介護施設入居の関連サービスとは?〜引越し・家財整理・相続など〜
老人ホームをはじめとする高齢者施設に入居する時には、入居申し込みや契約以外にも自宅売却・引越し・家財整理・相続・資産運用などやるべきことが多くあります。時間や手間がかかるものもあるため、早いうちから計画的に進めることが大切です。今回は、高齢者施設への入居にあたって準備しておきたい、「自宅売却・引越し・生前整理・生前贈与・資産運用」の5つについて、概要を解説します。
1.自宅売却
親御さんが高齢者施設に入居することをきっかけに、実家に住む人が誰もいなくなる場合、自宅の売却を検討する方が多いです。空き家のまま放置すると防犯上のリスクがあり、さらに固定資産税もかかります。また、売却によって得たお金を、医療費や生活費に充てることもできます。
しかし、売却には時間と手間がかかります。そのため、健康面・体力面の問題から、ご本人が売却に賛成していても、売却手続きを行うことが難しいケースもあります。その場合は、ご家族が代わりに売却することも可能です。
ご家族が親御さん名義の自宅を売却する際は、「任意後見」を使用する方法と「法定後見」を使用する方法の2つがあります。
委任状を使って売却する「任意後見」
ご本人に家を売却する意思が確認できる場合は、委任状を用意してご家族が代理人となることにより、家を売却することができます。この場合の代理人を「任意代理人」と呼び、任意代理人はご本人が任命する必要があります。そのため、認知症などでご本人の意思能力が不十分と判断される場合は、たとえ委任状があっても手続きが無効になります。
委任状のフォーマットは決められておらず、手書きでもパソコンで作成しても問題ありません。委任状には、以下の必要事項を記載する必要があります。
委任者と受任者の氏名・住所
限定した委任事項
委任した日付
実印と印鑑証明の添付
委任者と受任者の氏名・住所
委任状において、ご本人は「委任者」、代理人は「受任者」と呼びます。委任者と受任者を特定するため、氏名と住所を記載する必要があります。
限定した委任事項
委任事項とは、委任者が受任者に依頼する内容のことです。対象となる物件や売買契約における条件、売買金額や引渡し時期などを細かく限定します。このとき「一切の件を委任する」と記載してしまうと、受任者の権限範囲が無限になり、トラブルを引き起こす可能性もあります。そのため、委任事項については詳細に記載し、限定することが大切です。
委任した日付
委任した日付を記載することにより、代理権が発生した日を特定し、契約の有効性を証明しやすくなります。
実印と印鑑証明の添付
委任状には捺印が必要ですが、実印を用いるのが一般的です。実印を用いる際は、印鑑証明を添付することが望ましいです。
なお、委任事項の修正に備えて捨印を押してはいけません。捨印とは、あらかじめ委任事項の訂正に備えて、委任状の余白部分に行う押印のことを指します。捨印を押すと、後で受任者が勝手に売買条件を変更できてしまうためです。
不動産会社や買主による確認
委任状提出後、本当に委任者に売買の意思があるか確認されます。不動産会社や買主などが本人と面談を行い、本人確認と売却の確認をした後、正しい委任状に基づく正当な取引であるかをチェックします。
ご本人の意思能力が不十分な場合は「法定後見」
認知症を患っているなど、ご本人の意思能力が不十分であると判断される場合は、法定後見制度を利用する必要があります。
法定後見制度は、判断能力が低下した方を保護するために、本人や配偶者、四親等内の親族などが裁判所に申し立て、裁判所が後見人を任命する制度です。法定後見人には、ご家族が任命されるとは限りません。弁護士や司法書士などの第三者が任命される可能性もあります。任命された法定後見人は、必要に応じて不動産の売却や入院手続きなどを行うことができます。
法定後見を利用する際の注意点
法定後見人を利用する際の注意点は、第三者が後見人に任命された場合は報酬が発生することです。ご本人が亡くなるか意思能力が回復するまで、法定後見人としての役割を担い続けるため、報酬の支払いが必要です。
また、居住用の不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。居住用不動産は、ご本人にとって重要な財産であるとみなされるため、裁判所の許可なく売買契約を結ぶと無効になります。
2.引越し
介護施設に入居する際、家具や生活用品などを居室に運ぶ必要があります。ここでは、介護施設への引越しについて見ていきましょう。
