本の介護予防・日常生活支援総合事業で期待できる介護予防の効果は、以下の通りです。
要介護状態の予防と軽減
一般的な介護サービスを超えて、高齢者が自立した生活を維持できるように支援します。そのため、要介護状態への進行を防ぐ、または現状を維持して要介護状態を予防できます。状態を維持できれば、介護の負担を軽減することができるでしょう。
生活の質(QOL)の向上
高齢者が自分の生活をより充実させるための支援を提供します。これには、日常生活のための能力維持や向上、新しい趣味や楽しみなどが含まれます。楽しみを見つけることで、日々充実した毎日を送ることができるでしょう。
地域での社会参加とコミュニティの形成
事業によるサービスは、高齢者が地域社会に参加し、新しいコミュニティを形成するのを助けます。街角カフェや生き生き体操など、自治体によってさまざまな取り組みがあります。
家族の負担軽減
高齢者が自立した生活を送ることで、家族が介護に費やす時間や労力を軽減ことが可能です。一時的なレスパイトとしても活用できます。
経済的な負担の軽減
家族の手が介護から離れると、仕事にも行きやすくなるため、経済的な不安軽減も期待できます。
地域全体の介護問題の解決
介護予防・日常生活支援総合事業は地域全体の規模で実施され、高齢者の介護問題の解決に繋がる可能性があります。
介護予防・日常生活支援総合事業は、高齢者の生活の質を向上させ、地域全体の介護問題を解決するために重要なサービスです。しかし、具体的な効果は、提供されるサービスの種類や内容、利用者それぞれの状況によっても変わります。お住まいの自治体でどのような活動が行われているか、担当のケアマネジャーや市区町村の窓口で確認してみると良いでしょう。
介護予防・日常生活支援総合事業のサービス内容
利用者の希望に沿ったサービスを提供できる
介護予防・生活支援サービス事業は、2つのサービスに分けられます。それぞれのサービスを見ていきましょう。
介護予防・生活支援サービス事業
介護予防・生活支援サービス事業は、日本の高齢者が自立した生活を続けるための支援を提供する事業です。介護が必要となる前の段階で提供され、高齢者がより長く自立した生活を続けられることを期待されています。具体的には、高齢者が健康で社会的な生活を維持できるよう、日常生活の支援や体力の維持・向上、孤立の防止などに対する支援が含まれます。サービスは地域の公共施設や自宅などで提供され、自治体により内容が異なることもあります。
具体的には以下の通りです。
健康づくり支援 | 適度な運動や健康食事の提供、健康相談など |
生活支援 | 買い物支援、家事の支援、移動の支援など |
孤立防止 | 地域の集まりや趣味のクラス、外出支援など |
これらのサービスは、介護予防・生活支援サービス事業は、日本の地域包括ケアシステムの一部として機能しています。
要支援者への訪問介護やデイサービスは、従来の介護保険制度から移行されたサービスです。これらのサービスは、要支援者の日常生活のサポートや介護が必要な時間帯に提供されるもので、居住地の市区町村によって運営基準・利用料が設定されています。
サービスの対象者は、要支援の認定を受けた方・基本チェックリストで事業対象者と判断された方です。
一般介護予防事業
介護保険制度におけるひとつのサービスで、介護が必要となる前の段階で高齢者が日常生活を自立して過ごせるよう、生活全般にわたる支援を提供するための事業です。
具体的には、健康状態の維持や向上を目指し、適切な運動や栄養指導、日常生活の支援、地域社会との交流などのサービスが含まれます。また、高齢者が自宅で自立した生活を送るための家庭環境の改善や、介護が必要となった際に家族がその役割を果たせるような支援も行われます。
一般介護予防事業は、高齢者がより長く健康で自立した生活を続けられるようにすることが目的です。これらのサービスは、高齢者自身やその家族、地域社会全体が介護についての理解を深め、介護予防の意識を高めることにも期待できます。
65歳以上のすべての高齢者が対象です。
介護予防・日常生活支援総合事業で提供される主なサービスは以下の通りです。
サービス名 | サービス内容 |
---|---|
訪問型サービス | 介護の専門職が提供している訪問サービスで、要支援の方は身体介護・生活援助、一般介護予防事業にあたる方は生活援助が利用可能です。NPOや地域住民によるゴミ出し・電球交換・簡単な洗濯や掃除などの家事援助も受けることができます。また、短期間の集中サービスでは、専門職が訪問し、運動機能の改善や閉じこもりを解消する指導などもあります。 |
通所型サービス | 介護の専門職が提供している通所サービス(デイサービスなど)を利用できます。専門職による運動機能訓練やレクリエーションが行われています。また、地域住民やNPOによる介護予防を目的とした体操やレクリエーションも多いです。 |
その他の生活支援サービス | 市区町村が提供する独自サービスで、見守りや栄養改善を目的とした配食サービスや住民ボランティアによる見守り・巡回サービスなどが該当します。 |
