認知症に効果的な回想法とは?コミュニケーションを通して記憶をとり戻すケアの実践方法を紹介

「認知症の対応に効果的な回想法って何?」「自宅でも実践できる?」認知症の症状がある家族の対応にお困りではありませんか?

認知症の方とのコミュニケーションに悩むご家族は多いです。コミュニケーションが上手くとれないことで、介護者のストレスや虐待につながることもあります。

また、本人も寝たきりの状態や精神疾患になることも少なくありません。

今回は、認知症の方とのコミュニケーションに使える「回想法」について紹介します。回想法を知ることで、お互いのストレス軽減や円滑なコミュニケ―ションを図るきっかけになるため、ぜひ参考にしてみてください。

#認知症#病気
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

 認知症改善に効果的な回想法とは

アメリカで生まれた認知症へのアプローチ方法

回想法とは、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラー氏が提唱した心理療法のひとつです。それまで、認知症の方や高齢者が同じ話をしたり、昔の話を今起きた事のように話す事象を、「過去への独り言」「現実からの逃避」など、否定的に捉えられていました。しかし、バトラー氏は「高齢者の回想は、死が近づいてくることにより自然に起こる心理的過程」「過去にあった未解決の課題を再度とらえ直すことにも導く、積極的な役割がある」と説いています。

人は人生を振り返り、思い出しながら他者と語り合うことで、自然に表情が和らぐ生き物です。一人ひとり経験やエピソードなどに違いはありますが、苦労したこと・嬉しかったこと・辛かったことなどを話しながら、他者と共感・共有して仲間意識が芽生えます。また、仲間がいることで、不安や孤独感が軽減され精神的な安定が期待できるでしょう。自身を振り返り、過ごしてきた人生を見直すことで「過去の自分」「今の自分」「これからの自分」を受け入れやすくなります。

回想法とは、懐かしい写真や音楽、使っていた家庭用品などを使い、過去の体験を思い出しながら話をします。昔の記憶を辿ることは脳の活性化にとても有効です。この療法は、薬などを使用せず過去に触れることで、精神的な安心感や他者とのコミュニケーションを図り、自信を取り戻すなどの効果が期待できます。

認知症の方は、「すべてを忘れる」と思われがちですが、昔の記憶について覚えている人は多いです。自分では思い出せなくても、昔の写真や歌、物などに触れることで精神的に良い刺激となり、過去を思い出すきっかけになります。また、記憶が鮮明に思い出されることで、自分の人生を振り返り、見直す機会が生まれ、存在意義を再確認することが可能です。

ライフレビューとの違い

回想法はひとつのアプローチ法であり、類似したアプローチ法に「ライフレビュー」があります。ライフレビューとは、高齢者が自身の人生を振り返り、出来事を整理して評価することです。何気なく過ごしてきた人生に意味・価値を見出すことで、自分らしさを再認識して、前向きに最期を迎えられると考えられています。

ライフレビューには、過去から現在までの過程を重要としていますが、回想法では、必ずしも必要としていない点が異なるポイントです。

回想法の種類

回想法には、2種類あり本人の性質や環境に応じて、適性を考える必要があります。まず、1つ目は「個人回想法」です。一人ひとりの個別性を大切にし、個人の人生に焦点をおいて向き合っていきます。大勢の前ではなかなか話せない・一人暮らしの高齢者に有効な方法です。1対1で行っていくため、聞き手側は会話力(傾聴力)が重要になります。

2つ目はグループ回想法です。基本的には10人程度(介助者含める)のメンバーで行います。グループで行うことにより、悩みや気持ちを共有しやすい点がメリットです。そのため、グループ間の相互関係が深まり仲間意識が芽生えることが期待できます。しかし、相性が悪いメンバーだと、他者の否定的な反応などで自尊心を傷つけてしまうこともあるため、注意が必要です。また、全員が楽しく話せる共通の話題を準備しておかなくてはいけません。不穏なワードが出た際には、進行役が全体の軌道修正をして、サポートにつく人は個人のフォローを行ないましょう。

回想法で期待できる効果

多様な心理効果が期待できる

回想法で得られる効果は以下のようなものがあります。

  • 心が落ち着く

  • 人間関係の改善

  • 認知症の進行を穏やかにする

  • 昔と今と未来をつなぐ

  • 自信と希望を取り戻す

  • 会話を促す

それぞれの理由を見ていきましょう。

心が落ち着く

昔の思い出を話すことで記憶が鮮明になり、自分自身を見つめ直すことができます。認知症になると、様々なことに不安や混乱を招きやすいため、心が落ち着き、精神的に安定することはとても重要です。

