特別養護老人ホームと介護老人保健施設の違い

特別養護老人ホームと介護老人保健施設は、介護保険制度開始前から運営しており、ともに施設数も多く、比較的認知度があります。しかし、サービス内容や入所条件などを理解していない方も多く「要介護者を預ける施設」とだけ認知されているケースも多いです。

今回は、特別養護老人ホームと、介護老人保健施設の違いについて解説していきます。それぞれ、運営目的やサービスの内容が異なります。特徴を理解して、施設選びの参考にしてください。


#特養#介護保険施設#施設入居
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

特別養護老人ホームと介護老人保健施設は何が違う?

それぞれの施設ではサービス内容と目的が異なる

特別養護老人ホームと介護老人保健施設では、高齢者の日常生活を支援する介護サービスはもちろん、掃除・食事などの生活支援サービスが受けられる施設です。

しかし、施設の役割やその他のサービス内容が大きく異なるため、入居される方の状態やご家族の状況によって入居する施設を選ぶ必要があります。

簡単にそれぞれを解説すると、

特別養護老人ホーム・・・日常的な介護を受けて、長く(終身まで)入居できる施設

介護老人保健施設・・・短期的なリハビリで身体機能の向上を目指し、在宅復帰を目指す施設

上記のように、特別養護老人ホームと介護老人保健施設には、目的と役割が異なるのです。

次からは、それぞれのサービス内容や、施設ごとの特徴などを比較していきます。

※以降、特別養護老人ホームは「特養」、介護老人保健施設は「老健」と略称で表記しています。


特養のサービス内容は?

長期利用ができる終身まで対応可能な施設

特養は、日常生活上の介護はもちろん、掃除・洗濯・食事といった生活支援サービスやクラブ活動・レクリエーションなどのアクティビティを提供しています。看護師による医療的ケアも受けられるので、お薬の管理や軽微な処置などは対応可能です。機能訓練指導員を配置している施設では、機能訓練が受けられます。

介護サービスは、施設のケアマネジャーが入居者の状況に合わせて、ケアプラン(介護計画)を立てます。サービスに入れて欲しい内容や、配慮して欲しいことなどは、ケアマネジャーや施設相談員に伝えておくと、ケアプランに活かしてくれるでしょう。

特養は「終の住処(ついのすみか)」と呼ばれ、基本的に終身まで利用できる施設が多いです。しかし、すべての特養が終身まで利用できる施設ではないので、注意しましょう。

特養で終身まで利用する際には、看取りケアを受けることになります。看取りケアとは、寿命を迎える方や、病気の治癒を選択されない入居者に対しておこなわれる「緩和ケア」です。「死」に対して、誰もが感じる「恐怖」や「不安」を安心できる環境や緩和していくケアをおこないます。

看取りケアをおこなうには、事前に施設との契約が必要なので、希望する場合は入居する施設が対応可能か、看取りケアの取り組み方法などについて確認しておくとよいでしょう。

また、特養ではショートステイの利用ができるところも多いです。ショートステイは、自宅で生活しながら、短期間の施設入所を指します。施設内部の様子がわかり、施設選びの判断材料になるので、気になる施設がある場合は、ショートステイを利用するのがおすすめです。ショートステイを利用する場合は、ケアマネジャーに相談して、日程調整をしてもらいましょう。

特養では、介護サービスの提供方法として「ユニットケア」が推奨されています。ユニットケアは、10人前後の入居者をひとつのユニットとして、個別におこなうケア方法です。入居者・職員ともに変わらない顔ぶれで、馴染みのある環境を提供し、よりよい関係性を構築できるケアとして注目されています。


老健のサービス内容は?

