介護リフォームとは?補助金の対象や内容、リフォームのポイントを解説
「両親を介護施設ではなく自宅で介護したい」と考えているご家族にとって、介護リフォームは有効な選択肢の1つです。介護リフォームにより、ご本人にとって生活しやすく、ご家族にとっても介護しやすい環境を整えることができます。
しかし、介護リフォームにあたって費用がかかることを懸念されている方は多いと思います。実は、特定の条件を満たすことで補助金や税制控除を受けることができます。この記事では、介護リフォームの費用負担を減らす補助金や税制控除、さらに介護リフォームを成功させるポイントなどを解説します。
介護リフォームとは
介護リフォームとは、バリアフリーリフォームとも呼ばれ、手すりの設置や段差の解消など自宅のバリアフリー化を進めることです。介護リフォームによって、高齢者の方が生活しやすく、またご家族にとって介護しやすい自宅に改修することができます。
介護リフォームのメリット
介護リフォームの最大のメリットは、家庭内事故を防ぐことができる点です。高齢になると、筋力や認知能力・視力が低下し、わずかな段差での転倒や階段から転落するリスクが高まります。高齢者の転倒・転落は、骨折や頭部外傷などの重大な障害につながるリスクがあり、転倒や転落が原因で要介護状態になることもあります。
高齢者の転倒事故の多くは住宅内で発生しています。そのため、住宅のバリアフリー化を進め、家庭内事故を防ぐことが重要です。
介護リフォームの補助金制度「高齢者住宅改修費用助成制度」
介護保険制度を利用することで、対象となる介護リフォームに対して補助金が支給されます。ここでは、介護リフォームを行う上で理解しておきたい、「高齢者住宅改修費用助成制度」について解説します。
介護保険制度には「居宅介護(介護予防)住宅改修費」という項目があり、被保険者が申請することで、特定の条件を満たす介護リフォームについて補助金が支給されます。介護リフォームにかかった費用の最大で9割を受給することができます。
対象
介護リフォームに補助金が支給されるには、以下の条件を全て満たしている必要があります。
利用者が介護保険の被保険者で、要介護認定で要支援・要介護の認定を受けている
改修を行う住宅が利用者の介護保険被保険者証の住所と同一で、かつその住宅に実際に利用者が住んでいる
利用者が入院や介護施設等への入居などで自宅を離れていない
利用者が過去に上限額までの支給を受けていない
支給金額・自己負担
補助金の対象となるのは、被保険者1人につき改修費用20万円までの工事です。自己負担額は原則1割です。なお、この「住宅改修費」は、他の介護保険サービスの限度額には含まれません。
また、改修費用が20万円を超える工事については、自己負担額が1割の場合は18万円が支給され、2万円+20万円を超えた金額が自己負担となります。例えば、改修費用25万円の工事を行った場合は、18万円が支給され7万円(2万円+5万円)が自己負担となります。
補助金の支給回数
補助金の支給回数は、原則被保険者1人につき1回です。しかし、例外として複数回利用できる場合が3つあります。
分割利用:1回のリフォームで20万円利用しなかった場合、差額分を次回の工事に利用することができます。
被保険者が転居した場合:引っ越しで住宅が変わった場合は、再度支給を受けることができます。
要介護度が3段階以上上がった場合:要介護1→要介護4のように、要介護度が3段階以上重くなった場合は再度支給を受けることができます。
また、各地方自治体が介護リフォームに対して、独自の補助金を設けている場合もあります。詳しくは、お住まいの地方自治体の窓口に問い合わせてみてください。
補助金支給までの流れ
補助金の受給にあたって、以下の手順を踏む必要があります。
ケアプランの作成
リフォーム業者に見積書の作成を依頼・契約
市区町村に申請書類を提出
リフォームの実施・支払い
市区町村に再び申請
補助金の受け取り
ケアプランの作成
ケアプランとは、介護サービスの利用計画書のことです。ケアプランを市区町村に提出することで、介護保険サービスを利用することができます。ケアプランは、通常は介護の専門家であるケアマネージャーがご本人・ご家族と相談のうえ作成します。介護リフォームについても、ケアマネージャーからアドバイスをもらいながらケアプランの中で内容を決めていきます。
