高齢者がリハビリテーションを必要とする理由は?リハビリの目的から効果まで紹介
「高齢になるとリハビリテーションが必要?」「機能訓練とは何が違うの?」と疑問はないでしょうか?高齢になると老化や疾病により、様々な機能低下が起こります。状態の悪化が進むと、活動量の低下が起こり寝たきりにつながる可能性もあるでしょう。
今回は、高齢者のリハビリテーションを行う目的や機能訓練との違いについて解説します。リハビリテーションや機能訓練を行える職業や生活リハビリについても紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
とぐち まさき
渡口 将生
高齢者が行うリハビリテーションの目的
それぞれの状態に合わせたリハビリテーション
高齢者に行うリハビリテーションは、筋力の低下や活動性の低下を予防するために行われ、今後起こる様々なリスクを軽減する目的があります。高齢になると、老化や疾病の影響で手足の筋力や体力低下が起こり、歩行困難・活動量の低下を引き起こします。その結果、転倒が増えて骨折するケースや、廃用症候群となり寝たきりにつながる場合があります。
これらを予防するためにリハビリテーションを行いますが、利用者の状態や実施する時期に合わせて目的がそれぞれが異なります。リハビリテーションの目的は、以下の通りです。
寝たきり・要介護状態の予防的リハビリテーション
疾病の治療から急性期リハビリテーション
急性期から回復期リハビリテーションへの移行
維持期リハビリテーション
上記の目的と流れを、ひとつずつ確認していきましょう。
寝たきり・要介護状態の予防的リハビリテーション
まず大切なのが、予防目的のリハビリテーションです。全身の筋肉が減り、身体機能が低下した状況を「サルコペニア」といい、サルコペニアが原因となって、さらに加齢にともなう心身の疲れやすさや生活上の課題がある状態を「フレイル」と呼びます。フレイルとサルコペニアは密接な関係性があり、フレイルからサルコペニアを合併する場合や、サルコペニアをきっかけにフレイルになる場合もあるので、それぞれの予防が必要になるでしょう。
また、「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」にも注意が必要です。運動するために必要な筋肉・骨・関節・神経などの仕組みが障がいにより低下し、歩行や立ち座りができない状態を指します。サルコペニアはロコモのひとつで、さらに広範な考え方となります。
サルコペニア・ロコモ・フレイルを予防し、機能の回復を図ることが初期段階のリハビリテーションといえるでしょう。
疾病の治療から急性期リハビリテーション
疾病により入院となった場合、移動や排泄、食事などの日常生活を送るうえで最低限必要となる動作(日常生活動作(ADL))が低下することが多くあります。この時期に行うのは、寝たきりや後遺症の軽減を目的としたリハビリテーションです。
急性期から回復期リハビリテーションへの移行
寝たきりの予防や後遺症の予防後は、回復期リハビリテーションに移行します。回復期リハビリテーションでは、1日最大3時間かけ、退院後の生活を目指した積極的なリハビリテーションを行います。この時期のリハビリテーションは、身体機能の大きな改善が期待されています。
維持期リハビリテーション
維持期リハビリテーションは、すでに在宅生活を始めている方に対して行うリハビリテーションです。生活期リハビリテーションとも呼ばれ、生活を維持するために行われるリハビリテーションで、長く継続的に行われます。利用者の状態や希望により、維持期リハビリテーションからは、介護保険に切り替えるケースも少なくありません。
リハビリテーションを行わないと、様々な機能低下が起こり、サルコペニアやフレイルに繋がる恐れがあるため注意が必要です。
リハビリテーションの種類は5種類
目的別にリハビリテーションが変わる
リハビリテーションには、目的に合わせて5つの種類があります。
医学的リハビリテーション
職業リハビリテーション
社会リハビリテーション
教育リハビリテーション
リハビリテーション工学(参加支援工学)
