認知症に効果的な治療方法とは?薬物療法と非薬物療法の違いについて解説

「薬物療法と非薬物療法の違いってなに?」「非薬物療法にはどんな治療があるの?」このような悩みはありませんか?

認知症の治療には、薬を使った薬物療法と薬を使わない非薬物療法があります。それぞれにメリットやデメリットがあるため、認知症で悩んでいる方は、違いを把握しておくと治療に取り組みやすくなるでしょう。

そこで、今回は「薬物療法」と「非薬物療法」の違いについて解説します。また、日頃からできる認知症予防も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

#認知症#病気
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

認知症の主な治療は2種類

薬を使う方法と使わない治療法

認知症は基本的には進行性の病気で、現在の医学では完全に治すことができません。

認知症には、薬物療法と非薬物療法の2つが主な治療法として考えられています。また、それぞれを組み合わせ、認知機能の改善や認知機能障害の進行抑制を目的に治療が行われています。非薬物療法では、リハビリテーションや心理療法を行うことで、今できている能力や機能を最大限に生かしながら精神的な安定を図る治療方法です。

高齢になると認知症になる確率も高くなります。2020年の統計によると、日本では認知症の高齢者が約600万人、2025年には約700万人(高齢者人口の約20%)が認知症になると言われています。今後の認知症治療や予防は、社会を支えるためにもとても重要です。

薬物療法の内容

認知症に対する治療薬以外でも間接的に使用される薬がある

認知症の治療で主に使用される薬は以下の通りです。

  • アリセプト(ドネペジル塩酸塩)

  • レミニール(ガランタミン)

  • リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ(リバスチグミン)

  • メマリー(メマンチン)

  • その他の薬

それぞれの作用や副作用について見ていきましょう。

【アリセプト(ドネペジル塩酸塩)】

アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症の軽度から高度の人に使用される薬です。錠剤の他、ゼリー剤・ドライシロップなどがあり、嚥下が難しい方や服薬拒否がある人でも、工夫することで負担が少なく服用することができます。

アリセプトは、意欲低下・無関心・抑うつなどの症状を改善する効果が期待できます。消化器系の不調(下痢・嘔気など)・精神症状(興奮・イライラなど)・徐脈や不整脈・パーキンソニズムなどが副作用として考えられるため注意が必要です。

参照:医療用医薬品 : アリセプト

【レミニール(ガランタミン)】

アルツハイマー型認知症の軽度から中等度の人に使用します。レミニールは思考力や判断力の低下などを抑制する効果が期待できます。食欲不振や食欲減退、消化器系の不調(下痢・腹痛など)などが副作用としてみられるため注意が必要です。

アリセプトとの併用はリスクを伴うため、薬の変更時などは医師や薬剤師に確認しましょう。

参照:医療用医薬品 : レミニール

【リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ(リバスチグミン)】

認知症の薬で唯一貼るタイプの薬です。アルツハイマー型認知症の軽度から中等度の人に使用します。皮膚から持続的にゆっくり成分が吸収されるため、内服に抵抗がある人でも使用できます。

1日1回貼り替えが必要で、同じ部位に貼り続けると、皮膚かぶれを起こす可能性があるため注意が必要です。

参照:医療用医薬品 : リバスタッチ

【メマリー(メマンチン)】

アルツハイマー型認知症の中等度から高度の人に使用します。副作用には、めまい・頭痛・傾眠・便秘・血圧の上昇などがあります。メマリーは、認知症初期には効果が薄いと言われており、中等度以降にアリセプトと併用されることで相乗効果が期待できる薬です。

参照:医療用医薬品 : メマリー

【その他の薬】

・睡眠薬(睡眠導入剤)

夜間の入眠を促し、生活リズムを整えるために使用します。薬物依存や精神神経系症状のリスクもあるため、使用方法については担当の医師と十分に相談の上、使用するようにしましょう。また、睡眠薬は、ふらつきやバランス感覚の低下などから、転倒事故に繋がることもあるため注意が必要です。

