生活保護受給者は介護保険を利用できる?利用条件や保険料の納付などを解説
介護保険制度とは、1〜3割の自己負担で介護サービスを受けられる公的制度のことです。高齢者の生活を支える心強い制度ですが、生活保護を受給している場合でも介護保険制度を利用できるのか、不安に思われる方もいるのではないでしょうか。65歳以上の方は介護保険制度を利用できます。また、40〜64歳の方も、特定の要件を満たすことにより、介護サービスを利用できる仕組みです。
この記事では、生活保護を受給している方と介護保険制度の関係について解説します。生活保護を受給している方や、受給を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
生活保護とは
生活保護とは、生活に困窮している方に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保証し、自立をサポートすることを目的に、困窮の程度に応じて必要な保護を行う制度のことです。厚生労働省の被保護者調査(令和3年10月分概数)によると、2021年10月時点での生活保護被保護実人員は2,037,970人、被保護世帯は1,641,917世帯でした。
生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、資産や能力、そのほかのあらゆるものを最低限度の生活を維持するために活用することを保護の要件としています。つまり、預貯金や使っていない土地の売却益などを生活費に充てたり、能力に応じて働いたりすることが前提となっている制度です。また、生活保護法による保護よりも、扶養義務者の扶養が優先されます。
生活保護の8つの扶助
生活保護では、生活を営むうえで必要な各種費用に対応して、扶助が支給されます。
扶助には8つの種類があります。
生活扶助:日常生活を送るために必要な費用
住宅扶助:家賃、住宅維持費、引っ越し費用など
教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
医療扶助:医療サービスの費用
介護扶助:介護サービス費用
出産扶助:出産にかかる費用
生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
葬祭扶助:葬祭にかかる費用
生活保護受給者でも介護保険制度は利用できる?
そもそも、介護保険制度における被保険者は、65 歳以上の方(第1号被保険者)と40〜64歳の医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられます。第1号被保険者は、要介護認定または要支援認定を受けた場合、介護保険制度を利用して介護サービスを受けられます。一方、第2号被保険者は、特定疾病が原因で要介護・要支援認定を受けた場合に、介護サービスを受けられます。
介護保険制度を利用することにより、介護サービスにかかる自己負担額が1~3割に軽減されます。介護保険料は、一般的には医療保険に上乗せして納付します。
では、生活保護を受給している方は、介護保険制度を利用できるのでしょうか。以下では、65歳以上と40〜64歳それぞれの場合について解説します。
65歳以上の生活保護受給者の場合
生活保護を受給している65歳以上の第1号被保険者は、介護保険制度を利用できます。介護保険制度では、生活保護受給者であっても、65歳以上になることにより自動的に介護保険に加入し、第1号被保険者になる仕組みです。そのため、特別な手続きは不要です。
生活保護受給者は国民医療保険から脱退するため、医療保険に上乗せして納付することはできません。しかし、生活保護受給者の介護保険料は生活扶助によってまかなわれるため、介護保険制度を利用できます。
40〜64歳の生活保護受給者の場合
40〜64歳の生活保護受給者で、特定疾病により要介護・要支援認定を受けた場合、第2号被保険者にはなれません。
前述のとおり、介護保険料は医療保険に上乗せして納付します。しかし、生活保護受給者は国民医療保険から脱退するため、介護保険料の納付ができません。そのため、第2号被保険者にはなれないという仕組みです。
40〜64歳で介護サービスを利用したい場合はどうする?
