知っていますか?ヤングケアラーの実情と抱える問題について分かりやすく解説。

「ヤングケアラーってなに?」「子どもが家事を手伝うことに似ている?」このような疑問はありませんか?

年々、増加傾向にあるヤングケアラーですが、実態が掴みにくいという特徴があります。ヤングケアラーとは、病気や障がいなどの理由により、生活支援ができない親に代わって、家事や育児を担っている18歳未満の子どもたちのことです。

今回の記事ではヤングケアラーの実情を「ヤングケアラーの実態調査」をもとに解説しています。ぜひ参考にしてみてください。


#在宅介護#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

ヤングケアラーとは

徐々に認知が広がるヤングケアラーの実態

ヤングケアラーとは、18歳未満の子どもが、日常的に家族の世話や介護を担っている状態で、近年増加傾向にあります。

全国の市町村要保護児童対策地域協議会を対象に「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」をもとにヤングケアラーについて見ていきましょう。令和3年に行われた調査によると「ヤングケアラー」という概念を認識しているかの質問に対して、76.5%が「認識している」、16.8%が「昨年度までは認識していなかったが、認識するようになった」と回答しています。

令和元年度の調査では、「認識している」が46.7%、「昨年度までは認識していなかったが、認識するようになった」が28.0%だったことから、ヤングケアラーに対しての認識が広まっていることがわかるでしょう。

しかし、ヤングケアラーは虐待に比べて緊急度が低いと考えられており、「実態の把握が後回しになる」(36.0%)という回答もあります。ヤングケアラーの実態に反して対策が遅れていることが課題です。

令和2年度に行われた調査によると「ヤングケアラーと考えられる子どもがいる」と答えたのが、中学校で 46.6%、全日制高校で 49.8%もありました。

また、81.8%が「表出しにくいため実態の把握が困難」と回答しています。さらに、把握できていない隠れたヤングケアラーもいると予測できることから、実際は多くの子どもたちが、家事や介護を担っているのではないかと考えられるでしょう。

ヤングケアラーの実情と課題には、さまざまなポイントがあります。まず「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」では、ヤングケアラーである子ども自身やその家族が

「ヤングケアラー」という問題を認識していないという回答が69.7%もありました。

また、ヤングケアラーが家族のケアを始めた年齢は10歳前後と早く、ケアに費やす時間については、平均4時間程度という結果が出ています。家の手伝いをすることは、家族として当たり前と考える家庭もあるでしょう。しかし、お手伝いの域を超えた家事や責任を負うヤングケアラーにはさまざまな悩みが生じます。

参照︰「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(令和3年3月)」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が実施)


ヤングケアラーの実情と課題

ヤングケアラーはさまざまな問題やリスクを抱える

ここからは、ヤングケアラーの抱える実情について確認していきましょう。

ヤングケアラーの実情は次の通りです。

  • 家事・介護・育児を担っている

  • 労働を担っている

  • 看病を担っている

それぞれの状況を確認していきましょう。

家事・介護・育児を担っている

親がいない、または親の代わりに、家事・介護・育児を担っている状況です。要因はさまざまありますが、病や障がいによる理由が多いでしょう。詳しい内容は次の通りです。

内容
詳細

家事

買物・掃除・洗濯・料理などを学校に行きながら一手に引き受けている。

育児

親が遅くまで仕事をしており兄妹で食事の準備や入浴などを行っている。

年上の長男や長女に負担がかかりやすい。

介護

同居する祖父母や両親の介護を行っている。

介護の対象者が認知症などであれば、目が離せずプライベートな時間の確保が難しい状況もある。

これらは、義務や習慣と感じている場合も多く、ヤングケアラー自身が疑問に思わないケースがあります。その場合、本人も負担に感じておらず、当たり前の日常だと思っています。

労働を担っている

親が障がいや病気などによって働けない状況にあり、子どもがアルバイトなどで家計を支えているケースです。家計を支えている状況下にあるヤングケアラーは、家事なども同時に受け持っているパターンも多くあります。

看病を担っている

家族に難病や精神疾患を患っている方がいる場合、看病を必要としているケースがあります。情報や経験が少ないヤングケアラーは、適切な相談窓口や介護サービスなどを知らない場合もあり、自分で抱え込んでしまっているパターンも多いです。

 ここからは課題や問題点を確認しておきましょう。

ヤングケアラーの課題や問題点は以下の通りです。

  • 学業に影響がでる

  • 相談できない

  • 友人関係に影響がでる

  • 就職に影響がでる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

学業に影響がでる

まず、ヤングケアラーが抱える大きな問題は、学業に支障が出ることです。家事や介護に追われ、勉強する時間がとれない状況にあります。

事例として、母親がうつ状態となり、家事や兄弟の世話をしたヤングケアラーを紹介します。家族の世話をしていたことで、日中時間がとれず、夜中に勉強をしていました。しかし、十分な睡眠がとれず、成績が下がってしまったそうです。

