【認知症】なる前に、なったらどうする?知っておきたい基本のこと

「親が同じ話を繰り返す。これって認知症?」「認知症になったらどうすればいいの?」このような不安はありませんか?

認知症は誰もが発症したくないものです。しかし、日本では近い将来5人に1人が認知症になると言われています。今後は認知症の知識を国民みんなが理解していく必要もあるかもしれません。

今回は、認知症について紹介しています。検査方法・相談先・もの忘れと認知症の違いなど、詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

#認知症#病気
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

1.認知症とは

高齢者の増加に合わせて認知症も増加している

認知症とは、脳の萎縮や血管が詰まること(梗塞)によって何らかの支障が起こり、正常な記憶力や判断力を低下させてしまう進行性の症状です。現在の医学では根治治療ができず、内服薬により進行を抑えたり、精神を安定させるなどの一時的な対処療法が中心です。

65歳以上の認知症の割合は、4~5人に1人と言われています。超高齢社会の日本では、高齢者は年々増加しており、2042年にはピークを迎えると言われています。高齢になると、認知症を発症する可能性が高くなるため、高齢者数に比例して認知症患者数も増加することが考えられます。また、少子化も影響しており、介護の担い手が不足すると予想されています。

【認知症の種類】

認知症の種類には複数ありますが、現在は、アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭葉変性症の方が多く、4大認知症と呼ばれています。

認知症の種類
特徴
割合
アルツハイマー型認知症
最近の出来事が覚えられない
判断力の低下
認知症を認めないことが多い
女性に多い傾向
67.6%
血管性認知症

記憶障害にムラがある(まだら認知)
感情のコントロールができな
男性に多い傾向
19.5%
レビー小体型認知症
幻視・幻覚がある
手や足が震える(振戦)
すくみ足などのパーキンソン症状
男性に多い傾向
4.3%
前頭側頭葉変性症
感情が抑えられない
言葉の意味を理解できない
同じ行為を繰り返す(常同行動)

1%

出典:厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について(令和元年6月20日)」

その他にも、アルコール性認知症や薬物性認知症、若い段階で認知症症状が現れる若年性認知症もあります。

男女別に見ると認知症の方は女性が多い傾向ですが、65歳未満で比較すると男性の発症が多いという特徴があります。

【アルツハイマー型認知症】

アルツハイマー型認知症は、最も認知度の高い認知症です。ゆっくり進行していくため、初期症状では単なる物忘れ程度にしか認識できず、発見が遅くなる傾向にあります。対応によっては、穏やかに過ごす方もいます。対応方法としては、見当識障害や認知機能低下による日常生活における支障をサポートしていく体制が必要です。

【血管性認知症】

脳血管性障害から発症する認知症で、他の病気を起因とする認知症です。もの忘れや理解力の低下などの症状から、日常生活に支障が出ます。急激な進行もあるため注意が必要です。男性に多い傾向で、人により怒りっぽくなります。原因となる病気を治療すると症状の改善が期待できる認知症です。

【レビー小体型認知症】

見えないものが見えたり、聞こえたりする幻視や幻聴が症状としてあります。そのため、周囲の人に理解されにくく、関係性を悪化させてしまう可能性があります。手足の震え・歩き出しの一歩目が出ない・小刻み歩行などのパーキンソン症状が特徴です。

【前頭側頭型認知症】

スムーズに言葉が出てこない、言い間違い、感情が抑えられないなどの症状が現れます。社会的逸脱した行動が特徴で、万引きや子どもに手をあげるなどの行動もあるため注意が必要です。元々の人間性から大きく変化がみられ、人が変わったように感じる場合もあります。

次に「認知症」と「もの忘れ」の違いについて見ていきましょう。

歳を重ねると、年相応のもの忘れが生じる場合があります。しかし、もの忘れと認知症はまったく違います。もの忘れと認知症の違いについては、以下の表で比較してみましょう。


もの忘れ

認知症

原因

加齢による脳の衰え(老化)

