賢い老人ホームの選び方マニュアル 老人ホームの種類や見学のポイント、入居までの流れも解説
高齢者の安心安全な生活を実現するのが老人ホームです。しかし、一口に老人ホームと言ってもたくさんの種類や施設があります。はじめての老人ホーム選びは分からないことが多いと思います。この記事では、老人ホームを選ぶ際に事前に整理するべき条件、入居までの流れや準備、そしてご希望に合った老人ホームの見分け方を解説します。ぜひ老人ホーム選びの参考にしてください。

高齢者向け介護施設の種類と特徴
老人ホームをはじめとする高齢者向け介護施設には、さまざまな種類があります。 介護施設は公的施設と民間施設の大きく2つに分かれ、ここでは、6種類の老人ホームについてそれぞれ解説していきます。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、自治体や社会福祉法人が運営する公的施設です。 介護サービスをメインに提供し、要介護度3以上の方が入居の対象になります。 公的施設なので入居にあたって入居一時金はかからず、月額費用も民間の有料老人ホームに比べると安いのが特徴です。
養護老人ホーム
養護老人ホームは、特別養護老人ホームと同じく公的施設です。自宅で生活することが難しい高齢者の生活・自立支援をメインに行っており、介護を主たる目的としていない点が特徴です。そのため、自立した生活を送れる高齢者が入居対象となります。
軽費老人ホーム(ケアハウス)
軽費老人ホームは、地方公共団体が運営し、名前の通り他の施設に比べて安く利用することができる老人ホームのことです。軽費老人ホームにはA型、B型、C型があり、C型はケアハウスと呼ばれます。自立しているが自宅での生活に不安を感じる高齢者を対象としていますが、ケアハウスの中にも介護サービスを受けられる介護型が存在します。
介護付き有料老人ホーム
「介護付き有料老人ホーム」とは、要介護の方を対象とした民間運営の老人ホームのことです。食事や掃除などの身の回りのことから身体介護、レクリエーションまで、生活を幅広くサポートするサービスを提供しています。都道府県から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、介護サービスの提供基準を満たしている場合のみ「介護付き有料老人ホーム」となります。

関連ガイド
介護付き有料老人ホームとは
住宅型有料老人ホーム
「住宅型有料老人ホーム」は、食事や洗濯などのサービスを提供する高齢者施設のことです。「介護付き有料老人ホームから介護サービスがなくなったもの」と考えると分かりやすいです。介護付き有料老人ホームのようにスタッフが介護サービスを提供することはありません。そのため、介護が必要になった場合は外部の介護事業所(居宅介護支援事業所)と契約をし、訪問介護による介護サービスを受けることとなります。

関連ガイド
住宅型有料老人ホームについて
健康型有料老人ホーム
「健康型有料老人ホーム」とは、生活に関する基本的なことは自分でできるという高齢者に対し、食事や家事などをサポートする老人ホームのことです。あくまでも「サポート」であり、身の回りのことは自立してできることが前提なので、要介護になった場合は退去となります。
老人ホームの5つの入居条件
多くの老人ホームでは、入居する上で以下の5つの条件をクリアする必要があります。
要支援・要介護度
老人ホームの種類によって、入居できる要支援・要介護の基準が異なります。
年齢
介護サービスを受けることが前提の施設の場合、介護保険法に従い「65歳以上」が入居の対象となります。介護を前提としない住宅型有料老人ホームや健康型有料老人ホームでは、「60歳もしくは65歳以上」と定めていることが多いです。 しかし、40歳以上65歳未満で特定の疾病により介護が必要であると認定された場合、入居できるケースもあります。
必要な医療行為
軽費老人ホームは、地方公共団体が運営し、名前の通り他の施設に比べて安く利用することができる老人ホームのことです。軽費老人ホームにはA型、B型、C型があり、C型はケアハウスと呼ばれます。自立しているが自宅での生活に不安を感じる高齢者を対象としていますが、ケアハウスの中にも介護サービスを受けられる介護型が存在します。
胃ろうやカテーテル、痰の吸引など、何らかの医療行為や医療的ケアが必要である場合は、それが施設で受け入れられるかが入居の条件になります。
収入
必要な費用の支払い能力があるかを確かめるため、入居前に収入の確認が行われます。資産を含めた収入や、年金収入額が確認されます。収入の審査が行われることも多いです。 ちなみに、生活保護を受けているから必ず入居できない、ということはありません。公的施設の場合は支援制度もあるので、事前に確認しましょう。