それぞれの目的について見ていきましょう。
医学的リハビリテーション
身体機能や心理状態の回復を目的に、病院や施設で理学療法・作業療法・言語聴覚療法を行うリハビリテーションです。一般的に知られているリハビリは、医学的リハビリテーションを指すことが多いでしょう。
職業リハビリテーション
障がいを持つ人が職業に就くため、またそれを維持する目的のリハビリテーションです。適切な職業につくために必要な職業指導・職業訓練・職業紹介などのサービスを指します。「障害者総合支援法」における「就労移行支援」「就労継続支援」も職業リハビリテーションのひとつです。
社会リハビリテーション
社会生活力の向上を目的としたリハビリテーションです。社会生活力は、自身の障がいへの理解や残された能力を活かし、足りない部分をサービスや他者に要求する能力を指し、個々に合った社会参加の実現や生活の質(QOL)の向上を目指します。
教育リハビリテーション
障がいをもつ人や子どもの能力向上を目的とし、潜在能力を引き出し、目標や希望の実現と生活の質を向上を支援します。「特別支援教育」と呼ばれるものもありますが、社会人向けの教育も含んだ活動です。
リハビリテーション工学(参加支援工学)
工学的なアプローチを通してリハビリテーションを支援する活動を指し、主に義肢装具・コミュニケーション機器・住宅改修・バリアフリー化などに対して行われます。
機能訓練とリハビリテーションの違い
機能訓練指導員は介護保険法で定められた職種
機能訓練とリハビリテーションの違いは、医師の指示のもと機能訓練を行っているかという点です。リハビリテーションは、医師の指示のもと、リハビリ専門職種(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)により実施されますが、機能訓練は個々に合わせて機能訓練指導員が機能訓練を行います。
介護保険法における機能訓練指導員は、以下の通りです。
理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
看護師
柔道整復師
あん摩マッサージ指圧師
はり師及びきゅう師
機能訓練指導員は、利用者一人ひとりの身体状況を把握し、リハビリへの希望や家族の意向を確認して機能訓練計画書を作成します。3ヶ月ごとの見直しを行いながら、利用者の機能について評価し継続したアプローチを行っていく仕事です。
機能訓練指導員の配置は、高齢者施設の種類により様々です。また、介護保険法で定められた職種のため、病院やクリニックなどの医療保険適応施設では配置されていません。
機能訓練指導員の配置義務がある施設は、以下の通りです。
特定施設入居者生活介護(地域密着型を含む)
通所介護(地域密着型を含む)
介護老人福祉施設(地域密着型を含む)
短期入所生活介護
上記の施設では、必ず配置が必要となります。
高齢者が実施する生活リハビリテーション
生活の中で必要な動作のリハビリテーションを実施
高齢者の行うリハビリテーションには、個別や集団、また生活リハビリがあります。個別リハビリは専門スタッフと1:1で実施し、集団リハビリは、専門スタッフ1:利用者複数人で行われます。集団リハビリには、音楽療法や脳トレなどを行う場合もあるでしょう。
一方で、生活リハビリはリハビリ職や機能訓練指導員以外の職種、例えば介護職員や栄養士でも実施可能なリハビリテーションです。主に、「食事をする」「服を着替える」「車椅子を操作する」などの動作指導や支援を行います。自立支援の観点から自分でできることを増やし、生活の質(QOL)の向上が目的です。
移動動作に必要な杖や車椅子、食事摂取のための自助具(本人が使いやすいスプーンやお皿など)、浴室で使うバスボードやシャワーチェアーなどを使用して、本人ができることを増やす工夫も行います。
日常生活動作に合わせて様々なアプローチが可能で、日々の積み重ねにより機能の回復を期待できるでしょう。生活リハビリの実施に資格などは必要なく、主に介護施設で導入される場合が多いです。
リハビリテーションは医療保険制度で行われるものと、介護保険制度で行われるものがあります。
