介護離職は避けられる?理由や対策を知り、自分の生活も大切にしよう

「仕事を辞めずに介護する方法はあるの?」「介護離職をするメリットとデメリットは?」このような悩みはありませんか?

超高齢化の日本では、核家族も子どもが親の介護を担うケースも珍しくありません。しかし、在宅介護の負担が大きく介護離職を選択する人も増え、社会的な課題となっています。

今回は、介護離職について解説しています。介護休暇や介護離職のメリット・デメリットについても紹介しています。ぜひご覧ください。


#在宅介護#豆知識
この記事の監修

とぐち まさき

渡口 将生

介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。

介護離職とは

本業を辞めて介護に専念

介護離職とは、家族が要介護状態になり、日常生活の支援が必要となることで、介護に専念するために仕事を辞めることを指します。

介護は終わりが見えず、いつまで続くかわからないものです。介護サービスを利用していても、体調不良による急な呼び出し・病院の付き添い・日々の見守り・買い物・調理など、様々な支援が必要になります。

そのため、「職場に迷惑をかけてしまう」「介護の疲れから気力もなくなり仕事ができる状態ではない」と感じ、自主的に退職を選ぶ人も少なくありません。

介護離職は中高年世代に多い傾向にあります。理由として、在宅で介護をすると決めたとき、介護が必要な方の配偶者や子どもが主になって、介護するケースが多いためです。また、配偶者も介護が必要な方と同様に、高齢や病気で介護が必要な場合もあるため、子どもが担うケースが増えます。

中高年(40〜60代)になると、会社で重要なポストを担う人も多く、介護と仕事の両立が難しく感じ、苦悩するケースもあるでしょう。

個人的理由で離職した人のうち「介護・看護」を理由とする人の割合


個人的理由の離職者数(概算)
うち介護・看護(概算)
うち介護・看護割合

19歳以下

488,600人

400人

0.08%

20~24歳

962,600人

3,500人

0.36%

25~29歳

686,800人

3,500人

0.51%

30~34歳

498,400人

1,400人

0.28%

35~39歳

453,600人

5,000人

1.1%

40~44歳

411,800人

6,500人

1.58%

45~49歳

436,900人

7,600人

1.74%

50~54歳

322,700人

7,100人

2.2%

55~59歳

289,700人

11,300人

3.9%

60~64歳

222,300人

8,100人

3.64%

65歳以上

379,000人

16,000人

4.22%

全体

5,152,400人

70,500人

1.37%

厚生労働省「雇用動向調査」2020年

上記のデータより、30代以降に介護離職が増えていることがわかります。


介護離職の実情と背景について

介護離職の理由は要介護者の希望を叶えるため

総務省「就業構造基本調査」によると、毎年7〜8万人の方が介護離職をしています。近年若干の低下が見られましたが、これから高齢者数がピークを迎えることが予測されているため、今まで以上に介護離職が増える可能性もあるでしょう。

【男女別にみた介護・看護が理由の離職者数】


男性
女性

離職者数(概算)

介護・看護が理由の離職者数(概算)

離職理由

離職者数(概算)

介護・看護が理由の離職者数(概算)

