介護難民とは?原因や国の取り組み、2025年問題への対策を解説

「介護難民」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。少子高齢化の進行や介護人材不足などが原因で、必要な介護サービスを受けられない方が増えています。日本で暮らす以上、介護難民の問題は避けては通れません。親御さんやご自身が必要なサービスを受けられるようにするためには、介護難民問題について正しく理解し、できる取り組みを行うことが大切です。この記事では、介護難民問題の現状と、ご自身でできる取り組みについて解説します。


#介護保険施設#施設サービス#介護保険施設
この記事の監修

すぎもと ゆりこ

杉本 悠里子

有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。

介護難民とは

介護難民とは、介護を必要とする方が、必要な介護サービスを受けられない状態のことです。

日本は、65歳以上の老齢人口が総人口の21%超を占める、超高齢社会と言われています。高齢者の数が増加し、介護を必要とする方も増えているなかで、介護施設・介護サービスの供給が追いついていないのが現状です。ご家族が介護を担うのも難しくなっています。このような社会環境の変化から、問題視されているのが介護難民の増加です。

必要な介護サービスを受けられなければ、高齢者が安心かつ安全な暮らしを送ることができなくなります。また、外部の介護サービスを利用できないことから、在宅介護を余儀なくされ、ご家族が介護のために離職せざるを得なくなる可能性もあります。

このように、介護難民は深刻な問題であり、早急に対処することが求められています。

介護難民の現状と2025年問題

介護難民の数は年々増加しており、問題は深刻化しています。特に問題視されているのが、首都圏の介護難民問題です。少々古いデータではありますが、日本創生会議が2015年に発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」では、2025年には全国で約43万人、首都圏では約13万人の介護難民が発生する、とされています。

2025年は、団塊の世代(1947年1月1日から1949年12月31日までに生まれた方)がすべて75歳以上の後期高齢者となるタイミングです。多くの団塊の世代が暮らしている首都圏では、高齢化が特に進行しています。このような問題を「2025年問題」といい、介護難民がさらに増加することが危惧されています。

出典:日本創生会議「東京圏高齢化危機回避戦略」


介護難民が増加している3つの原因

介護難民が年々増加している背景には、日本の人口構造の変化や介護施設の労働環境、家族のあり方の変化など、さまざまな要因があります。

ここでは、介護難民が増加している主な原因を3つご紹介します。

  • 要介護・要支援認定者数の増加

  • 介護施設・介護人材の不足

  • 家族介護が難しくなっている

要介護・要支援認定者数の増加

日本では高齢化が進んでおり、それに伴って要介護・要支援認定を受ける方も増加しています。実際、内閣府と厚生労働省のデータによると、要介護・要支援認定を受けている方の数は、2000年4月末には218万人であったものの、2022年6月末時点では686.6万人となっています。

出典:厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)令和3年6月分」

           内閣府「要介護度別認定者数の推移」

このように、22年間で約450万人以上増加していることがわかります。

介護施設・介護人材の不足

介護が必要な方が増加することにより、その分介護施設や介護サービスの需要も増加します。しかし、介護施設の供給が追いついていないのが現状です。介護施設が不足すれば、施設に入居したくてもできない方が増え、結果的に介護難民が発生しています。今後ますます高齢化が進むと、介護施設不足はさらに顕著な問題となることが予想されています。

介護施設不足は、単に施設を増やせば解決する、というわけではありません。介護施設で働く介護人材も不足しています。介護の仕事は、精神的・肉体的に過酷な場面が多く、給与レベルも高くないのが実態です。このような理由から、必要な人材を確保できていない介護現場も多く、介護難民を引き起こす原因となっています。

家族介護が難しくなっている

家族形態の変化も、介護難民の原因の1つです。昔は、親、子、孫の3世代が同じ家に暮らすことが一般的でした。そのため、親御さんの介護をお子さんたちで協力しあえる体制が整っていました。