リハビリをおこない在宅復帰を目指す施設

老健の最大の特徴は、リハビリです。リハビリスタッフによる、個別ケアがおこなわれ、身体機能の回復や低下を予防します。3ヶ月おきに「入退所を判定する会議」をおこないます。身体状況や、自宅の環境から、自宅に帰れるかどうかを各職種で検討する会議です。そのため、長期利用はできず、多くの施設では3〜6ヶ月程度を入居期間と考えられています。なかには、長期的に利用できる老健もあり、これらの違いは各老健の運営方法により異なります。

老健には5つのタイプがあります。

  • 超強化型

  • 強化型

  • 加算型

  • 基本型

  • その他

これらのタイプは老健入所者の、在宅復帰をした割合・リハビリの実施率・職員体制など10項目から算出されます。そのため、強化型や超強化型の施設は、在宅復帰率が重要で、3ヶ月程度で退所になる場合が多いです。反対に加算型・基本型・その他の老健は、在宅復帰率を高く設定していない場合が多いので、長期滞在が可能な施設もあります。

※施設の運営状況により、タイプは変わるので、基本型やその他だからといって、長期利用ができることを保障している訳ではありません。

他のサービス内容は特養と同じく、日常生活上に必要な排泄・入浴・食事などの介護や、食事・掃除などの生活支援が受けられます。しかし、特養とは違い、洗濯は別サービスです。施設サービスとして無料でおこなう施設もありますが、洗濯業者に委託や、洗濯代金を請求し対応する施設も多いです。

老健でも、ショートステイが利用できる場合もあります。老健の場合、ショートステイの部屋を準備していることは少なく、基本的に空床利用です。そのため、入居者がいない間だけ利用できる状況で、特養に比べ予約がとりにくい状況があります。しかし、ショートステイでリハビリができるのは、大きな魅力ともいえます。


特養と老健の費用比較

特養と老健では費用差はそれほどない

特養と老健は、入居時に支払う「入居一時金」や「保証金」といった初期費用は必要ありません。毎月必要になるのは、介護保健サービス料・食費・居住費などがあります。特養と老健では、それほど費用の差はありませんが、施設によっては食費や居住費に費用をプラスしている場合もあります。

1日で1,000円料金が増える場合で、月で30,000円利用負担が増えるので、確認しておくとよいでしょう。費用は日割り計算なので、月途中からの利用や退所でも、余計に費用がかかることはありません。

また、オムツ・尿取りパット・リハビリパンツなどの排泄用品は施設で提供し、追加で費用を請求することはありません。個々に必要な歯ブラシや入れ歯洗浄剤などの消耗品は、都度準備が必要です。

特養や老健では「介護保険負担減額」という年収に応じて「食費・居住費・介護サービス費」が減免される制度もあります。役所で手続きは必要ですが、人によって利用料が半額以下まで下がる場合があります。

また、生活保護受給者でも施設によって入居できる場合もあるので、ケアマネジャーや施設の相談員に相談するとよいでしょう。


特養と老健の入居条件は違う?

入居のしやすさに大きな違いがある

特養の場合、「65歳以上」で「要介護3以上」の方が入居対象者になります。そのため、要介護3以上でないと基本的に入所申し込みができません。しかし、緊急性が認められた場合に限り、要介護1や要介護2の方でも入所できる場合があります。

夜間に看護師がいない施設も多く、夜間帯に医療的ケアが必要な場合は、入居できないこともあります。

特養は、入居者の体調悪化による退去や、亡くなられた場合でしか、ベッドに空きがでません。そのため、入所申し込みを出してもすぐに入居できず、入所待機者となる場合が多いです。1年以上かかることもあるので理解しておくとよいでしょう。

申込書は、都道府県や市区町村で統一されており、ホームページからダウンロードが可能です。入居時には、健康診断書や診療情報提供書が必要になりますが、入居前3ヶ月程度の検査データが必要になるケースが多いです。特養に申し込みの場合は、慌てて健康診断を受けると無効になる場合があるので注意しましょう。

老健の場合、「65歳以上」で「要介護1〜5」の方が入居対象となります。要支援者は入居対象外になってしまうので、注意が必要です。リハビリ目的の施設のため、リハビリが可能な状態か、食事を摂って健康維持ができるかが、入居判定の基準になります。

特養と違い、夜間でも看護師が配置されている場合も多く、医療的ケアが必要な方でも入居可能です。しかし、対応できない医療的ケアもあるので、施設に確認するとよいでしょう。

老健は、定期的に退去に向けた話合いをおこない、在宅復帰を支援します。そのため、定期的な退去があり、ベッドに空きができやすい施設です。また、入居者が入院になった場合は、すぐに退去の扱いになります。特養に比べ、空きがでやすく入居しやすいこともあり、特養の待機期間中に利用を検討する人も多いです。


特養・老健職員の体制に違いがある?

