認知症の被害妄想を解説!症状別の対応方法まで具体的に紹介

「財布を盗られた」「暴力を振るわれた」「自分だけ疎外されている」と被害妄想に悩んでいませんか?被害妄想には様々な種類があります。どの症状が現れても対応する介助者は困難なことが多いでしょう。

今回は、認知症による被害妄想について症状や対応方法を紹介します。最後まで見ていただくことで被害妄想が起こっている方の気持ちや、相談先が理解できるでしょう。ぜひご覧ください。

#認知症#病気
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

被害妄想の種類

被害妄想にはいくつかのタイプがある

認知症の症状は、記憶障害だけではなく妄想が現れる場合があります。妄想を起こしやすい認知症もあるので、認知症の種類を把握することも大切です。また、認知症の中核症状として記憶障害・判断力の低下・理解力の低下が現れ、これらの症状と精神状態などが複雑に絡み合い「妄想」として現れます。

また、妄想にもいくつかのタイプがあり、内容によって非常に対応に困る場面もあるでしょう。主な被害妄想の種類は以下の通りです。ひとつずつ見ていきましょう。

【もの盗られ妄想】

認知症の妄想のなかで、よくみられる妄想です。金銭に対しての訴えが多い傾向で「財布」「通帳」などを盗られたと感じることが多いです。ほかにも「鍵」「服」「携帯」などの生活上関わりの多いものがあげられます。

もの盗られ妄想の原因としては、記憶障害によるものと自分自身は認知症じゃないという葛藤からくる妄想と考えられます。例えば、財布がないと探している人は「絶対ここに置いた」「いつもここに置いている」と考えているでしょう。しかし、実際には元々なかったものでも、本人は「おかしい。ここに置いたのに。誰かに盗られた?」と考えてしまいます。

また、家族やヘルパーが疑われる場合が多くあります。歯がゆいところですが、一番近くで介助している人が疑われるので、疑われた側のストレスは計り知れないでしょう。

【見捨てられ妄想】

「周りに迷惑をかけている」と感じている場合に起こりやすい妄想です。高齢になるにつれ、人の手を借りることも増えていきます。また、認知症の進行によって、さらに迷惑がかかっていると感じているでしょう。

このような心情になると思考はマイナスに働き、悪い方向に進んでしまいます。この悪循環の結果「自分が邪魔」「捨てられる」などの妄想が出てしまいます。また、自分は必要ないと感じてしまうと「孤独感」や「喪失感」となり、うつ症状を引き起こすこともあるでしょう。

【嫉妬妄想】

嫉妬妄想では、見捨てられ妄想と似た要素もありますが「他者に必要とされていない」と感じることからはじまります。妄想の対象になるのは、パートナーや家族が多い傾向です。

「パートナーが浮気をしている」「出ていくかもしれない」などの妄想が現れます。自分のできることが減り、頼りにされていないと感じる状況が続くと症状も悪化しやすい傾向です。「浮気をしていない」と反論しても、本人にとっては否定の形となるので理解してもらえず、対応は非常に難しくなります。

【幻視・幻聴】

認知症の症状の中には、幻覚が現れることがあります。幻覚は、五感に対して起こる幻の総称です。認知症では特に「幻視」が目立ちます。

幻視は「部屋の角に子どもがいる」「虫がいっぱいいる」など現実にはないものが見える症状です。特に、レビー小体型認知症によく見られる症状です。周りには見えていない状態なので、意見が食い違う場面も多くあります。

【迫害妄想】

「殴られた」「ひどい扱いを受けた」などの妄想が現れます。家族や介助者など比較的近い関係の人物が対象となる場合が多いです。「虐待を受けている」と訴えると、周囲の人も巻き込み騒動になる場合も考えられるので、妄想の対象者は焦って否定するケースもあるでしょう。

被害妄想の一種「妄想性人物誤認症」

妄想性人物誤認症は双方に対応が困難になりやすい

被害妄想の一種として妄想性人物誤認症という症状があります。妄想上の人物を作り出す症状があり、誤認によるトラブルが考えられます。妄想性人物誤認証の主な症状は以下の通りです。

症状

詳細

カプグラ症候群

身近な人が入れ替わったと思い込む妄想

パートナーを偽物と決めつけ排除しようとする

相互変身症候群

周囲の人が見た目を変えずに相互に変身していくと感じる妄想

フレゴリの錯覚


他者がもう一人の他者に変装していると妄想

自分を迫害する危険に対しての妄想が多い

鏡徴候

鏡に映った姿を自分と認識できず他人と思い込む

自己分身症候群

自分と同じ人物がいると思い込む

TV徴候

現実とTVの世界が区別できない

幻の同居人

他人が同居していると思い込む

妄想性人物誤認症が現れると、周囲は理解が追い付かず、対応が非常に困難なケースが多いです。否定はせず対応していくことが望ましいですが、本人が感情的・攻撃的になる場合もあります。