離職理由割合

19歳以下

237,900人

100人

0.04%

250,600人

200人

0.08%

20~24歳

466,100人

100人

0.02%

496,500人

3,400人

0.68%

25~29歳

336,000人

500人

0.15%

350,800人

3,100人

0.88%

30~34歳

214,800人

700人

0.33%

283,600人

700人

0.25%

35~39歳

205,200人

1,700人

0.83%

248,500人

3,300人

1.33%

40~44歳

162,800人

1,800人

1.11%

249,000人

4,800人

1.93%

45~49歳

170,300人

600人

0.35%

266,600人

7,100人

2.66%

50~54歳

115,600人

1,100人

0.95%

207,100人

6,000人

2.9%

55~59歳

111,000人

1,200人

1.08%

178,700人

10,100人

5.65%

60~64歳

115,200人

3,100人

2.69%

107,100人

5,000人

4.67%

65歳以上

211,700人

6,900人

3.26%

167,400人

9,100人

5.44%

全体

2,346,600人

17,800人

0.76%

2,805,800人

52,700人

1.88%

厚生労働省「雇用動向調査」2020年

介護離職の男女比率を見ていくと、どの年代においても、女性が多いことがわかります。

次に介護離職に至る背景について見ていきましょう。背景には、次のことがあげられます。

  • 要介護者が在宅介護を希望した

  • 金銭面から十分な介護サービスを受けられない

家庭状況により様々な問題がありますが、本人が自宅での生活を希望する場合、その気持ちに答えたいと考える家族は多いでしょう。また、金銭面から介護サービスの利用をためらう家庭も少なくありません。

在宅介護を選択するときは、家族で十分に話し合い、特定の人に負担が偏らないよう注意しましょう。

介護離職した方の理由は以下の通りです。

  • 体力的に両立できなかった

  • 介護は先が読めないため両立できなかった

  • 自分以外に介護をする人がいなかった

  • 介護で仕事の責任が果たせなかった

  • 自身が親の介護をしたかった

在宅での介護は、体力や精神力が必要です。核家族化が進む日本では、同居家族が少ないため介護の負担が集中しやすく、疲労も相当なものと考えられます。


介護離職のメリット・デメリット

介護離職は取り返しがつかない事態を招くことも

介護離職のメリット・デメリットをみていきましょう。

  • 心身の負担軽減

  • 介護費用の負担を軽減

  • 希望する介護の提供

  • 介護者の収入が減る

  • 会社の立場(役職)を失う

  • 自分の自由な時間がなくなる

介護離職には、介護に専念できるというメリットがあります。仕事と介護の両立は心身のバランスを崩しやすく、介護者の負担が大きくなりますが、一方で介護サービス費を抑えられ、希望に合った介護ができる点もメリットと言えるでしょう。

次にデメリットについてです。離職することで収入は減り、社会的に築き上げた実績や評価が一度途切れることになります。仕事に未練を残す方もいることから、介護離職の選択を後悔することにもなりかねません。

また、メリットを考えて選んだ介護離職でも、いざ介護が始まると精神面や肉体面、経済面の負担が大きく、在宅介護の継続を断念する家族も少なくありません。

仕事を辞めて在宅介護に専念しても、介護の大変さを痛感するだけでなく、経済的に困窮してしまう場合があるため、冷静に判断すると良いでしょう。


国が進める仕事と介護の両立支援

令和4年4月1日より介護休業法の改正

日本では、仕事と介護の両立ができるように、育児・介護休業法が制定されています。ここでは、介護休業について詳しく見ていきましょう。

介護休業

対象家族1人に対して93日の介護休暇を取得できます。3回まで分割して取得可能です。例えば月の半分は会社を休んで在宅介護にあて、残りをショートステイやデイサービスを利用するといったとり方も可能です。

介護休暇を取得

常時介護を2週間以上必要な状態の場合、家族1人につき年間5日間の介護休暇の取得が可能です。1日または時間単位で取得できます。要介護者が2人以上の場合は10日まで取得可能です。対象は配偶者・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫までになります。

短時間勤務等の措置

利用開始から3年間で2回以上の利用が可能です。

その他、以下の制度が企業側に義務付けられています。

  • 短時間勤務制度

  • フレックスタイム制度

  • 始業・就業時間の繰り上げ・繰り下げ

  • 介護休業給付金

上記のうち1つ以上の制度を設けることが義務つけられているため、わからない場合は会社に確認しておくと良いでしょう。

介護が終わるまで継続する制度は、次の通りです。

  • 所定時間外労働の制限(残業免除)

  • 時間外労働の制限(1ヵ月24時間、1年で150時間の時間外労働を制限)

  • 深夜業の制限(22時~5時までの労働を免除)

