認知症の中核症状とは?症状を理解して行動・心理症状を予防する方法
認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。中核症状には、基本的症状の記憶障害だけではなく、見当識障害や実行機能障害などがあげられます。さらに、症状が悪化すると行動・心理症状(BPSD)が現れ、さらに対応は困難になってしまうでしょう。
今回は、認知症の中核症状について、それぞれの症状に対しての対応方法や行動・心理症状(BPSD)についても紹介していきます。認知症の症状を理解すると、対応方法や心構えが変わり、穏やかに接することも増えるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
とぐち まさき
渡口 将生
認知症の中核症状とは
認知症の対応には中核症状を理解していることが重要
認知症状には「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」があります。主な中核症状は、記憶障害・実行機能障害(遂行機能障害)・見当識障害・失行・失認です。これらの症状と様々な環境が作用して、行動・心理症状(BPSD)につながります。
認知症の対応が困難と感じる大きな要因は、行動・心理症状(BPSD)によるものです。行動・心理症状(BPSD)には、不安・混乱・焦燥感・徘徊・暴力・収集・幻覚・社会的に逸脱した行動などがあります。また、症状が進むとうつ病などの精神疾患を併発する場合もあるので注意が必要です。
中核症状は、認知症の基本症状とも考えられます。認知症対応を考えるときは、中核症状を理解していくことが重要なポイントです。では、具体的にどのような症状があるのか、順番に見ていきましょう。
認知症の中核症状を理解しよう
中核症状は主に6つの症状がある
中核症状には様々な症状がありますが、理解しておかないと不適切なケアにつながってしまい、行動・心理症状(BPSD)を引き起こす可能性があります。
6つの中核症状について、ひとつずつ見ていきましょう。
【記憶障害】
認知症の代表的なイメージともいえるのが記憶障害です。記憶はすべてのことを忘れる訳ではありません。ひとつの事象に対して、一部だけ忘れてしまう傾向にあります。例えば、食後に洗い物をしていたが、台所のシンクではなくトイレで洗っていた、ということもあるでしょう。この場合、「食後に食器を洗う」「水場で洗う」といった記憶はありますが、場所を忘れている状況で「台所のシンク」と「トイレ」の記憶違いをしていたということになります。
このように、記憶の一部分だけ失ってしまうため「記憶が抜け落ちる」と表現されます。他にも、食事を食べていないと訴える場合も同じで「食事を食べる」「食事を準備してくれるのは誰か」ということは覚えていますが、いつ食べたのかについては忘れてしまっている状態といえます。
また、特徴として短期記憶(最近の記憶)は忘れやすいですが、長期記憶(過去の古い記憶)は忘れにくいのが特徴です。しかし、短期記憶は忘れやすいだけで、必ず忘れてしまう訳ではありません。
【見当識障害】
時間・場所・人物がわからなくなってしまう症状です。時間・場所・人物の順番で忘れてしまう特徴があります。時間がわからなくなってくると、朝か夜かがわからず、夜中に覚醒して日中寝てしまう「昼夜逆転」の生活が始まってしまいます。昼夜逆転が始まると、自律神経が乱れ、様々な病気を発症するケースもあるので、注意が必要です。
また、季節がわからないと夏に厚着で外に出たり、冬に薄着で出かけたりする場合もあります。この場合、夏場は脱水症状、冬場は感染症や最悪の場合、凍死のリスクもあります。季節感をもってもらうためには、外出の機会を増やしたり、季節感を感じられる環境を整える必要があるでしょう。
次の症状として、場所がわからなくなります。自分がいる場所が「家」なのかどうかがわからなくなる状態です。そのため、不安が増大して外に出て行ってしまう場合や、帰宅したいと訴えることもあるでしょう。
また、危険なのが、夜中に出て行ってしまうことです。交通事故や、そのまま帰り道がわからず行方不明になってしまうというリスクも想像できます。
最後に人物がわからなくなります。実の息子や娘を他人と認識し、近くで介護してくれるヘルパーを子どもと認識してしまう状況は比較的多いケースです。
【実行機能障害】
計画を立てて行動ができない症状です。代表的な事例としては料理です。料理をするには「買い物」「下準備」「調理」「盛り付け」などの様々な工程があります。調理中にも、切る・洗う・焼く・煮る・炊くなど多岐にわたる工程があります。同時に複数の動作が必要な場合もあるでしょう。
ガスや火の消し忘れなど、火災の原因につながる可能性があるので注意が必要です。
【失語】
