高齢者に多い病気とは|介護が必要な疾患のランキングや症状・予防法を解説

高齢期になると、病気にかかりやすくなったり、病気が治りにくくなったりといった変化が起こります。病気によって、介護や医療ケアが必要となり、高齢者向け介護施設での生活が必要になることもあります。親御さんが高齢期に差し掛かったら、高齢者に多い病気の症状や必要な医療ケア、予防するためのポイントなどを理解することが重要です。

この記事では、高齢者の身体的特徴や高齢者に多い病気の症状、さらに介護が必要な疾患のランキングや代表的な医療ケア、予防するためのポイントなどを解説します。

#医師#医療行為#認知症#病気#豆知識
この記事の監修

すぎもと ゆりこ

杉本 悠里子

有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。

高齢者の身体的特徴

まずは、高齢者の身体的特徴について解説します。65歳以上の高齢期に入ると、以下のような身体的特徴が現れることが多いです。

  • 免疫力や回復力の低下

  • 同時に複数の病気を抱えやすくなる

  • 病気が慢性化しやすくなる

  • 恒常性を維持する機能の低下

  • はっきりした症状が現れなくなる

高齢期になると、免疫力が落ち、風邪やウイルスなどに対する抵抗力が下がることが多くなるため、病気にかかりやすくなります。また、回復力も低下する傾向にあるため、病気が長引き、症状の改善に時間を要します免疫力や回復力が低下することによって、同時に複数の病気を抱えたり、病気が慢性化することも多いです。

また、恒常性維持機能も低下します。恒常性とは、外部環境や内部の変化にかかわらず、体温や血圧・血糖値などといった身体の状況を一定に保とうとする人間の性質のことです。高齢期になると恒常性維持機能が低下するため、些細なことで体温が変動したり、血糖値や血圧のコントロールが難しくなったり、脱水症状で意識がもうろうとする可能性があります。

さらに、ある病気で見られる一般的な症状が現れない、という特徴もあります。はっきりした症状の代わりに、「なんだか最近元気がない」「食欲が落ちた」など、普段と様子が違うことから病気に気づくことが多くなるため、病気の発見が遅れたり、重篤化のリスクがあります。

高齢者が抱える疾患の特徴

高齢者が抱えやすい疾患の特徴は、以下のとおりです。

  • 治りにくく、慢性疾患になりやすい

  • 合併症を誘発することがある

  • 一般的に見られる症状に該当しない場合があり、症状に個人差がある

前述のとおり、高齢期に入ると免疫力や回復力が落ちるため、一度病気にかかると治りにくく、慢性疾患になりやすいです。また、ある病気をきっかけに他の病気にもかかる合併症を誘発することがあります。さらに、複数の病気の症状が一度に現れたり、症状に個人差があることから、病気の特定が遅れリスクがあります。

高齢者に多い疾患を一覧で解説

高齢者によく見られる疾患は、以下のとおりです。

  • がん

  • 認知症

  • 脳卒中

  • 心臓病

  • 糖尿病

  • パーキンソン病

  • ALS

  • 骨粗しょう症

  • 喘息・気管支炎

  • 誤嚥性肺炎

がん(癌)

がんは、正常な細胞の遺伝子が傷ついて異常な細胞が生まれ、それが増え続けることにより発生する病気です。「悪性腫瘍」とも呼ばれます。がんの発症と生活習慣には密接な関係があると言われていますが、100%予防できるとは限りません。

初期はほとんど症状がありませんが、進行するにつれ、痛みや食欲低下などの症状が現れます。がんにはステージが0から4までの5段階あり、他の臓器へ転移するとステージ4と診断されます。回復の見込みがなく、余命6ヶ月程度と診断された状態が「末期がん」です。末期がんになると、介護保険施行令第2条で定められている「特定疾病」と認められます。