ハラスメントについての取り決めも厳格化されており、不当な解雇や本人の意にそぐわない勤務地の変更なども禁止されているため、安心して介護休暇を取得できるでしょう。

また、介護休暇中は、基本給に対して67%分の介護給付金が受け取れます。介護休業開始時は、事業所管轄のハローワークで申請をすると良いでしょう。

申請には、休業開始時賃金月額証明書・期間雇用者の休業にかかる書類の提出が必要です。介護休業終了から2ヶ月以内の提出を求められるため、忘れずに提出しましょう。


企業の介護離職に対する取り組み

介護離職防止に向けた対策について

厚生労働省は、介護休暇取得の後押しとして、企業側の支援にも取り組んでいます。「-企業のための-仕事と介護の両立支援ガイド〜従業員の介護離職を防ぐために〜」において、介護離職を予防し仕事と介護の両立支援をするため、5つの取組みをマニュアル化しています。

それぞれ確認していきましょう。

従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握

従業員が仕事と介護の両立をしているかどうかを把握するため、アンケートやヒヤリングを行います。その際に、制度の理解や企業の取り組む姿勢を示すことで、従業員の理解も深まり、職場で話しやすい環境ができるというメリットがあります。

制度設計・見直し

介護休業を取得しやすい職場を作ることは、介護離職の予防につながります。アンケートやヒアリングを基に、従業員の意見も取り入れ、双方にとって必要なポイントをまとめます。必要に合わせて制度を見直し、勤務時間の調整や休暇取得など、柔軟な対応が求められます。

介護に直面する前の従業員への支援

従業員が、突然介護と仕事の両立に直面した時に、必要な情報を提供できるよう準備をしておくと良いでしょう。事前に話ができる環境や準備がある職場とわかることで、従業員も安心して働けます。

介護に直面した従業員への支援

介護に直面する従業員が生じた場合、仕事と介護の両立体制が整うまでの間、不安や焦りから落ち着かない状況が続きます。企業側は、体制が整うまで支援する「相談・調整期」、中長期的な働き方を支援する「両立体制構築期」、仕事と介護の両立をフォローする「両立期」で分けて対応していきます。

厚生労働省から、「仕事と介護の両立支援~両立に向けての具体的ツール~」としてチェックシートが準備されているため、企業側だけでなく従業員側も理解しておくと、いざという時にスムーズに話が進められるでしょう。

働き方改革

企業側は従業員が介護離職しなくても、働き続けられる職場作りが求められています。出退勤の時間調整やリモートワークの導入も必要になるでしょう。働き方改革では、勤務時間の調整・時間外労働の制限・有給休暇取得率の向上など、柔軟な勤務体制が求められてます。

リモートワークもその一つで、在宅で介護をしながら仕事を継続できるでしょう。

時短や有給休暇の取得を進める場合は、職場風土の整備が必要です。お互いの仕事内容を見える化し、協力体制を整えることで、困ったときはお互い様という意識が生まれやすくなります。そのためにも普段から社内における連携強化が欠かせず管理職が積極的に理解し実行することも、他の従業員が後に続きやすくなるきっかけとなります。


困った!の前に、知っておこう

様々な事例や相談を通して「もしも」に備える

在宅で介護が必要になった時は、介護と仕事で精一杯となり、物事の冷静な判断ができなかったり、相談窓口が分からず困ることがあるかもしれません。仕事と介護の両立には、介護サービスをうまく活用して、生活のバランスをとることがポイントです。ここからは実際の事例を紹介します。

介護をしながら仕事を続けているケース
性別・職種
年齢
同居
介護を必要としている方
介護サービス導入事例

女性

正社員

(事務職)

40代

同居

実母

80代

要介護5

(認知症、ぜんそく)

認知症の症状が進み、日常生活のほぼすべてにおいて見守りや介助が必要な状態。平日は小規模多機能型居宅介護の泊まりを利用。週末は自宅で一緒に過ごす。

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女性

会社役員

(セミナー、執筆業)