完全に言葉を失うことは少ないですが、言葉が出にくい症状です。対象の名称がわからなくなるため「こそあど言葉」と呼ばれる言葉が多くなります。こそあど言葉とは「これ」「それ」「あれ」「どれ」などの言葉を指します。
年齢を重ねることで、増えてくる症状でもありますが、認知症の場合だと会話の内容がまったくわからない状況や、つじつまが合わない状況も目立つでしょう。
言いたいことがうまく言えず、伝わらないことから、ストレスを溜めやすい状況です。
【失認】
言葉の通り、認識を失ってしまうため、物を見ても名称が出てこない場合や、まったく違うものと感じてしまう場合があります。例えば、ご飯が出てきても「ご飯」と認識できず、食事を始められないといった症状があります。
他にも、トイレとゴミ箱を間違うことや、物や壁にぶつかることもあるでしょう。
【理解・判断力の低下】
認知症になると、理解や判断に時間がかかるようになってきます。そのため、情報の整理ができず、会話していても伝わっていない状況もあるでしょう。一度に多くの情報が入ると余計に判断ができなくなります。また、不測の事態には対応できずに困惑して落ち着かない状況もあるでしょう。
上記のような症状が見られるため、家族や介護者が困惑してしまうケースも珍しくありません。
次に、対応方法についてみていきましょう。
認知症の中核症状の対応方法
否定をせずに共感する気持ちが必要
前述の通り中核症状には様々な症状があります。理解やケア方法を間違えると、行動・心理症状(BPSD)につながってしまうため注意が必要です。基本的には、本人の気持ちや発言を否定しないことです。また、それぞれの症状について順番に見ていきましょう。
【記憶障害】
記憶障害による支障は様々あり、家族や介助者は思ったようにコミュニケーションがとれず困惑してしまうかもれません。しかし、重要なポイントは認知症本人も同じように困惑していることです。
認知症による記憶障害は、記憶の一部が抜け落ちてしまうため、所々わからなくなるという状態です。例えるなら、答えのわからないクイズを繰り返し行なってるようなモヤモヤした状態だと考えられます。また、自分が正しいと思っている内容も否定される場面が増え、なにが正しいのかが徐々にわからなくなっていく経過があり、不安や恐怖を感じているのです。
すべてを理解するのは困難ですが、不安や恐怖などの気持ちに共感し、寄り添う姿勢が大切です。不安を解消し安心できる環境が整っていれば、行動・心理症状(BPSD)につながりにくくなるでしょう。
【見当識障害】
時間・場所・人物がわからなくなってしまうため、日時がわかるようにしていくと良いでしょう。カレンダーを見やすい位置に設置していつでも把握できるようにし、当日より前の日付は斜線で消していくなども効果的です。また、見やすい位置に時計を設置して、時間が確認できるようにすることから始めると良いでしょう。
普段の会話でも季節の話や日付を盛り込み、何度も思い出せるような環境があると、日付や時間がわからないという不安は減ってくると考えられます。健常者でも、スマートフォンがないと時間の確認ができず、不安になった経験をした人もいるのではないでしょうか?時間がわからないことは、認知症の人にとっても大きな不安になります。
また、日中散歩に行くことも効果的です。外に出て日光に当たるだけで、セロトニン(しあわせホルモン)の分泌を促し、自律神経を整える効果が期待できます。さらに外気にあたることで「暑い」「寒い」など気温の変化や季節を感じることができるでしょう。
場所や人物を間違えた場合も否定せずに、話を合わせてあげると良いでしょう。一度誤認したからと言って、今後も継続するとは限りません。元の認識に戻るためにも、混乱や不安はできる限り少ない方が良いでしょう。
【実行機能障害(遂行機能障害)】
複数のことが同時にできない症状のため、一緒に行動や作業をすると良いでしょう。その場合も一つひとつ丁寧に説明をしていきます。例えば、調理の作業中であれば、調理をしながら話を聞くことでさえ2つの動作になってしまいます。「ひとつ終わったら次」と規則性をもち、順番に説明していくと良いでしょう。
また、実行機能障害(遂行機能障害)は、リハビリテーションによる改善が望めます。作業療法を続けていくと、個々に合わせたプログラムに添って計画的に行動できるようになる効果も期待できます。
【失語】
言葉が出にくい・こそあど言葉が増えると、話がわからず聞いている側からするとストレスになるかもしれません。「何を言っているかわからない」「何が言いたいの?」「早く話して」などと、急がせてしまうと余計に気持ちが焦ってしまい、症状は悪化してしまうでしょう。また、うまく話せない状況で言い返されてしまうと「怒らせた?」「迷惑を掛けた?」と感じてしまうこともあります。
時間にゆとりを持って、最後まで話を聞くことが重要です。しかし、1人で対応するのは困難な状況もあるでしょう。話し相手となる介助者が複数いるのであれば、交代して介助者の負担を減らすことも重要です。
