介護保険を利用した住宅改修の内容とは?費用や申請方法についても解説
「住宅改修ではどんなことができるの?」「費用はどれくらいかかる?」このような疑問はありませんか?
日本は急速な高齢化を迎えており、自宅で安心した生活を送るためには、住環境の見直しが不可欠です。介護保険を利用した住宅改修では、必要な改修費の一部を介護保険で補えるため、費用を抑えて自宅の改修が可能です。しかし、住宅改修の方法や費用について知らない人も多いでしょう。
この記事では、介護保険を利用した住宅改修の内容や仕組み、支給対象となる改修の種類などについて解説します。また、注意点や、適切な改修業者の選び方についても紹介するため、住宅改修を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
とぐち まさき
渡口 将生
介護保険を使った住宅改修の仕組み
介護保険を利用して自宅の改修を行うサービス
日本は急激な高齢化を迎え、介護が必要な高齢者が自宅で生活できない環境も多くあります。そのため、自宅で自立した生活を送るために、住宅改修費の一部を補助する制度、「住宅改修」があります。介護保険を利用した住宅改修は、一般的にバリアフリー化や、生活を支えるための設備を設置または交換するサービスです。住宅改修の改修上限額は、20万円です。利用者が負担する費用は介護保険負担割合によって決まり、前年度の収入に応じて異なります。
20万円の住宅改修を行った場合の自己負担額は、以下の通りです。
介護保険で支給される額 | 利用者負担額 | |
1割負担 | 18万円 | 2万円 |
2割負担 | 16万円 | 4万円 |
3割負担 | 14万円 | 6万円 |
介護保険を利用した住宅改修には、利用条件を満たす必要があります。また、基本的にひとつの住宅で利用できる住宅改修は一人1回のみです。
支給対象となる住宅改修の種類
介護保険内で実施可能な住宅改修の範囲を知ろう
すべての住宅改修工事に、介護保険を適応できるわけではありません。介護保険の対応範囲となる改修内容は、次の通りです。
①手すりの取り付け
②段差の解消
③床または通路面の材料の変更
④引き戸への取り替え
⑤和式から洋式便器への取り替え
⑥その他①~⑤に付帯して必要となる住宅改修
それぞれ改修の特徴を見ていきましょう。
【手すりの取り付け】
手すりは、高齢者の移動を支援するために重要です。手すりを設置すると、転倒のリスクを減らすことができるでしょう。特に階段や風呂場、トイレなどに手すりを設置することが一般的です。
【段差の解消】
段差は転倒リスクを高める要因です。特に車椅子を使用している人にとっては大きな障がいとなるでしょう。段差を解消するために、スロープを設置したり、床の高さを調整したりします。
【床または通路面の材料の変更】
滑りの防止や移動をスムーズにするために床材の変更が可能です。滑りやすい床材を滑りにくいものへ交換する、または移動のしやすさを考慮した床材に変更することで、安全に移動可能となります。
【引き戸への取り替え】
開き戸を引き戸へ変更します。開き戸よりも引き戸の方が、開閉が容易であり車椅子を使用している人にとっても便利です。また、引き戸の方がスペースも取りません。
【洋式便器などへの取り替え】
和式トイレから洋式トイレへの交換は、特に膝や腰に負担がかかる方にとっては重要な改修です。また、温水洗浄便座に変更することで、急な体温変化が起こりにくく心臓への負担が軽くなります。
【その他①~⑤に付帯して必要となる住宅改修】
住宅改修には、①~⑤の改修に伴って必要となる作業も含まれます。例えば、手すりを設置するために壁を補強する、段差を解消するために床をリフォームするなどが含まれます。
これらの改修は、高齢者が自宅で安全に生活するために大切な改修です。どの住宅改修が必要かは、利用者の身体機能や健康状態によるため、ケアマネジャーやリハビリ職、福祉用具専門相談員などの専門職に相談すると良いでしょう。
住宅改修の対象者
基本的には一人1回の住宅改修が可能
住宅改修の対象となるのは、以下の条件の方です。
要支援1.2・要介護1~5の認定を受けている方
自宅で生活している方
上記の利用条件を満たしている方が対象です。また、住宅改修は利用者が自宅にいる状況でしか行えないため、施設に入居中や他の家に住んでいる場合は利用できません。賃貸の場合は、住宅のオーナーや管理人の許可が必要な場合があるため、必ず改修許可を得ておきましょう。