40代

同居

実母

70代

要介護4

(認知症、うつ病等 認知症による徘徊等が時々ある)

10数年前にうつ病を発症し、その後、認知症を発症。徘徊等があり見守りが必要。両立のため、月~土まで通所介護を利用したり、出張時にはショートステイを利用。休息も確保。

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女性

正社員

(ケアマネジャー)

40代

同居

実父

80代

要介護3

(糖尿病、骨折)


実母

70代

要介護3

(脳梗塞)

20年ほど前に、母が脳梗塞を発症。当時は父が主な介護者。7年前に父が大腿骨を骨折し入院。要介護となり、両親を介護。現在、父は特養へ入所し、母は在宅で介護。ショートステイを計画的に利用して両立。

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女性

正社員

(キャリアコンサルタント、

人材サービス業)

50代

同居

実母

80代

要介護3

(難病、脳梗塞)

母が難病のため朝に体調の悪いことが多く、フレックス勤務で出社時間を調整。脳梗塞も発症し、食事や排せつは自立しているが、入浴は介助が必要。

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女性

正社員

(専門学校の副学校長)

50代

同居

実父

80代

要介護4

(脳梗塞、大動脈瘤)


実母

80代

要介護2

(膝手術、肝臓がん等)

父母とも介護が必要な状態。外へ行くことを嫌がるため、訪問系のサービスを中心に利用。父は誤嚥性肺炎を繰り返し、転倒の危険性がある。ずっと家にいるため心身状態の低下が心配。

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男性

正社員

(建築設計)

50代

別居

遠距離

実父

80代

要介護1

(うつ病、ペースメーカー装着)

実母

80代

要支援2

(脳梗塞)

母が腰の骨折、さらに脳梗塞で倒れ、その時は父

が介護を実施。その後、介護のストレスからか、

父もうつ病を発症。

遠距離介護で、在宅での暮らしが厳しくなり、現在は夫婦でケアハウスに入居。

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出典:厚生労働省「【確定版】仕事と介護の両立支援_詳細版

介護に関する相談

介護の相談は、各地域にある地域包括支援センターを利用すると良いでしょう。地域包括支援センターでは、ケアマネジャー・社会福祉士・保健師が常駐し、介護の相談を受付ています。また、介護サービスの紹介や手続きの代行など、相談内容に応じて柔軟に対応してもらえるでしょう。

地域包括ケアシステムの推進により、地域で介護を必要としている方を見守る取り組みが増えているため、介護保険サービスだけではなく、民間のサービスについても情報を得られます。一人で悩まずに、ぜひ専門家のアドバイスや提案を聞いて参考にしてみると良いでしょう。

レスパイト

レスパイトは「一時休止」「休息」を意味する言葉です。在宅介護は心身ともに疲弊するケースが珍しくありません。また、仕事との両立は負担が大きく、生活のバランスを崩すこともあるため、レスパイトを取り入れることで仕事と介護のバランス(ワークライフバランス)をとることが大きなポイントです。

レスパイトを目的とした代表的な介護サービスは、ショートステイです。ケアマネジャー(介護支援専門員)を通して利用するものと、利用料の全額を自費で支払う有料ショートステイがあります。詳しくは、こちらの記事「仮)ショートステイ」をご覧ください。

まとめ

介護離職を防止するためには、在宅介護にこだわりすぎないことがポイントと言えます。本人の希望を叶えてあげたいという気持ちはとても大事ですが、自分自身の生活や心身のバランスを崩してしまっては本末転倒です。

まずは、会社で利用できる制度はないか確認してみましょう。超高齢社会の日本において、制度や労働環境は整備が進んでいます。

介護離職をすることでその後に経済的な問題ややりがいを見失うこともあるため、離職を選択する時は、計画性を持って対応を考えることが大切です。

わからないことや不安なことは地域包括支援センターに相談することも可能なため、限界を迎える前に頼ってみましょう。

今回の記事が介護離職の防止や理解につながれば幸いです。

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