人員基準は同じで老健には医師が常駐している

特養・老健では、入居者3名に対して介護・看護職員を1名配置すると定められています。1日を通して算出するため、主に夜間帯の職員数は少なくなる傾向にあります。他の職種には、ケアマネジャー・相談員・栄養士などの職種も必須です。

老健の管理者は医師と定めがあるため、老健には医師が常駐しています。定期的に回診をおこない、病状の確認やお薬の処方を受けられます。また、リハビリ職員の配置が定められているのも特徴です。特養の機能訓練指導員は、厳密には「リハビリ職員」とは異なります。

安定した職員が確保されているため、24時間安心したケアが受けられます。


設備の違いはある?

「従来型」「ユニット型個室的多床室」「ユニット型個室」異なる居室タイプ

特養・老健は以前では「従来型」と言われるタイプがあります。従来型はいわゆる大部屋を基本とした施設です。

近年、ユニットケアが主流になった頃より居室は大部屋ではなく、個室を推奨されるようになりました。特養ではユニット型で個室の施設が増え、従来型は減少傾向にあります。従来型でもいくつか個室を設けており、利用することは可能です。しかし、利用料金は高くなるので、料金設定については各施設に相談するとよいでしょう。

老健では、ユニット型の導入が少なく、従来型で運営している場合も多いです。他にも、元々大部屋だった部屋に間仕切りを作り、個室のようにして対応するユニット型個室的多床室があります。

従来型のお部屋では最大4人までの利用が可能です。同室の場合、同性しか利用できません。その点、同室では女性男性問わず利用できますので安心です。

個室の床面積は共に10.65㎡と定められています。有料老人ホームなどに比べると、やや狭いといった印象があります。

「従来型ユニット型」「ユニット型個室的多床室」「ユニット型個室」と徐々に料金が上がっていくイメージです。他には共有で利用する、リビング・食堂・トイレ・お風呂などの設備が整えられています。

入居される方の状態に合わせて選択するとよいでしょう。


特養のメリット・デメリット

待機期間はあるが入居できるとメリットが多い

特養入居のメリットをみていきましょう。

  • 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に比べると費用が安い

  • 終身まで利用することが可能(施設の方針による)

  • ユニット型個室の施設が多い

  • 入居者の入れ替わりが少ないため環境の変化が起こりにくい

  • 24時間介護を受けられる

  • レクリエーション・イベント・行事がある

  • 機能訓練が受けられる

続いて、特養入居のデメリットをみていきましょう。

  • 個室が多く多床室に比べて費用が高い

  • 要介護3以上の認定を受けないと申し込みができない(特例は除く)

  • 医療的ケアが必要な場合は入居ができない

  • 医療費は自己負担で支払いが必要

  • 入居待機になりやすく待機期間が長い

いくつかのデメリットはありますが、メリットの方が強く、人気が高い施設です。


老健のメリット・デメリット

入居中に受けられるサービスは多いが長期利用ができない

老健入居のメリットをみていきましょう。

  • リハビリに特化した施設

  • 看護師の配置が多く医療的ケアも安心

  • 他の施設と比べて入居しやすい

  • 薬代は老健が負担

また、介護職はもちろん、医師やリハビリ職員といった、他の介護施設には配置が少ない職種が常駐しているので、相談や助言をもらうことができます。

続いてデメリットをみていきましょう。

  • 利用期間が3~6ヶ月程度と短い

  • 要支援では利用できない

  • 介護保健と医療保険の併用ができない

老健利用にあたってのデメリットは、保険制度に関する部分です。老健入所中は基本的に受診ができないことも多いので、受診が必要な場合は相談しておくとよいでしょう。


まとめ

特別養護老人ホームと介護老人保健施設では、日常生活上の介護サービスや医療的ケアなどを提供しています。他の施設と比べ、利用料金が安いため、人気のある施設です。

しかし、紹介したように介護サービスの違いや、運営目的の違いもあり、入居のしやすさや想定入居期間も変わります。

「施設に入ると寝たきりになる」と心配される方もいますが、食事やレクリエーションなどで、ベッドから離れている時間は多く、いきなり寝たきりになることはありません。

それぞれの違いを理解したうえで、入居者の身体状態や、自宅・ご家族の状況に合わせて検討してみてはいかがでしょうか。

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