介護保険を利用した住宅改修は、一人1回の利用が基本です。ただし次の条件が当てはまる場合は、一人1回の制限が解除されます。
【介護度が3段階高くなった場合】
身体機能の低下などにより、要介護度が高くなった場合、新たに住宅の課題が発生することもあります。1度目の住宅改修時の介護度から3段階高くなった場合は、再度改修が可能となります。
【転居した場合】
1度目の住宅改修をした自宅から転居している場合は、再度新たな住居を対象に住宅改修が可能です。
【夫婦や同居人と利用する場合】
夫婦や同居人で要介護認定を受けている場合は、同じ住居に対して1回ずつ住宅改修が利用できます。ただし、利用者に必要な範囲でのみ利用可能なため、例えば夫に必要な住宅改修を、妻の介護保険を利用して行うことはできません。共用部にあたるトイレやお風呂では、利用者の改修目的が明確であれば、介護保険を利用して改修できます。
また、住宅改修費は、20万円までの支給上限を使い切ることで1回利用したとカウントします。そのため、1回ですべての支給を使い切らない場合は、複数回に分けて利用可能です。
住宅改修費の支払方法
住宅改修にかかる費用は2つの支払い方法がある
住宅改修に必要となる費用の支払い方法には、「償還払い」と「受領委任払い」の2つがあります。それぞれの見ていきましょう。
【償還払い】
償還払いでは、住宅改修でかかった費用を全額自己負担し、回収業者へ支払います。住宅改修後に市区町村に申請を行うと、介護保険負担割合に合わせて7~9割の補助金を受け取ることが可能です。償還払いでは、一時的に全額負担する必要になるため、負担が大きい場合は次の受領委任払いを利用すると良いでしょう。
【受領委任払い】
受領委任払いは、介護保険の自己負担額である1~3割の費用のみを、事業者に直接支払う方法です。全額を負担する償還払いに比べると、一次的な経済的負担の軽減ができます。しかし、すべての改修事業者が受領委任払いに対応しているわけではありません。ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しておくと、受領委任払いに対応した事業所を探してもらえるでしょう。
住宅改修の申請手続き
申請手続きには時間がかかるため早めの申し込みが必要
介護保険を利用した住宅改修の申請手続きは、以下のような流れです。具体的な手続き方法は市区町村によって異なる場合があるため、お住まいの自治体に確認することをお勧めします。
【住宅改修の必要性の確認】
まずは、自宅での生活に困難さがあるか、住宅改修によりどのような改善が見込めるかを確認します。担当のケアマネジャーがいる方は、専門家としての意見を聞くと良いでしょう。
【住宅改修業者の選定と見積もり】
改修業者を選ぶ際は、信頼性・経験・料金などから選択すると良いでしょう。その後、改修を実施する事業者による現地調査が行われます。この時、希望や要望を詳細に伝えることが重要です。事業者は現地調査の結果を基に、住宅改修プランを作成します。作成された改修プランや費用見積もりを確認した上で、最終的に契約を進めるか決めます。
【申請書の作成】
補助金を受け取るためには、業者から改修工事の見積もりを取得し、それを元に支給申請書類を市区町村などの担当窓口に提出します。申請書には、改修内容・見積もり金額・工事を行う業者名などを記入します。市区町村は提出された書類を基に、申請内容が支給対象として適切か審査を行います。
【改修工事の実施と報告】
申請が認められたら、改修工事が始まります。工事が完了したら、利用者は領収書やその他の費用を証明する書類を市区町村に提出します。市区町村は事前に提出した申請書類と、実際に行った改修工事が適切に完了したか確認を行います。
【支給決定と支払い】
申請書に不備がなければ、介護保険が適応され、工事費用の7~9割が返金されます。ただし、上限額である20万円を超えた場合、超過分は全額自己負担となります。
手続きや申請に関しては、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員がサポートしてくれるため、わからない場合は相談すると良いでしょう。
住宅改修における注意点
住宅改修には制限も多いため慎重に行いましょう
ここからは住宅改修における注意点を紹介します。住宅改修の制度には利用回数や費用の上限額など、様々な制限があるため、注意が必要です。
【専門職の意見を取り入れる】