・抑肝散(よくかんさん)

BPSD症状の妄想・幻覚・興奮・攻撃性などの症状改善に使用される漢方薬です。「小児けいれん」の薬として使用されていましたが、胃腸の弱い人や嘔吐・腹部膨満感がある方でも飲みやすい特徴があり、認知症の気分(精神)不調に対して使用されることがあります。自律神経系の乱れがある方に効果的な薬です。

さらに認知症の治療として、向精神薬や抗てんかん薬など、精神状態を安定させる効果のある薬が処方される場合があります。

薬の飲み方や内容については自己判断せず、必ず医師と相談しながら変更や中止するようにしましょう。

非薬物療法の内容

介護現場では様々な非薬物療法がある

薬を使わない非薬物療法には、たくさんの種類があります。個人の性格やニーズに合わせて取り入れると良いでしょう。非薬物療法だけではなく、薬物療法と合わせて実施することで効果が期待できます。

いくつか紹介しますので、参考にしてください。

【理学療法・作業療法】

リハビリテーションをして、身体の機能を取り戻すことで、自信や活気の維持・向上に繋がります。リハビリテーションを実施すると血流も良くなり、適度な疲労感で入眠を促すことも可能です。夜間にしっかりと睡眠が確保できると、生活リズムの改善にも繋がるでしょう。

他にも、記憶力・注意力・集中力・情報処理能力を高める「認知リハビリテーション」があります。脳に刺激をあたえる内容のトレーニングを実践することで、機能の回復や活性化を図ります。

【脳トレ】

トレーニングの内容は施設や事業所によって異なりますが、映像やゲームを使うことが一般的です。

脳を鍛えることで、認知症の要因である脳の機能低下を抑えられます。

【回想法】

回想法とは、自分の過去を人に話すことで脳に刺激をあたえると同時に、精神的に安定させる効果が期待できる治療法です。懐かしい写真や音楽などを利用して、過去の経験や体験を思い出していきます。

認知症は、最近の出来事を忘れてしまう事が多いですが、過去の記憶は残りやすいという特徴があります。自分の若くて楽しかったできごとを人に話すと、自尊心が高められ、認知症の抑制や改善の効果が期待できるでしょう。

【リアリティーオリエンテーション(RO)】

リアリティーオリエンテーションとは、「ここはどこ?」「今、何時?」などの質問を繰り返し、見当識障害に直接アプローチする治療法のひとつです。

リアリティーオリエンテーションは、複数人で取り組み、今いる場所や時間を確認することで、自分の存在を再確認する効果があります。見当識障害を改善すると共に、コミュニケーションを図ることができるため、認知症の抑制や改善が期待できます。

【音楽療法】

音楽療法とは、楽器や当時流行した歌などを使って、活動を行い脳の活性化を図ります。コミュニケーションが困難な人でも、音楽鑑賞をすることで脳に刺激をあたえます。

聞き覚えのある曲の音を感じ、穏やかな精神状態になることも期待できるでしょう。演歌・子守唄・軍隊行進曲など、伝統的な曲は高齢の方に好まれるジャンルですが、中には嫌な記憶を呼び戻してしまう方もおられるため注意が必要です。

【園芸療法】

園芸療法とは、自然や土に触れることで脳の活性化を図る方法です。植物を扱う・世話をすることで、精神的な安定やコミュニケーションの機会が増えます。

特に屋外での活動は日光を浴び、自律神経を整えることも期待できるでしょう。時間や季節が分からない認知症の方でも、植物を目にすることで季節の変化を感じる事もできるでしょう。

【レクリエーション療法】

レクリエーション療法は、日々の生活に活動や変化を取り入れ、脳の活性化を目指します。生活に楽しみを作る目的や、他者との交流の場を設けることで、メリハリや自信をもつことが期待できるでしょう。