介護施設への引越しの流れ
介護施設への引越しの流れは、以下のとおりです。
- 施設への入居手続き
- 荷物の整理、仕分けなどの準備
- 引越し当日
想定よりも時間がかかる可能性もあるため、入居日が決まったら手続きを進めましょう。
1.施設への入居手続き
希望の施設が見つかり入居審査が通ったら、施設への入居手続きを行います。
施設が作成した入居契約書と重要事項説明書をチェックし、問題がなければ契約書に記名押印をしましょう。
その際、入居日を決める必要があります。引越しの準備には、荷物整理や業者への依頼・見積もりなど、時間がかかります。特に、ご自宅を退去する場合は、ガスや電気の解約手続きのほか、原状回復、退去手続きなど、やるべきことは様々です。無理のないスケジュールで、施設への入居日を設定しましょう。
契約後すぐに入居したい場合は、施設選びと同時に、家財整理を進めておくことが大切です。
2.荷物の整理、梱包などの準備
入居日が決まったら、入居に間に合うように、荷物の整理や梱包作業を行いましょう。引越し業者を利用する場合は、業者選びと見積もりも必要です。
施設に持っていける荷物には制限があります。施設の規約を確認して、持っていく荷物を選別しましょう。
集合住宅にお住まいの場合は、エレベーターを利用する必要があるため、搬出作業を行う日時を連絡しなければならないことがあります。また、共用部分を傷つけないよう、引越し業者を利用しなければ引越し作業を行えないケースもあります。管理会社に必ず確認し、ルールに則って引越し作業を進めましょう。
3.引越し当日
引越し当日は、あらかじめ施設側に連絡し、荷物を搬入します。荷物が少なく、ご家族だけで行う場合は、自家用車やレンタカーを用意して運び入れましょう。
搬入や荷解きの際は、ほかの入居者の迷惑にならないよう、静かに作業することが大切です。また、施設の壁や床を傷つけないよう、細心の注意を払いましょう。
介護施設へ引っ越す際のポイント
介護施設への引越しをスムーズに進めるポイントは、以下のとおりです。
引越し業者を利用する
トランクルームを利用する
引越し業者を利用する
介護施設への引越しは、ご本人・ご家族だけでも行えますが、引越し業者を利用すると安心です。搬入時に施設の壁や床に傷がつくと、賠償問題につながるリスクがあります。また、荷物を運んでいる最中に怪我をする可能性も否定できません。
引越し業者を利用することにより、重い荷物やかさばる荷物も安心して負担なく運べます。
トランクルームを利用する
スペース不足で介護施設に持ち込めないものの、手放したくない荷物がある場合は、トランクルームを利用するのが効果的です。介護施設の近くにあるトランクルームを契約して荷物を保管することにより、必要なときにすぐに荷物を取り出すことができます。
たとえば、おしゃれが好きで洋服をたくさん持っており、居室のクローゼットに入りきらないという場合は、今の季節に合わない洋服をトランクルームで保管するとよいでしょう。夏場は夏服を居室に、冬物をトランクルームに置き、衣替えのタイミングで交換するのがおすすめです。
トランクルームによっては、低価格で小さなスペースを気軽に借りることができます。また、宅配型トランクルームであれば、荷物を預けたり取り出したりする作業をスタッフに依頼でき、利便性が高いです。
引越し業者の選び方
介護施設への引越しの際は、信頼できる引越し業者を選ぶことが大切です。ここでは、引越し業者の選び方を解説します。
- 高齢者向けプランを展開している業者を選ぶ
- 単身者向けの業者を選ぶ
高齢者向けプランを展開している業者を選ぶ
介護施設への引越しの際は、高齢者向けのプランを展開している業者を選びましょう。
高齢者向けプランとは、引越し業者が各自に認定している専任アドバイザーからサポートを受けながら、引越し作業をスムーズに行えるプランのことです。家財整理から荷造り、運搬、荷解きなど、ほぼすべての引越し作業を業者に任せることができます。中には、不用品買取や住所変更手続きの代行サービスもあり、非常に便利です。
サービスが充実している分費用がかかりますが、引越し作業の負担を少しでも減らしたい方は、高齢者向けプランを利用しましょう。
単身者向けの業者を選ぶ
介護施設に持ち込める荷物の量には制限があり、通常の単身者の引越しよりも、荷物は少なくなります。そのため、単身者向けのプランを提供している業者を選ぶのがおすすめです。
