地域包括支援センターとは?役割や利用メリット、相談事例などを解説
地域包括支援センターは、高齢者やそのご家族の暮らしを支援するための施設です。福祉の専門家が在籍し、生活に関するあらゆる相談やケアマネジメント、高齢者の権利擁護など幅広い役割を担います。全国各地に設置されている便利な施設ですが、利用したことがない方も多いと思います。ここでは、地域包括支援センターの役割や専門家、利用対象者や利用メリットなどを解説します。また、相談事例も紹介しています。
地域包括支援センターの役割
地域包括支援センターとは、地域が一体となって高齢者の暮らしを支援するために作られた施設のことです。介護保険法第115条の46第1項によると、「市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的とする施設。」とされています。
すべての市町村に設置されており、令和3年4月末で全国に5,351ヶ所存在します。主な設置主体は各市町村ですが、そのほかに市町村から委託を受けた社会福祉法人や医療法人等も設置することができ、地域包括支援センターの需要に伴い、この委託型が増加傾向にあります。
地域包括支援センターは、高齢者の生活に関するあらゆる相談窓口として機能しています。地域包括支援センターには、保健師や社会福祉士、ケアマネージャーなどが在籍しており、介護や医療福祉に関する様々な悩み事を相談できます。また、介護保険の申請窓口としての機能も持っており、高齢者の暮らしをサポートしてくれる存在です。
地域包括支援センターができた背景
地域包括支援センターの前身は「在宅介護支援センター」でした。1989年の「高齢者保健福祉推進十か年戦略」に基づき、高齢者の在宅・施設福祉をサポートするため、高齢者やご家族が専門家に相談できる窓口として設置されました。
そして、2005年の介護保険制度の見直しにより、地域住民の医療・保健の向上や、福祉の増進に向けた支援を包括的に行う必要性が注目されました。地域で一体となって高齢者の生活をサポートできるよう、地域の中核機関として新たに設置されたのが「地域包括支援センター」です。
今後も、地域包括支援センターの需要は増加し、施設数も増えることが予想されます。また、厚生労働省は、高齢者の数が増加している現状から、2025年を目処に「地域包括ケアシステム」の構築を推進しています。地域包括ケアシステムとは、高齢者が尊厳を保持し、住み慣れた地域で自分らしく生きられるよう、地域が包括的に高齢者の支援・サービス提供を行う仕組みのことです。
地域が一丸となって高齢者やそのご家族を支援する地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムにおいても重要な役割を果たします。
地域包括支援センターが担う業務
地域包括支援センターは、以下のような業務を担当します。
総合相談支援業務
介護予防ケアマネジメント業務
包括的・継続的ケアマネジメント支援業務
権利擁護業務
そのほか多面的(制度横断的)支援の展開
以下で詳しく見ていきましょう。
総合相談支援業務
対象となる住民からのあらゆる相談を幅広く受け付けて、 制度横断的なサポートを行います。まさに、「高齢者の生活に関する総合相談窓口」です。高齢者からの相談に乗って必要なサービスを紹介するだけでなく、初めて介護を行うご家族の支援も担います。介護に対して不安や疑問を抱えている方に、在籍している専門家が親身に寄り添い、様々なアドバイスや制度の紹介などを行います。
介護予防ケアマネジメント業務
地域包括支援センターでは、介護予防ケアプランの作成も担当します。介護予防ケアプランとは、要支援1・2の高齢者を対象にした介護サービス計画書のことです。高齢者と相談しながら希望する生活や介護予防のための方法を考え、利用できるサービスの紹介を行います。また、希望者に対して介護予防教室も実施しています。
包括的・継続的ケアマネジメント支援業務
ケアマネジャーは、高齢者の安心安全な生活のために欠かせない存在です。地域包括支援センターでは、高齢者だけでなく、ケアマネジャーを支援する役割も担います。具体的には、「地域ケア会議」等を通じた自立支援型ケアマネジメントのサポートや、ケアマネジャーへの個別指導・相談、さらに支援が難しい困難な事例に直面した際の指導・アドバイスなどを行います。
権利擁護業務
介護に関わる業務以外にも、高齢者の権利を保護する役割も担っています。判断能力が不十分とみなされた高齢者を守る成年後見制度の手続き支援や促進、さらに高齢者をターゲットにした詐欺・悪徳商法などへの対応や、高齢者虐待への対応・防止などを行います。
そのほか多面的(制度横断的)支援の展開
行政機関や保健所、医療機関、児童相談所などの外部機関と連携し、介護・医療サービスやヘルスサービス、成年後見制度といったあらゆる必要なサービスにつなぐ役割を果たします。
出典:厚生労働省「地域包括支援センターの業務」
地域包括支援センターの専門家
地域包括支援センターには、以下のような専門家が在籍しています。
保健師
社会福祉士
主任ケアマネジャー
保健師
保健師は、医療・介護に関する相談やサポートを担当する医療面の専門家です。介護予防プランの作成や介護予防教室の開催など、介護予防に関するあらゆる業務を担います。また、医療機関と連携し、健康診断の受診を促したり、疾患を予防するための取り組みを行ったりなど、地域の健康増進を担当します。
社会福祉士
社会福祉士は、総合的な相談に対応したり、権利擁護に関する業務を担当したりする役割を担います。地域包括支援センターが総合相談窓口として機能するために欠かせない存在です。公的サービスや地域の団体などに対する知識が豊富で、相談者に応じて適切なアドバイスを行います。
また、成年後見人制度に関する相談や高齢者虐待・詐欺への対応・防止を務め、高齢者の権利を守るのも社会福祉士の大切な役割です。さらに、高齢世帯の自宅や施設を訪問して、安否確認や状況把握なども行います。
主任ケアマネジャー
主任ケアマネジャーは、介護に関するあらゆる相談に対応する介護の専門家です。高齢者やご家族からの相談に乗るだけでなく、介護サービス事業者と連携して地域のケアマネジャーのサポートを行います。ケアマネジャーからの相談に必要な指導・アドバイスを行ったり、地域ケア会議を開催したりと、介護に関するあらゆる問題に取り組みます。
地域包括支援センターの利用対象者
地域包括支援センターの利用対象者は、以下のように定められています。
センターが置かれている地域に暮らす65歳以上の高齢者
高齢者支援の活動に関わっている方
「高齢者支援の活動に関わっている方」とは、高齢者ご本人のご家族のように、高齢者の介護やサポートなどを行っている方のことです。また、ご本人の判断能力が低下していて自力では地域包括支援センターを利用できない場合は、ご家族が代理になることができます。
なお、ご家族が高齢者ご本人と離れた地域に暮らしており、ご本人について相談事項がある場合は、ご本人が暮らしている地域の地域包括支援センターを利用する必要があります。
地域包括支援センターはどこにある?
