言語聴覚士(ST)ってどんな仕事?求人状況や将来性まで解説

「言語聴覚士ってどんな仕事?」「言語聴覚士になるには?」「需要はあるの?」こんな疑問はありませんか?言語聴覚士は比較的新しくできた国家資格のひとつで「話す」「聞く」「飲み込む」などの機能が低下した方を対象に、専門的なリハビリテーションを実施する仕事です。

国家資格のため、国家試験に合格する必要がありますが、病院・施設・教育機関など、様々な場所で活躍できる仕事といえます。

今回は、言語聴覚士の仕事内容や資格取得方法、将来性について紹介しています。最後まで見ていただくことで、言語聴覚士について理解を深めることができます。ぜひご覧ください。

#資格#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

言語聴覚士とは

言語能力や嚥下機能の専門職

言語聴覚士とはSpeech-Language-Hearing Therapy(ST)と呼ばれる職業です。主に言葉によるコミュニケ―ションに課題のある方や嚥下に障がいのある方に対してリハビリテーションを行なう専門職で、理学療法士・作業療法士と同じリハビリテーション職のひとつです。

言語聴覚士は、発声機能や言語機能に障害のある方に対して、機能向上を目的に言語訓練やその他の訓練、検査・助言・指導・援助を行うことが主な仕事です。国家試験に合格し、資格を取得した人のみが言語聴覚士と名乗れる名称独占業務になります。免許を持たずに作業療法の業務を行うと、違法行為となるので注意が必要です。

コミュニケーションに支障が出る要因として、脳卒中後の失語症や聴覚障がい、発達障がいなど様々です。また、子どもから高齢者まで幅広い年齢層に対して需要があり、それぞれの課題に合わせて専門的なリハビリテーションを実施します。

言語聴覚士の仕事内容

対象者が幅広く多岐にわたる業務

言語聴覚士は、医師の指示のもと、話す・聞く・飲み込む機能において専門的なリハビリテーションを行う仕事です。対象者それぞれに合わせたリハビリテーション計画を作成しリハビリテーションを実施。途中経過や結果を評価して、新たな課題を分析・対策を立て、次の目標になる課題を見つけて実践します。

具体的なリハビリテーションには、以下のようなものがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

【摂食・嚥下訓練】

食べ物や飲み物の飲み込みがスムーズにできず、むせ込んでしまうような人を対象に原因や対応を検討します。飲み込む動作は、人間の持つ反射機能によって行われますが、脳に障害があるとうまく働かなくなるため、言語聴覚士は嚥下の反射を高められるリハビリテーションを実施し、機能の回復を目指します。

【成人言語・認知訓練】

大人の言語障害が発症する要因は、脳梗塞や事故によるものが多いです。また、高齢により認知症の発症リスクが高まることで、言語障害が発症する場合もあるでしょう。自分の思いを伝えられない状態を改善できるように、リハビリテーションを実施します。

【発声・発語訓練】

失語症・構音障害・高次脳機能障害などで、発声に障害が出ている方に対して、機能訓練やリハビリテーションを行ないます。

【小児言語・認知訓練】

子どもの言葉や発声の遅れに対して、文字の指導や絵本を使って発語を促し訓練します。子どもの周辺環境を整える役割もあり、家族や教育機関との連携も大切な業務です。

【聴覚の支援】

聴覚障害は生まれつき(先天性)のものと、事故などが原因(後天的)で起こる場合があります。対象者のアセスメント(査定)により課題を明確にし、計画を作成して言語訓練を行ないます。補聴器などの調整も業務の一環です。

言語聴覚士の求人状況

専門性が高く求人は多岐にわたる

言語聴覚士は、子どもから高齢者まで幅広い方が対象になるため、働く場所も多岐にわたります。言語聴覚士の多くは病院などの医療機関が多く、介護や福祉施設などでも需要は高い職種です。