介護予防ケアマネジメント | 地域包括支援センターが介護予防ケアプランを作成し、利用者の状況に合わせた適切なサービスを提供するケアマネジメントが行われます。 |
一般介護予防事業 | 体力作りを目的とした体操教室や介護予防をテーマとした講演会、介護予防教室における栄養改善・口腔機能向上・認知症予防・高齢者サロンの開設・生きがい作りを目的とした趣味やサークル活動・介護予防ボランティアの養成講座などがあります。 |
各市区町村は地域の実情に応じて、これらのサービスを検討し実施することとなっていますが、地域によってサービス量が異なるため確認してみると良いでしょう。
介護予防・日常生活支援総合事業のサービスを受ける方法
介護保険サービスよりも自由度が高く簡易的
介護予防・日常生活支援総合事業のサービスは以下の手順で利用できます。
相談する
市区町村の相談窓口または地域包括支援センターで、総合事業のサービス利用または要介護認定の必要性を相談します。要支援者は、基本チェックリストがなくても介護予防・日常生活支援総合事業の利用が可能です。
基本チェックリストを受ける
基本チェックリストを用いて心身の状況を確認します。基本チェックリストの結果によっては要介護認定の申請を検討することもあります。また、第2号被保険者にあたる40~64歳までの人が総合事業を利用する場合は、要介護認定が必要です。
介護予防・生活支援サービス事業対象者となる
基本チェックリストの結果により、介護予防・生活支援サービス事業対象者となります。非該当の場合でも、65歳以上であればすべての方が一般介護予防事業サービスを利用可能です。
ケアプランを作成する
地域包括支援センターにケアプランを作成してもらい、利用日時などを決めます。
利用開始
介護予防・日常生活支援総合事業のサービスを開始します。
介護予防・日常生活支援総合事業のメリットとデメリット
メリットとデメリットを理解して安心してサービスを利用しよう
メリット
自立支援
高齢者が自立した生活を続けるための支援を行います。これは、自宅での生活を維持し、日常生活の質を向上させるための重要な要素です。サービスは、身体機能の維持や向上、生活習慣の改善、社会参加の促進など、高齢者のニーズに合わせて提供されます。
個別対応
高齢者一人ひとりの状況に応じて、必要なサービスを受けることができます。地域包括支援センターがケアプランを作成し、それに基づいてサービスが提供されます。
地域での生活維持
高齢者が住み慣れた地域で生活するために、必要な支援を行います。地域での生活を続けることは、高齢者の生活の質を向上させ、孤立感を減らすことにつながります。
続いてデメリットを見ていきましょう。
デメリット
サービスの範囲
介護予防・日常生活支援総合事業のサービスは、主に予防と生活支援に焦点を当てています。そのため、高度な医療的なケアや介護が必要な場合、対応できない場合があります。
ケアプランの作成
サービスを利用するためには、地域包括支援センターにケアプランを作成してもらう必要があります。しかし、ケアプランの作成には時間がかかることがあり、高齢者やその家族がケアプランの内容について十分に理解していない場合、適切なサービスを受けられない可能性があります。
利用資格
介護予防・日常生活支援総合事業においては、日常の生活情報や身体機能の状態・栄養状態・外出頻度などを確認するための25項目の質問からなる基本チェックリストが用意されています。
以前の介護予防事業でも、基本チェックリストはありましたが、要介護認定を受けた人で、介護の対象にならない人を対象としていました。
介護予防・生活支援サービス事業では、65歳以上の高齢者は要介護認定を受けなくても、すぐに基本チェックリストを受けることができます。基本チェックリストの実施から該当者の認定までの時間は、即日から3日ほど必要です。
一方、一般介護予防事業は、地域に住む65歳以上の高齢者を対象としており、要介護者も含まれます。
まとめ
まとめ
今回は、介護予防・日常生活支援総合事業のサービス内容や利用するメリットとデメリットについて紹介しました。
介護予防・日常生活支援総合事業は、2015年の介護保険改正により創設され、高齢者が要介護状態になることを防ぐための総合支援サービスです。対象者は、要支援者と65歳以上のすべての高齢者で、多様な企業・法人がサービスを提供しています。
高齢者ができる限り介護を必要とせず、住み慣れた地域で生活が続けられることを目的としているため、利用者のニーズに合わせたサービスの選択が必要です。自治体によってサービスの量や内容が異なるため、利用を検討されている場合は、ケアマネジャーや市区町村の窓口に相談してみると良いでしょう。
今回の記事が、介護予防・日常生活支援総合事業の理解につながれば幸いです。
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介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。