【失認】
対象の認識を間違ってしまうことで、様々な支障が出ている状態です。しかし、支障と感じているのは家族や介助者であることがほとんどです。認知症である本人は正しい選択と感じて行動しています。そのため、否定されてしまうと、困惑し不安を抱いてしまいます。さらに、怒りの感情が返ってくる可能性もあるでしょう。
誤認の回数を減らせるように「先にやって見せる」「名札をつける」「不要な物はなくす(シンプルにする)」といった環境改善が効果的です。
【理解・判断力の低下】
理解・判断力の低下が起こると話の理解や判断が困難になります。会話の際は、できる限りゆっくりと話しかけると良いでしょう。早口で話してしまうと理解が追い付かず、混乱してしまいます。
また、曖昧な表現を避けるのも大切です。例えば「今日は暑いから薄着で出かけよう」と言われても理解や判断に迷ってしまいます。この場合は、「今日は暑いから、この薄い半袖の服とズボンを履いて出かけよう」と着る服を手渡してあげると良いでしょう。
上記のように認知症対応は、長期を見据えて計画的に行なう必要があります。その場だけの対応は、一時的な対処でしかなく、積み重なることで行動・心理症状(BPSD)につながる可能性もあります。
認知症に対しての予防
脳に刺激を与え活動量を維持する
認知症が発生すると中核症状は必ず起こるといわれています。無理に抑制してしまうのは逆効果です。抑制が続くと、ストレスを蓄積して、行動・心理症状(BPSD)を発生させてしまうでしょう。中核症状で抑えるためには、安心して生活できる環境と脳への刺激が重要なポイントです。
認知症の予防にも、脳への刺激と言われる「脳活」が推奨されていますが、認知症発症後も進行を予防するため、有効と考えられています。計算・書字(字を書くこと)・手作業・他者との関わり・趣味活動などは、脳へ適度な刺激を与え、認知症予防として効果が期待できます。
また、薬物療法も効果的です。薬物療法に関しては副作用について注意しましょう。認知症の疑いや中核症状が見られた場合は、できるだけ早く専門医に診てもらうと良いでしょう。早期の発見・治療は、進行性の認知症にとって特に重要な部分です。
認知症の薬は、人によって副作用の影響が大きく出て、活動量が下がる場合もあります。専門医の指示に従い、用法用量を守って服用しましょう。
行動・心理症状(BPSD)になるとさらに対応は困難になる
行動・心理症状(BPSD)を理解しておこう
中核症状から行動・心理症状(BPSD)が現れてしまうと、対応はさらに困難になります。行動・心理症状(BPSD)による主な行動は以下の通りです。
症状 | 詳細 |
焦燥感 | 焦りを感じてソワソワ落ち着かない行動が続く |
怒り・暴力 | 怒りっぽくなり暴力を振るうようになる |
介護拒否 | 介護や支援に対して異常な拒否反応をみせる 暴力行為につながることもある |
徘徊 | なにかを探しウロウロと動き回る |
妄想 | 被害妄想や実際にないものが見えたり感じたりする |
不潔行動 | 清潔不潔の区別がつかなくなる |
帰宅願望 | 家に帰りたいと訴え続ける ※家にいても現れる場合もある |
収集 | 一定のものを集めタンスなどに保管する |
弄便 | 便を触ってしまい服や周囲のものを汚してしまう |
倦怠感 | 体のだるさが続き活力が低下する |
うつ症状 | うつ病と同等の症状が現れる |
異食 | 食べ物ではないものを口に入れてしまう |
社会的逸脱行為 | 万引きをしてしまう など |
安心して生活ができる環境を整え、対応できていれば、行動・心理症状(BPSD)の発生は軽減できます。まずは、認知症の人が感じている気持ちを理解して共感していくことを意識してみましょう。
上記の症状が見られたときは、早期に受診を検討すると良いでしょう。
まとめ
認知症になると必ず中核症状が現れるといわれています。中核症状にも様々な症状がありますが、大きく生活に支障のでるケースは少なく、認知症と気づかない場合もあります。しかし、この段階で適切な対応を行なっていれば、行動・心理症状(BPSD)の発生を抑え、安定した暮らしができる場合も多いでしょう。
認知症のすべてを理解していくことは、大変なことです。しかし、認知症本人の気持ちを理解し共感していくことが、認知症対応には重要なポイントです。今回の内容で認知症の中核症状を理解し、認知症ケアや対応の参考になれば幸いです。
参考: スマートフォンやパソコンからGPS検索で居場所がすぐ分かる!介護保険適用の認知症徘徊を見守るGPS。|iTSUMO(いつも)のGPS
介護福祉士として10年以上現場経験があり、現在は介護老人保険施設の相談員として従事。介護資格取得スクールの講師やWEBライターとしても活動中。家族の声を元にした介護ブログを通じ、2019年3月、NHKの介護番組に出演経験もある。