以下に、求人の例をまとめました。確認していきましょう。

求人先

詳細

病院系

リハビリテーション科・耳鼻咽喉科・小児科・形成外科・口腔外科など

施設系

老人保健施設・特別養護老人ホームなど

学校系

通級者指導教室・特別支援学校・養成校・研究・教育機関(聴覚障害・知的障害・肢体不自由)など

訪問系

訪問看護ステーション・訪問リハビリ事業所

小児系

児童福祉施設・養護学校・幼稚園・保健所など

障害・福祉系

障害福祉センター・小児療育センター・通園施設など

言語聴覚士は、他のリハビリテーション職と違い、学校や小児施設の求人も多いことが特徴です。

言語聴覚士の給料

平均年収の差が大きく働く場所によって差が出る

言語聴覚士の年収は、平均400万円前後といわれています。

給料アップを検討する場合は、以下のような方法が考えられます。それぞれ見ていきましょう。

【長く勤める】

医療系職種や介護系施設では年功序列の考え方が多く、長く勤めることで昇給していく制度が多いです。長く勤めることで専門職としてのスキルの向上や役職者への道も開かれる場合があるので、着実に給料アップを検討するならひとつの職場で長く勤める方法があります。

【資格取得】

言語聴覚士とは別の資格を取得することで、資格手当を受け取れる場合があります。例えば、臨床経験と専門プログラムの修了後に受験資格を得られる「認定言語聴覚士」をはじめ、「呼吸ケア指導士」「手話通訳士」「プロフェッショナル心理カウンセラー」「栄養サポートチーム専門療法士」など多岐にわたり、資格取得することで言語聴覚士として、さらに期待されるでしょう。しかし、すべての職場で資格手当が受け取れるとは限りませんので注意が必要です。

【環境を変える】

前述したように言語聴覚士の求人状況は多岐にわたり、さまざまな職種を検討できます。給料や資格手当の決定方法も様々のため、条件の良い職場や将来性を見越して転職することも給料アップにつながる場合があります。先に紹介した、「長く勤める」に対して真逆の方法ですが、自身の環境や待遇に合わせて検討すると良いでしょう。

参照:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

言語聴覚士になるには

受験資格を得る2つのルート

言語聴覚士は国家試験に合格しなければ、資格を取得できません。

【養成課程ルート】

言語聴覚士養成過程を設けている大学や養成学校(3〜4年制)のカリキュラムを履修することで、言語聴覚士国家資格受験資格を得ることができます。

【一般課程ルート】

一般的な4年制大学を卒業後、言語聴覚士養成過程のある大学や大学院の専門科、また養成校で2年以上学び卒業すると言語聴覚士国家試験資格を得ることができます。

近年、養成校の通信教育を利用する人もいますが、通信教育だけでは国家試験受験資格を取得することはできません。文部科学大臣または都道府県知事が指定した養成校を卒業する必要があります。

働きながら言語聴覚士を目指すことも可能です。夜間課程のある言語聴覚士養成校があるため、日中仕事をしながら夜間は学校に行くことができます。しかし、養成校のカリキュラムには臨床実習があるため、1ヶ月程度病院や施設へ実習に行く必要があります。また、夜間課程のある養成校も少ないため、地域によって選択肢から外れる場合もあるでしょう。