単身者向けプランでは、専用のカーゴ(鉄製のカゴ台車)に入る分の荷物を運んでくれます。トラックを1台貸し切る通常の引越しとは異なり、1台で複数のカーゴをまとめて運ぶため、費用を安く抑えられるのが魅力です。
3.生前整理・家財整理
施設への入居を機にご自宅を売却する場合はもちろん、そうでない場合も家財整理は重要です。家財整理には時間がかかるため、余裕を持って計画的に進めることが大切です。
体力や時間があるうちに家財整理を行うことを、生前整理といいます。生前整理を行うことにより、ご家族にかかる負担を軽減できます。
引越しを機に、生前整理で家財の選別や処分をスタートさせましょう。
生前整理を行うメリット
生前整理を行うメリットは、以下の4つです。
介護施設に持ち込む荷物を厳選できる
所有している家財を把握できる
ご家族の負担を軽減できる
ご自宅の動線確保ができる
介護施設に持ち込む荷物を厳選できる
生前整理を行うことにより、介護施設に何を持ち込むかをゆっくり考えることができます。
老人ホームをはじめとする介護施設に持ち込めるのは、施設によって決められた量の荷物のみです。居室は1R~1DK(約13~25㎡)ほどの広さが一般的であり、持ち込める荷物は非常に限られています。
生前整理を行うことにより、「何が必要で何が不要か」を、時間をかけて厳選できます。
所有している資産を把握できる
現在所有している資産の状況を、正確に把握できることもメリットです。
資産というと、預貯金や自動車、不動産などの、目に見えるモノを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、生命保険や株式・投資信託、デジタルデータなどの、目に見えないモノも資産に含まれます。
資産の把握や整理は想像以上に骨の折れる作業です。計画的に生前整理を行い、自身の資産について把握することが大切です。
ご家族の負担を軽減できる
生前整理を行うことによって、引っ越しの準備が楽になるほか、遺品整理時にご家族にかかる負担も軽減できます。
不要なものは処分・売却して持ち物を減らす、使用していないサービスは解約する、重要な資産の場所がわかるようメモに残しておく、パスワードをまとめておく、など、資産についてご自身ができることは多岐にわたります。ご家族の負担を軽減できるよう、生前整理を行いましょう。
ご自宅の動線確保ができる
生前整理でご自宅を片付けることにより、ご自宅の動線確保もできます。
ご自宅に物が溢れていると、つまずきや転倒のリスクが高まります。将来車椅子が必要になった際に、生活スペースが少ないと車椅子で自宅内を移動できない可能性もあるでしょう。
また、介護施設入居後も、イベントの際にご家族と過ごしたり、必要なものを取りに行ったりするために、一時帰宅することがあります。
物を減らしてご自宅を整理整頓し、安全に過ごせる環境を整えることが大切です。
生前整理・家財整理の進め方
生前整理・家財整理は、以下のステップで進めましょう。
家財を仕分けする
不用品は処分する
使えるものは売却する
相続しない固定資産は売却する
財産目録を作成する
1.家財を仕分けする
まずは、すべての家財を「必要」「保留」「不要」の3つに分類しましょう。
仕分けをせずに、1つずつ処分や売却といった手続きを進めるのは効率が悪く、家財整理がスムーズに進みません。
はじめに家財を仕分け、まとめて処理できるようにしましょう。
このとき、本当に必要なもののみを「必要」に分類することが大切です。「後で使うかもしれない」という思考で仕分けを行っても、家財整理は進みません。
また、ご家族が一緒に家財整理を行う際は、重要なものを間違えて捨てないように注意しましょう。一見不要に思えるものであっても、ご本人にとっては思い出深いものである可能性があります。特に、写真や手紙などは、介護施設に持って行きたい、と考えている場合もあるでしょう。
ご本人の意志を尊重して、家財整理を行う必要があります。
2.不用品は処分する
「不要」に分類したものについては、処分しましょう。
処分がためらわれる場合は、誰かに譲るという方法もあります。ただし、渡すものによっては、引き取った側に贈与税が課せられる場合があるため、注意しましょう。
ゴミに出す際は、お住まいの自治体の処分ルールを確認し、正しく分別する必要があります。ゴミに出せる曜日や、1回に出せる量が限られている場合もあるため、計画的に処分することが大切です。
処分の際は、粗大ごみと家電リサイクル法対象製品の扱いに注意が必要です。