その後、実情を把握していない父親から叱責されたことをきっかけに自傷行為に至ったと報告されています。

また、他のヤングケアラーによっては遅刻・早退・欠席・成績の低下から進学を断念せざるを得ない状況も発生しています。

相談できない

子どもが家事をしているのは当たり前と考え、外部からの支援を拒否する家庭もあります。また、家族に強く否定されて生活するヤングケアラーもいるため、誰にも相談できないと諦めてしまう状況も多いです。

他の家庭状況がわからないため、今の状況が普通だと思い込むヤングケアラーも多いです。その結果、孤立する状況を作り出してしまいます。

友人関係に影響がでる

家事や介護に追われ、自分の時間を作れないヤングケアラーも多いです。そのため、友人と交流する時間を十分に作れず、学校も休みがちになってしまう人もいます。

その結果、友人との距離が生まれてしまい、関係が作りにくい状況になってしまいます。関係の構築ができないため、さらに家庭内の状況は話しにくくなってしまうでしょう。

就職に影響がでる

学業に影響が出ると、就職活動にも響いてしまうでしょう。ヤングケアラーは、家事や仕事などを学生のころからやってきているため、責任感が強くなり、就職先を自ら狭めてしまうケースがあります。例えば、通勤時間が短い場所や時間に融通が利くなど、条件を作ってしまうのです。

また、自己肯定感が低くなりやすいヤングケアラーは、就職活動においてアピールポイントをうまく伝えられないといった状況もあるでしょう。


ヤングケアラーが表面化しにくい理由

ヤングケアラーはいるとわかっていても状況が掴みにくい

ヤングケアラーは、自分の状況を把握していないケースが多くあります。ヤングケアラーは、家族の状況や周囲との解離のため、情報が少なくなりやすい状況です。

ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(令和2年度)」では、1日に7時間以上にわたって家族の支援をしているヤングケアラーの3割が「特に大変さを感じていない」と回答しています。つまり、ヤングケアラー自身が状況を把握できず、当たり前の生活や日課になっていると言えるでしょう。そのため、他者に相談する機会も減り、表面化しにくい状況が発生してしまうのです。

大きなトラブルがない以上、第三者が介入することは難しいため、ヤングケアラー自身の自覚や相談する勇気にかかっているといっても過言ではないです。対策としては、ヤングケアラーについての周知活動を継続し、本人が気付けるきっかけを作る必要があります。

また、子どもの出す小さなサインを見落とさないよう、学校や周囲の大人たちが目配りや気配りをして問題を発見していくことが大切です。


介護に関する制度

介護の問題は介護保険制度を活用することで負担の軽減を図れる

多くの悩みやストレスを抱えるヤングケアラーの問題を解決するには、さまざまな制度を利用すると良いでしょう。ヤングケアラーには、祖父母の介護しているケースもあります。家族で介護を行なうことは、素晴らしいことですがストレスがかかりやすく、ヤングケアラーではなくても肉体的・精神的な疲労を感じている人が多いです。

ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(令和2年度)」では、高齢者介護を必要としているヤングケアラーは5%前後いると報告されています。しかし、すべてが把握できていないことを考えると、実数はもっと多いことが予測できます。

しかし、その中で介護サービスを利用している割合はわずか2割程度です。介護保険サービスを利用している家庭もありますが、ごく一部にすぎないという状況がわかります。介護が必要で、ヤングケアラーとなっている状況であれば、介護保険を活用して介護における負担軽減を図ると良いでしょう。

介護保険を使うまでの流れ

介護保険サービスを利用するためには、まずは要介護認定が必要です。 市区町村の役場にある介護保険窓口や地域包括支援センターで申請手続きを行います。必要書類の準備や認定調査が行われ、30〜60日程度で介護度が決定します。

要介護認定が決定した後は、居宅介護支援事業のケアマネジャーと契約を行い、必要なサービスや頻度を相談しましょう。介護サービス計画書を作成してもらい、各サービス事業所と契約を済ませれば、サービスが開始されます。

要介護認定を受けると次のようなサービスが利用できます。

サービス
内容と特徴

サービス

内容と特徴

在宅サービス

訪問介護や通所介護など

福祉用具のレンタル

住宅改修 など

主な生活は自宅

施設サービス

特別養護老人ホームや介護老人保健施設など

居住や食事が確保される

主な生活は施設

地域密着型サービス

デイサービスやグループホームなど

事業所と同じ地域の方のみが利用できる

事業所によって主な生活の場は異なる

他にも、さまざまなサービスがあるため、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると良いでしょう。

また、ヤングケアラーのいる家庭では、生活が困窮しているケースも多いです。そのため、介護保険サービスを十分に利用できない経済状況も考えられます。

しかし、事業所の形態やサービス内容によっては、世帯の収入に合せて利用料金が減額されるサービスや制度もあるため、ぜひ活用してみてください。例えば、施設サービスでは、軽費老人ホ―ムや特別養護老人ホームなどがあります。