身元保証人
多くの老人ホームが、契約時に身元保証人を必要としています。身元保証人は、費用が払えなくなった際の保証や退去手続きの対応、緊急時の連絡先などの役割を担います。 しかし、何らかの事情で保証人をつけられない方もいらっしゃいます。そのような方は、保証人が不要の老人ホームを探すことが必要です。
老人ホーム入居までの5つの流れ
希望条件の整理
まずは入居者ご自身とご家族で話し合い、希望条件を複数洗い出しましょう。しかし、希望を全て叶えてくれる施設を見つけるのは難しいです。希望条件を出し終わったら、「これは譲れない」「これはあれば嬉しい」など、優先順位をつけていきましょう。 お話し合いの中でいろいろな条件が出てくると思いますが、特に重要な論点は以下の3つです。
立地条件
ご家族が訪問するうえで、立地は重要です。都道府県だけでなく、車で行きやすいか、交通機関を使って行くことはできるかなど、アクセスの部分で検討することも大切です。
資金計画
前述の通り、入居前には審査があるところも多いです。収入に見合わない高額な施設を選んでしまうと、あとで行き詰まってしまいます。無理なく費用を支払い、住み続けられる場所を選ぶ必要があります。
サービス内容
設備や介護など、生活するうえで最低限のサービスが担保されていることが前提です。さらにQOLの高い生活を送るためには、食事の内容や雰囲気、どのようなレクリエーションが用意されているか、などプラスアルファの部分も重要になります。イベントを通じて趣味を継続できる、食事を楽しめるなど、入居者ご自身の趣味嗜好に合ったサービスが提供されるかどうかが重要になります。
条件に合う施設の検索
希望条件に優先順位をつけたら、優先順位の高いもの順に検索をかけていきます。 検索するうえではポータルサイトの利用がおすすめです。
見学
候補を何個かに絞ったら、見学予約をしましょう。施設を訪れ、実際に設備や雰囲気などを確認することで、ホームページやパンフレットだけではわからない生の情報を得ることができます。見学時は、必ず事前に予約をして施設に迷惑をかけないようにするのがマナーです。また、複数施設を見学して比較検討しましょう。
見学時に見るべきポイント
設備の実態
パンフレットでは豪華そうに見えたが、実際に見てみると意外と簡素だった、ということも珍しくありません。見学で設備の実態を確認することが大切です。
スタッフの雰囲気
スタッフの働いている様子を見ることで、サービスの質が分かります。人は足りていそうか、利用者への対応は十分か、などスタッフの雰囲気を確認することは非常に重要です。 また、質問した際の対応や言葉遣いが丁寧かどうかを見ることで、スタッフへの接遇・マナー教育が行き届いているかも確認できます。
アクセス・周辺環境
施設に訪れることで、アクセスや周辺環境も分かります。家族が訪れる際にも不便ではないか、散歩や買い物などがしやすい環境か、静かで落ち着いているかなどもあわせて確認しましょう。

関連ガイド
見学時に見るべきポイント
体験入居
老人ホームの中には、契約の前にお試しで短期間入居することができる体験入居を実施しているところが多くあります。初期費用なしで実際の老人ホームでの生活を体験できるので、重要な判断材料になります。
入居者やスタッフの様子
他の入居者の様子やスタッフの雰囲気、対応などは非常に重要です。特に、体験入居中に他の入居者とコミュニケーションをとることで、その老人ホームに関する生の声を聞くことができます。また、スタッフの雰囲気や対応は、老人ホームでの生活の快適さを大きく左右するポイントです。こちらも併せて確認しましょう。
設備の様子や使い勝手
居室の広さや設備、共用設備などは、実際に使ってみることで使い勝手が分かります。老人ホームにかかる費用の中でも多くを占めるのが設備にかかる費用です。納得して費用を払うためにも、設備の使い勝手はしっかり確認しましょう。
音や匂いなどの生活環境
一定期間施設で過ごすことで、掃除が行き届いているか、隣の居室の音がうるさくないか、嫌な匂いがしないかなど、生活環境も確認できます。生活環境が悪いと、その後の生活における大きなストレス要因になってしまいます。
契約・入居
老人ホームが決まったら、いよいよ契約です。契約の際は、必要なものを準備し、契約内容をしっかり確認することが必要です。
契約時に必要な書類の例
老人ホームによって契約時に必要な書類は変わります。以下は必要書類の例です。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 印鑑、印鑑証明
- 所得証明書
- 健康診断書
- 介護保険被保険者証
- 診療情報提供書
書類の中には、すぐに入手できないものもあります。特に、診療情報提供書・健康診断書は取得までに2週間以上かかることもあります。余裕をもって準備することが大切です。