40〜64歳の生活保護受給者は介護保険制度を利用できませんが、例外として、特定疾病により要支援・介護認定を受けた場合は、第2号被保険者とみなして認定審査が行われます。これを「みなし2号」と呼び、生活保護費の介護扶助から、介護サービスにかかる費用の全額が支給されます。そのため、介護保険制度を利用できなくても、自己負担なしで介護サービスを利用できます。
なお、みなし2号の方が65歳を迎えることにより、介護保険証が交付されて第1号被保険者となります。
生活保護受給者の介護サービス自己負担割合
生活保護を受給している65歳以上の第1号被保険者の場合、介護サービスの自己負担割合は1割です。生活保護費の介護扶助から、自己負担額がまかなわれます。
また、40〜64歳の「みなし2号」の場合、生活保護費の介護扶助から、介護サービスにかかる全額がまかなわれます。
そのため、介護サービスの自己負担分をする必要はなく、実質的な自己負担はないといえます。
生活保護受給者の介護保険証
生活保護受給者のうち、第1号被保険者については介護保険証が発行されます。
一方、みなし2号の方は、原則介護保険証が発行されません。代わりに、手続き上必要な被保険者番号が割り振られます。
なお、医療保険から脱退している生活保護受給者は、保険証を持っていません。そのため、医療費が全額自己負担になるのではないか、と心配される方もいらっしゃるでしょう。しかし、生活保護受給者には医療生活保護受給者証が支給され、医療費は生活保護費からまかなわれます。役所に申請して認定された場合に入手できる「医療券」を利用することにより、自己負担なしで医療サービスを受けられる仕組みです。
ただし、医療券はすべての診療機関で利用できるわけではありません。指定の病院でしか利用できない点には、注意が必要です。
生活保護受給者が利用できる介護サービス
生活保護受給者が利用できる介護サービスは、訪問介護や訪問リハビリテーションといった居宅サービス、通所介護や通所リハビリテーションといった施設サービス、そのほか居宅介護支援や福祉用具貸与などです。一般的に利用できる介護サービスと違いはありません。
しかし、実質的な自己負担なしで介護サービスを利用するためには、様々な条件が定められています。ケアマネージャーが作成したケアプランが、各自治体の生活保護課によって認められることにより、自己負担額分の負担が免除されます。そのため、必ずしもご本人が希望したサービスすべてを受けられるとは限りません。
40〜64歳の特定疾病と診断されたらどうする?
生活保護を受給されている方が特定疾病と診断された場合、介護サービスを利用するためには、要介護認定を受けてケアプランを作成する必要があります。
なお、特定疾病とは、介護保険施行令第2条で定められている以下の16種類の病気のことです。
がん(医師が一般的に認められている医学的見地に基づき、回復の見込みが無い状態に至ったと判断したものに限る)
関節リウマチ
筋萎縮性側索硬化症
後縦靱帯骨化症
骨折を伴う骨粗しょう症
初老期における認知症
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、及びパーキンソン病
脊髄小脳変性症
脊柱管狭窄症
早老症
多系統萎縮症
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
脳血管疾患
閉塞性動脈硬化症
慢性閉塞性肺疾患
両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
以下では、要介護認定を受ける方法について解説します。
要介護認定の受け方
要介護認定は、以下のような手順で受けましょう。
1.お住まいの市区町村か地域包括支援センターの窓口で申請する
2.認定調査を受ける
3.結果の通知
ここでは、それぞれのステップについて解説します。
窓口で申請する
まずは、お住まいの市区町村か地域包括支援センターの窓口で申請を行います。申請時には、以下のような書類が必要です。
要介護・要支援認定申請書
主治医の存在を証明する書類
医療保険被保険者証(40~64歳の場合)
印鑑
要介護・要支援認定申請書は、窓口で入手できるほか、市区町村のホームページからダウンロードできます。
主治医の存在を証明する書類とは、診察券などのことです。主治医がいない場合は、市区町村が指定する医師の診察を受け、意見書が作成されます。医師の意見書に基づいて、市区町村の介護認定審査会が特定疾病に該当するか否かを判断します。