認知症

認知症は、加齢や疾病により脳細胞の働きが衰え、認知機能や身体機能の低下、記憶障害などが起こる病気です。代表的なものは、以下の3つです。


  • アルツハイマー型認知症:物忘れや認知機能の低下を引き起こす認知症のこと。

  • 脳血管性認知症:脳の血管障害が原因で身体に障害をもたらす認知症のこと。

  • レビー小体型認知症:幻視や意識レベルの変化を引き起こす認知症のこと。

認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分かれます。中核症状とは、認知機能の低下や記憶障害などのことです。これらの症状から起因して起こる、一人歩き(徘徊)や抑うつ・せん妄などの症状が、周辺症状と言われます。

認知症を完治させる方法は確立されていません。そのため、症状の進行を和らげるためのリハビリや薬物療法といった対症療法が行われます。

脳卒中

脳卒中とは、脳の血管が破れたり詰まったりすることで、、細胞に栄養が行き渡らず、脳機能に障害が起こる病気です。言語機能や身体機能に影響があり、発症すると体の麻痺や意識障害・言語障害などの後遺症が残ることが多いです。

脳卒中には、脳の血管が破れて起こるくも膜下出血と脳出血、脳の血管が詰まって起こる脳梗塞と一過性脳虚血発作があります。

3大生活病の1つであり、喫煙習慣や糖尿病・高血圧症などの生活習慣病によって起こる動脈硬化が、脳卒中を発症する主な原因です。 

心臓病

心臓病は、心臓の機能の異常によって起こる疾患の総称で、心不全や不整脈、心筋症、心臓弁膜症、冠動脈疾患、先天性心疾患などが含まれます。息切れや動悸、痛みなどの症状が見られ、突然死も起こりやすいため注意が必要な疾患です。脳卒中と同様に、生活習慣病による動脈硬化が主な原因です。 

糖尿病

糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが十分に働かなくなる病気です。インスリンには血糖値を下げる働きがありますが、インスリンの分泌が不足したり、働きが悪くなることにより、血糖値が高い水準のまま下がらなくなります。

糖尿病には、糖尿病性神経障害や糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症といった合併症もあります。手足や目、腎臓などに発症し、進行するにつれて手足のしびれや痛み、腎機能や視力の低下などが見られます。

糖尿病の治療には、インスリンを投与して、血糖値を一定に保つ必要があります。 

パーキンソン病

パーキンソン病は、脳の神経細胞が減少することによって発症する病気です。転びやすさや震えなど、身体に運動症状が現れます。運動症状以外にも、記憶障害やうつなどの非運動症状が見られることもあり、進行すると次第に日常動作が困難になります。

パーキンソン病を根治する治療法は確立されておらず、対症療法として薬物療法が行われます。遺伝的要因に環境因子が加わって発症すると言われていますが、はっきりとは分かっていません。

ALS(Amyotrophic lateral sclerosis

ALSとは、筋萎縮性側索硬化症のことで、脳と脊髄の運動神経細胞の異常によって筋萎縮・筋力低下が起こる病気です。顔や舌・上肢や下肢など、全身の筋肉に発症します。食べ物がうまく飲み込めない、呂律が回らないといった初期症状があり、進行すると重度の筋萎縮や筋力低下が起こります。最終的には呼吸筋が動かなくなるため、人工呼吸器が必要となります。治療方法は確立しておらず、原因も解明されていません。

骨粗しょう症

骨粗しょう症は、骨がもろくなり、骨折しやすくなったり身長が縮んだりする病気です。骨しょう症によって起こる骨折には、大腿骨頚部骨折・転子部骨折・脊椎圧迫骨折などがあります。閉経後の女性に多く見られる傾向があり、進行すると寝たきりになることもあります。

また、骨粗しょう症や筋力低下などによって、要介護状態や寝たきりになるほど運動機能が衰えることを「ロコモティブシンドローム」と呼びます。

喘息・気管支炎

喘息とは、慢性的に気管に炎症が起こり、気管支が狭まって咳や発作が起こる病気のことです。高齢期に起こる喘息は、幼少期に発症する小児喘息よりもアレルギー反応が少ない傾向があります。しかし、免疫力の低下や呼吸器の関連症などから発症することが多く、喘息のほかにも合併症が存在する可能性があります。

気管支炎とは、気管支の粘膜が原因物質に感染することによって炎症を起こし、咳やたんが出る病気です。慢性気管支炎と急性気管支炎があり、前者はアレルギー物質や喫煙、後者は風邪やウイルス感染などが原因です。 