本人の立場になって考えると「非現実的な状況」なので、混乱するのは当たり前であり、不安な気持ちを理解し寄り添うことが大切です。

被害妄想が現れたときの基本的な接し方

傾聴と共感が重要

被害妄想には上記のように様々な症状があります。それぞれに対応方法がありますが、基本的な対応は「否定しない」ことです。本人は、実際に起こっていないものを感じている・ないものが見えて混乱している状態なので、介助者は訂正し落ち着いてもらおうと考えてしまいます。しかし、訂正しても理解を得られない場合がほとんどです。

まずは、傾聴し本人の訴えを聞いていきましょう。不安や混乱の症状が軽減すれば、被害妄想の軽減も期待できます。反対に、本人の話を否定すると、本人は余計に混乱してしまいます。混乱すると、妄想は進み対応がさらに困難になります。「落ち着く」「安心できる」環境を目標に支援すると良いでしょう。

また「話を切り替えていく」「ずらしていく」などの対処も有効です。例えば、財布を探している人に対して、一緒に探しながらアルバムを見せ、思い出話に花が咲くことで、財布をなくしたことを忘れてしまうケースもあります。演技力やタイミングも重要ですが、気分を切り替えられると早期に混乱症状が落ち着く可能性もあります。解決はできない場合が多いので、一時的にやりすごすと考えると良いでしょう。

被害妄想の種類別の対応

それぞれの特徴に合わせた対応方法がある

次に、それぞれの妄想に対しての対応方法を紹介します。基本的な対応は「傾聴する」「否定しない」が鉄則です。

【もの盗られ妄想】

もの盗られ妄想では、関係性の深い人や関わりの多い人が疑われる傾向にあります。逆説的に考えると「疑われることは信用の裏返し」ともいえるでしょう。つまり本人が混乱しているのは、信用していたのに大切なものを盗られた・裏切られたということです。

対応としては、否定も肯定も行なわずに悲しい気持ちを共感してあげると良いでしょう。共感したあとは、一緒に探して信頼の回復を図ります。もの盗られ妄想は、本人の置き忘れや勘違いで対象のものが見つからないケースがほとんどです。探し出すと、意外な場所から見つかる場合も多いでしょう。

見つけたときはすぐに本人に言わないことがポイントです。大騒ぎした後に自分の不注意だったとなると自尊心を傷つけてしまいます。そのため、本人の見つけやすいところに置いて、本人に見つけてもらうと良いでしょう。

同じことを繰り返す場合もありますが、一緒に探してくれたことや、その結果ものが見つかるという体験は安心感へとつながります。

【見捨てられ妄想】

疎外感や孤独感があると現れる傾向にあります。そのため、普段よりコミュニケーションを増やす・一緒に出かけるなどして行動をともにすると良いでしょう。また、集中できる趣味を見つけ、役割や楽しみができると症状の軽減が期待できます。

また、出かけたことや活動したことも、認知機能の低下により忘れてしまう場合もあります。認知症の記憶障害は、感情の部分は残ると考えられています。そのため、楽しいことや成功体験などは、できる限り感情を動かすように働きかけましょう。体験したことは忘れてしまうかもしれませんが、ポジティブな感情を蓄積すると被害妄想の軽減が期待できます。

【嫉妬妄想】

パートナーや家族など、自分が大切に思っている人を失うことは怖いことです。本人が大切に思っている人は「そんなつもりはない」と考え、当たり前のように思い行動していることでも、本人からすれば冷たいと感じているかもしれません。

第三者と比較し「優しくない」と感じて妄想してしまうケースもあります。第三者が丁寧に対応するのはよくあることです。そんなときは、いつも以上に丁寧な対応をしてみるのもひとつの方法です。大切に思っている人たちから「大切にされている」と感じられることは、安心感へとつながるでしょう。

【幻視・幻覚】

実際にないものに対して訴えてくるので、対応が難しいでしょう。訴えもとっさに現れるため、その場のひらめきやコミュニケーション能力が問われます。

例えば「男の人が入ってきた」という妄想があれば、「電気の修繕のため見てもらいにきた」「定期のガス点検です」など、訪問調査の人と説明するのも有効です。さまざまなシチュエーションがあるので難しい妄想のひとつですが、嘘をつくというよりも、安心してもらえることを優先した返答を心掛けましょう。

【迫害妄想】

攻撃的な内容を訴える場合は、一度対応を変えてみるのも効果的です。なにもしていないのに、暴力を振るったと言われるケースでは、介助者も歯がゆく否定したくなる気持ちもあるでしょう。しかし、否定してしまうと関係性が余計に悪くなり、対応が困難になる場合も考えられます。第三者の介入で本人の様子を見ながら、介助者が定期的に入れ替わるのも良いかもしれません。

介助者側も大変ですが、関係性が崩れると元に戻れないケースや、症状の悪化が起こる可能性もあるので注意しましょう。

被害妄想を抑える薬物療法

定型抗精神薬と非定型抗精神薬がある

被害妄想の症状に合わせて、薬を使用するケースもあります。被害妄想に使用される薬は「抗精神薬」です。近年、抗精神薬には従来型のものよりも効果が期待できる「非定形抗精神薬」が使用されることもあります。