2.リフォーム業者に見積書の作成を依頼・契約
リフォーム業者はケアマネージャーが紹介してくれます。業者が見つかったら、見積書の作成を依頼し、工事の内容や場所を確認してもらいます。問題がなければ契約します。
市区町村に申請書類を提出
補助金を受けるためには、事前申請が必要です。事前申請では、以下のような書類が必要になります。
介護保険被保険者証
住宅改修費支給申請書
住宅改修内容を記載した書類
改修場所や費用見積を記入した申請書
改修前の状況が確認できる写真など
ケアマネジャーの作成した住宅改修理由書
工事費見積書や工事図面
リフォームの実施・支払い
リフォーム工事が実施され、問題なければ費用を支払います。この時、自治体が「償還払い制度」を利用しているか「受領委任払い制度」を利用しているかで、支払う金額が異なります。
償還払い制度とは、利用者が全額を施行業者に支払った後、自治体から補助金が支給される制度です。介護保険における補助金支給方法においては、一般的な方式です。
一方、全額の準備が難しい場合は、自治体に申請することで、受領委任払い制度に変更できる場合があります。受領委任払い制度は、介護保険の自己負担額分だけを業者に支払い、残りは自治体が直接業者に支払う方式です。利用できない自治体もあるので、注意が必要です。
市区町村に再び申請
工事終了後、再び市区町村に申請が必要です。その際には以下のような書類が必要です。
領収書や工事費内訳書
リフォームを行ったことがわかる改修後の写真など
補助金の受け取り
市区町村が申請書類を受理した後、「住宅改修費」として補助金が支給されます。
補助金の対象となる介護リフォームの内容
介護保険制度における補助金の対象となる工事内容は、以下の6つに限定されています。あらゆるリフォーム工事が対象となるわけではない点に、注意が必要です。
手すりの取り付け
段差の解消(スロープの設置・床のかさ上げ)
転倒を防ぐ床への変更
開閉しやすいドアへの交換
洋式トイレへの交換
上記に対する付随の改修工事
手すりの取り付け
階段や廊下、トイレや浴室などに手すりを取り付ける工事です。歩行のサポートや転倒の防止につながります。手すりの形状や素材に指定はないため、ご本人が使いやすい長さ・素材のものを設置することが大切です。
なお、家具を手すり付きのものに買い換えることは対象外なので注意が必要です。
段差の解消(スロープの設置・床のかさ上げ)
段差を解消することで、転倒防止や移動のサポートを行う工事です。スロープを設置したり、床をかさ上げすることで家の段差を解消します。なお、階段用のリフトなどの設置は対象外なので注意が必要です。
転倒を防ぐ床への変更
高齢者の家庭内事故で多い転倒を防ぐため、床を滑りにくいものへ張り替えたり、滑りにくい加工を施す工事です。また、畳をフローリングに張り替えて車いすを利用しやすくしたり、車いすによる傷がつきにくい素材に張り替える工事も対象となります。
開閉しやすいドアへの交換
握力が弱まりドアノブを回しにくい方や、車いすを利用している方にとって開けやすいドアに交換する工事です。弱い力でも回すことができるドアノブへの変更や、車いすの移動がしやすい引き戸、軽い力で開閉できるドアに変更する工事などが対象です。また、ドアの撤去も対象となります。
洋式トイレへの交換
足腰に負担がかかる和式トイレから、洋式トイレに交換する工事です。また、もともと洋式トイレを使用している場合でも、高齢者が使いやすい高さや向きに変更する工事も対象となります。なお、単に高機能なものに変えるだけでは介護リフォームとみなされない場合があるので注意が必要です。
上記に対する付随の改修工事
トイレを交換する際の下地の補強・配管の交換や、浴室の床のかさ上げの際に必要な給排水設備工事など、上記の工事に付随する改修工事についても対象となります。
介護リフォームは減税対象になる
