認知症による暴力・暴言への対応は?原因や対策を解説
「認知症になって暴力を振るうようになった」「暴言が続いていて辛い」「暴力や暴言の症状は治るの?」と悩んでいませんか?認知症が進行するにつれて、ストレスを蓄積し暴力・暴言などの症状が現れる方がいます。対応が困難になり、介助者がツラい毎日を送るケースもあるでしょう。
今回は、暴力・暴言が起こる原因や対応方法を紹介します。予防方法や対応策を理解しておくと、ツラい毎日から抜け出せるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
とぐち まさき
渡口 将生
暴力・暴言が発生する原因
誰でも発生する可能性のある症状
暴力や暴言の症状には必ず原因があります。また、誰でも発生する可能性がある症状のひとつです。元々の性格や病状にもよりますが、不適切な環境で生活し続けることで、行動・心理症状(BPSD)を引き起こします。
症状の現れ方は、認知症の状態や身体の状態により様々あります。症状の例としては以下のようなものがあります。
急に怒り出す
「出て行け」「帰れ」と近寄らせない
ものを投げる
ものを故意で壊す
つばや痰を吐きつける
殴る・蹴る・つねる
セクハラ言動
暴力や暴言があると本人に近寄りにくくなります。距離をとることでさらに症状が悪化する場合もあるので注意が必要です。
暴力はほとんどの場合、理性が働き自制できる傾向にありますが、暴力が現れるということは、行動・心理症状(BPSD)が深刻化している状態だと考えられます。また、精神疾患を併発している可能性もあるので、必要時は精神科など受診も必要になるでしょう。
また、暴力や暴言には認知症そのものに原因がある場合もあります。以下の4大認知症による原因をみていきましょう。
4大認知症の特徴と暴力・暴言の関係
認知症そのものが原因となる場合
4大認知症とは以下のものを指します。
アルツハイマー型認知症
血管性認知症
レビー小体型認知症
前頭側頭型認知症
4大認知症にはそれぞれ特徴的な症状があり、それらが原因で暴力や暴言につながる可能性があるため、ひとつずつ特徴を確認していきましょう。
【アルツハイマー型認知症による影響】
最も多い認知症のタイプです。性格や人格は比較的保たれる傾向にありますが、前述の通り行動・心理症状(BPSD)によって暴力や暴言が現れるケースがあります。
【血管性認知症による影響】
血管性認知症は、脳血管の障害により認知機能が低下します。現れる症状の特徴として感情のコントロールが困難になります。
また、障害を受けた脳と正常に働く脳との差が生まれ「まだら認知症」という症状が現れるのが特徴です。まだら認知症が現れると、記憶や意識がハッキリしている時間とそうではない時間が混在し、精神的に不安定になる場合もあるでしょう。
そのため、何気ないことでも不安や理性が働かず、感情の高まりによって暴力や暴言が現れるケースがあります。
【レビー小体型認知症による影響】
レビー小体型認知症は、「幻覚(幻視・幻聴)」「誤認」「せん妄」などの症状が特徴的です。実際にはないものが見えることで、周りとの認識に差が出る場面も多くなります。
レビー小体型認知症の方には見えているので「見えない」「何もない」と否定されると、不安や混乱が起こりやすくなるでしょう。次第に恐怖心も芽生え、結果的に暴力や暴言などの行動をとるケースがあります。
【前頭側頭型認知症による影響】
前頭側頭型認知症は、ほかの認知症に比べ暴力や暴言が出やすく、興奮しやすいという特徴があります。前頭葉は「人格・社会性・言語」、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」をつかさどります。前頭側頭型認知症の場合、これらの場所が障害されてしまうのです。そのため、人格や社会性などが失われてしまいます。
気に入らないことが起こったときに暴力を振るったり、万引きをしたりなど、社会ルールを逸脱した症状が特徴的です。
脳の障害によるものなので、元々の性格や考え方は関係なく、どんな方でも現れる可能性があります。
4大認知症の特徴以外で暴力・暴言が起こる原因
様々な影響によって暴力・暴言が起こる
4大認知症の特徴以外にも考えられる原因としては「自尊心が傷ついた」「気持ちが伝えられない」などが考えられます。認知症になると認知機能の低下が起こり、理解力や判断力の低下も現れます。介助者が認知症を理解していないと、本人を軽視したり、愚痴を言ってしまう場面もあるでしょう。
認知症は記憶が残りにくい症状ですが、すべての記憶が無くなるわけではありません。特に感情の起伏が起こることによる記憶は残りやすいため、気づかないうちにストレスが蓄積され、暴力や暴言が現れることもあります。
【思ったことを伝えられない影響】