<粗大ごみ>
粗大ごみは、家具や寝具、自転車など、比較的サイズが大きいごみのことです。
粗大ごみの規定は自治体によって異なりますが、基本的には、一辺の長さが30cm以上、20リットルの有料指定ごみ袋に入りきらない程度のサイズのものが、粗大ごみに分類されます。
なお、冷蔵庫やテレビといった家電については、後述の家電リサイクル法対象製品に分類されるため、粗大ごみとして出すことは出来ません。
粗大ごみを処分する際は、手数料がかかります。また、回収の申し込みから回収までに1ヶ月以上かかる場合もあるため、余裕のあるスケジュールで処分することが大切です。
<家電リサイクル法対象製品>
家電リサイクル法対象製品とは、家電リサイクル法によって定められた、以下の4品目です。
エアコン
テレビ(ブラウン管、プラズマ、液晶)
冷蔵庫・冷凍庫
洗濯機・衣類乾燥機
家電リサイクル法対象製品を処分する際は、対象の家電を購入したお店、あるいは買い替える予定のお店に連絡し、費用を支払って引き取ってもらいましょう。
3.使えるものは売却する
不用品の中に、まだ使える家具や洋服、価値があると考えられる美術品や骨董品、コレクションなどがある場合は、売却を検討しましょう。売却することができれば、生活費や老後資金の足しにできます。
不用品を売却する先には、主に以下の2つがあります。
中古買取サービス
フリマサービス
中古買取サービスは、業者が鑑定し、買い取ってくれるサービスです。ご自宅に訪問して買い取ってくれる「出張買取サービス」や、売りたいものを段ボールに詰めて送付する「宅配買取サービス」を利用することにより、店舗を訪問することなく売却できます。
フリマサービスは、インターネット上で個人同士が気軽に物を売り買いできるサービスです。不用品にご自身で値段をつけ、出品できます。1品ずつ出品・郵送する必要があるのが難点ですが、買取サービスを利用する場合よりも高く売却できる可能性が高いです。
なお、生前整理を業者に依頼する場合、業者によっては、家財の整理や処分をサポートしてくれると同時に、リサイクル店舗と提携してその場で買い取ってくれることがあります。片付け・処分・売却を一括して行えるため、生前整理をスピーディーに完了させたい方は、検討すると良いでしょう。
4.相続しない固定資産は売却する
建物や土地、自動車などの固定資産の中で、相続する予定がないものについては、売却して現金化しましょう。売却手続きには時間がかかるため、早めに取り組むことが大切です。
5.財産目録を作成する
預貯金や株式、不動産などの財産のうち、残しておきたい物については、財産目録を作成します。
財産目録を作成することにより、所有している財産を把握できます。相続税の申告や遺産分割協議など、相続の際にも役立つため、家財整理のタイミングで作成しておきましょう。
なお、借金や未払いの税金のようなマイナスの財産や、宝石、骨董品なども相続の対象となります。抜け漏れがないように作成しましょう。
生前整理・家財整理をスムーズに行うポイント
生前整理や家財整理をスムーズに行うためのポイントは、以下のとおりです。
家族で話し合う
計画的に行う
業者に依頼する
家族で話し合う
生前整理を計画的に進めるためには、ご家族で事前に話し合うことが大切です。
「物を処分する」ということに、抵抗がある方も多いでしょう。生前整理をするとどのようなメリットがあるか、いつごろから着手するか、などを話し合い、ご家族全員が前向きに生前整理に取り組める環境を整えます。
計画的に行う
生前整理には時間がかかるため、計画的に行うことが大切です。納得のいく生前整理をするためには、業者に依頼しない場合、1年程度かけるのが理想とされています。介護施設選びと並行して生前整理に取り組むのがおすすめです。
業者に依頼する
家財整理にかかる負担を軽減したい場合は、家財整理の専門業者に依頼することもできます。
家財整理には時間がかかり、荷物整理や処分には体力も必要です。仕分け方法がわからず、スムーズに進まない場合もあります。
少しでも家財整理の負担を減らしたい方は、専門業者に依頼しましょう。
4.生前贈与
施設への入居をきっかけに、相続を検討する方も多いです。財産を親族に渡す方法には、大きく遺産相続と生前贈与の2つがあります。
このうち、ご本人が存命のうちに財産を渡すのが生前贈与です。以下では、生前贈与のメリットや贈与税、生前贈与の注意点などについて解説します。
生前贈与のメリット