種類

内容

定型抗精神薬(従来型)

陽性症状に効果がある

非定型抗精神薬(新規)

陽性・陰性症状や認知機能障害にも効果がある

陽性症状と陰性症状について以下にまとめました。

症状

詳細

陽性症状とは

幻覚、妄想、思考の混乱

陰性症状とは

感情の鈍麻により感情の表出が減る、思考能力が低下し会話が困難になる

意欲の低下により活動性が下がる、社会に出ることが減り閉じこもる

薬に関しては、かかりつけや専門医の指示のもと、用法用量を守って使用してください。

また、被害妄想が現れている場合、薬を「毒」だと思い込み拒否されるケースもあります。薬が処方されても、飲んでもらえないのでは意味がありません。早い段階から信頼関係を作っておくと「薬を飲んでくれない」と悩む場面は減るでしょう。

被害妄想がある人の気持ちを考察

事象よりも感情を汲み取る

被害妄想が起こる人の気持ちを考えてみましょう。妄想は、不安や混乱が大きくなり、被害妄想として現れるケースが多いです。そのため、被害妄想が出ている状態は精神的に不安定な状態といえるでしょう。

自分の思いと周囲の反応が違うため、不安な気持ちが増幅し、さらに不安を感じてしまうでしょう。自分が財布をなくしたと感じたとき、周りから「そんなはずはない」「元々なかったよ」と言われても納得できない状況と同じです。

まずは、妄想している世界を理解するのは困難ですが「心配」や「不安」に対してなら共感できるのではないでしょうか。心配や不安の軽減ができれば被害妄想の現れる頻度も抑えられる可能性もあります。辛い時期もありますが、安心を提供できる環境を整えていくと良いでしょう。

また、被害妄想は消失する可能性もある症状です。長期間続く場合もありますが、本人の性格・病気・環境が作用するため、本人の生活状況によっては早期改善も期待できるでしょう。

認知症の対応が困難な場合の相談先

各相談窓口を利用して悩みを抱え込まないことが必要

認知症には被害妄想だけではなく様々な症状があるため、対応が困難な場合もあるでしょう。安心して生活できる環境があれば、症状の軽減も期待できます。しかし、それだけでは家族や介護者の負担は軽減できないこともあるでしょう。

多くの支援者で様々な状況を把握していくことが大切です。そのためにも、各相談窓口や専門職に相談すると良いでしょう。家族や介助者だけでは支えきれない状況や、症状を悪化させてしまうケースも少なくありません。

各相談窓口は以下の通りです。

相談窓口

詳細

認知症疾患医療センター

全国で477ヶ所ある

電話または面談による医療相談

受診の調整や専門医療に係る情報提供

関係機関との連絡調整

認知症の鑑別診断

診断に基づき適切な初期対応

市町村区の保健所・保健センター

地域の医療機関を紹介

認知症についての相談会(自治体による)

認知症についての講習会(自治体による)

問い合わせは、役所または保健所に確認

市町村区の地域包括支援センター

在宅、施設介護などに関する相談を受付

地域の医療機関などを紹介

都道府県の高齢者総合相談センター

高齢者や家族の心配事や悩み事相談

法律に関する相談を受付(無料)

認知症の人と家族の会

(公益社団法人)
認知症の電話相談

認知症の関係者によって構成

電話相談は認知症介護の経験者が対応

情報交換や勉強会を実施

家族が集まれる場を提供

0120-294-456(土日祝を除く10:00~15:00)

認知症110番

(公益社団法人 認知症予防財団)

認知症に関する電話相談を受付(無料)

認知症一般の医学的な相談を受付(要予約)

指定の日時に大学の専門医に電話可能(後援・厚生労働省)

0120-654-874(祝日と年末年始を除く月・木10:00~15:00)


特定非営利活動法人 若年性認知症サポートセンター

65歳未満で発症する若年性認知症の相談受付

03-5919-4186(月・水・金曜日10:00~17:00)

まとめ

被害妄想は、認知症の影響もありますが、元々の性格や障害によって起こる場合もあります。原因は様々あり、被害妄想が現れると介助者や周囲の人は困惑し、時には意見の食い違いも起こるでしょう。

不安や混乱が起こると、精神的に不安になり、誰かのせいにしてしまいます。この流れは、決しておかしなことではなく、健常者でもよくあることです。思い違いによって、「やった」「やっていない」などの水掛け論になっている状況です。

被害妄想は対応が困難で、賢明に介助してきた人ほど疑われたり、辛い思いをしたりするかもしれません。しかし、辛い思いのまま本人に向き合っては対立を生み、症状を悪化させてしまう可能性も高くなります。

傾聴の姿勢で安心できる環境を整えて、早期の改善を目指しましょう。今回、紹介した内容が被害妄想の理解につながれば幸いです。

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