記憶障害の影響で思ったことをうまく伝えられない場合もあります。例えば、トイレに行きたいという気持ちがあるにも関わらず「すみません」しか言えない状況も考えられます。介助者からすると「何が言いたいの?ハッキリして」と急かしてしまうケースもあるでしょう。このような場合、焦りや緊張から余計に言葉が出にくくなってストレスにつながってしまいます。
反対に「過剰に心配される」「信用してもらえない」などの環境が続くと自尊心も傷つき、不安や混乱などの心理的ストレスが増え、攻撃的になってしまう場合も考えられます。認知症の理解をして、急かさず安心して過ごせる環境が整えば、症状も落ち着いてくるケースもあるでしょう。
【体調による影響】
認知症になると、体調の変化に気づかない・気づいていても伝えられないなどのケースがあります。例えば、足を骨折していても歩いてしまう人もいるくらいです。もっと身近なところで考えると「便秘」です。
認知症は最近の記憶が覚えにくい症状があります。便秘によって食欲不振や倦怠感があっても数日前から便が出ていないことを覚えている人はまずいないでしょう。
しかし、身体のだるさは自覚があり理由がわからない状態なので、イラ立ちや不安は蓄積されます。もし、便秘薬を使用していた場合、緩下剤の影響で腹痛や下痢をしてしまう可能性もあります。
原因不明の体調不良と腹痛や下痢などの症状は、誰しもが不安に感じる内容ではないでしょうか。そんな環境で、身近な人の理解がないと不安になるものです。時には怒りとして、現れてもおかしくない状況といえます。
【薬の影響】
暴力や暴言には、内服薬の影響もあります。認知症の治療薬として使用する薬にも副作用があり、副作用の中には「暴力行為」が指摘されている薬があります。副作用は、すべての方に現れる訳ではありませんが、症状があった場合は中止も検討していく必要があるでしょう。
内服を中止し、症状が改善するケースも珍しくありません。しかし、薬の調整に関しては、必ず担当の医師と相談のうえ調整してください。本人や家族であっても独断で調整するのは危険です。
また、飲み合わせにも注意が必要です。複数の内服薬がある場合、相互作用によって暴力や暴言などの症状が現れる場合もあります。内服薬の変更や減薬によって改善する場合もあるので、気になる症状があれば、かかりつけの医師に相談すると良いでしょう。
暴言・暴力があるときの対応方法
必要に合わせて専門職に相談する
暴言・暴力があるときは、距離をとるのもひとつの方法です。近寄ることで、怪我を負ってしまう場合もあるので注意しましょう。無理に対応しようとすれば、反発が起こり、余計に対応困難になる場合が多いです。少し落ちつくまで離れて様子をみると良いでしょう。
関わり方には、以下のような方法があります。
別の部屋に行く
介護施設の利用
介助者を変更
第三者の介入
認知症の場合は、物理的な距離や時間をあけて気分転換を図ることはとても重要なポイントです。
特に介助者を変更すると、急激に怒りが静まり、普段通りに接するケースもあります。介助者としては不満に思う場合もありますが、認知症の問題だと割り切って悪者になってしまうのもひとつの手です。そうすると、代わりに入った介助者が円滑に対応できる場合もあります。
暴力や暴言を受け続けると、介助者側のストレスが蓄積して、うつ病や生活習慣病などに繋がってしまう可能性もあるので注意が必要です。
介護サービスを利用する場合や暴力・暴言の悩みは、医師・ケアマネジャーなどの専門職に相談しましょう。
暴力・暴言に対してやってはいけない対応
対応方法を間違うと虐待につながる
暴力・暴言に対してやってはいけない対応があります。これらの対応は、症状の悪化・介助者の体調不良・虐待に繋がるケースがあるので注意が必要です。ひとつずつ見ていきましょう。
【やり返す・言い返す】
認知症の方から暴力や暴言があったときは、決してやり返してはいけません。やり返してしまうと余計に興奮させてしまう可能性があるでしょう。
また、暴力や暴言を介助者が行ってしまうと「虐待」となってしまいます。決してやり返さないようにしましょう。
【無理矢理介助する】
相手が高齢の場合は暴力や暴言があっても、大きなダメージがなく少し我慢すれば介助ができてしまうケースもあるでしょう。しかし、無理矢理介助してしまうと本人はストレスを感じ、症状が悪化する場合もあります。このような場合は第三者の意見を聞いてみましょう。
普段から介助していると習慣化して見落としているケア方法があるかもしれません。第三者の介入により、新たなケア方法や怒りの原因となるものが見えてくる場合もあります。第三者の意見は素直に受け取るように心掛けると良いでしょう。
【背負い込む】
「人に迷惑をかけられない」「自分でなんとかしなければ」と気合を入れて対応するのは危険です。強引な介助方法やバーンアウト(燃え尽き)を発生させてしまう場合もあるでしょう。
そもそも介護は一人でできるものではないので、自分しかいないと感じている場合は介護の相談窓口や医師に相談すると良いでしょう。ゆとりがない状態だと、視野が狭くなり周りが見えなくなってしまうので注意が必要です。
【放置する】