脳細胞の萎縮や変形

忘れる内容

出来事(記憶)の一部分を忘れる

出来事(記憶)のすべてを忘れる

時間・場所

認識できている

認識できていない

忘れたことの記憶

ある

ない

待ち合わせの約束をしていた場合、もの忘れだと約束の日や時間を忘れている状態です。しかし、認知症の場合は約束したこと自体を忘れてしまっています。そのため、問いただしても「約束はしていない」と思い込んでおり、水掛け論になってしまうため、注意が必要です。

認知症は初期症状を発見し早期に治療や対応が必要です。認知症の種類により初期症状に違いがありますが、以下のような行動がみられたら、認知症の診断を受けると良いでしょう。

症状

日常で見られる事例

もの忘れ

同じ話を繰り返す

約束を忘れる

ゴミの回収日を守れない

同じものを不必要に何度も買ってくる

鍵や財布をなくす

料理の味付けがおかしくなる

理解力・判断速度の低下

買い物では小銭の計算ができず、常にお札で払う

周囲の会話速度についていけず理解ができない

走ることができないのに、信号が赤になりそうなときに渡ろうとする

集中力・作業能力の低下

テレビドラマの話がわからなくなくなり見なくなる

趣味が続かない

精神的混乱や落ち込み


人付き合いを避ける

やる気がなくなる

怒りっぽい

認知症になると、徐々にできないことが増え、周囲の人と話が合わなくなったり、誤解される場面が出てきます。周囲と合わなくなることで、本人も違和感を覚えるようになり、強い不安や焦り、怒りを感じてしまう場合もあるでしょう。感情が表出するため、うつ病を疑われる場合もあります。

しかし、物忘れとは違い自覚がない状態のため、本人を責めずに寄り添い支える必要があります。自信喪失や精神疾患を併発するケースもあるため、対応方法には注意が必要です。

認知症の症状

中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2つの症状がある

認知症の症状には、中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2つに分けられます。中核症状は、認知症の基本的な症状でほとんどの方に現れます。主な症状としては以下の通りです。

  • 記憶障害

  • 見当識障害

  • 実行機能障害

  • 失認・失行・失語

  • 理解・判断力の低下

【記憶障害】

認知症の代表的な症状とも言えるのが記憶障害です。記憶を断片的に失っていく特徴があり、周囲の方にも混乱を招くことがあります。特に新しい記憶(短期記憶)が覚えらず、昔の思い出(長期記憶)などはハッキリと覚えている傾向があります。

【見当識障害】

見当識障害とは、時間・場所・人物がわからなくなる症状です。まず、時間が分からなくなり、昼夜の区別ができなくなります。同時に季節もわからなくなり、夏に厚着をしたり、冬に薄着で過ごすなどの症状が現れます。

次に場所が分からなくなるため、今いる所が家なのか病院なのかが分からず混乱してしまうこともあるでしょう。後期には、自分の子どもや人が分からなくなる場合もあります。

【実行機能障害】

実行機能障害とは、計画的に行動ができなくなる症状です。日常生活でわかりやすい場面としては、料理が挙げられます。料理をするために、献立を考えてから必要な食材の買い物・下ごしらえ・手順通りに調理・盛り付け・後片付けと工程が多く、計画的な行動が必要です。しかし、実行機能障害により、買い物を忘れる・手順を間違えるなどがみられます。また、同時に2つ以上のことが行えないため、フライパンを焦がしてしまうこともあるでしょう。

【失行・失認・失語】

失行とは、行動を失ってしまう状態です。食事が目の前にあっても、食べ方が分からない場合や、服の着かたが分からず手が止まってしまうことがあります。

失認とは、認識を失ってしまう状態です。食事が目の前にあっても、食事と認識できずに手をつけない場合や、ズボンを服のように着ようとする場合があります。

失語とは、言葉を失ってしまう状態です。完全になくなるケースは少ないですが、「こそあど言葉」が増え、意思疎通が難しくなります。

【理解・判断力の低下】

理解力や判断力が低下してしまうため、危険認知ができない場合や質問に答えられないなどの症状が見られます。

行動・心理症状(BPSD)とは、中核症状に不適切な環境が関与すると現れる症状で、次のようなものがあります。

  • 不安・うつ症状

  • 暴言・暴力

  • 焦燥感(しょうそうかん)

  • 介護拒否

  • 睡眠障害

  • 徘徊

  • 物とられ妄想

  • 弄便(ろうべん)