生前贈与のメリットは、以下の3点です。
相続税を軽減できる
贈与相手や贈与時期を自由に決められる
相続トラブルを回避できる
それぞれ見ていきましょう。
相続税を軽減できる
生前贈与を行うことにより、相続時の財産が減ります。そのため、相続税の軽減が期待できるのがメリットです。
生前贈与や、後の章で紹介する贈与税非課税制度を活用し、相続人に課せられる税負担を軽減できます。
贈与相手や贈与時期を自由に決められる
生前贈与では、贈与者が贈与相手や贈与時期を自由に決められるのがメリットです。
相続では、法定相続人と受遺者(遺言で指定された相続人)に対して財産が分配されます。法定相続人になれるのは、配偶者と血族です。そのため、遺言書が作成されていない場合、法定相続人以外が財産を受け取ることはできません。
生前贈与であれば、贈与者が贈与相手を自由に指定できるため、法定相続人以外にも財産を承継することができます。
さらに、生前贈与であれば、贈与時期も自由に決められるのもポイントです。「マイホームを購入する」「子どもが大学に進学する」など、財産を受け取る側のライフイベントに合わせて贈与を行うことにより、お金が必要な時期にサポートできます。
相続トラブルを回避できる
生前贈与によって、相続トラブルを回避できる可能性が高いのもメリットです。
相続では、遺言書の内容次第で相続人同士でトラブルが発生し、家族の仲が険悪になる場合があります。遺言書の解釈違いが起こるリスクもあるでしょう。
一方、生前贈与であれば、贈与者が直接贈与の意向を伝えられるため、解釈違いのリスクを避けられます。万が一トラブルが発生した際も、贈与者が直接理由を説明して対応できるため、トラブルを解消しやすいのもメリットです。
生前贈与で発生する贈与税
生前贈与の場合、贈与相手に対して贈与税が発生します。贈与税には以下の2種類の課税方法があります。
- 暦年課税
- 相続時精算課税
暦年課税
暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された額に対して課税される方法です。生前贈与の場合、基本的にはこの課税方法になります。年間110万円までは基礎控除が認められており、それを超えると課税対象となります。そのため、110万円以内の贈与であれば、贈与相手に税負担をかけずに財産を受け渡すことができます。
相続時精算課税
相続時精算課税は、60歳以上の親・祖父母から20歳以上の子・孫に贈与する場合にのみ選択できる課税方法です。申告書を提出することにより、特別控除額が2,500万円に拡大されます。贈与者が亡くなった後、贈与価額と相続財産価額の合計額に対して相続税が発生し、相続税として一括して納税する仕組みです。また、相続時精算課税は、控除額内であれば何回でも利用でき、残額を次回以降に繰り越すことができます。
相続時精算課税は、一度選択すると撤回できません。暦年贈与との併用はできないため、注意が必要です。また、この方法を選択すると「小規模宅地等の特例」も利用できなくなります。小規模宅地等の特例とは、居住用などの宅地を相続する際に、一定の要件を満たしている場合、評価額を減額して税金算定根拠とできる制度です。宅地を相続する場合は、どちらを利用する方がメリットが大きいかを慎重に検討する必要があります。
贈与税非課税制度とは
前述のとおり、生前贈与では財産を受け取った側に対して贈与税が課せられます。
しかし、一定の条件を満たす場合は、一部の金額が非課税になる特例制度も存在します。贈与税非課税制度を活用して、生前贈与にかかる税負担を軽減しましょう。
なお、家族を扶養するための生活費や教育費として、通常必要とされる範囲を贈与する場合は、そもそも贈与税の課税対象外となります。ただし、生活費や教育費として贈与された分を、預貯金や別の用途で使用した場合は、贈与税の課税対象となる点に注意が必要です。
ここでは、以下の3つの贈与税非課税制度について解説します。
教育資金の一括贈与の特例
結婚・子育て資金の一括贈与の特例
住宅取得等資金贈与の特例
教育資金の一括贈与の特例
教育資金の一括贈与の特例とは、30歳未満の方が、教育資金として父母や祖父母から一括贈与を受けた場合、受贈者1人につき、1,500万円までの贈与が非課税になる、という制度です。
教育資金の一括贈与の特例を受けるためには、令和8年3月31日までの間に、直系尊属から一括贈与を受ける必要があります。