人間関係の改善

コミュニケーションが円滑になると、お互いのストレスも軽減され、関係性の構築が可能です。また、グループ回想法では、他者の過去を聞き共感・共有できるため、仲間意識や交流を深めることができます。

認知症の進行を穏やかにする

過去を思い出し話すことは、脳の活性化につながるため、認知機能の進行・予防・抑制が期待できます。

昔と今と未来をつなぐ

過去を思い出し記憶を辿ることで、時系列に物事を整理することができ、自身の人生がどんな人生だったのかを認識できます。そのため、精神的な安定や不安の軽減が期待できます。

自信と希望を取り戻す

他者に自身の話を共有することで、自己肯定感が高まり、ポジティブに物事を捉えることができます。

会話を促す

認知症で、自発的な発語が少なくなってきた人も、役割を与えられることで、会話する機会が増えます。そのことをきっかけに、他者に話しかけることが期待でき、生活の質(QOL)の向上や今の気持ちを伝えることができます。

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認知症の人と回想法を実践する方法と注意点

役割を決めて話しやすい雰囲気を演出する

基本的に、1グループ10人以下のグループを作ります。グループの中に、回想法を実践するリーダー(進行役)・サブ(サポート役)を決めておきましょう。リーダーの役割は、進行中に全員が楽しく話せる話題の提供を行ない、全体の流れを統括します。サブは、話が逸れた際のフォローや、個別のサポートを担います。基本姿勢は傾聴です。また、補助役としてあと1〜2名参加できるとさらに進行しやすくなるでしょう。

1クール、8〜10回(個人療法では4〜8回)ほど、時間は60分以内で行います。テーマに沿って順番に過去の話を共有していきます。実施者は、話しやすい雰囲気を作ることが重要です。

参加メンバーの変更は行わず、毎週1回・月1回など定期的に開催します。できるだけ、同じ曜日・同じ時刻・同じ場所で開催すると、さらに効果的です。開催場所も、リビングや庭など明るくて広い空間で行なうと良いでしょう。また、トイレが近いと安心です。

回想法の実践には、以下の準備が必要です。

  • 研修や勉強会で回想法の理解を深めておく。

  • 参加者(認知症の方)が触れられたくない話題などは下調べをして把握する。

  • 参加者のメンバーは、相性・認知機能・年齢・性別などのバランスを考え選定する。

  • 参加者本人に趣旨を説明し同意を得る。

  • 参加者の当日の気分や体調を確認し、参加を決める。

  • グループ全体の目標や個人の目標を決めておく。

  • 1クール分の回想を促すテーマを準備する。

  • 必要があればテーマに沿った写真や道具などを準備する。

回想法の注意点は以下の通りです。

他の人に話さない

回想法で話す内容は、個人的なことが中心になります。参加したメンバーは、話の内容を外部に漏らさないようにしましょう。開催前に参加者には注意を促し、共有が必要な場合は本人の承諾を得ておきましょう。約束や秘密を共有することも、信頼関係の構築には重要なポイントです。

触れてほしくない話題には触れない

過去の話がすべて楽しい良い思い出とは限りません。同じワードでも、人によってつらい過去で思い出したくないこともあります。(例:戦争や地震など)事前に確認する際も、十分に注意して情報収集しましょう。

話を否定・訂正しない

事実と違う話になっていたり、前回と話の内容が違っていたりしても、否定や修正はしません。傾聴の姿勢を続け、最後まで話を聞きましょう。正しく伝えることよりも、話を遮らず本人のペースで話してもらうことが重要です。

最後はポジティブな話題に

最後は楽しく希望がある話題で終わり、その後の日常生活が明るい気分のまま過ごせるようにします。次回も参加したいと思えるような雰囲気を演出しましょう。

自宅で認知症家族の回想法をする方法

自宅では特に否定しないように注意が必要

自宅で行う場合は、何気ない会話から自由に話をしていく方法と、あらかじめ決められたテーマに対して面談形式で話をしていくやり方があります。どちらの方法でも、本人が集中して回想できることが重要です。

テレビがついている場合や、なにかの作業途中では気が散って会話が進まず、脱線してしまいます。周りに物がたくさんある状態も気が散るため、できる限り、集中しやすい雰囲気を作って取り組みましょう。

また、家族は本人に対して身近な存在で、さまざまな出来事を共にしていることが多いため、事実と違う話が出てくると、指摘や訂正をしてしまうことがあります。しかし、回想法の時は話を否定(指摘・修正)しないで、本人の話を聞くことに意識を向けましょう。回想法は、本人が話す内容に間違いがあったとしても問題ではありません。話を否定されてしまうと、心を閉ざして状態が悪化してしまいます。