  • 異食

  • 帰宅願望

  • 幻視・幻聴 など

行動・心理症状(BPSD)は、必ず現れる症状ではなく、環境によってはまったく出ない人もいます。心理状態は、生活環境や接する人に影響するため、接する際には注意が必要です。

認知症の検査

認知症の検査には様々な方法がある

認知症の検査には様々なものがありますが、大きく分けると神経心理学検査と脳画像検査の2つに分かれます。


検査方法

詳細

神経心理学検査

改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

日付や場所など、簡単な質問に対して答えていく方法です。30点満点で評価し20点以下の場合は認知症の疑いがあると判断されます。あくまでも簡易検査のため、点数が低いからといって認知症が確定するわけではありません。

ミニメンタルステート検査(MMSE)

11個の質問で評価する検査方法です。30点満点で評価し21点以下で認知症が疑われます。簡単な質問・字を読む・図形を書くなど、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とは違った検査方法です。

時計描画テスト(CDT)


時計を指示通りに正確に描けるか確認する方法です。認知症の場合は、時計の数字が正確に描けない・針がたくさんあるなどがみられます。

Mini-Cog

即時再生と遅延再生を評価するため、3つの単語を覚えてもらい、思い出したり時計を描いたりする方法です。2分ほどで終わるテストで、ミニメンタルステート検査と同等の妥当性があると言われています。

MoCA(Montreal Cognitive Assessment)

※MoCAは、たくさんの言語で翻訳されています。日本語版はMoCA-J。

10分程で行う個別の面接式検査です。記憶・注意力・復唱・遅延再生・見当識などの様々な認知機能を評価します。改訂長谷川式簡易知能評価スケールやミニメンタルステート検査では判断できないMCI(軽度認知障害)の評価に適しています。

ABC-DS(ABC dementia scale ABC認知症スケール)

日本で開発されたアルツハイマー型認知症の重症度を評価する方法です。患者の介護者に対して質問を行い、患者の日常生活動作(ADL)・行動・心理症状(BPSD)・認知機能などを13個の質問で確認し、9つの区分で評価します。

DASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items 地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)

21個の質問から、認知機能障害と生活機能障害を把握し、認知症の重症度を評価する方法です。21個の質問それぞれに4段階で答え、31点以上で認知症を疑います。

その他

スマートフォンやタブレットを使った検査ツールがあります。タッチパネル式パソコンとの対話方式の「物忘れ相談プログラム」は、セルフチェックでアルツハイマー型認知症を見つけることができるプログラムです。専門的な知識がなくても認知症の状態をチェックできます。

脳画像検査

CT(Computed Tomography)

X線を使った断層撮影です。頭を輪切りにしたような画像を確認できます。頭部外傷や脳出血などを診断可能です。

MRI(Magnetic Resonance Imaging)

電磁気による画像検査で、体の臓器や血管を撮影します。CTと違い、X線は使いません。頭部MRI検査では、脳腫瘍・脳梗塞・脳出血などの有無を調べ、発症時期を推測することも可能です。

SPECT(単一光子放射断層撮影)

少量の放射線物質を含む検査薬を服用し、体内の動きにより臓器の働きや脳の血流量をみる検査です。脳の血流量が低下している場所や状態を分析して、認知症の診断を行います。

VSRAD(ブイエスラド)

MRIの結果を使ってアルツハイマー型認知症の原因である脳の萎縮を調べるソフトです。海馬などの記憶にかかわる部位の萎縮を簡単に低額で調べることができます。頭部の萎縮を4段階で表し、VSRADで萎縮度3を超える場合、アルツハイマー型認知症の可能性が疑われます。

認知症検査は、受ける方が試されていると感じ抵抗するケースが多くあります。検査を行う前には、目的や心配している気持ちを伝え、理解を求めると良いでしょう。

認知症への対応

認知症本人の気持ちを理解することが大切

認知症の症状は人それぞれ違い、対応が困難な場合も多くあります。しかし、認知症を発症して一番困惑しているのは本人です。記憶がなくなる・理解や判断力の低下・見当識障害など様々な症状から不安が大きく、言動や気持ちを自制できなくなることがあります。その中で、家族や周囲の人に理解されていないと感じると、余計に行動・心理症状(BPSD)として現れてしまうため、注意が必要です。