個々に趣味やニーズが異なるため、集団で行うレクリエーションのほか、個別で行うレクリエーションが必要な場合もあります。

【アニマルセラピー】

アニマルセラピーとは、動物と触れ合うことで、感情を引き出す効果が期待できます。犬や猫などの動物に触れることで、穏やかな感情を作り、コミュニケーションの機会も増えるでしょう。ただし、アレルギーを持つ人もいるため、事前に確認しておくと良いでしょう。

近年では、ロボットや人工知能を使ったコミュニケーションやセラピーも、アニマルセラピー同様の効果があるといわれており、介護施設などで導入が進められています。

【調理】

調理は、予定を立てる・準備する・同時に作業する・判断するなど、多様な行動を一連の流れで行います。認知症になると、調理は複雑でできないことも多く、鍋を焦がす・水の出しっぱなし・材料が足りないなどのトラブルが起こりやすいです。

隣で声を掛けながら一緒に調理することは、実行機能障害へのアプローチに繋がります。また、料理ができる喜びは、達成感や自己肯定感にも繋がるでしょう。

【アロマテラピー】

アロマテラピーとは、アロマの香りで、癒しやリラックス効果を生みます。感情の高ぶりを抑え、精神的に落ち着いた状態を保てるでしょう。アロマを使ってハンドマッサージなどを行うと血行も促進されるため、より効果的です。

非薬物療法の目的

プラスの感情をもち継続して安定した精神状態をつくる

認知症の多くは、不安定な心理状態になりやすく、感情が出にくい傾向にあります。特に「自分は周囲に迷惑をかけている」といったネガティブな感情を抱くことが多く、ポジティブに考えられないケースがほとんどです。

薬を使うことで、一時的に精神面を向上させることは可能ですが、継続して安定することはできません。継続するためには、薬を継続する必要があります。また、副作用によって、眠気の増幅やバランス感覚の乱れが起こるため、身体機能の低下や転倒などの事故に繋がる場合もあります。

非薬物療法では、薬に頼らない治療のため、副作用の心配がありません。また、日中の活動量が増えることで、身体機能の向上や生活環境の改善が期待できるため、生活リズムが安定してきます。楽しみも増えることで、健康的な生活改善が期待できるでしょう。

また、活動を通して他者とのコミュニケーションが増えることから、感情や脳の刺激が増えます。家族(周囲の人)が認知症やその人の性格、希望を把握していれば、より適切なコミュニケーションが図れるため、効果を感じやすいでしょう。。

非薬物療法を継続するポイント

無理に促すのではなく本人の気持ちを尊重する

非薬物療法を継続して行うためには、認知症の人の意向や気持ちの確認が重要です。対象者が楽しくないと感じているものを無理に提供しても、効果は期待できません。活動に参加すれば良いというものではなく、楽しみを持って自ら参加したいと思える活動内容が理想的です。

また、無理に参加を促すと、今後の提案や活動に対して抵抗が生まれる可能性があるため、無理強いはしないように注意しましょう。

認知症の悪化を防ぐためには、定期的に脳へ刺激を与え続けることが大切です。もし、本人や家族の負担が大きいようであれば、第三者の協力も視野に入れて検討しましょう。

薬物療法と非薬物療法のメリットデメリット

それぞれにメリットやデメリットがある

薬物療法と非薬物療法の特徴を見ていきましょう。


薬物療法

非薬物療法

メリット

効果が分かりやすい


副作用の心配がない

誰でも実行できる

デメリット

人によって副作用がおこる

服薬拒否などがあると治療がとまる

継続して内服する必要があり心理的な負担がある

副作用が出る場合がある

医師の診断が必要

効果が出るまでに時間がかかる

環境設定が必要になる

効果が保証されていない

薬物療法は医師の診断のもと薬が処方されます。すでに多くの方が治療を行っていることから、ある程度の効果はわかっています。一方、非薬物療法は基本的に個別対応となり、効果の現れ方も人それぞれです。