自宅のどの部分をどのように改修すれば、日常生活がスムーズになるかを判断するためには、住宅改修の専門的な知識が必要です。そのため、ケアマネジャーやリハビリ専門職などの意見も取り入れるとよいでしょう。また、利用できる回数が限られるため、将来的な暮らしも視野に入れて検討することが大切です。
【自治体の指導に従う】
住宅改修の補助金は市区町村が管理しているため、改修前に自治体の流れに沿って手続きを行うことが重要です。市区町村によっては、申請前に事前相談を行うことが推奨されている場合もあるため、確認しておくと良いでしょう。
【補助金の上限額を確認する】
補助金の上限額は20万円です。改修工事の見積もり額が上限額を超える場合は、超過分は全額自己負担となります。
【工事後のチェック】
住宅改修後は、改修した部分をチェックします。設置した手すりの固定状態や床材の状態などに不備がある場合は、すぐにケアマネジャーや改修業者に伝えてください。
【事前申請】
住宅改修工事は事前の申請が必要です。改修工事後の申請は基本的に受け付けられないため、注意しましょう。
これらの点に注意しながら、自分自身や家族の生活に最も適した住宅改修を行うと良いでしょう。
改修業者の選び方
満足のできる改修を行うためには業者の見極めが重要
住宅改修の業者を選ぶ際には、以下のポイントを考慮すると良いでしょう。
【信頼性】
説明のわかりやすさや質問への回答、人柄なども、大切なポイントです。ケアマネジャーや福祉用具専門相談員は、口コミや評判を知っていることもあるため、聞いてみると良いでしょう。
【介護の住宅改修に対する理解と経験】
介護の住宅改修は一般的な改修工事とは異なる専門的な知識や技術が必要です。そのため、介護の住宅改修に対する理解や施工実績は重要なポイントになります。下見や相談時に確認し、十分に希望を伝えておくと良いでしょう。
【見積もりの明瞭さ】
見積もりは、工事の内容と費用を明確に示すものです。しかし、改修業者によっては、わかりにくいものや簡易な見積書を作成されることがあります。見積もり内容が明確ではない改修業者の場合、確認をとり加筆してもらうか利用を避けると良いでしょう。
【対応の速さとコミュニケーション能力】
問い合わせに対する迅速さや、スムーズなコミュニケーションも重要なポイントです。コミュニケーションが取りにくい場合、住宅改修やその後の手続きなどで不備が発生する場合もあるため、注意しましょう。
【アフターサービス】
改修工事の完了後も、何か問題が発生した場合に迅速に対応してもらえるのかどうかを確認しておきましょう。アフターサービスの内容も確認することで、安心して依頼できます。
参考:ホームドクター119番| 防水工事も雨漏り修理もNo.1
まとめ
今回は、介護保険を利用した住宅改修を紹介しました。住宅改修は、高齢者や身体の不自由な方が安全に自宅で生活するための重要な制度です。支給対象となる改修の種類には、手すりの取り付けや段差の解消などがあり、長く安心して生活できる住まいにするために必要な改修を選択すると良いでしょう。
要介護認定を受けている方であれば、住宅改修の対象者になります。住宅改修には、計画書の作成や申請書類の提出、改修工事の実施、支給申請など様々な工程があり、時間を要します。そのため、自宅の生活に困難さを感じている場合は早めの申請がおすすめです。
住宅改修費の支払方法には「償還払い」と「受領委任払い」があり、基本的には償還払いが適応されます。しかし、一旦は全額自己負担となるため、資金に不安がある場合は、受領委任払いを利用しましょう。ただし、受領委任払いはすべての事業所が対応しているわけではないため、改修業者を選ぶ際の条件としてケアマネジャーに提示しておくとよいでしょう。
改修業者は様々あり、サービス内容や費用も異なります。見積りを出す際は、複数の改修業者からとり、比較検討すると良いでしょう。また、改修内容については、ケアマネジャーやリハビリ職、福祉用具専門相談員などに相談し、専門的な意見を集めておくことがおすすめです。
住宅改修は基本的に一人1回の利用(20万円を上限に分割して利用は可能)です。そのため、将来性も考慮した改修が必要となるため、十分に検討して住宅改修を行うと良いでしょう。
今回の記事が介護保険を利用した住宅改修の理解に繋がれば幸いです。
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介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。