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液が気道に入る誤嚥によって引き起こされる肺炎のことです。嚥下能力が低下している高齢者は、食事中に誤嚥するリスクがあります。その際、口の中の細菌が肺に入り込み、肺炎につながる可能性があります。嚥下機能を維持・向上させるリハビリや、日頃の口腔ケアが重要です。

介護が必要になる疾患ランキング

厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、介護が必要になる疾患のランキングは以下のとおりです。

1位:認知症(17.6%)

2位:脳卒中(16.1%)

3位:高齢による衰弱(12.8%)

4位:骨折・転倒(12.5%)

5位:関節疾患(10.8%)

出典:厚生労働省「国民生活基礎調査 令和元年国民生活基礎調査」

認知症と脳卒中が全体の3割を占める結果となっています。また、様々な疾患から衰弱に繋がり、介護が必要になるケースもあります。

高齢者の疾患に対する代表的な医療ケア

高齢者が発症する疾患には複数の種類があり、それに応じて様々な医療ケアが必要です。ここでは、高齢者の疾患に対する医療ケアとして代表的なものをご紹介します。

人工透析

人工透析とは、腎臓の機能が低下している方に対し、透析器を用いて、腎臓の代わりに老廃物や余分な水分の除去を行うことです。人工透析は、専門の病院・クリニックで実施します。1回につき4〜5時間かかり、一度治療を開始すると永続的に治療が必要です。老人ホームや介護施設の中には、人工透析クリニックが併設されているところもあります。

胃ろう

胃ろうとは、口から食事をとることが難しい方に対して、腹部に小さな穴を開け、チューブを通して直接胃に栄養を入れることです。嚥下能力が低下し、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性が高い方に行われることもあります。胃ろうを行っても、口から食事をとることは可能です。

中心静脈栄養(IVH・TPN)

中心静脈栄養とは、口から食事ができず消化器の機能が低下している方に対して行う点滴のことです。栄養や水分などを豊富に含んだ高カロリーの点滴をすることで、栄養補給をサポートします。心臓に近い大きな静脈に点滴を行うため、点滴の経過や時間の管理・状態観察など、細心の注意が必要な医療行為です。

高齢者の疾患を予防するためのポイント

高齢者は様々な疾患を抱えるリスクがあり、中には発症原因が特定されていない疾患もあります。しかし、発症を抑え、できる限り健康な生活を送るために気をつけるべきポイントも存在します。高齢者の疾患を予防するためには、以下のようなポイントに注意しましょう。

  • 規則正しい生活で生活習慣を整える

  • 趣味を見つけ、ストレスを発散する

  • 体調の変化に敏感になり、異変を見逃さない

  • 転倒・誤嚥が起きないよう最大限気を配る

生活習慣が原因で引き起こされる病気も多いです。規則正しい生活を心がけ、生活習慣を整えましょう。また、ストレスも病気の原因になることがあります。ストレスで免疫力が低下すると、様々な病気にかかりやすくなります。そのため、心身ともに健康的な生活を送れるよう、ストレスを発散できる趣味や娯楽を見つけましょう。

病気の発症を見逃さないためには、日頃から体調の変化に気を付けることも大切です。少しでも異変を感じたら、医師の診断を受けましょう。

また、転倒による骨折で介護が必要になったり、誤嚥によって肺炎を引き起こす可能性もあります。運動やリハビリの習慣をつけたり、自宅で安心して生活できるよう介護リフォームを実施したり、食事を食べやすい形態に変えるなど、転倒や誤嚥を防ぐための工夫も非常に重要です。

まとめ

今回は、高齢者に多い病気と医療ケア、予防のポイントなどについて解説しました。高齢者は、身体機能の低下によって病気にかかりやすくなり、病気の慢性化・重篤化リスクも高いです。親御さんに万が一の事態が起きた時に、素早く適切に対応できるよう、高齢者の身体状況や疾患、必要な医療ケアについて理解しておくことが大切です。また、疾患をできる限り予防するためのポイントも知っておきましょう。

この記事をきっかけに、改めて親御さんの健康に目を向けていただければ幸いです。

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