医療保険と介護保険の違いを、以下の表で確認していきましょう。
実施場所 | サービス | 目的 | |
---|---|---|---|
医療保険 | 病院 クリニック 在宅 | 個別リハビリ 集団リハビリ 訪問リハビリ | 治療と機能回復 |
介護保険 | 介護老人保健施設 介護医療院 デイケア 在宅 | 個別リハビリ 集団リハビリ 生活リハビリ 訪問リハビリ | 生活の維持 |
有料老人ホーム サービス付き高齢者向け住宅 | 訪問リハビリ 機能訓練 | ||
特別養護老人ホーム | 機能訓練 |
医療保険と介護保険はサービスを利用するタイミングで変わりますが、医療保険と介護保険を併用したリハビリテーションはできないため、訪問リハビリに関しては必要に応じてどちらかを選択する必要があります。
リハビリテーションを行う職種
リハビリテーションは専門職が行う
リハビリテーションを行う職種は様々あり、目的によって対応する職員が変わります。主にリハビリを担当する職種は以下の通りです。
理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
それぞれの仕事内容を確認していきましょう。
理学療法士/PT
理学療法士は筋力低下や、関節可動域の拡大を目指したリハビリテーションを行います。主に立つ・座る・歩く・起き上がるなどの基本動作から、バランス感覚や痛みの軽減などを目的に、医師の指示のもとリハビリテーションを実施する職種です。
作業療法士/OT
作業療法士は、日常生活動作すべてを作業と捉え、様々な環境を対象に医師の指示のもとリハビリテーションを行います。機能の改善や工夫を図り、生活動作の安定を目指すことが目的です。また、心理的なサポートを行うことも作業療法士の役割のひとつとなります。
言語聴覚士/ST
言語聴覚士は、話す・聞く・飲み込むなどの動作に対して医師の指示のもとリハビリテーションを行います。高齢者だけでなく、子どもや障がい者に対しても需要の高い専門的なリバビリ職です。
ここからは、リハビリ職以外でも「機能訓練指導員」として認定される職種を見ていきましょう。
柔道整復師
柔道整復師は、骨・関節・筋・靭帯などの負傷(主に骨折・脱臼・打撲・捻挫など)に対して、手術を行わない「非観血的療法」を行います。固定や整復を行い人間本来の治癒能力を活かした施術を施す専門職です。
整骨院や接骨院で勤務する人も多いですが、機能訓練指導員として介護施設などで活躍する人も増えてきました。
あん摩師
あん摩師は、身体の不調を緩和するために、あん摩・マッサージ・指圧を行う職種です。道具を使わずに問診・検査・施術までを行います。押す・なでる・もむ・さするなどの直接的な動作で血流の改善を行い、患部の不調を和らげます。
はり師及びきゅう師
はり師は「はり」ときゅう師は「きゅう」を使って、自然治癒力を高め、病気の治療や予防を目的に治療を行う職種です。それぞれ別の資格ですが、同時に受験して「鍼灸師」となる方もいます。鍼灸師のスキルは海外の医療従事者からも評価を得ている注目の職種です。
上記3つの資格はすべて国家資格で、専門的な過程を経て国家試験に合格した人のみ職業につけます。
まとめ
高齢者のリハビリテーションは、サルコペニアやフレイル、ロコモの予防が前提で、予防的な観点から行われます。また、老化や疾病により低下してしまった機能の回復や、生活を維持するためのリハビリテーションなど利用者の状態に合わせて様々です。
医師の指示のもと行われるものをリハビリテーション、医師の指示がなくても行えるものを機能訓練と呼びます。リハビリテーションはリハビリ職が行う業務で、機能訓練は、柔道整復師やあんま師などの国家資格を持った人でも行えます。また、介護職員でも生活リハビリは実施可能です。
高齢者の状態に合わせて必要なリハビリテーションや機能回復を行って、機能の低下を予防しましょう。この記事がリハビリテーションの理解につながれば幸いです。
参考:リハビリを輪をつなげるメディア・リハノワ
介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。