言語聴覚士の合格率

理学療法士・作業療法士よりも合格率は低い

言語聴覚士の合格率は例年70%前後という結果です。他のリハビリ職である理学療法士や作業療法士と比べると、若干少ない印象を受けます。

試験内容は以下の通りです。

 ・基礎医学

 ・臨床医学

 ・臨床歯科医学

 ・音声・言語・聴覚医学

 ・心理学

 ・音声・言語学

 ・社会福祉・教育

 ・言語聴覚障害学総論

 ・失語・高次脳機能障害学

 ・言語発達障害学

 ・発声発語・嚥下障害学

 ・聴覚障害学

上記12科目合計200点満点で採点します。60%以上(120点以上)が合格基準です。

では、過去5年間の合格率を見ていきましょう。


受験者数

合格率

第24回 令和3年

2,593人

75.0%

第23回 令和2年

2,546人

69.4%

第22回 令和元年

2,486人

65.4%

第21回 平成30年

2,367人

68.9%

第20回 平成29年

2,531人

79.3%

2022年2月19日(土)に行なわれた第24回言語聴覚士国家試験は、2,593人の受験者から1,945人(75.0%)の合格者が出ています。

言語聴覚士に向いている人

人との関りや興味を持ち続けられるかがポイント

言語聴覚士に向いている人の特徴は、以下のようなものが考えられます。ひとつずつ特徴を解説していきましょう。

【人とコミュニケーションをとることが好き】

言語聴覚士は言葉によるコミュニケ―ションに課題のある方に対して、リハビリテーションを行なう仕事です。そのため、コミュニケーション能力は必須といえるでしょう。

【観察力がある(人に興味がもてる)】

言語聴覚士がリハビリテーションを実施する対象者は、言葉で気持ちを伝えられない・伝えることが困難な方が多いです。そのため、対象者の気持ちを表情や普段との違いから理解し代弁する場面もあるでしょう。当たり前のことではありますが、普段との違いに気づくためには、普段の様子を観察し理解する必要があります。日常的に対象者を観察し、記録や記憶に残していくことが大切です。

【根気がある】

発声や嚥下の訓練には、結果が出るまでに時間が必要です。障害の程度により結果が現れにくいだけではなく、時には後退する場合もあります。結果が出にくいことで、対象者のモチベーション低下もあるでしょう。日々、自身も含め、対象者のモチベーションをサポートしながら、継続したリハビリテーションを行うことが大切です。

【向上心や探究心が高い】

言語聴覚士は、資格取得後も継続して勉強する必要があります。発声や嚥下機能は脳との関係性が高く、解明されていない領域もあるでしょう。また、リハビリテーション方法も変化していくこともあります。日々、脳や対象者に興味を向け、新たな知識や経験を探求していくことを求められる職種といえるでしょう。

参考:転職のサポートドットコム

言語聴覚士の将来性

今後必要とされる職種のひとつ

言語聴覚士は「話す」「書く」「聞く」などのコミュニケーション能力と「飲み込む」ことに障害がある方を対象にリハビリテーションを行います。今後も、高齢者の増加が予測される中で需要は高まると考えられます。

また、対象者が幅広いことから、医療系の施設だけではなく、保健福祉施設や教育機関、障がい者施設などでの活躍も期待されるでしょう。

言語聴覚士には、様々な期待がありますが特に嚥下(飲み込み)に関して、注目が集まっています。高齢による能力の低下や障害による飲み込み困難に対してリハビリテーション支援が必要な方が多く、需要が追い付いていないことが現状の課題です。

受験人数を見てわかる通り、言語聴覚士はその他のリハビリ職に比べ資格を取得する人が、少ない現状にあります。1997年にできたばかりの国家資格なので、言語聴覚士の人数確保も大切な課題のひとつです。

様々な分野で活躍が期待される言語聴覚士ですが、他のスキルと掛け合わせることで様々な分野で活かせるでしょう。例えば、リハビリテーションで使用する絵やカードを作成する際に個々に合わせたものを作成する場合もあります。絵を書いたりパソコンでカードを作成するなど、様々な場面で活躍できるようになり、自身のスキルアップがそのまま業務効率につながるようになるため、働きながらもスキルアップを目指すとよいでしょう。

まとめ

言語聴覚士は1997年にできた国家資格で、主に「話す」「聞く」「飲み込む」などの機能低下や障害によって失われた機能の回復を目指す職種です。今後、高齢者が増えることが予想されている日本において、需要の高い職種のひとつといえます。

言語聴覚士の資格を取得していることで、様々な職場で働くことが可能です。子どもから高齢者まで対象者も多いため、選択肢が多く職場選びには困らないでしょう。

対象者に合わせたリハビリテーションを行う仕事のため、コミュニケーション能力は大切です。回復の経過が見えにくく根気が必要な仕事ですが、大きなやりがいを感じられる職種といえるでしょう。今回の内容が、言語聴覚士の理解につながれば幸いです。

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