しかし、現在では核家族化が進み、親御さんと離れて暮らしている方が増えています。さらに、夫婦共働きも一般的になっており、親御さんの介護が難しくなってきています。

このような家族形態の変化から、家族介護が難しくなり、介護施設も不足しているため、介護難民になってしまう方が増えています。


介護難民解消のための国の取り組み

介護難民問題の解消に向けて、国は様々な取り組みを行っています。

  • 介護施設や介護職員の増加サポート

  • 介護施設における外国人介護職員や介護ロボットの導入

  • 首都圏から地方への移住サポート

以下では、国が取り組んでいる施策について解説します。

介護施設や介護職員の増加サポート

介護難民問題を解決するためには、介護施設や介護職員の増加が必須です。厚生労働省は、介護現場で働く介護職員の方の処遇改善を図るため、「介護職員処遇改善加算」を設けています。

介護職員処遇改善加算とは、区分ごとに設定された要件を満たした介護事業所で働く介護職員の方の賃金改善を行うための加算です。職場環境を改善したり、介護職員がキャリアアップできる仕組みを整えたりした施設や事業所に対して、介護職員処遇改善手当を支給します。介護職員処遇改善手当を職員に支給することによって、介護職員の給与アップにつながる、という仕組みです。

介護職員処遇改善加算を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。

<キャリアアップ要件>

  • 職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること

  • 資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること

  • 経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること

<職場環境等要件>

  • 賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)の取り組みを実施すること

介護職員処遇改善加算には、3つの区分が設けられています。区分ごとに、満たすべき要件と支給額が定められています。

区分
要件
支給額

処遇改善加算Ⅰ

キャリアパス要件の3つすべてと、職場環境等要件を満たす

月額3.7万円相当

処遇改善加算Ⅱ

キャリアパス要件の1と2、職場環境等要件を満たす

月額2.7万円相当

処遇改善加算Ⅲ

キャリアパス要件の1あるいは2、職場環境等要件を満たす

月額1.5万円相当

出典:厚生労働省「介護職員の処遇改善」

ほかにも、介護職員等特定処遇改善加算や介護職員等ベースアップ等支援加算など、処遇改善に向けた取り組みを積極的に進めています。

介護施設における外国人介護職員や介護ロボットの導入

介護人材の不足を受けて、国は2017年9月から介護福祉士の資格を在留資格とし、就労ビザとして正式に認定しました。同時に、介護福祉士の資格取得を目指す外国人労働者を支援し、外国人介護職員が働ける環境づくりを推進しています。

また、介護現場での生産性向上を目指して、介護ロボットの導入も進めています。介護ロボットとは、介護が必要な方を補助し、介護する方の負担を軽減できるロボット機器のことです。介護現場の人手不足問題を解決する手段として、大いに期待されています。今後、介護ロボットの実用化や普及が進むよう、補助金制度や開発・普及を支援する事業といった積極的な取り組みが求められています。

参考:特定技能「介護」の外国人は夜勤ができる? |Divership(株式会社JJS)

首都圏から地方への移住サポート

介護難民の問題は、全国一律で発生しているわけではありません。前述のとおり、介護難民は特に都心部に集中しており、地方では介護施設の数に余裕がある場合があります。

このような現状から、国や自治体が中心となり、都心部から高齢者が希望する地域に移住するサポートや、移住先で自立した生活が送れるようサポートする体制づくりに取り組んでいます。

自治体のなかには、様々なサポートや特典を用意して、都心部からの移住者を積極的に受け入れているところもあります。自治体にとっては、都心部からの移住を受け入れることにより、地域活性化につながるというメリットがあります。


介護難民を防ぐための4つの対策

親御さんやご自身が介護サービスを受けられなくなってしまう事態を避けるためには、ご自身でできる対策を行うことが大切です。

以下では、介護難民を防ぐためにできることを4つご紹介します。

  • 生活習慣を改善する

  • 老後資金を確保する

  • 介護に関する情報収集を行う

  • ご家族と介護について話し合う

生活習慣を改善する

介護難民にならないための1番の近道は、要介護状態にならないよう、普段の生活習慣を見直すことです。要介護になる主な原因としては、脳卒中や認知症、骨折転倒などがあります。特に脳卒中は、高血圧や脂質異常症、糖尿病や肥満などが原因で起こる動脈硬化によって引き起こされるケースが多いです。そのため、飲酒や喫煙、食生活などを見直し、生活習慣を改善していくことが求められます。