認定調査を受ける
申請後、認定調査を受けましょう。認定調査では、訪問調査と主治医意見書作成が行われます。それらの結果をもとに、コンピューターが判定する「一次判定」と、保険・医療・福祉の有識者が判定する「二次判定」が行われます。
結果の通知
判定後、結果が通知されます。申請から結果の通知までは、原則として30日以内とされていますが、30日以内に認定結果を通知できない場合は、「要介護認定・要支援認定等延期通知書」が送付されます。余裕をもって申請しましょう。
生活保護受給者の介護保険料の納付方法
生活保護を受給している第1号被保険者の場合、介護保険料は、生活保護費から福祉事務所が天引きするのが基本です。かつては現金での納付が行われていましたが、滞納が相次ぎ、天引きされるようになりました。
これを 「代理納付」と呼び、納付にあたってご本人が特別な手続きをする必要はありません。
ただし、現金での納付が必要な場合もあります。たとえば、生活保護の受給を開始した直後は、介護保険料の上乗せ分が現金で支給されるため、現金で納付する必要があります。また、後述の住所地特例制度を使って老人ホームに入居する場合は、入居前にお住まいだった市町村の被保険者となるため、代理納付ができず現金納付が必要です。
介護保険住所地特例とは
介護保険住所地特例とは、介護施設への入居にあたって住民票を移した場合でも、もとの市区町村の被保険者であり続ける、という制度です。
たとえば、もともとA市に住んでいた方がB市に引っ越すと、一般的にはB市の被保険者となります。しかし、介護施設への入居に伴いB市に引っ越す場合、介護保険住所地特例が適用され、A市の被保険者になり続けます。
介護保険は、各市町村が財政を担っています。そのため、介護施設が多い地域は介護保険料の負担が多く、逆に少ない地域は負担が小さいという、不均衡な状態になってしまいます。このような問題を解決するために機能しているのが、介護保険住所地特例です。
介護保険住所地特例とみなし2号の関係
みなし2号の方が介護施設への入居に伴い住所地を移動する場合も、住所地特例制度が適用されます。
しかし、みなし2号の方が65歳を迎えて第1号被保険者になった場合、65歳を迎えたときにお住まいの市区町村の被保険者になります。つまり、B市に居住していながら、住所地特例制度によってA市の被保険者であった場合も、第1号被保険者になった後はB市の被保険者となる、という仕組みです。
そのため、65歳を迎えて第1号被保険者になる前に、お住まいの市区町村に介護認定の申請を行う必要があります。手続きを行わないと、認定区分がない介護保険証が送付されることにより、介護サービスにかかるすべての費用を自己負担しなければならない可能性があります。
住所地特例制度を利用して介護施設に入居しているみなし2号の方は、65歳を迎える前に、必ずお住まいの市区町村に要介護認定の申請を行いましょう。
介護保険料を支払えない場合はどうする?
生活保護は、希望しても必ず受給できるとは限りません。特に、近年では生活保護の認定が厳しくなっており、生活保護を受給できず、介護保険料の支払いが困難となるケースが見られます。
生活保護の認定を受けていない方で、困窮により介護保険料が支払えない場合は、「境界層制度」を利用できます。お住まいの市区町村の役所に申請し、認定されることにより「境界層該当措置証明書」が発行されます。境界層該当措置証明書を使うことにより、介護保険料が減額されたり、高額介護サービス費の負担限度額が変更になったりといった措置が講じられます。
生活保護受給者は老人ホームに入居できる?
生活保護を受給していても、老人ホームに入居することができます。入居費用が住宅扶助や生活扶助でまかなえる範囲内であることが条件ですが、具体的な受け入れの可否は施設によって異なるため、生活保護受給者を受け入れている施設を選ぶ必要があります。
生活保護受給者が入居できる施設としては、公的施設で費用負担が少ない特別養護老人ホームが挙げられます。ただし、費用の安さから人気が高く、入居待ちが多発しており入居できない可能性も高いです。公的施設だけでなく、民間施設も視野に入れて施設選びを進めましょう。
まとめ
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。