地域包括支援センターは、各市町村が定める日常生活圏域に設置することとなっており、令和3年4月末時点で全国で5,351ヶ所、支所を含めると7,386ヶ所設置されています。
詳しくは、以下の厚生労働省のページから、各都道府県ごとのページを参照してください。
地域包括支援センターを利用するメリット
地域包括支援センターの利用には、以下のようなメリットがあります。
無料で専門家に相談できる
介護に直面するご家族もサポートしてくれる
無料で専門家に相談できる
地域包括支援センターの利用料は、全国どの施設も無料です。無料で気軽に利用でき、在籍している専門家に様々な困りごとを相談できます。また、相談に対応するだけでなく、あらゆる外部機関と連携しているため、必要なサービスを紹介・つないでくれることもメリットです。
介護に直面するご家族もサポートしてくれる
地域包括支援センターは、高齢者ご本人だけでなく、そのご家族もサポートの対象としています。特に、初めて親御さんの介護に直面するご家族は、介護に対して不安や疑問を抱えていることがほとんどです。そのようなご家族に寄り添い、安心して生活できるよう適切なサポートを受けられることも地域包括支援センターを利用する大きなメリットです。
地域包括支援センターの一般的な相談事例
ここでは、地域包括支援センターに寄せられる相談事例と、地域包括支援センターの対応について解説します。
事例1:介護保険申請に関する相談
事例2:認知症患者の徘徊の捜索・防止、認知症に関する支援活動
事例3:何気ない相談から病気の早期発見に
事例1:介護保険申請に関する相談
外出先で転倒・骨折してしまったAさんは、退院後にご自身だけで日常生活を送ることが難しくなってしまいました。そこで、地域包括支援センターに「何か良い方法はないか」と電話で相談しました。相談を受け、地域包括支援センターはヘルパーの利用やデイサービスの利用を提案し、介護保険サービス利用のために必要な介護保険申請を行うことになりました。 |
このように、地域包括支援センターは生活を送るうえでの困りごとを聞き、適切なサービスの提案とそれを利用するために必要な手続きまで案内します。
事例2:認知症患者の徘徊の捜索・防止、認知症に関する支援活動
認知症を患ったBさんは、物忘れが激しくなり、自宅への道にも迷うようになっていました。ある日、ご家族が目を離した隙に行方不明になってしまい、ご家族が地域包括支援センターに連絡を入れました。地域包括支援センターは、関係する機関やご家族と協力して捜索にあたり、無事にBさんを発見しました。 |
このように、地域包括支援センターの中には、認知症を患っている高齢者とそのご家族への対応としてGPS機器の貸与や家族会、「認知症サポーター養成講座」の開催などを行っています。
事例3:何気ない相談から病気の早期発見に
Cさんは、要介護の旦那さんに関する相談窓口として地域包括支援センターを利用していました。ある日、ご自身の体について、「左手で物を落としやすくなった」という何気ない相談をします。相談を受けた地域包括支援センターは、脳外科専門病院の受診を案内しました。そこでは異常がないと診断されたものの、左半身の違和感が治りませんでした。そこで、地域包括支援センターの看護師が別の総合医療センターへの受診を提案し、結果「初期の多系統委縮症」と診断されました。早期に発見することができ、現在も治療やサポートを受けながら在宅生活を継続しています。 |
このように、相談員が何気ない相談を受けて必要な医療機関を提案し、病気の早期発見に至った事例もあります。
地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い
地域包括支援センターと似ている施設に、居宅介護支援事業所があります。居宅介護支援事業所はケアセンターとも呼ばれ、同じく地域の高齢者を対象にしています。地域包括支援センターと居宅介護支援事業所では役割に違いがあるため、理解しておきましょう。
居宅介護支援事業所は、ケアマネジャーが在籍しており、主に要介護認定を受けた方に対してケアプランの作成を行います。また、介護に対する相談や質問に対応します。そのため、介護に対する相談やケアプランの作成を行いたい場合は居宅介護支援事業所、介護以外も含めたあらゆる相談やサポートを受けたい場合は地域包括支援センターを利用しましょう。
まとめ
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。