軽費老人ホームは経済状況に合わせて利用料金が決定するため、困窮者にはピッタリの施設です。また、介護保健施設は、非課税者を対象にした減額制度があります。

介護保険制度をうまく活用することで、介護を行なうヤングケアラーだけではなく、介護保険サービスの対象者にも負担の軽減が図れる場合もあるため、ぜひ相談してみてください。


ヤングケアラーに関する相談窓口

ヤングケアラーに関する窓口や国の対策にはさまざまな種類がる

ヤングケアラーの相談窓口には、次のものがあります。

  • 地域包括支援センター

  • 市区町村の役所

それぞれ見ていきましょう。

地域包括支援センター

どの地域にもあり、介護や子育てなどの悩み事を受け付けている事業所です。事業所にはケアマネジャーや保健師、社会福祉士が勤務しているため、それぞれの専門性からさまざまな意見をもらえるでしょう。

市区町村の役所

市区町村の役所には介護保険課や生活支援課などの相談窓口があるため、状況に応じて相談していけるでしょう。どの窓口で相談していいかわからない時は、総合受付に相談します。最適な窓口に案内してもらえるでしょう。

介護以外にも、ヤングケアラーにはさまざまな問題があるため、国や自治体でも対策が施されています。それぞれの制度や施策を見ていきましょう。

利用できる制度や施策は以下の通りです。

  • 介護休暇・休業

  • ヤングケアラーコーディネーター

  • ピアサポート

  • オンラインサロン

  • 教育機関へのアプローチ

ひとつずつ確認していきましょう。

介護休暇・休業

ヤングケアラーの親が対象となる制度です。ヤングケアラーの状況が長く続くと、子ども自身の将来に様々なリスクをもたらします。仕事の忙しさを理由に子どもに家事や介護を任せている状況であれば、介護休暇・休業を取得し、休暇中に介護認定の申請・ヤングケアラーの心身のリフレッシュ・ヤングケアラーとのコミュニケーションなどを行うと良いでしょう。

介護休暇・休業中に給与が発生するかそうどうかは、勤務先によって異なります。支払いがない場合でも雇用保険から「介護休業給付金」などの申請を行うことで、通常の67%給与分の支払いを受けとることが可能です。

ヤングケアラーコーディネーター

ヤングケアラーを適切なサービスに導くために自治体がコーディネーターを配置する取り組みです。介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャーなどの相談援助を専門とした職種が担当しています。

ピアサポート

「仲間同士の助け合い」を目的に、ヤングケアラーや元ヤングケアラーが相談先として窓口を行っている取り組みです。各自治体に設置されており、同じ悩みを持つ(持っていた)者同士で話すため、心理的ハードルが低く、参加しやすいでしょう。

オンラインサロン

自治体から、気軽に相談できる場所として、ヤングケアラーのオンラインサロンが設置されています。気軽に悩みや相談を行い、心身のケアやストレス発散に活用できるでしょう。

教育機関へのアプローチ

ヤングケアラーの意識向上や、教育現場で実情を把握してもらうために高校の教職員を対象に研修を実施しています。さらにスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーを対象に、ヤングケアラーへの対応について周知を図っています。

その他:地域独自の施策

群馬県高崎市

「ヘルパー無料派遣」を行っています。令和4年9月に「ヤングケアラーSOS」というサービスを開始しています。家事や。介護などを行っているヤングケアラーに代わり、ヘルパーを無料で派遣しています。

兵庫県明石市

ヤングケアラーの早期発見と把握を目的としスクールソーシャルワーカー・スクールカウンセラーによる支援が行われています。国・県・市区町村の支援制度にも関する情報も提供しています。

他にも各自治体で取り組んでいる施策やサービスがあるため、役所や地域包括支援センターで確認すると良いでしょう。

まとめ

ヤングケアラーの増加は日本にとって大きな問題です。年々増加しているヤングケアラーですが、徐々に認知も広がってきています。

ヤングケアラー自身が実情を把握できていない・大変だという自覚がない状況も多いことから、第三者が気づかず発見が遅れることもあります。そのため、ヤングケアラーに向けて認知活動を行っていくことは非常に重要な取り組みです。

ヤングケアラーの相談窓口には、地域包括支援センターや役所の窓口に行くと良いでしょう。さまざまな専門職との相談が可能で、適切な制度や窓口につないでくれます。ヤングケアラーが発信するサインを見落とさないように、周囲の大人たちの理解や気配りも大切なポイントです。

今後、ヤングケアラーを増やさないためにも、介護保険や自治体による支援サービスをうまく活用して、ヤングケアラーのフォローを心掛けると良いでしょう。

未来ある子ども達が、自分たちの人生を満足して生きていける支援が必要です。そのためにも、ヤングケアラーの実態や状況を把握して、サポートできる体制を整えていく必要があるでしょう。

今回の記事がヤングケアラーの実情やフォローできる制度の理解につながれば幸いです。

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