また、非薬物療法による認知症改善の効果は実証されていないため、確実な結果は保障されていません。

※2023年2月現在、運動療法による効果はエビデンスが確立されています。

日頃から実践できる認知症予防

生活習慣を見直し認知症を予防する

認知症予防には、生活習慣の見直しが必要です。日々の生活の中に「適度な運動」や「バランスの良い食事」ができているか確認してみましょう。

例えば、サンマ・サバなどの青魚、ほうれん草・小松菜・人参などの緑黄色野菜、イチゴ・キウイ・柿などの果物、豆腐・納豆などの大豆製品などが認知症予防に効果的と言われているため、積極的に取り入れると良いでしょう。

ゴルフなどのアプローチを考えながらプレーするスポーツや運動は、脳に良い刺激を与えられます。また、複数人で行うスポーツは、仲間との会話が生まれるため脳を活性化させられます。

認知症の原因は加齢によるものが多く完治・進行を止めることはできません。しかし、日常生活の中で予防することはできます。予防方法のポイントは以下の通りです。

予防のポイント

内容

生活習慣病に注意する

身体は年齢を重ねると徐々に機能が低下します。高血圧症や糖尿病などの発症率が上がるため、普段の生活から注意していきましょう。

食生活を整える

バランスの良い食事はもちろんですが、足りない栄養素を意図的に摂取することも重要です。

運動する

適度な運動は、血流の促進や筋力アップを期待できます。日中の疲労により、夜間の入眠をサポートしてくれることもあるでしょう。

過度な飲酒・喫煙をしない

無理に禁止してしまうと、ストレスにつながります。しかし、身体が受け付けない量は健康リスクを損なうため、注意が必要です。

マンネリ化の予防

単調な日々や生活ではだんだんと脳を使わなくなっていきます。新しい事への挑戦や約束事・楽しみをつくり、楽しみを持つと良いでしょう。

生きがいや目標をもつ

メリハリをもった生活を心掛けましょう。趣味に時間をかけたりボランティアに行くのもひとつの手です。

良好な人間関係をきずく

人間関係が良好ではない場合、閉じこもりやコミュニケーション不足を招きます。元気なうちから良好な関係を築いておくと、いざというときに助けてもらえるでしょう。

セルフケアをする

健康的な生活を心掛け、病気になりにくい健康的な身体をつくっていきましょう。

治療や予防に取り組む

病気になっても諦めず、前向きに治療に取り組みます。治った後は、再発しないように生活習慣を変えていきましょう。

寝たきり予防に努める

閉じこもりやダラダラした生活をしないように心掛けましょう。筋力の低下を招き、転倒や骨折を招きます。その結果、寝たきりにつながることもあるでしょう。

家族や周囲の人が管理する部分もありますが、主に本人が意識して取り組まなければいけないものばかりです。できることから少しずつ改善を図ると良いでしょう。

脳トレなどで、記憶力・計算力・注意力・判断力などを積極的に継続して使用することで、認知症予防につながると考えられています。

他にも、手遊び・体操・ウォーキングなども普段から取り組みやすく効果的です。

まとめ

今回は、認知症の治療方法について紹介しました。認知症は、現在の医療では完全に治すことができないものですが、進行を遅らせることが可能です。治療方法には、「薬物療法」と「非薬物療法」の2種類があります。

薬物療法は他の薬との飲み合わせや副作用もあるため、担当の医師と相談の上、用法用量を守って使用するようにしましょう。

非薬物療法は、誰でも実施できる治療方法です。様々な方法があるため、本人の楽しめる方法や取り組みやすいものを継続的に、取り入れていくと良いでしょう。副作用の心配もないため、安心して取り組めます。

今回の記事が、認知症の治療方法の参考になれば幸いです。

認知症相談可の施設を探す

カテゴリー

公式SNSアカウント更新中!

老人ホーム選びや介護に役立つ 情報をお届けします!