基本的には、気持ちの理解・傾聴・共感を行い、寄り添いながら本人が安心できる対応を心掛けると良いでしょう。対応が困難な場合は、行動・心理症状(BPSD)が現れている場合がほとんどです。行動・心理症状(BPSD)は、不適切な環境にいることで現れるため、本人に合わせて対応を見直す必要があります。

認知症予防

認知症予防を行い症状の進行を抑える

認知症予防を行うことで、症状の進行を緩やかにしたり生活の質(QOL)を保つことができます。アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、生活習慣病(糖尿病・脳血管障害)との関連が強いため、生活習慣を見直し、改善を図ることは認知症予防にもつながります。

具体的には、バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を取り入れると良いでしょう。食事や運動は、本人が無理なく続けることが大切です。負担のない範囲で健康維持に努めましょう。

認知症の相談窓口

各地域にある地域包括支援センターや市区町村の窓口を利用する

認知症の疑いや認知症の対応に困っている場合は、専門機関に相談すると良いでしょう。主な相談は、次のような場所があります。

  • 地域包括支援センター

  • 市区町村の窓口

  • 居宅介護支援事業所

  • 介護施設

  • 医療機関

【地域包括支援センター】

地域包括支援センターとは、住み慣れた地域で暮らし続けるために設置された、介護の相談窓口です。介護支援専門員・社会福祉士・保健士が常駐して、さまざまな相談を受け付けています。要支援の認定を受けている方であれば、地域包括支援センターの介護支援専門員が担当し、介護サービスの支援を行います。各自治体ごとに設置されているため、お近くの地域包括支援センターに相談すると良いでしょう。また、各サービス事業所や相談窓口などと連携を図っているため、適切なサービスの紹介を受けることもできます。

【市区町村の窓口】

市区町村(役所)の窓口では、介護保険課や高齢支援課といった高齢者福祉に関わる相談が可能です。介護の認定を受けていない場合は、市区町村の窓口で要介護(要支援)の認定申請を行うと良いでしょう。申請後、認定調査や要介護度を決める認定審査会が行われ、介護度が確定します。介護度が決まると、居宅介護支援事業所や介護施設を紹介してもらえるため、その後のサービスにつながります。

【居宅介護支援事業所】

居宅介護支援事業所とは、介護支援専門員が在籍する事業です。介護支援専門員は、介護認定の申請代行も行えるため、手続きに不安がある方は相談すると良いでしょう。また、地域の在宅介護サービスを把握しているため、利用者の生活状況などから必要なサービスについて助言をもらうこともできます。

【介護施設】

介護施設には、相談員やケアマネジャーが在籍している(一部の民間施設を除く)ため、施設入所を検討する場合は相談すると良いでしょう。施設入所に必要な手続きや施設での生活について説明を受けることができます。

【医療機関】

現在、認知症の治療方法は確立していませんが、進行を遅らせることや気持ちを安定させる処方薬があります。認知症(物忘れ)外来に受診して、専門医に相談すると良いでしょう。しかし、本人に受診の意思がない場合、強引な受診は家族関係の悪化や行動・心理症状の進行に繋がる可能性があるため、注意が必要です。

認知症は進行性の病気のため、どの機関を利用する場合でも、できる限り早期に対応することが望ましいです。他者に相談できず、抱え込む方も多いですが、一人で解決するには時間・体力・知識など、様々な要素が必要になります。

症状が軽い段階から、適切な治療を受けると認知症の進行を遅らせることもできます。一人で悩まず、ぜひ専門職に相談してみてください。

まとめ

認知症とは、脳の萎縮や変形による記憶力の低下や見当識障害、実行機能障害などの症状が現れます。物忘れとは違い、体験した記憶そのものを失くしてしまうため、周囲の人には理解しにくいものです。

認知症が疑われるときは、専門職や相談窓口を利用して一人で抱え込まないようにすると良いでしょう。一人で抱え込んだ結果、最悪の場合は刑事事件などを招いてしまうケースもあります。認知症の初期症状や特徴を知り、早期発見や治療を行うように心掛けましょう。

今回の記事が、認知症の理解につながれば幸いです。

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