さらに、受贈者が金融機関で「教育資金口座」を開設して贈与された資金を預け入れ、金融機関を経由して税務署に届け出る必要があります。口座から資金を引き出した際は、教育資金として使ったことがわかる領収書を、金融機関に提出します。
参考:国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」
結婚・子育て資金の一括贈与の特例
結婚・子育て資金の一括贈与の特例とは、18歳以上50歳未満の方が、結婚・子育て資金として父母や祖父母から一括贈与を受けた場合、受贈者1人につき、1,000万円までの贈与が非課税になる、という制度です。なお、結婚資金として受け取る場合は、300万円までが非課税となります。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例を受けるためには、令和7年3月31日までの間に、直系尊属から一括贈与を受ける必要があります。
さらに、教育資金の一括贈与の特例と同様に、金融機関で「結婚・子育て資金口座」を開設して管理し、資金を引き出した際は領収書を提出します。
参考:国税庁「父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」
住宅取得等資金贈与の特例
住宅取得等資金贈与の特例とは、18歳以上の方が、住宅取得用の資金として父母や祖父母から一括贈与を受けた場合、一定額が非課税になるという制度です。非課税限度額は、住宅の種類、贈与の時期、住宅取得の契約締結日などによって異なります。
特例を受けるためには、令和5年12月31日までに贈与を受けること、受贈者の所得が2,000万円以下であること(取得する住宅の面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)、過去に同じ特例制度を利用していないこと、などの複数の条件があります。
また、特例を使って贈与税が0円になる場合も、贈与税を申告しなければ特例制度が適用されません。
参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
生前贈与の注意点
生前贈与を行う際は、以下の3つの点に注意しましょう。
老後資金をふまえて贈与する
名義預金に注意する
遺留分侵害額請求のリスクに注意する
老後資金をふまえて贈与する
生前贈与で贈与する金額は、老後資金をふまえて決定しましょう。
相続税の負担を減らそうと多額の生前贈与を行うと、その分手持ちの資金が減ってしまいます。
生前贈与後も老後資金を十分に確保できるかを計算したうえで、生前贈与を行いましょう。
名義預金に注意する
名義預金を所有している場合は、相続税の対象になるため注意が必要です。
名義預金とは、口座の所有者と、実際に口座を管理している人が異なる預金のことです。例えば、子どもの名前で口座を開設した後、預金や印鑑などの管理を親が行っている場合は、相続時に親の財産とみなされます。
そのため、生前贈与したい分を名義預金に預け入れても、生前贈与とは認められません。生前贈与の際は、名義預金ではなく、財産の受贈者自身が管理している口座に入金しましょう。
遺留分侵害額請求のリスクに注意する
生前贈与の際は、遺留分侵害額請求のリスクに注意が必要です。遺留分侵害額請求とは、法定相続人の遺留分(最低限の取り分)が侵害されている場合、その分を侵害者に請求できる、ということです。
遺留分侵害額請求は、生前贈与に対しても可能です。生前贈与の際は、法定相続人の遺留分について理解したうえで、誰にどのくらいの財産を贈与するのかを決める必要があります。
5.資産運用
老人ホームでの生活には、決して安くはない費用がかかります。安心・安全な生活のために、資産運用を始めるのも1つの方法です。
資産運用の重要性
人生100年時代と言われている現代において、十分な老後資金を確保することは重要です。資産運用を始めることにより、老後資金が増え、老後の暮らしが豊かになる可能性が高いです。
定年退職後は、基本的には年金と貯蓄で生活することになります。退職後も、生活費や趣味・娯楽費、老人ホームの入居費用や医療費など、あらゆる場面で費用がかかります。総務省の家計調査報告では、70歳以上の2人以上世帯でも、平均して月に20万円以上は必要であることがわかりました。
出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要」