また、日頃から積極的に歩いたり、ジムに通ったりして、適度な運動習慣をつけることも大切です。運動はストレスの解消にもつながります。

このように、生活習慣を改善し、健康寿命を伸ばせるようにしましょう。

老後資金を確保する

介護サービスや介護施設にかけられる資金が足りないと、その分選択肢も狭くなってしまいます。必要なサービスを受けられるよう、老後資金を十分に確保することが必要です。

特に介護施設に入居する場合、初期費用としてまとまった金額が必要になったり、月額費用として毎月数十万円ほどかかったりします。特別養護老人ホームのように費用が安い施設もありますが、その分人気が高く入居待ちが発生している場合が多いです。

将来の選択肢を広げるため、早いうちから必要な介護サービスを受けるための十分な資金を確保しておきましょう。

介護に関する情報収集を行う

介護に関する情報収集は、早く始めて損はありません。親御さんやご自身の介護が必要になる前から、積極的に情報を収集しましょう。あらかじめ情報を集めておけば、将来的に必要になる費用を計算して準備できたり、介護が必要になった時にすぐに然るべき対策を講じられたりします。介護施設の目星をつけておけば、入居手続きもスムーズに行えるでしょう。

ご家族と介護について話し合う

ご家族と介護について話し合っておくことも大切です。事前に話し合い、介護が必要になった際はどのようなサービスを受けるか、家族のうち誰が中心となってサポートするか、費用はどうするかなど、具体的に決めておきましょう。

健康なうちに話し合っておくことにより、ご本人とご家族の意志を尊重した、納得のいく意思決定を行えます。


介護施設の入居待ちを回避する方法

介護施設に入居したい場合でも、入居待ちで入れないというケースもあります。特に特別養護老人ホームは、公的施設で費用が安いため、入居希望者が多く、申し込んでから入居できるまで2〜3年かかることもあります。

入居待ちを回避するためには、以下のような方法を検討してみてください。

  • 系列の病院に通院する

  • 新設の介護施設に申し込む

  • 民間の介護施設を利用する

系列の病院に通院する

特別養護老人ホームは、病院や社会福祉法人が運営していることが多いです。在宅介護を受けながら特別養護老人ホームを運営している病院に通院することにより、病院から施設に情報が共有されます。病院からの情報を考慮して入居審査が行われたり、施設の空き情報をすぐに入手できたりすることがあります。特別養護老人ホームへの入居を希望している方にとって、大きなメリットです。

新設の介護施設に申し込む

新設される介護施設は、オープンに合わせて入居者を募集します。そのため、応募がしやすかったり、入居審査に通りやすかったりするケースが多いです。

今後新設される施設に関する情報は、役所などで入手できます。入居できる施設が見つからず困っている方は、定期的に情報を収集することがおすすめです。

民間の介護施設を利用する

特別養護老人ホームをはじめとする公的施設は、費用が安いことが多く、入居待機者が多い傾向にあります。

一方、民間の介護施設の場合は、審査に通ればすぐに入居できる場合が多いです。独自のサービスで充実した生活を送れる施設や、費用が安いところなど、様々な施設が存在します。在宅介護ではなく介護施設への入居を希望する方は、民間の介護施設も選択肢に含めてみてはいかがでしょうか。


まとめ

今回は、介護難民問題と対策について解説しました。介護難民問題は深刻化しており、特に2025年には多くの方が必要な介護サービスを受けられなくなることが予想されています。国は様々な対策を講じていますが、ご自身で介護難民の予防に向けた取り組みを行うことが大切です。特に、早いうちから介護に関する情報収集を行うことが求められます。この記事をきっかけに、ご家族で介護について話し合ってみていただければ幸いです。

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