介護リフォームは、補助金だけでなく所得税や固定資産税などの減額対象にもなります。これらの優遇措置を活用することで、結果的にリフォーム費用を抑えることができます。税額控除には、以下のようなものがあります。
所得税の控除
固定資産税の減税措置
贈与税の非課税措置
ここでは、所得税の控除である「バリアフリーリフォーム減税」について解説します。
バリアフリーリフォーム減税とは
バリアフリーリフォーム減税とは、一定の要件を満たす介護リフォームを行った場合、その年度の確定申告で必要な手続きを行うことで、所得税から一定額が減税され、還付金を受け取ることができる制度です。
控除率や控除期間は、住宅ローンを利用するか、工事費用を自己資金で賄うかで変わります。また、住宅ローンを利用する場合の減税を「ローン型減税」、ローンの利用有無にかかわらず利用できる減税を「投資型減税」と呼びます。
ローン型減税の場合の控除率・控除対象限度額・控除期間
控除率 | バリアフリーリフォーム工事費用の2%(①)+バリアフリーリフォーム以外の工事費用の年末ローン残高の1%(②) |
控除対象限度額 | ①250万円 ①+②1,000万円 |
控除期間 | 改修後、居住を開始した年から5年間 |
出典:国税庁「No.1218 借入金を利用してバリアフリー改修工事をした場合(特定増改築等住宅借入金等特別控除)」
投資型減税の場合の控除率・控除対象限度額・控除期間
控除率 | 国が定めているバリアフリー改修工事の標準的な費用相当額の10% |
控除対象限度額 | 200万円 |
控除期間 | 改修後、居住を開始した1年間分 |
出典:国税庁「No.1220 バリアフリー改修工事をした場合(住宅特定改修特別税額控除)」
バリアフリーリフォーム減税の対象
対象となる工事は、投資型/ローン型共通で以下の通りです。
通路の拡幅
階段の勾配の緩和
浴室の改良
トイレの改良
手すりの取り付け
段差の解消
開閉しやすいドアへの交換
転倒を防ぐ床への変更
また、対象者は、投資型/ローン型共通で以下のいずれかに該当する方に限られます。
50歳以上の方
要介護または要支援の認定を受けている方
障害者の方
対象期間は、令和3年12月31日までに居住開始していることです。そのほか、投資型/ローン型それぞれに対して工事費用に関する要件が定められています。詳細は以下をご覧ください。
介護リフォームを成功させるポイント
介護リフォームを成功させるためには、以下のポイントを理解することが大切です。
利用者に必要なリフォームを行う
自立を促すリフォームを行う
介護士やケアマネージャーと相談する
利用者に必要なリフォームを行う
同じ「要介護・要支援」でも、利用者によって身体状況は異なり、必要なリフォームも異なります。例えば、移動がしやすいよう改修する場合でも、自力で歩行できる方なら手すりの設置、車いすを利用している方ならスロープの設置、車いすを押してもらう必要がある方なら廊下の幅を広くするのように、適切な工事の内容は異なります。利用者の身体状況に合わせて、必要なリフォームを行うことが大切です。
自立を促すリフォームを行う
高齢者の安心安全な生活のためには、ご家族や周囲の方が利用者をサポートすることが必要です。一方で、ご本人の自立支援も大切なため、介護リフォームの際は、ある程度の自立を促す計画を立てることが大切です。
介護士やケアマネージャーと相談する
リフォームの際は、ご自身だけでなく介護士やケアマネージャーなどプロの意見を聞くことも大切です。介護保険制度を利用する場合はケアマネージャーへの相談が必要ですが、利用しない場合でも、主治医やケアマネージャーなどの意見を取り入れるべきです。
介護リフォームの際は、ご本人の身体状況や今後考えられる変化を考慮して、慎重に工事の内容を考える必要があります。最適なリフォーム内容を考えるうえでは、ご本人・ご家族だけでは分からないことも多いです。より良いリフォームのためには、介護士やケアマネージャーと相談することが大切です。
まとめ
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有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。