手に負えないと考え、放置してしまうと「介護・世話の放棄放任(ネグレクト)」にあたり虐待となります。自分自身を守ることは大事ですが、対象者を守ることも必要です。
自分で手に負えない状況の場合は、専門職に相談して支援を受けると良いでしょう。
認知症の暴力や暴言の予防
4つのステップを理解して対応する
暴力や暴言は、認知症になると必ず現れるものではなく「痛み」や「かゆみ」などの身体的な苦痛や「眠れない」「不安」などの精神的なストレスが起因します。予防するためには、ストレスの元になるものを取り除く必要があります。
ストレスは人により様々ですが、見てわかる原因があるのであれば、治療や環境を整えるなどの早急な対応が必要です。また、認知症の人は、認知症を受け入れるまでの4つのステップがあるといわれています。4つのステップは以下の通りです。
否定・とまどい
怒り・混乱・拒絶
あきらめ・わりきり
受容
受け入れるまでには、上記のような流れがあります。発症間もない頃、否定や怒りの感情が強い場合があります。否定や怒りのステップのときに、配慮のない対応をすれば、暴力や暴言が返ってくる場合もあるでしょう。予防するためには、相手の心理ステップを意識した対応が求められます。
また、心理ステップが最終段階に入っていたとしても、再び否定や怒りのステップに戻る場合もあるので理解しておくと良いでしょう。怒りを助長しない対応が必要になるので、接遇面の見直しや声をかけるタイミングなどには気をつけましょう。
認知症の暴力・暴言があれば警察に通報する?
相談をするときは認知症の相談窓口にする
認知症のことで警察に相談するのはあまり勧められません。認知症の暴力や暴言がひどくなると、警察に相談したほうが良いのか悩む場面もあるでしょう。しかし、認知症の話になると、警察では対応が困難です。もちろん協力要請は可能と思われますが、警察が来ることで余計に不安が増大してしまうリスクも考えられます。
また、認知症は、判断力や理解力の低下があり「判断能力の欠如」となり「責任能力がない」と判断されると考えられます。また、家庭内のもめごとには「民事不介入」になる場合もあるでしょう。
警察に電話するよりも、地域にある地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに相談して、介護サービスなどの導入を検討すると良いでしょう。内容によっては、認知症の方と介助者を一時的に引き離す措置をとる場合もあります。
地域包括支援センターは地域の介護相談ができる窓口で、地域に必ず設置されています。大きなトラブルになる前に相談しておくと良いでしょう。また、担当のケアマネジャーに相談し、今後の方向性を決めていきましょう。
認知症の対応に困ったときの主な連絡先一覧
一人で悩まずに早期相談がポイント
すでに認知症による暴力や暴言がある状態だと、早急に電話相談していくことをお勧めします。主な連絡先は以下のとおりです。
相談窓口 | 詳細 |
認知症疾患医療センター |
|
市町村区の保健所・保健センター |
|
市町村区の地域包括支援センター |
|
都道府県の高齢者総合相談センター |
|
認知症の人と家族の会 (公益社団法人) |
0120-294-456(土日祝を除く10:00~15:00) |
認知症110番 (公益社団法人 認知症予防財団) |
|
まとめ
認知症は精神的に不安定になりやすくストレスも溜まりやすい症状です。認知症の進行や症状の悪化によって暴力・暴言が発生する場合があります。暴力や暴言があると、介助者も近寄りにくく、距離がどんどん離れてしまうケースもあるでしょう。
暴力や暴言があると、第三者に介護を依頼するのも億劫に感じてしまう方も多いです。一人で抱え込みツラい毎日を送っている場合もあるでしょう。暴力や暴言は誰にでも現れる可能性のある症状なので、認知症を理解して、お互いストレスを減らした関わり方が重要です。
暴力や暴言が現れた際には、一人で抱え込まず、早期の相談を心がけていきましょう。
この記事が、認知症による暴力・暴言への対応と理解のきっかけになれば幸いです。
まとめ
認知症は精神的に不安定になりやすくストレスも溜まりやすい症状です。認知症の進行や症状の悪化によって暴力・暴言が発生する場合があります。暴力や暴言があると、介助者も近寄りにくく、距離がどんどん離れてしまうケースもあるでしょう。
暴力や暴言があると、第三者に介護を依頼するのも億劫に感じてしまう方も多いです。一人で抱え込みツラい毎日を送っている場合もあるでしょう。暴力や暴言は誰にでも現れる可能性のある症状なので、認知症を理解して、お互いストレスを減らした関わり方が重要です。
暴力や暴言が現れた際には、一人で抱え込まず、早期の相談を心がけていきましょう。
この記事が、認知症による暴力・暴言への対応と理解のきっかけになれば幸いです。
施設を探す
介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。