重要事項説明とは
重要事項説明とは、契約にあたって大切な事項を消費者に説明することです。重要事項説明書には、契約の中でも特に重要なポイントが書かれています。入居後にトラブルにならないよう、しっかり確認しましょう。重要事項説明では、特に以下の3つのポイントを確認する必要があります。
- ①入居一時金の償却期間と償却率
老人ホームの中には、契約時に入居一時金を支払う必要がある施設があります。入居一時金は、「想定入居期間分の家賃の前払い」という位置付けの費用のことで、指定の居住期間より前に退去した場合、残りの入居期間分の金額が返還されるという仕組みになっています。 この想定入居期間は施設によって異なるので、契約時に確認しましょう。 また、入居一時金の償却でもう1つ重要なのが「初期償却」です。初期償却とは、入居一時金から引かれる一定額のことで、退去時に返還されない額のことです。初期償却は、入居金の10%〜30%と定めているところが多いですが、こちらも施設によって割合が変わるため、契約時に確認する必要があります。 - ②上乗せ介護費の有無
上乗せ介護費とは、人員配置基準よりも多く看護・介護職員を配置している場合に徴収できる費用のことです。上乗せ介護費の有無は施設によって異なるので、契約時にしっかりと確認することが必要です。 - ③クーリングオフ(短期解約特例)に関する記載
入居一時金が必要となる有料老人ホームについては、90日以内に解約した場合、一時金の返還義務があります。法律で義務付けられているとはいえ、短期解約特例についてきちんと契約書に書かれているかを確認しましょう。
良い老人ホームの見分け方
老人ホームの中には、豪華な設備や手厚いサービスが自慢の高級老人ホームもあります。 もちろん設備やサービスが充実していることに越したことはないですが、高級老人ホームが必ずしも良い老人ホームとは言えません。ここでは、費用面以外での良い老人ホームの見分け方をご説明します。
施設長をはじめとしたスタッフの雰囲気・対応が良い
他の入居者の様子も重要な判断基準です。楽しそうな表情をしているか、安心して暮らせているか、スタッフと円滑なコミュニケーションがとれているかなど、老人ホーム全体の雰囲気は入居者の様子から感じ取ることができます。このポイントは特にパンフレットやホームページでは分からない部分なので、見学や体験入居の際に注目してみてください。
食事の内容が充実している
食事は生活の楽しみの1つです。老人ホームでは栄養士が食事の内容を管理していますが、栄養バランスだけでなく味や見た目も重要です。冷めた料理を提供していないか、食器・盛り付けなどが工夫されているか、食事に関する説明は十分かなどを確認することが大切です。 また、食事の内容だけでなく、食事を味わう食堂の環境も重要になります。清掃が行き届いているか、利用者が楽しそうに食事をしているか、なども見分けるポイントです。
医療体制が充実している
医療機関との連携
老人ホームは、医療機関と連携をとることで訪問診療や緊急時の対応に備えられるようにしています。特に緊急時の対応は重要です。どのような医療機関と連携しているか、見学時に確認しておきましょう。
リハビリ体制の充実
老人ホームの中には、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などがリハビリを行ってくれるところもあります。これらの専門家を常駐させ、リハビリ体制を強化している施設は安心して利用できます。また、食事や入浴、トイレなどの日常生活が自立して行えるよう訓練することで、寝たきりの予防や生活能力の維持を図るところもあります。こうした生活リハビリを支援してくれる施設を選ぶこともおすすめです。
レクリエーションが充実している
有料老人ホームの中には、レクリエーションに力を入れているところもあります。レクリエーションが豊富なところなら、趣味を見つけたり他の入居者と活発にコミュニケーションを取ったりしやすいです。 レクリエーションの充実度合いは、認知症予防の面でも大事にしたいポイントです。
まとめ
今回は老人ホームの選び方について、施設の種類や入居までの流れ、希望に合った老人ホームの見分け方をご紹介しました。施設によって特徴はさまざまです。早めに老人ホーム探しをスタートさせ、じっくり検討することが大切です。最適な施設を見つけることができれば、その後の生活は豊かで安心安全なものになります。この記事が、納得のいく老人ホーム探しのお役に立てれば幸いです。
有料老人ホームで介護士として約12年勤務した後、社会福祉士を取得。急性期病院の医療ソーシャルワーカーとして、入退院支援に携わる。現在は、スマートシニア入居相談室の主任相談員として、多数のご相談に応じている。