無届け老人ホームとは|実態と問題点を解説。認可施設との見分け方を知ろう

「無届け老人ホームって何?」「一般的な施設との違いはあるの?」こんな疑問はありませんか?

介護施設は一般的に行政に届け出を出し、認可(指定)を受けて運営しています。無届け老人ホームは、名前の通り届け出を行わず行政からの認可を受けていない高齢者施設です。行政から認可を受けていない高齢者施設は、利用料金が安く比較的早く入居できる施設として、需要があります。

しかし、様々なトラブル報告もあり、課題が多い状況です。今回は、無届け老人ホームの実態や課題について紹介します。無届け老人ホームを見分ける方法についても解説していますので、施設選びの参考にしてください。


#老人ホーム#介護保険施設#有料老人ホーム
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

無届け老人ホームとは

認可を受けていない最後の選択肢となる施設

無届け老人ホームとは、行政への必要な書類の提出を行っていない介護施設のことです。「無届け施設」「無登録老人ホーム」などと呼ばれることもありますが、いずれも同じ意味です。これらの施設は、「入居金などの前払い金が不要」「低所得の高齢者でも月10万円程度で入居できる」などのメリットがあり、入居需要が一定数ある点が特徴となっています。

厚生労働省の報告によると、2009年から2015年にかけて、無届けの介護施設は389件から1,650件に急増しています。その後、自治体による活動停止の呼びかけを可能としたことにより、無届け老人ホームは減少傾向にあります。しかし、2020年6月30日時点でも643件に及ぶ無届け老人ホームが存在していることが分かっています。この数は、施設全体の約4.2%を占めています。

無届け老人ホームで提供されるサービスは、施設ごとに異なります。無届け老人ホームでは、認可を受けていないことから自治体の監督下になく、災害対策や人員、生活環境などに不備が見られる施設も複数あり、問題も多いです。

しかし、高齢化が進む日本では、介護を必要とする人が介護施設を利用できるまでの時間が長い・家族が介護を行えない・身寄りがない・認知症など、様々な理由から介護施設を利用できない人がいます。

今もなお、無届け老人ホームが複数存在している背景には、届け出を行っている老人ホームへの入所ができない高齢者がたくさんいることを意味します。特に、安価で24時間介護を受けることができる特別養護老人ホームは、人気が高くすぐに利用できません。また、その受け皿になることの多い「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」は、費用が高額になりやすく、経済的な負担を理由に利用を見合わせる方も多いです。このような背景から、最後の選択肢として、無届け老人ホームが存在しています。

自宅で介護することは、家族にとって大きな負担となるため、認知症の症状があっても入居できる無届けの施設を利用することが唯一の方法となる場合もあります。ケアマネジャーの中には、利用者やその家族のために、他の選択肢がない場合に無届け老人ホームを紹介する場合もあるのです。

しかし、無届けの住宅がすべて悪いわけではありません。例えば、現在のような制度がなかった時代から有料老人ホームのサービスを提供している事業者の中には、スプリンクラー設置などの法改正に伴う改修工事が高額なため、費用を賄えず、無届けを余儀なくされた事業者も存在します。

ただし、第三者機関による監視がなく、事業者ごとで自由にサービスを提供しているため、安心には繋がらないかもしれません。中には、有料老人ホームと称して介護・医療サービスをうたいながら、実態は一般の賃貸物件のような施設もあります。

厚生労働省「令和2年度 有料老人ホームを対象とした指導状況等の フォローアップ調査(第 12 回)」結果

介護施設の運営には許可が必要

一般的な介護施設では定められた行政に届け出が必要

前述の通り介護施設を運営するためには、都道府県や市区町村への届け出が必要です。

施設の形態
届出先

特別養護老人ホーム

都道府県

グループホーム

市区町村

有料老人ホーム

都道府県

サービス付き高齢者向け住宅

市区町村

施設の形態によって、届け出先は異なります。認可を受けた施設は、定められた基準を満たしているため、安心して利用できるでしょう。

無届けの老人ホームは、一般的な有料老人ホームに比べて利用料が安いことがほとんどです。その分、火災報知器や部屋の広さなど、必要な設備が揃っていない・介護者の人数が極端に少なくなっていたりすることがあります。その結果、介護者の負担が大きくなり、高齢者のネグレクトや虐待につながる可能性があると言えるでしょう。また、無届けの施設の中には利用料が高い場合もあるため注意が必要です。


無届け老人ホームの問題点

事故やトラブルが起きやすい環境

無届けの老人ホームでは、これまでにも数多くの事故やトラブルが起きています。例えば、2009年3月には、群馬県渋川市の老人ホームで火災が発生しました。入居者を含めた10人が死亡するという大きな事故です。原因には、防火設備が不十分だったことが挙げられています。

また、2015年2月には、東京都北区にある無届け老人ホームで、利用者への虐待が発覚しています。その際には、施設の劣悪な環境が浮き彫りになりました。

無届け老人ホームの事故やトラブルの原因は、施設を運営するためのガイドラインの未実施にあると言えるでしょう。行政は適切な届出を推奨していますが、未だに改善されていない施設も多くあります。