回想法以外の認知症に効果的な非薬物療法

薬を使用しない療法はたくさんある

認知症の療法には、回想法の他にも効果的な非薬物療法があります。本人の好きなことや興味があることだと負担が少なく、楽しく継続して取り組むことができるでしょう。活動が増えると、昼間の覚醒時間が増え、生活リズムの改善が図れます。また、本人の自信がつくことで、不安定な感情や行動が減り、気持ちも安定して過ごせるでしょう。

回想法以外の療法は以下の通りです。

バリデーション療法

認知症の人の「感情」を中心にした対話・コミュニケーション法です。認知症の行動すべてに意味があると捉えて対応します。本人の話を傾聴し共感することで、理解を得られ、平穏に過ごせます。

園芸療法

土や植物などの自然に触れることで、精神面の安定を図ります。また、立ったり座ったりなどの動作が必要となり、運動機能の維持や精神的な安定とストレス軽減が期待できるでしょう。また、植物を育てることで意欲や機能の回復が期待できます。

音楽療法

音楽を聴いたり演奏することで、リラックス効果・脳の活性化・感情表現・昔の出来事がよみがえるなどの効果があります。健康の維持・心身の機能回復・BPSD(行動・心理症状)の改善も期待できます。

ペット(アニマル)セラピー

動物との触れ合いの中で癒し・ストレス軽減・意欲の回復・感情表現などが期待できます。身体機能の回復や精神的安定・生活の質の改善も図ることができます。

その他の療法

その他に、リハビリテーション(理学療法・作業療法)・芸術療法・アロマセラピー・学習療法・レクリエーション療法・タクティールケアなど、様々なアプローチ方法があります。

回想法に関する資格や研修について

回想法をする上で活用できる資格

回想法は、単に「昔話をする」のではありません。コミュニケーションを通した心理的な療法のため、知識やコミュニケ―ションスキルが必要です。ここからは、回想法に関する資格を紹介します。

認知症ライフパートナー

認知症ライフパートナーとは、認知症の人に対して日常生活を「その人らしく暮らしていけるよう」サポートすることを目的とした資格です。認知症の人との円滑なコミュニケーション・サポートするための知識をつける資格のため、介護職員や認知症の人の家族などが取得すると活用の幅が広がります。

認知症ライフパートナー検定試験は以下の通りです。


3級

2級

1級

受験料

6,000円

9,800円

14,000円

試験時間

2時間

2時間

前半後半2時間ずつ

合計4時間

受験資格

なし

なし

認知症ライフパートナー2級合格者

試験方式

マークシート式

マークシート式

前半:マークシート式

後半・記述式

合格基準

100点満点中70点以上

100点満点中70点以上


100点満点中70点以上

※試験の出題先は「認知症ライフパートナー検定試験 公式テキスト」が書店などで購入できます。

パーミングセラピスト

パーミングとは回想療法のひとつの手法として、会話能力が低下している人へ行うコミュニケーション技術です。手浴マッサージのような手技で、身体の緊張をほぐしたり精神的な安定を図ったりすることができます。

また、話しかけながら行うことで脳への刺激にもなります。認知症の人にだけではなく、麻痺症状や精神疾患の人にも効果的です。

学習内容は、開始より6ヶ月間で4つの課題をレポートで提出します。修了すると、内閣総理大臣認証法人日本回想療法学会認定「パーミングセラピスト」資格を取得できます。

受講料

33,000円

心療回想士

心療回想士とは、心療内科医療により生まれた資格です。コミュニケーションスキルを使って、短時間に信頼関係を築くことができ、心理的な環境を改善して、症状の悪化を防ぎ予防できます。

8つの課題とレポートを提出し、修了すると心療回想士(5級)の資格を取得できます。4級以上の資格は学会本部などが主催するセミナーや研修会に参加し、スーパーバイズタイムの累積が必要となります。

心療回想士5級取得にかかる費用は以下の通りです。

入会金

4,000円

授業料

29,000円

年会費

4,000円

合計

47,000円

上記の講座や資格以外にも、民間・各自治体でも回想法講座を開催している所もあります。

参考:NPO法人シルバー総合研究所

まとめ

回想法は、正しく知識をつけることで、何気ない会話の中でも気軽に実践できる療法のひとつです。「認知症になったらわからなくなる」「認知症はすぐに忘れる」「認知症の人は同じ話ばかり」と、判断するのではなく、そこには何かしらの原因があることを知る・理解する・興味を持つことが重要になります。会話の中から、意外な発見があるかもしれません。

ただ昔話をするのではなく、傾聴し話しやすい雰囲気を演出・サポートすることが大切です。継続して行うことで、お互いの関係性の構築や、理解が深まるでしょう。

日常生活に回想法を積極的に取り入れ、認知症の方の気持ちを理解することで、より良い介護につながります。ぜひ、この記事を参考に実践してみてください。

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