資金計画を立てて老後資金を貯蓄しておくことと同時に、資産運用に取り組むことにより、資産が長持ちします。
始めやすい資産運用方法
ここでは、初心者でも始めやすい資産運用方法を3つご紹介します。
つみたてNISA
投資信託
不動産小口化商品
つみたてNISA
「つみたてNISA」は、20歳以上であれば誰でも始めることができ、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」のように資金の積み立てができる制度です。年金受給額が増えるだけでなく、掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税になるなど、税制上のメリットが大きいです。運用商品は投資信託のみですが、加入や口座維持にかかる手数料が必要なく、投資初心者の方にも運用しやすいです。
つみたてNISAには年齢の上限がなく、最長20年間、毎年40万円まで投資することができます。
投資信託
投資信託とは、投資家から集めたお金を資金とし、専門家が株式や債券などに投資して運用する金融商品のことです。
銘柄が下落した時に大きなリスクを負う株式投資と比べて、分散して投資するためリスクが小さく、専門家が運用するため、負担も少ない資産運用方法です。また、少額から始められるため、ハードルが低い方法でもあります。
不動産小口化商品
不動産小口化商品とは、特定の不動産を小口に分け、一口単位から購入できる投資方法です。口数に応じて売却益や賃料収入などが分配されます。不動産を自ら管理・運営する必要がなく、少額から始められるため、通常の不動産投資と比べるとどなたでも始めやすい資産運用方法です。
資産運用の注意点
資産運用で失敗しないためには、以下の2つのポイントに注意しましょう。
資産を守ることを重視する
自身も情報を収集する
資産を守ることを重視する
資産運用で失敗しないコツは、資産を守ることを重視することです。
資産運用では、リターンが元手を下回ってしまうリスクがあります。資産を大きく増やそうと積極的に投資しすぎるあまり、資産が大きく目減りしないよう注意が必要です。
大きなリターンは期待できないものの、失敗するリスクが低い投資方法を選ぶと安全です。また、「資産のうち3割は運用に回す」というように、あらかじめ運用する分を決めておくとよいでしょう。
自身も情報を収集する
資産運用の際は、銀行や証券会社といった金融機関に相談するのが一般的です。
その際は、金融機関に丸投げせず、自身も積極的に情報を収集しましょう。
金融機関は、様々なアドバイスをくれたり、商品を紹介してくれたりする投資のプロです。しかし、購入手数料や信託報酬が高い商品、つまり、金融機関にとってメリットが大きい商品を紹介することもあります。
投資や金融商品について情報収集し、どのような投資に取り組むべきかを自身で判断できるよう、金融リテラシー(金融や経済に関する知識や判断力)を高めることが大切です。
介護施設入居の関連サービスに関するQ&A
介護施設入居の関連サービスに関してよくあるQ&Aを紹介します。
Q1.施設に持ち込む荷物を選ぶポイントは何ですか?
Q2.生前贈与はどのタイミングで行うべきですか?
Q3.老後資金としてどのくらい用意すべきですか?
Q1.施設に持ち込む荷物を選ぶポイントは何ですか?
施設に持ち込む荷物を選ぶのに苦労しています。どのように選べばよいでしょうか?
Q2.生前贈与はどのタイミングで行うべきですか?
生前贈与はどのタイミングで行うべきですか?
Q3.老後資金としてどのくらい用意すべきですか?
老後資金が足りるのか不安です。いくら用意すべきでしょうか?
まとめ
ご家族が親御さん名義の自宅を売却する際は、「任意後見」を利用する方法と、「法定後見」を利用する方法がある
介護施設へ引っ越す際は、高齢者向けプランがある引越し業者を利用すると安心
施設への引越しをきっかけに、生前整理に取り組むことが大切
相続税やご家族の負担を軽減するためには、生前贈与を上手に活用するとよい
十分な老後資産を用意するために、資産運用に取り組むのが効果的
時間がかかるものも多いため、施設入居をきっかけに、早いうちから準備を進めておくことが大切です。また、プロに依頼すると安心・安全に行えるものもあります。この記事を参考に、ご本人とご家族で話し合いを進め、慎重に検討していただければ幸いです。
有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。