このような状況から、2018年4月より自治体には情報提供のアドバイスに加え、指導に従わない事業者に対して業務停止命令を出す権限が付与されました。この措置は、自治体の権限を強化し、劣悪な環境の介護施設を地域からなくすことを目的としています。

自治体の運動の成果もあり、2020年6月時点の無届け老人ホームは、643件となりました。2015年のピーク時(1,650件)から比べると、およそ3分の1まで減少しています。多くの無届け施設が減少しましたが、まだいくつか残っているのが現状です。原因には、高齢者の増加・介護者の不足・設置費用の引き上げ・届出手続きの煩雑さなどが考えられます。

これまでに報告された無届け老人ホームのトラブル例は以下の通りです。

  • 個室対応などのプライバシーが確保されていない

  • 居室の面積が狭く生活に必要なスペースを確保できていない

  • 夜間に人員が配置されておらず緊急時に対応可能な体制が不足している

  • 廊下が狭く車いす移動に支障をきたす

  • 行動制限(身体拘束)が行われていた

  • 入居一時金の保全措置をとっていない

  • 保健所からのサポートがないため感染症などの健康対策が望めない

多くの施設では、部屋や廊下が極端に狭く、住環境が悪い点が挙げられます。また、防火設備が基準を満たさない・消防訓練が未実施などの問題が挙げられています。

また、無届け老人ホームでは、火災や不慮の事故などのトラブルが発生した場合、そこに住む高齢者は、劣悪な環境から迅速な安全確保ができず、大きな不安を抱くことになるでしょう。

また、第三者の介入やガイドラインがないことから、不当な扱いを受けていても気づかれにくい環境です。例えば、入居者をベッドに拘束したり、本人の同意を得ずに所持品を管理したりするような虐待があっても行政が気づくのは難しいでしょう。

施設側としては、認可を受けたくても敷地面積の問題や従業員数、緊急時システムの構築など、多くの基準をクリアしなければいけません。届出をすることで、基準がクリアできていないことが明るみになり、最悪の場合、施設自体が機能しなくなる可能性も考えられます。その場合、すでに入居している高齢者の行き場が失われる点も考慮しなくてはいけないため、届出に踏み出せない事業所もあるでしょう。

無届け老人ホームを見分けるには

施設設備や登録状況を確認しておくと安心

介護施設が未登録かどうかを確認するには、該当する行政機関のホームページを確認すると良いでしょう。また、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供サービス」を利用して、その施設が登録されているかどうかを確認することも可能です。

サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム

設備が整っているように見える施設でも、無届けの老人ホームの場合があるため、市区町村のホームページや問い合わせをして確認すると良いでしょう。

無届け老人ホームの特徴として、施設基準を満たしていない点が挙げられます。例えば、廊下幅が狭いため余裕をもって車いすが走行できない、バリアフリー化が進んでいないなどの場合は、無届け老人ホームの可能性があるでしょう。

また、介護サービスや施設には様々な種類と名称があります。名前が似ていても内容は大きく異なることがあるため、利用する前に、サービス内容や運営母体を把握することが、無届け老人ホームを見分ける上で重要です。

例えば、介護施設には以下のものがあります。

  • 住宅型有料老人ホーム

  • 介護付有料老人ホーム

  • グループホーム

  • ケアハウス

  • 軽費老人ホーム

  • 特別養護老人ホーム

  • 介護老人保健施設 など

他にも様々な名称があるため、利用を検討する時は確認しておくと良いでしょう。

介護事業所によっては、「非公認」と判断されにくいように正規の施設・サービスと似た名称を掲げているケースもあります。例えば、「高齢者向け賃貸住宅」という建物は、「サービス付き高齢者向け住宅」ではなく、単に高齢者を受け入れるだけの賃貸住宅である可能性があります。全く異なるものなので注意が必要です。

また、認可されていない施設であっても、自治体や病院が宣伝している場合や、生活環境・経済状況から、担当のケアマネジャーが勧める場合もあるため、利用者自身で確認してから利用を決めると良いでしょう。

老人ホームは「どこも同じ」「大企業が運営しているから安心」などと決めつけず、サービス内容や費用など、自身で確認できることはしておき、未然にトラブルを防ぐようにしましょう。判断が難しい場合は、地域包括支援センターや市区町村の窓口で相談するのもひとつの方法です。また、可能であれば家族や知人など、複数人の意見を集めて様々な角度から評価すると良いでしょう。


まとめ

今回は無届け老人ホームの実態や見分け方について紹介しました。無届けの老人ホームは、資金や家族のない高齢者にとって必要な場合がある施設です。審査がないため、虐待が見過ごされたり、劣悪な生活環境でサービスが提供されていたりするかもしれません。また、行政の管理が行き届かず、感染症や事故が蔓延する危険性があることを知っておきましょう。様々な状況から、無届け老人ホームを選ぶ高齢者や家族、ケアマネジャーもいます。特に、経済的な問題や身寄りがない方には、最後の選択肢となりえるでしょう。

減少傾向にある、無届け老人ホームですが、今後さらに増えてくる可能性もあるため、利用する側も必要な知識を持ち、大切な家族を安心して預けられる施設を探してください。
今回の記事が無届け老人ホームの理解につながれば幸いです。

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